ママと家族の未来を支える食事—ママの休食の挑戦とその先
疲労と不安に満ちた産前・産後の日々。
その中で、ママたちは自らの健康と赤ちゃんの成長のために奮闘している。
「ママの休食」は、そんな彼女たちに寄り添い、手軽に栄養バランスの取れた食事を提供する。
本記事では、このサービスの誕生秘話から未来への大胆なビジョンまで、創業者の熱い想いに迫る。
そして、現代のママたちの生活をどう変えていくのか、その可能性を探っていく。
インタビュイー
川端 史紀氏
株式会社MYPLATE
代表
代表
一児の母・選択的シングルマザー
【保有資格】
管理栄養士
健康経営実践士
【著書・論文等】
・日本マタニティフィットネス協会機関誌 MEDEX journal vol.214, 巻頭論文「妊娠期の栄養管理を考える~妊婦の低栄養は社会課題の一つ~」
・日本マタニティフィットネス協会機関誌 MEDEX journal vol.215, 巻頭論文「授乳期の栄養管理を考える~現代の女性の現状と課題を踏まえて~」
・中澤佑二著「鉄人中澤佑二の食トレ」監修
【保有資格】
管理栄養士
健康経営実践士
【著書・論文等】
・日本マタニティフィットネス協会機関誌 MEDEX journal vol.214, 巻頭論文「妊娠期の栄養管理を考える~妊婦の低栄養は社会課題の一つ~」
・日本マタニティフィットネス協会機関誌 MEDEX journal vol.215, 巻頭論文「授乳期の栄養管理を考える~現代の女性の現状と課題を踏まえて~」
・中澤佑二著「鉄人中澤佑二の食トレ」監修
目次
従業員の9割が子育て中のママ!従業員の実体験と思いから生まれた次世代の宅食
―――まずは、御社の概要や提供されているサービスの基本情報について教えてください。
当社は2021年に設立され、個人向けには「ママの休食」ブランドによる宅食サービスを提供し、法人向けには企業の従業員の健康管理と働きやすさをサポートする社食サービスを展開しています。
さらに、食品開発支援や血液の栄養状態分析とアドバイスを行う栄養解析サービスなど、多岐にわたる事業を手がけているんです。
従業員の9割が子育て中の母親であり、全員が女性という独自の特徴がある会社となっています。
―――「ママの休食」サービスの誕生背景について、教えてください。
「ママの休食」サービスは、私自身の経験から生まれたんです。
事業構想の段階で、健康課題が大きく、かつ健康に対して前向きに取り組むターゲット層を模索していました。
管理栄養士としての知識を持ち、前職では女性の月経管理アプリ「ルナルナ」を開発する会社に勤務していた経験から、かねてより女性のヘルスケアには深い関心を持っていたんです。
そして、妊娠する時期は健康に目覚めるとても大切な時だと気づきました。
この時期にうまく働きかければ、子どもの小さい頃からの食事、そして家族全員の健康的な生活につながると考えました。
大人になってからの食育は難しく、子どもの頃から健康的な生活が普通になれば、長い目で見てとても良いことだと考え、妊娠中や子育て中のお母さんたちのための「ママの休食」サービスを始めることにしたんです。
そうしたら、「ママの休食」ファンの子育て中のお母さんたちが集まってきて、仲間として、このサービスを支えてくれるようになりました。
働くスタッフが出産や育児など、お客さまと同じ経験をしているので、お客さまの気持ちがよくわかり、私たちのサービスにつながっています。
※引用:ママの休食 公式ホームページ
―――妊娠期のお母様に寄り添ったサービスを展開する中で感じる社会的な課題は何でしょうか?
