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国のお金の使い方を見極めるには?財政の理解を深めるポイントも解説|京都府立大学 公共政策学部 三宅裕樹准教授


財政は、私たちの生活を良くするために重要な役割を担っており、ニュースでも日々取り上げられています。

しかし、財政がどのようにおこなわれているか理解するのが難しく、自分とはあまり関係ないと思う方もいらっしゃるでしょう。

そこで、HonNeでは京都府立大学で主に財政学を研究されている、 三宅裕樹(みやけ ひろき)准教授にインタビューを実施。先生の研究テーマに触れつつ、財政を見るためのポイントを解説していただきます。

当記事を読めば、財政の見方や自分との接点が理解でき、日々のニュースを読み解く力が身に付けられるでしょう。

インタビュー日:2023年10月12日



三宅 裕樹
インタビューを受けていただいた人
三宅 裕樹
京都府立大学公共政策学部公共政策学科 准教授

1982年 1月 京都府京都市 生まれ
2000年 3月 ヴィアトール学園洛星高等学校 卒業
2004年 3月 京都大学経済学部 卒業
2006年 3月 京都大学大学院経済学研究科 修士課程 修了
2006年 4月 野村證券株式会社 入社
       株式会社野村資本市場研究所 出向
       (〜 2011年 8月)
2014年 3月 京都大学大学院経済学研究科 博士後期課程 修了
2014年 4月 京都大学経済学部 非常勤講師 など
       (〜 2015年 3月)
2015年 4月 愛媛大学法文学部総合政策学科 講師
2016年 4月 愛媛大学法文学部人文社会学科 講師
2018年 4月 愛媛大学法文学部人文社会学科 准教授
2018年 10月 京都府立大学公共政策学部公共政策学科 准教授
現在に至る

専門:財政学・金融論

財政を理解するためのコツ

財政が持つ3つの役割と3つの見方

――――財政は重要だと理解しているものの、難しい印象もあります。財政にはどのような役割分担があるのですか?

大きく3つに分けられます。

1つ目は中央政府です。北海道から沖縄まで、47都道府県を統括して財政を管理しています。イメージとしては、いわゆる永田町・霞ヶ関が中央政府に当たります。

2つ目は地方自治体です。各都道府県・市町村ごとの財政を管理します。

3つ目は、社会保障基金です。年金や医療など特別な基金を積み立てています。

これら3つの財政に、私たち国民の税金が行き渡ります。具体的には、所得税であれば中央政府、住民税なら地方自治体、年金は社会保障基金に振り分けられています。

――――私たちが納めている税金がどこに行っているか把握できると、イメージしやすいですね。では、私たちの資産運用という観点からは、財政の動きをどのように見たらいいでしょうか?

こちらも3つ挙げられます。

1つ目はマーケットを規定する財政です。財政では事前に予算を決めますが、その使い方は日本経済全体の動向に大きな影響を与えます。また、予算の使い方によって、盛り上がる業界もあれば冷え込む業界もあります。

2つ目は、投資ライバルとしての財政です。GPIFや大学ファンドなど、私たち個人投資家と同じように、政府自身も大きなお金を運用しています。どのような考え方で投資先を選んでいるか理解しておくと、ご自身の投資判断で役立てられます。

3つ目は投資対象としての財政です。中央政府は国債、地方自治体なら地方債、他にも財投機関債など、各部署で借金をしています。そのため、私たちが直接的に投資して財政運営に関わることも可能です。

財政が難しいと感じる原因

――――今までは1つ目の見方が強い印象でしたが、投資家として活動するなら2つ目・3つ目の見方も重要ですね。

おっしゃる通りです。どの立場で見るかによって、財政の見え方は変わってきます

2つ目は資産運用する主体、3つ目は投資する対象として財政を見るので、金融の側面が強くなっています。なので、投資家としては比較的馴染みやすい見方と言えます。

1つ目は、金融というよりも財政学の見方になってきます。政府がどのようにお金を使うのかを決める際には、基本的に金融の発想とは大きく異なります。

なぜなら、お金を儲けようという発想で使っていないからです。財政は日本全体を良くするため、困っている人を助けるために運営されています。社会をどうやって安定させるのか、格差を減らすことができるのか、狭い意味での経済とは違う視点で考える必要があります。

つまり、全く逆の発想なんですよ。儲けることと社会を良くすることは全然違いますよね。このように財政には2面性があって、場面に応じて考え方を切り替える必要があります。

――――財政は難しい印象がありますが、その原因は金融の視点から関わる要素があるからなんですね。では、投資家として関わる場合、具体的にどこに注目すればいいでしょうか?

