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経営学の理論を実務に活かす!新潟大学の准教授が挑むサービスのイノベーションとは

経営学の理論を実務に活かす!新潟大学の准教授が挑むサービスのイノベーションとは|合同会社RJ’s リサーチ・アンド・アドバイザリー代表 伊藤龍史


皆さんは経営学について、どのようなイメージを持っていますか?

もしかしたら、会社経営という実務の場で活かされない、机上の空論だと思う方もいらっしゃるでしょう。

そこに一石を投じるのが、新潟大学で主にアントレプレナーシップ論を研究されている、 伊藤 龍史(いとう りょうじ)先生。

先生は自らの研究活動を通じて、新潟発のスタートアップ「RJ’s リサーチ・アンド・アドバイザリー」を立ち上げました。先生によると、「経営学の研究者だからこそ、理論と実務の橋渡しができる」と語っています。

その根拠を探るために、当記事では会社の事業内容や先生が起業した理由を聞いていきます。

インタビュー日:2023年9月26日



伊藤龍史准教授
インタビューを受けていただいた人
伊藤 龍史
RJ’s リサーチ・アンド・アドバイザリー代表
兼 新潟大学 経済科学部 総合経済学科 准教授


福岡県福岡市出身。福岡県立修猷館高校卒業、早稲田大学卒業後、早稲田大学大学院商学研究科修士課程・博士後期課程、早稲田大学産業経営研究所助手を経て、2009年新潟大学経済学部・大学院現代社会文化研究科講師。14年同准教授。20年、改組に伴い経済科学部准教授。サンノゼ州立大学(カリフォルニア州立大学サンノゼ校)ビジネススクール(マーケティング・意思決定科学領域)客員研究員(2012年から2013年)、ソウル科学技術大学招聘副教授(2014年)など。

専門分野は、企(起)業家的経営戦略論(Entrepreneurial Strategy)、企(起)業家的マーケティング論(Entrepreneurial Marketing)、および顧客アントレプレナーシップ研究(Customer Entrepreneurship)。

具体的には「顧客による価値の実現機会および破壊機会の探索行動」と「アントレプレナーによる起業家的機会および戦略的機会の探索行動」についての理論構築および測定尺度開発を目指している。

2018年と2020年、国際学会「ASBBS(American Society of Business and Behavioral Sciences)」において学会賞「Best Paper Award(最優秀論文賞)」を2度受賞。2020年、新潟大学学長賞(若手教員研究奨励)受賞。2022年、新潟ベンチャーアワードにおいて伊藤研究室のアントレプレナーシップ教育活動が「アシスト賞」と「オーディエンス賞」をダブル受賞。

経営学の理論を実務で活かすサービスを提供したい

――――まずは、先生が立ち上げた会社「RJ’s リサーチ・アンド・アドバイザリー」の事業内容を教えてください。

一言で言えば、コンサルティング会社のコンサルティング業務や、個別企業への経営アドバイスなどをおこなっています。具体的には、クライアントの文脈に合わせて適切な理論や分析手法を探し出し、それらを応用してアドバイザリーサービスを提供しています。事業を一言で表現する言葉があまりないので、私は「アドバイザリー」と呼んでいます。

以前から、私は経営学と実務の場に距離感を感じてました。この間を取り次いでいるのがコンサルティング会社ですが、時間やスキルなどの要因で、現状は体系化されたフレームワークに当てはめることがほとんどです。

コンサルティング事業のバリューチェーンがあるとすれば、その一番上流側に位置するのが、アドバイザリー業務だと思います。その業務が最も出来るのは研究者じゃないかなと思って、会社を立ち上げました。

――――なぜ、理論と実務の場に距離感が生まれているんでしょうか?

それぞれのベクトル、目的が違うからです。

本来、研究はあらゆる文脈に当てはまる理論を作り上げて、普遍化することが目的です。自然科学だとイメージしやすいと思いますが、経営学や経済学といった社会科学では、条件によって理論が通用しなくなる場面が多くあります。

一方、実務の場では状況に合わせて対処することが求められます。

つまり、普遍化を目指して作られた理論が、実務の場で綺麗に当てはまることは、ほとんどありません。

したがって、企業の事情に合わせて理論を当てはめるには、作られた理論の一部を崩して作り替えたり、1から構築したりする必要があるんですよ。

――――先生の事業内容は、他の会社でおこなわれていないんですか?