管理栄養士として妊婦の栄養相談に携わった経験から、妊娠前からの体調管理の重要性を認識しました。
日本の健康啓発には課題があり、特に妊娠初期の栄養管理が赤ちゃんの発達に極めて重要であることが十分に理解されていません。
妊娠に気づく頃には既に胎児の重要な器官形成が始まっているため、妊娠中期からの栄養管理では遅すぎます。
この考え方は「*プレコンセプションケア」として、昨今特に助産師の間で注目されています。
2021年、15年ぶりに妊婦の食生活指針が更新され、栄養管理の重要性が再認識されました。
多くの研究で、出生時の低体重が将来の健康リスクに繋がることが示されており、「小さく産んで大きく育てる」という従来の考え方の誤りが明らかになっています。
日本では妊婦への公的な栄養教育も不十分なため、『10人に1人が低体重児』という先進国の中では特に高い数字を出しているんです。
現代の妊婦たちが抱える問題は、SNSの影響も大きいと、私自身は考えています。
15年ぶりに妊婦のための食生活指針が改定された背景の一つに、若い女性の「やせすぎ」の問題があります。細身の有名人やインフルエンサーへの憧れから、無理なダイエットをする女性が少なくありません。やせすぎの状態で妊娠すると、妊娠中に必要な栄養が十分に取れず、体重があまり増えないことが、妊婦さんや赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、現在は体重増加の推奨値が引き上げられ、むしろ少し多めに増えることが推奨されています。
加えて、妊婦向けの宅食サービスが増えている一方で、必要な栄養素が不足している商品も存在し、「妊婦におすすめ」とされているものもあります。
手軽さは魅力ですが、正しい栄養情報の提供も必要です。
正しい知識をインプットした後には、「分かってはいるけれど、できない!」といった行動の課題が出てくるので、そのような時に具体的なソリューションとして私たちのサービスを活用してほしいです。
*プレコンセプションケア:
女性やカップルを対象とした将来の妊娠のための健康管理のこと。
女性やカップルを対象とした将来の妊娠のための健康管理のこと。
不安な時期だからこそ寄り添いたい。
「休む」×「食事」=「休食」への思い
―――「ママの休食」の会員になると無料で使える公式LINE限定サービス「ママ休ほけんしつ」について、教えてください。
ママ向けの栄養相談「ママ休ほけんしつ」は、妊娠期間や産前産後も含めて、いつでも何度でも利用できるサービスです。
この相談では、体重が増えない悩みから増えすぎる心配まで、個々の状況に応じた多様な問題に対応しており、妊娠中の方にも多く利用されています。
妊婦向け栄養相談で私たちが特に強調しているのは、体重管理の本当の目的です。
単に体重を気にするのではなく、赤ちゃんの健康的な成長のために管理することが大切なのです。
栄養相談では、体重はゴールではなくプロセスの一部だと説明しており、エコー検査も合わせて赤ちゃんの成長を確認しながら、体重管理をおこなってほしいことを伝えています。
実は、妊婦さんの栄養管理は、アスリートや持病のある方と同じように、個別の対応が基本です。
「ママ休ほけんしつ」は、妊婦の皆様が安心して相談できる場所となることを目指しています。
―――ありがとうございます。「ママの休食」のネーミングにはどのような思いが込められていますか?
当初は、妊婦さんの栄養管理や健康課題に焦点を当てることで、妊娠をきっかけに高まる健康意識に訴えかけられると考えていたんです。
妊婦さんが抱える最大の課題は何かを探るため、様々なリサーチを行った結果、栄養以前の問題として、時間的余裕の不足が浮かび上がりました。
共働きの増加やつわりの影響で、多くの妊婦さんが食事について考える余裕すら持てない状況にあることがわかったのです。
この発見から、まず時間的余裕を作ることで、栄養や赤ちゃんのことを考える余裕も生まれるはずだと考えました。
そこで、「適切な休養」と「栄養バランスの取れた食事」という二つの要素を組み合わせた「休食(きゅうしょく)」というコンセプトが生まれました。
※引用:ママの休食 公式ホームページ
このコンセプトは、ブランド名とロゴデザインにも反映されています。
ロゴは幾何学模様で表現された栄養素が散りばめられたお弁当箱のような形をしており、よく見ると「休」の字が浮かび上がる仕掛けになっているんです。
また、ロゴが旗のような形状をしているのは、次世代の子育てカルチャーを作り上げていくという私たちの意志を表現しています。
※引用:ママの休食 公式ホームページ
※引用:ママの休食 公式ホームページ
自分も体験したからこそ……
「ここまで寄り添ってくれる」が生み出す満足感
▲川端さんとお子さんのお写真