私たち個人投資家からすると、何百兆円ものお金を動かす中央政府には太刀打ちできないですよね。だから財政の動きに合わせて、「財政がこれからこう動くのなら、世の中はこうなるのでは?じゃぁこの分野に投資しよう。」という発想で投資するのは、1つの考え方として挙げられます。

財政の動きがわかれば、1歩進んで自分自身の投資判断が下せます。財政のことを理解するのは、投資する上で大切なことだと私は思います。

財政は、どうしても動きが遅いんですよ。学校でも学んだように、国民の税金をどう使うかを決める際には、あらかじめ国会や地方の議会を通す必要があります。通過しても官僚や公務員たちが色んな手続きをおこなって動くので、時間のラグが生じます。

この時間のラグを先取りして、どこに投資するか考えることは有力な投資行動になります

国の借金に対する考え方

借金が多いことは良くないこと?

――――財政では国債・地方債などを通じて借金をしていますが、よく聞く意見として「日本は1人当たり1,000万円も借金している」という意見があります。この意見に対して、先生はどのような見解を持っていますか?

さまざまな意見があるので、正直一概には言えません。しかし、少なくとも1つ知っておいて欲しいのは「ただ借金があるのか?」ということです。

現在、日本には約1,000兆円の借金がありますが、そのお金は何に使われているでしょうか?橋や道路などインフラを作ったり、公営施設を運営したりするために使われていますね。

つまり、日本には借金があると同時に資産もあるわけです。

この話は、私たちの家計にも当てはまります。例えば、住宅ローンも一種の借金ですが、ただ借金している訳ではないですよね。住宅ローンを組むことで、マイホームという資産が手に入っています。

したがって、借金だけ見るのではなく、その裏側にどのような資産が作られたか見ることも大切です。

――――確かに、民間企業の貸借対照表も資産と借金を合わせて記載していますよね。

ただ、借金と資産を同時に見るには、その資産が売却できる前提があります。じゃあ「橋や道路を転売できるか?」というと、個人や民間企業と同じように考えることはできません。

例えば、道路を売却する場合、すべて買い取ってくれるほどの買い手がいるとは限りませんし、外国人投資家に買われると安全保障面での問題を考慮する必要があります。

国の資産は国民が使うために作られているため、個人や民間企業のように単純に売却できるものとして見れない側面もあるのです。

――――いわゆる担保の考え方が、財政では当てはまらないということですね。

財政だからこそ考えられる、もう1つの考え方

実はもう1つ、「そもそも国の借金って大したことないんじゃない?」という考え方があります。

例えば、10兆円分の20年国債を発行した場合、本当に20年後に返す必要があるかというと、同じ金額の20年国債を発行して先送りすることが可能です。

このような借金の先送りを「借換債」と言いますが、同じことは個人や民間企業ではなかなか政府のようにはできません。個人はいつか必ず死にますし、民間企業も永続性が求められるとしても絶対倒産しないとは限りません。

ただ国の場合は、ちょっと不謹慎ですが国民がいる限り返済元である税金は集まります。その気になれば、一気に増税することも可能です。

そのため、国債を繰り返し発行して永久に引き継ぐなら、実質的に返す必要がないとも考えられるわけです。

このような考え方から、国の借金の大きさは、そこまで大した問題じゃないという意見も見受けられます。

――――国が存在し続けている限り、借金を繰り返せば実質的に存在しないと…。

ただ、借換債を何回も続けられるかというと、毎回同じ利子で借りれるとは限りません

例えば、最初は1%で借りれたのに、20年後は日本のマーケットが落ち込み、日本政府の信用度が下がっていると利子が3%に上がるかもしれない。

つまり、将来のマーケットや日本政府の信用度がどうなるかわからないので、本当に同じ条件で借換債が発行できるとは限りません。もし出来なかったら、返済するために私たちの税負担が跳ね上がってしまいます。

借金の大きさよりも使い方がポイント

そもそも、なぜ国債・地方債を発行するのか?

