株式投資を始める前に知っておくべき前提知識・勉強法【後編】|日本大学 経済学部 三井秀俊教授
当インタビュー記事は、日本大学で主に金融データ分析を研究されている 三井 秀俊(みつい ひでとし)先生からお聞きした、株式投資の学び方を前編・後編に分けて掲載しています。
前編では、株式投資を始める前の心構えや最初に読みたいおすすめの本を解説しています。当記事の後半では、模擬売買や本番の投資で知っておきたいポイント・注意点をまとめています。
「これから株式投資を始めたいけど、何から始めたらいいかわからない」という方は、ぜひ前編をお読みになった上で、後編をご一読ください。
※前編はこちらへ
インタビュー日:2023年11月2日
インタビューを受けていただいた人
三井 秀俊
日本大学 経済学部 教授
東京都立大学助手、日本大学経済学部専任講師・助教授・准教授を経て、2015年より同大学経済学部教授。
この間、千葉大学大学院・一橋大学大学院・筑波大学大学院・埼玉大学大学院・上智大学大学院・電気通信大学・東洋大学非常勤講師、埼玉大学大学院客員准教授・客員教授、日本大学経済学部経済研究所長、デューク大学客員研究員などを歴任、 博士(経済学)。
専門は株式市場・デリバティブ市場・外国為替市場の計量分析。
著書
『オプション価格の計量分析』(2004年,税務経理協会)、『ARCH型モデルによる金融資産分析』(2014年,税務経理協会)など。
この間、千葉大学大学院・一橋大学大学院・筑波大学大学院・埼玉大学大学院・上智大学大学院・電気通信大学・東洋大学非常勤講師、埼玉大学大学院客員准教授・客員教授、日本大学経済学部経済研究所長、デューク大学客員研究員などを歴任、 博士(経済学)。
専門は株式市場・デリバティブ市場・外国為替市場の計量分析。
著書
『オプション価格の計量分析』(2004年,税務経理協会)、『ARCH型モデルによる金融資産分析』(2014年,税務経理協会)など。
目次
模擬売買して投資する感覚を身に付ける
三井秀俊ゼミ:東京証券取引所見学の様子
超重要!記録する習慣を身に付けよう
――――模擬売買を始める際、何が一番大事ですか?自分が実行したこと等を記録する習慣を身に付けることです。売買した銘柄はもちろん、日付・売買価格・売買した理由をしっかり「書いて」記録してください。余裕がある方は、日経平均や米ドル・円為替レート等も書いておくと良いと思います。
記録する習慣が付くと、自分が上手くいくパターンと失敗するパターンが見分けられ、銘柄の選び方や売買を決める土台になるんです。
ほとんどの個人投資家は、この記録の作業をやっていません。
株式投資で上手くいっている人が書いた本には、必ず売買を記録していること、また、チャートを手書きで記録していることが書かれています。ミネルヴィニさんの本にも、記録することの重要性が強調して書かれています。
私の仮説ではありますが、カルテを書く習慣がある医師は、株式投資が上手くいく傾向があります。患者の身体状況を1人ひとり記録することと、銘柄ごとに重要なことを記録することが共通することから、日々の記録が大事なことをすぐ理解できるからです。習慣化されているので面倒くさいとか言う方はほとんどいません。
このような観点からでも、模擬売買を通じて記録する習慣を身に付けることは、株式投資が上手くいくための必須要素だと断言できます。
――――記録を付ければ、自分に合った投資手法は見つけられるのでしょうか?