―――「ママの休食」サービスの強みや特徴を教えてください。
私自身、管理栄養士としての経験から、「管理栄養士が作った食事」というと「病院食」のようなイメージを持たれがちだと感じております。私たちが目指しているのは、そうした固定観念を覆す商品づくりです。
サービス開発のきっかけは、私自身がキャリアと子育ての両立をしようと思った時に「こんなサービスがないと無理だ!」と感じたからです。
また、冷凍食品を使うことで「ママとして失格」と思われがちな文化に疑問を感じ、それを変えたいという思いもありました。
私たちのサービスの最大の強みは、栄養面での充実です。
特に、女性に極めて重要な葉酸や鉄分を1日分の3分の1も摂取できる点が大きな特徴です。
※引用:ママの休食 公式ホームページ
しかし、どんなに健康的な食事でも、美味しくなければ続きません。
単なる数字上の健康ではなく、精神的にも楽しめるものでなければならないと考えているため、宅食サービスとして最も重視しているのは「おいしさ」です。
添加物に頼らず、様々な野菜や香味野菜、だしなどを使い、見た目も美しく、香りも良く、そして味も深みのある食事を作り上げています。
これは、自分の大切な人や妊娠中の自分が毎日食べたいと思えるような食事を提供したいという思いからです。
※引用:ママの休食 公式ホームページ
多様な食材を使用することで、自然と栄養価も高まり、食物繊維も豊富になり、「美味しさへのこだわり」が栄養バランスの良さにもつながっています。
調理方法にもこだわっており、冷凍食品でありながら、煮るタイミングや炒めるタイミングまで細かく指定し、委託工場での製造にも私自身が必ず立ち会っています。
例えば、盛り付け方一つとっても、「ぎゅっと詰めすぎるとまずく見えるから、もう少しふんわりと」といった具合に、直接提案を行っています。
商品開発では、「おいしさを作るプロ」である元シェフの顧問や元パティシエのスタッフが中心となっています。
私の役割は、彼らが作った料理の栄養バランスを確認し、必要に応じて調整することです。
※引用:ママの休食 公式ホームページ
また、従業員の9割がママであることも、私たちの強みです。
従業員の家庭料理をメニューに取り入れたり、新商品の試食会やフィードバック会を綿密に行ったりしています。
さらに、私たち独自のサービスの特徴は、実際に妊娠・出産・子育てを経験したスタッフの意見が商品開発に反映されていることです。
例えば、私自身が経験したつわりの際の体験が、商品開発に大きな影響を与えました。
つわりには、酸味のある食べ物が良いとよく言われることから、トマトやマリネのメニューを商品化したのですが、私は妊娠中酸っぱいものが一切食べられませんでした。つわりの感じ方は人それぞれなのだと実感し、今では酸味にこだわらずに多様な味付けを心がけています。 私たちのサービスは単に商品を提供するだけではありません。
例えば、つわりの影響で商品が合わなかったお客様に対しても、サービスを終了するのではなく、栄養相談を継続して利用していただくことを勧めています。
一度でも商品を購入していただいたお客様は、サービスを停止しても無料で栄養相談を利用できるシステムを設けているんです。
また、妊婦さんの辛さを少しでも解消したいという思いから、自社商品だけでなく、他社の優れた商品もセレクトして提供するセレクトショップの運営も行っています。
例えば、乳化剤を使用していないアイスクリームなど、私自身が妊娠中に良かったと感じた商品も取り扱っているんです。
これは、「ママの休食」サービスを通して、生活全体をどう整えていくかという視点で支援を行いたいという私たちの思いの表れです。
―――サービスを利用された方からのフィードバックや印象に残るエピソードがあれば、教えてください。
私たちのサービスで最も嬉しい瞬間は、出産後に料理ができるようになり、サービスを「卒業」されるお客様からの感謝の言葉です。
多くの方が、妊娠期間中の不安な時期に私たちのサービスに救われたと仰ってくださいます。
また、「野菜嫌いの子供がママの休食の副菜なら喜んで食べます」といった声も多く、家族全体の食生活改善にも貢献できていることを実感します。
カスタマーサービス(CS)担当者の多くが子育て中のママであり、お客様に寄り添った対応を心がけているんです。
例えば、緊急入院などの予期せぬ事態で、通常のルール外の対応が必要な場合でも、柔軟に対処しています。
この「ママの目線」での対応が、単なるサービスへの満足だけでなく、「ここまで寄り添ってくれたから安心して利用できました」というホスピタリティへの高い評価につながっているのでしょう。
結果として、クレームはこれまでほとんどなく、お客様からの感謝の声が多く寄せられています。
同じママとして、一人の女性として、家事や育児にも生産性を!