――――国債や地方債は私たち国民の税金で返済されますが、そもそもなぜ国債・地方債を発行する必要があるんでしょうか?

時間のラグを埋めるためです。

例えば、コロナ渦で日本社会が大きく混乱し、その対策として何十兆円という例年にはないお金が必要になりました。そのお金を増税すれば集められるかと言うと、混乱の最中では現実的ではないですよね。

そこで、とりあえず国債・地方債を発行すれば、今困っている人を助けてコロナ渦を乗り越えることが可能です。もちろん返済する必要があるので、混乱が収まれば将来的に税金を増やして徐々に返済していきます

つまり、お金を使うタイミングとお金を集めるタイミングのラグを埋めることが大切で、その手段として国債・地方債が重要なんです。

例えば、東日本大震災の復興で必要だったお金は、国民全員で負担しようということで復興増税が実施され、震災の後しばらくしてから少しずつ返しています。なので、コロナ渦で発行した国債・地方債の返済も、何かしらの形で増税されて少しずつ返していく流れになるでしょう。

金額の大きさよりも健全な使い道が重要

――――そう考えると、国を運営するために国債や地方債の存在は重要ですね。

ただ注意したいのは、発行された国債・地方債で集めたお金が健全に使われるかどうかです。

本当にコロナで困った人たちに使われたか、使われたとしても必要以上に使っていないか見る必要があります。お金の使い方と規模が理にかなっていれば、国債を発行する、そして将来私たちが税金で負担することも納得しやすいでしょう。

日本の財政には、少子高齢化や安全保障などいろんな課題が挙げられます。そのような課題に対して、約1,000兆円の借金を納得した使い方ができていれば、そこまで大きな問題にはなりません

もし借金が膨らみ続けていることを問題視するなら、歯止めをかける仕組みがしっかり機能していればいいでしょう。

つまり、国のお金の使い方に対して国民全員が納得できているかが、大きな問題でないかと考えています。

現状、国民がちゃんと理解できないまま一部の偉い人が一方的に予算を決めたり、無駄な使い方が見つかってもなかなか修正しなかったりする部分があると、私は感じています。

なので、本当に大事なところに予算を振り分けたり、無駄だった使い方が見つかったら軌道修正したりする議論を、積極的におこなうことが1番の課題だと考えています。

――――借金自体の大きさではなくその使い方、財政運営に対するガバナンスが効いているかが、大きな課題ということですね。

とはいえ、選挙や支持率調査の回答だけで、財政運営に変化を促すのは難しいでしょう。だからこそ、投資対象の財政として、投資家目線から財政のガバナンスにプレッシャーを与えることが鍵だと考えています。

民間企業が何をしたいのかわからない経営をしていたら、投資家はその企業の株式を買うか迷ってしまいますよね。同じように財政が納得できないお金の使い方をしていると、投資家は財政に投資しにくくなります

となると、資金調達源である国債・地方債の買い手が減るので、金利を上げざるを得ません。当然、金利が上がると借金しにくくなるので、結果として財政のあり方を見直させるプレッシャーを与えられます

したがって、私たちが財政運営に対して影響力を行使することには、いろんな観点から相乗効果を生み出す可能性があると思います。

――――健全な財政運営ができるかチェックするためにも、財政の3つの見方を理解することが重要ですね。
財政に対していろんな考え方ができるからこそ、複数の視点があることを知っていれば、財政への理解が深まると感じました。
この度はインタビューにお答えいただき、ありがとうございました!


田中律帆
インタビューアー
田中 律帆(Riho Tanaka)
WEBディレクター
2015年3月 西南学院大学 商学部経営学科卒業
一般教育系企業や国立大学勤務を経て、2021年4月 EXIDEAへ入社。現在は特別企画のジャンルでインタビューを担当。投資歴は10年以上で、主な投資先は株式投資・投資信託・ロボアドバイザーなど。

記事編集:亀井郁人



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