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ダイヤモンドを買うと、誰かの血が流れる?〜紛争鉱物の課題と現状〜

ダイヤモンドを買うと、誰かの血が流れる?〜紛争鉱物の課題と現状〜


ダイヤモンドやスマートフォンを始め、鉱物資源はいまや私たちの生活になくてはならないものになっている。

その鉱物資源がどのように採掘され、届けられているかをご存知だろうか?アフリカでは、鉱物資源にまつわる紛争や劣悪な労働環境が今なお続いている。

このインタビューでは、「未来の新しい当たり前」をテーマに、紛争鉱物の問題に焦点を当てる。

東京外国語大学の武内進一教授との対話を通して、紛争鉱物の現在の状況、課題、未来への展望について深く探求する。

武内 進一
インタビュイー
武内 進一氏
東京外国語大学 現代アフリカ地域研究センター 教授
研究分野:地域研究・国際関係論
受賞歴:日本経営倫理学会水谷雅一賞論文部門奨励賞 (2023年06月)、サントリー学芸賞(第31回。政治経済部門) (2010年)、国際開発研究 大来賞(第13回)(2010年)

紛争が相次ぐ1990年代、アフリカに赴任

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―――まずは、研究領域について教えてください。

地域研究者として、中部アフリカのフランス語圏地域を専門にしています。

具体的には、政治経済分野が専門で、アジア経済研究所で研究を始めた1980~90年代には、主食食料の生産やその都市への流通に関する調査研究を行っていました。

1992~94年にコンゴ共和国の首都ブラザヴィルに赴任し、農村に滞在したり、食料を運んでくるトラックに同乗したりしながら、主食食料の生産・流通について調査しました。

滞在中にブラザヴィルで武力紛争が起こり、それに巻き込まれたこともあって、食料の生産・流通から政治に関する問題へと、徐々に研究テーマを変えました。紛争に関する研究の一環として、紛争鉱物についても学びました。

政治と農村が交わる場としては土地問題が重要なので、最近は土地政策やアフリカの国家による領域統治にも関心をもっています。

―――当時赴任されていた地域で紛争が起こったとのことですが、具体的にどのような紛争が発生したのでしょうか?

中部アフリカ・フランス語圏の中で最も大きな国が、現在のコンゴ民主共和国です。私がこの地域について勉強を始めたのは1980年代には、ザイールと呼ばれていました。*1

当初はザイールに赴任して調査活動を行うつもりで準備していましたが、ちょうどその時期にザイールの政治情勢が不安定になり、大規模な暴動が勃発して、とても調査ができる状況ではなくなってしまいました。

そこでやむなく、1992年に隣国のコンゴ共和国に赴任したのです。しかし、そこでも選挙のやり方や結果をめぐって政治対立が深まり、1993年には政府勢力と反政府勢力が首都で激しく対立する事態となりました。街中を戦車が走り回り、あちこちで銃撃戦が起こるので、何度も自宅から避難しました。

この時期、中部アフリカの国々で次々に紛争が起こりました。ルワンダでは1990年から内戦が始まり、1994年にはトゥチ人の大量虐殺(ジェノサイド)が起こっています*2。このルワンダの紛争が波及する形で、隣国のコンゴ民主共和国でも1990年代後半には大規模な武力紛争が勃発しました。中部アフリカの国々で紛争が相次いだのです。

参照:
*1 外務省 コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo)基礎データ
*2 国際連合広報センター 1994年のルワンダにおけるジェノサイドを考える国際デー(4月7日)に寄せるアントニオ・グテーレス国連事務総長メッセージ


長引く紛争と劣悪な労働環境、かいくぐられる規制

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―――紛争鉱物の問題の背景と現在の状況について、教えてください。

紛争鉱物の問題が注目されるようになったのは、1990年代以降です。*1アンゴラやモザンビークなど、アフリカでは冷戦時代にも多くの紛争があったのですが、紛争鉱物をめぐる問題が注目されるようになったのは、主に冷戦終結後のことです。

アメリカとソビエト連邦が対立した冷戦時代には、アフリカの紛争の多くは大国間の代理戦争という性格が強く、そうした大国がアフリカの紛争当事者(政府、反政府武装勢力)に直接軍事援助を行っていました。

しかし、冷戦終結後にはそうした代理戦争が減少し、アフリカで紛争が勃発すれば、紛争当事者は自ら軍事資金を調達しなければならなくなりました。そこで、紛争鉱物資源を利用して軍事資金を得るという行動が増加したのです。