―――将来的に挑戦していきたいことや取り組んでいきたい課題を教えてください。
私たちの大きな挑戦は、国や企業の支援を活用し、子育て世帯が経済的負担なくサービスを利用できる環境の実現です。
現状では、国や自治体の産後ケア支援は主に客観的に見て支援の手が足りていない人を優先しているケースが多いですが、支援の手があったとしても、産後の負担は非常に大きいです。
これを改善するため、企業向けの食の福利厚生サービスを通じて、子育て支援の強化や、福利厚生としての両立支援の普及を目指しています。
また、産後ケア先進国である韓国や台湾、中国などではすでに一般的なものになっている産後ケアホテルとの提携も重要です。ある産後ケアホテルでは、ママの休食の商品が宿泊中のお食事として提供されています。
さらに、より本質的なサービス提供のためには、医療機関との連携も重要です。
ある産科病院では、私たちのサービスを入院食として導入していただいています。
私が提案するのは、企業、医療機関、行政が一体となって子育て支援に取り組む新しい形です。
そのための第一歩として、現状の個人向けのサービスに加え、法人向けのサービスも積極的に展開していきたいと思っています。
一方、技術的な課題として解凍ムラの問題があります。
一つの食事セットには、主食、主菜、副菜など、形状や素材の異なる様々な食材が含まれ、これらすべてを同じ時間で均等に解凍することは、技術的に大変難しい課題なのです。
食材の盛り方や量によっては、厚みのある食材が温まりきらないなどの問題が発生することがあり、食材の盛り付け方や容積にも細心の注意を払う必要があります。
解凍ムラの問題も、「手間のない休養をお届けする」という私たちのサービスの本質を見失わないために、取り組んでいきたい課題の一つです。
―――最後に読者の皆様にメッセージをお願いします!
現代社会において、ママたちは依然として多くの偏見や制約に直面しており、宅食サービスを利用することに対しても、罪悪感を感じる人が多いのが現状です。
「自分が楽をするために買っている」という後ろめたさや、周囲からの批判など、様々なプレッシャーにさらされています。
私たちの会社では、このような状況を考慮し、配送箱にサービス名を入れないなどの配慮をしています。
しかし、夫や男性パートナーからのプレゼントとして利用される場合では、宅食サービスの利用がポジティブに受け止められるケースがあります。
SNSでは、「夫が体調を気遣って注文してくれた」といった投稿が好意的に拡散されています。
また、社会には未だに「自炊が最も健康的で栄養バランスが良い」という神話が存在しますが、これは専門家の目から見ても根拠のない考えです。
「自炊しないママは“ていねい”ではない」という偏見も、現代の生活スタイルにそぐわないものです。
私は、冷凍食品や宅食サービスを上手に活用して家事や生活をこなしていくことが、次世代の子育て世帯にとって重要なスタイルだと考えており、これは、ママに限らず、パパにも当てはまることです。
私は、家事や育児といった無償労働にも生産性を求めることが重要だと考えています。
効率的に家事をこなし、自分時間や家族時間を確保することは、決して批判されるべきことではありません。
私自身、選択的シングルマザーとして、このような課題に日々直面しています。
だからこそ、誰もが自由に自分らしく生活を楽しみ、充実させることができる社会を目指したいと強く思っています。私たちは、家庭や仕事、育児において無理なく豊かな時間を過ごせるよう、必要なサポートや選択肢を提供し、柔軟な環境づくりに貢献していきたいと考えています。
ママの休食の公式サイトを見る
ママの休食の解説記事を読む
インタビュアー
新井 那知
HonNe編集部
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積み、帰国後はクライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を行う。現在は「未来のあたりまえをインストールするWebマガジンSo-gúd(ソウグウ)」の編集長を務める。