日本だと、数えるほどしかないですね。ただ、米国だと珍しくありません。実際、米国の大学に所属している研究者で起業している人も知っています。

実は、個別の企業でしか成り立たない理論を作ることは、多かれ少なかれ一般化(普遍化)を目指す経営学の世界では、ゴールではなく通過地点でしかありません。

でも、医者だって普段は患者を診断・診療しつつ、特殊な患者を見つけたら詳しく分析して新しい知見を生み出していますよね。

医学だと当たり前なのに、経営学だと学問の世界と実務の世界の目線が分断されているように思えて、ずっと変だなって思っていたんです。

都会ではなく、あえて新潟で起業した理由

――――とても意義のある事業だと感じましたが、会社の拠点は新潟ですよね?東京や大阪といった都会の方が、ニーズは高いと思うんですが…。

おっしゃる通り、業績だけを考えると都会に拠点を置いた方が成長スピードは早いでしょう。

それでも新潟で起業したのは、世間からまだ理解されにくい・受容されていないサービスが、どのように受け入れられ浸透していくか見ていきたいからです。

その背景には、私の研究テーマである「顧客側のアントレプレナーシップ」が関わってきます。

アントレプレナーシップは、本来企業がイノベーションを起こすために考えられた概念です。イノベーションといえば商品・製品といったモノがイメージしやすいですが、近年ではサービスでのイノベーションも確認されています。

一方、サービスはモノと違って再現性が非常に難しいんです。

例えば大学の講義で例えると、毎年同じ講義をするつもりでも、私のコンディションや生徒の態度によって、講義内容は多少変わる可能性があります。

つまり、サービスの価値を最大化してイノベーションを起こすには、企業側と顧客側、双方のアントレプレナーシップが必要です。このことを、私の造語として「デュアルアントレプレナーシップ」と呼んでいます。

自らデュアルアントレプレナーシップを実践したいと思って、あえて新潟で起業することを決めました。

――――1番攻略しにくい場所、いわゆるラスボスから攻める感覚ですね。

おっしゃる通りです。私は、最も必要ないと感じそうなクライアントにサービスを提供できることが、“勝ち”だと考えています。

メインバンクも、ほとんどの新潟の会社が選ぶ第一北越銀行ではなく、あえて燕三条信用金庫にしました。

燕三条地域には、自分自身の経験知で長年会社を続けてきた、職人気質な経営者さんがたくさんいらっしゃいます。当然、いきなり私のサービスを持っていっても、「いらん」と言われるのがオチです。

実際、自分たちが考えていることを理論的に補強する朝ゼミを企画したんですが、「いらない」「高い」「朝は忙しい」って言われて、案の定惨敗しました(笑)。

だからと言って、相手に寄せては意味がありません。寄せずに受け入れられるよう、サービス内容やアプローチの仕方をブラッシュアップして、日々再挑戦しています。

起業の原点となった、シリコンバレーでの共同研究

――――起業した背景には、先生の研究テーマが関係していたんですね。何がきっかけで、顧客側のアントレプレナーシップを扱い始めたんですか?

コールセンターのオフショアリング(企業がサービス業務を海外に移すこと)研究がきっかけです。

研究するには、理論・分析方法・現象の3つが必要です。私の場合、3つ目の現象をなかなか選べず、当時の指導教授からヒントをもらったのがオフショアリングでした。

ただ、オフショアリングはいろんな仕事で活用されているので、何かしらの側面に焦点を当てないと、研究するのが難しかったんです。

そんな中、シリコンバレーでマーケティング領域でのオフショアリングを共同研究する機会に恵まれました。

シリコンバレーには、マーケティングで世界的権威がある研究者が集まっています。当時の私は駆け出しの研究者で、彼らと研究するには「この領域なら私が一番詳しい」という、私だけの強みを求めていました。

強みとなる具体的な研究対象を調べた結果、コールセンターのオフショアリングが最もマーケティング寄りだと気づき、今でも共同研究を続けています。

――――そこから、どのように顧客側のアントレプレナーシップへ行き着いたんですか?