その最初の例として挙げられるのが、シエラオネやアンゴラでのダイヤモンドです。ダイヤモンドは少量でも高い価値がありますから、これを利用して軍事資金を得る行為が増加してきたのです。

紛争鉱物問題の背景として重要なことは、鉱物を採掘する方法です。

鉱物採掘には二つの方法があります。一つは大規模な機械を使用して行う方法です。もう一つは人力で掘る方法で、例えばダイヤモンドの場合、鉱脈近くを流れる川底の泥をさらい、人力でダイヤモンドを探します。金もこのような形で探すことが多いです。その他の鉱物では、埋蔵していると思われるところを人力で掘っていく、という単純な作業がほとんどです。

機械掘りの場合は、高価な掘削機械を使って鉱脈を掘り進めます。この方法は資本が必要で、事実上大企業しか行うことができません。一方、人力で川底をさらったり、埋蔵地を掘り進めたりして、鉱物を探すことは、資本力がなくてもできます。ほとんどの紛争鉱物には、この人力掘りが関わっています。

人力に依存した鉱物採掘は、近年アフリカ農村部に急速に広がっています。これは、紛争による治安悪化と相乗的な関係があります。紛争拡大で治安が悪化すると、人々が畑に出て耕作や収穫といった農作業をすることができなくなります。そのため人々は、自分の生計を立てるために小規模な採掘活動に従事することが多くなりました。

この状況が最初に顕著に現れたのが、1990年代後半から2000年初頭にかけてのシエラレオネとアンゴラの紛争ダイヤモンドの問題でした。*2

シエラレオネとアンゴラはともに2000年代初頭には紛争が終結しましたので、紛争鉱物の文脈では問題が解消されました。しかし、依然として小規模な鉱物資源採掘活動の労働環境は劣悪ですし、他のアフリカでは、ダイヤモンド以外の鉱物に関して紛争鉱物問題が起こっています。

最近の例として挙げられるのは、コンゴ民主共和国東部やマリ、ブルキナファソなどのサヘル地域です。特に、コンゴ民主共和国東部のタンタルやタングステン、金などの鉱物は、紛争との関連で注目されてきました。小規模な採掘が広範囲で行われ、武装勢力がこれらの鉱物を売る際に税金を課して、その資金を活動資金として利用する状況が、今日まで続いています。

参照:
*1 東京大学未来ビジョン研究センター紛 争鉱物取引規制への対応に関する 提⾔
*2 武内進一「紛争ダイヤモンド」問題の力学-グローバル・イシュー化と議論の欠落-


―――2000年代には紛争が終わり、2010年頃には鉱物の取引規制の制定により流通が規制されていたにも関わらず、紛争鉱物の問題が一部地域ではまだ続いているというのは、びっくりしました。

まず、最初に世界的な注目を集めた紛争ダイヤモンドについては、UNDP*1などの国連機関やNGOが熱心に運動したこともあって、2000年代初頭には、キンバリー・プロセス*2というダイヤモンド流通に関する認証制度が整えられました。

ダイヤモンドは採掘量が限られている上、供給チェーンの追跡が比較的容易であることから、最初にシステムが確立された経緯があります。

しかし、ダイヤモンド以外の鉱物に関しては、状況がもっと複雑です。2010年にアメリカの国内法であるドッド・フランク法*3が成立してからは、鉱物の調達に関して、紛争鉱物でないかを確認する申告が必要となりました。アメリカの証券取引所に上場している大企業が遵守しなければいけないというインパクトは非常に大きく、日本企業にも影響が及び、紛争鉱物を使用しないよう取り組みが進んでいます。

近年、紛争地域からの鉱物を使用していないことや、使用する鉱物の生産地を証明する認証書が必要となるなど、新たな仕組みが導入されました。

しかし、この認証制度も、完璧には程遠いことが指摘されています。

機械掘りの地域では、紛争鉱物かどうかや、きちんとした労働環境が保障されているかが比較的監視しやすいのですが、小規模な人力掘りの地域ではそうした監視はほとんど期待できません。一般に、人力掘りの労働環境はきわめて劣悪です。

機械掘りと人力掘りの採掘地がしばしば接近しており、認証を受けた採掘地といっても、人力掘りの紛争地域から出た鉱物が混ざっていることもあります。また、紛争地域から鉱物を持ち込んで承認を受けた採掘地で販売するなど、不正行為も指摘されています。