コールセンターのオフショアリングを分析し続けると、顧客が海外に繋がっていると気づいた場合、急に態度を変えることが判明しました。

スタッフは日本語名を名乗って違和感のない日本語を話すので、海外に繋がっていることは基本的に気づきません。

ただ、何かしらの理由で「海外に繋がってる…?」と感じた瞬間、良い意味でも悪い意味でも、話し方やサービスの満足度が変わってしまうんです。

この現象を説明できる考え方は何か、研究を進めてみた結果、顧客側のアントレプレナーシップにたどり着きました。

――――起業と研究は別々におこなっていると思っていましたが、裏ではしっかり繋がっていたんですね。

文化を作って、お世話になった場所に恩返ししたい

――――ここまで、先生の事業内容や起業までのエピソードを聞きました。今後のビジョンについて教えてください。

新潟に加えて、福岡・東京・シリコンバレー、この4箇所に会社の拠点を出すことを目標としています。なぜかというと、この4箇所が私にとって大切な場所で、恩返しがしたいからです。

福岡で生まれ育ち、学生として東京で学び、私の研究に大きなきっかけを与えてくれたシリコンバレーを経て、今は新潟で研究をさせてもらっています。

会社経営の目標というと、売上〇〇円が一般的かもしれません。でも私の場合は、その4箇所に拠点を出して、サービスを提供し雇用を生み出し、私のサービスが浸透する文化を作りたいんです。

――――文化を作っていく、素敵な言葉ですね。研究者としては、何を追求していきたいですか?

個人的な感覚ですが、私は世の中のイノベーションに対して、偏りを感じています。その偏りのメカニズムを解明することが、研究者として生涯をかけて追求したいことです。

お客さんの悩みを解決する商品・サービスの組み合わせをすべて考える場合、解明するには膨大な時間がかかります。

例えば、世の中には50の「何か」しかないとします。一方、お客さんの悩みの構成要素は10だとします。そうすると、単純に組み合わせだけを考えてみても膨大なパターンが考えられますよね。

しかし、世に次々と出てくるイノベーションは従来の商品・サービスと似ており、私はどうも生まれ方に偏りを感じるんです。

政府の政策といった外部的な要因も十分考えられますが、私は起業家と顧客との出会い方に原因があると考えています。

だから、起業側と顧客側、双方のアントレプレナーシップの研究が必要だと思って研究しています。また、自身でも身をもって観察してみようとも考えて、自ら起業にも挑戦しました。

研究も教育も起業も、何かの残り香を社会に残したい

――――先生が企業した理由は、研究の一貫でもあったんですね!そう考えると、先生はとてもチャレンジングな方だと思いました。

私、世の中に「私がいた!」っていう証、残り香を残したいんです。寂しがり屋なので、忘れられたくないんですよ。

なので、論文の執筆や学生への指導、会社を作ることは、ある意味世の中へのマーキングです(笑)。

もちろん、自分が死んだ後の世の中なんてわかりませんが、少なくともやりたいことをやらないと、自分の生きた痕跡は残せないんだろうなって思っています。

だから、私は挑戦しているつもりはなくて、単純にやりたいことをやっているだけです。その結果、将来誰かが「伊藤がいたおかげで助かった」って、言ってもらえる世の中にできたら良いなと考えています。

――――やりたいことをやっているだけ、そう考えたらシンプルですね。ちなみに、やりたいことをやるために、どのような工夫をしていますか?

人には見せないんですが、やりたいことリストを作っています。

結構細かく書いていて、大きいこと小さいこと関係なくまとめていますね。それこそ、思いつきで「0時を回った後にラーメンが食べたい!」とか書いてますよ(笑)。

普段は思いつく度に箇条書きでメモしていますが、ある程度たまったタイミングで、自分にとって幹になる部分と分けて整理しています。

あと、1〜2分だけでも毎朝見るようにしています。やっぱり人間なんで、どうしても忘れちゃうんですよ。

どれだけ本当にやりたいことでも、目の前の仕事ややるべきことで頭から抜けてしまう。毎日見ることで、思い出すきっかけを作ることが大事じゃないでしょうか。

――――先生の会社についてインタビューするつもりでしたが、先生の人柄や想いまで聞くことができて、とても嬉しかったです。
今回はインタビューを受けていただき、ありがとうございました!


田中律帆
インタビューアー
田中 律帆(Riho Tanaka)
WEBディレクター
2015年3月 西南学院大学 商学部経営学科卒業
一般教育系企業や国立大学勤務を経て、2021年4月 EXIDEAへ入社。現在は特別企画のジャンルでインタビューを担当。投資歴は10年以上で、主な投資先は株式投資・投資信託・ロボアドバイザーなど。

記事編集:亀井郁人



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