コンゴ民主共和国東部のように紛争の影響が広大な地域に及び、戦線が常に移動するような状況にあっては、鉱物採掘に関して正確な情報を把握することはきわめて困難です。

紛争鉱物の存在は、それに依存して軍事資金を調達している勢力にとって、紛争を長引かせる動機となります。そうしたなか、小規模な採掘者が劣悪な労働環境で鉱物資源を採掘しているのです。

鉱物資源は、我々の生活を様々な形で支えていますが、それはここまで述べてきたようなサプライチェーンの上に成り立っている場合もあるということです。

参照:
*1 国際連合開発計画 (United Nations Development Programme)
*2 経済産業省 ダイヤモンド原石の輸出入管理
*3 日本経済新聞 ドッド・フランク法とは


紛争鉱物をなくすために、私たちができること

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―――紛争鉱物の問題に関して、我々消費者には何が出来るでしょうか?

我々に製品を提供している企業は、紛争鉱物を使用しない製品を作ろうと努力しています。消費者も同様に、多くの人が紛争鉱物を使用した製品を避けようと意識していると思います。

一方で、紛争鉱物ではないとされている製品でも、その実態はかなりグレーで、上流部分で起こっていることは私たちが想像している以上に複雑です。

少なくともその事実を理解した上で、ではどうするのか、という問題意識を持つことが必要ではないかと思います。

―――世界的に取り組まれている昨今の紛争鉱物の規制について、現状を教えてください。

先ほどお話ししたキンバリー・プロセスやドット・フランク法など、鉱物資源のサプライチェーンをもっと整備しよう、認証システムをもっと精度の高いものにしようという努力は長年にわたってなされてきています。

しかし、一方でアフリカの小規模採掘は広がり続け、劣悪な労働環境も拡大しています。小規模採掘に関しては、労働環境の整備への支援など、少しずつ取り組みが始まっています。

―――これまでの調査や研究の中で、色々な現場に足を運び、資料に目を通してきたかと思います。何か印象に残るシーンはありましたか?

なかなか立ち入れないので、直接見ることはできていないのですが、目を疑うような採掘現場の写真を多く目にしてきました。例えば、研究書の表紙に使われている写真は、コンゴ東部のルウォウォ(Luwowo)鉱山のもので、コルタン(タンタル)の小規模採掘の現場です。
参考:CHICAGO

広大な場所に山のように人が群がり、地下深くまで掘るので、落盤事故も頻繁に起こります。こういった写真に示される状況が、コンゴ東部を筆頭に、西アフリカなどでも広がっているようです。

―――紛争鉱物から脱却して、クリーンかつ持続可能な鉱物産業にしていくために、社会はどのように変わっていくべきなのでしょうか?

まずは、紛争を止めることです。

この問題は堂々巡りなのですが、先進国で鉱物資源への需要が高まれば、小規模採掘も拡大し、そこから武装勢力が資金を得る機会が生まれます。紛争が続く限り、そのサイクルは続きます。

紛争鉱物問題の根本的な要因は武力紛争です。現在のアフリカでは、幾つかの理由から国内統治がうまくいかず、紛争が発生してしまうという状況があります。

規制を導入しても、根本的な問題が解決されない限り、紛争鉱物が世界市場に流出する事態が続くので、国際社会として紛争解決に取り組むことが不可欠です。日本政府としても、真剣に取り組んでほしいと思います。

我々一人一人にできることとしては、まずこうした事態を知ることが重要です。その上で、自分に近い分野、なじみのある分野で、世界とどのようにつながっているのかを意識することが大切だと思います。

今日、世界は様々な形でつながっています。タンタルはスマートフォンに使われていますし、電気自動車に必要なコバルトは、世界生産量の大部分をコンゴが占めています。

日常生活で消費する様々な品々が、どんなふうに世界とつながっているのか、そこには人々のどんな暮らしや労働が関わっているのか、意識してほしいと思います。

負の側面だけではない、アフリカの魅力

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―――ありがとうございます。衝撃的な事実ですが、我々の生活と密接に結びついていて、目を逸らさずに向き合っていかなければいけないと感じます。最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

アフリカは様々な問題を抱えています。紛争鉱物もその一つですし、そもそも武力紛争は貧困やガバナンスの悪さなど、様々な問題が絡み合って起こります。

しかし、同時に言えるのは、アフリカには非常に大きなポテンシャルがあるということです。人々は魅力的で、そこでの生活は楽しく、学ぶことも多いのです。アフリカを自分と関係のない、遠くて恐ろしい場所と捉えずに、その多様性や魅力に目を向けてほしいと思います。

現地の実情や人々の暮らしを知ることから始めて、アフリカのことをもっと理解してほしいと強く感じています。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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