「こういう手法で投資すれば儲かる」と謳っている投資手法を実践したら、確かに上手くいく可能性はあります。ただ、特定の投資手法は、個人の性格が大きく影響することを理解しておいてください。
例えば、長期的に運用する投資手法は、短期ですぐに売買する人からすると我慢できないでしょう。逆に、短期的に売買を繰り返す投資手法だと、気長に運用したい人にとっては抵抗を抱くかもしれません。
そのため、模擬売買で記録する習慣を身に付けることは、投資における自分自身の性格を理解して、相性の良い投資手法を見つけることにも繋がります。
記録は物事を上達させるコツ!有名スポーツ選手も実践している
――――心構えを知ることはあくまで前座で、記録を取ることが投資で一番重要な作業なんですね。記録を取ることは、株式投資に限らず、あらゆる物事に共通して重要な作業です。サッカーの本田圭佑や野球の大谷翔平も、毎回の練習・試合内容をしっかり記録し反省しているそうです。
何事もトップレベルに上り詰める人は、何かしら記録する習慣を身に付けています。記録したことを見返すことで、自分が何を考えているのか、何を大事にしているか確認できるからです。
自分が積み重ねてきたものを振り返って、失敗しても次はどうするか考えられるから、「もっと続けよう」という粘り強さが芽生えてくるんじゃないでしょうか。
ただ、ここまで言っても実際に記録し続けられるのは、10人中1人くらいでしょう。残りの9人は聞いて終わってしまいます。
ここが重要です。ほとんどの人が実践しないからこそ、自分はちゃんと記録しながら投資を続けられるかが、株式投資で結果を残せる大きな分かれ目となります。
――――先生も実際に記録を続けてきたからこそ、記録の大事さを確信されているんですね。ちなみに、他にも記録することが大事な理由はありますか?
記録することが習慣化すれば、冷静に投資判断しやすくなり、感情的に大きなリスクを取ることも避けられます。
感情的になりやすい人は、冷静に判断するための時間を取っていないことがほとんどです。記録することで一旦冷静になり、株価の一時的な値動きに惑わされず、自分がどのような売買戦略にしたがって投資しているか確認できます。
個人投資家は、文字通り「個人」で投資する人です。職場の先輩・上司のように、失敗を指摘・修正してくれる人がいません。
ということは、自分が実行したことが上手くいったのか失敗したのか、すべて自分自身で判断して修正する「自己管理能力」が必須です。
この自己管理能力の大事さって、組織の中で仕事しているとなかなか気付けないと思います。上司や先輩のおかげなのに、「自分が頑張ったから今の自分がいる」と考える人が意外に多いからです。特に、大きな組織に属している人ほどその傾向が強いです。
そのため、スポーツや受験勉強、国家試験、個人事業主の経験がある人だと、自己管理の重要さと大変さを理解しやすいでしょう。
実際にお金を投じて「土壇場の自分」を知る
――――模擬売買で記録する習慣が出来たら、やっと本場の投資でしょうか?はい。本番の投資ができる準備が整って、株式投資で必要なことの50%まで進んだと言えます。でも、ここからが大変なんです。
模擬売買と違って本番の株式投資だと、「違う自分」が出てきます。自分の大切なお金を使っているから、売買する感覚が全然違うからです。模擬売買なら購入した銘柄が50%下落しても気になりませんが、本番だと5%下落しただけでも絶望するでしょう。夜、眠れないこともあるでしょう。人によっては、保有している株が10%下落したら、二度と株式投資はしない、株式投資はギャンブルだと思うかもしれません。ここが、模擬売買との大きな違いであり、越えなければならない壁になります。
現実には、一か月で10%以上の上昇・下落は株式市場ではザラにあります。株式投資に関してメンタルに関する本が多く出版されているのもうなずけます。方法論だけでは十分でないことがここからも理解できると思います。
ここで、多くの個人投資家は、株式市場から退場することになります。
そのため、実際に自分のお金を使った株式投資を始めたら、下落したときの対処方法を身に付けていきましょう。ここがアマチュアとプロの違いです。
実を言うと株価の値動きは、一定のパターンの繰り返しが多くみられます。この感覚が体感できれば、下落時の対処方法が見出せて忍耐力が付き、株式投資を続けるモチベーションも保てます。
そのためにも、模擬売買で記録する習慣を身に付けることが大事なのです。
どの銘柄を選んでいつ売るか、株式投資の醍醐味は最後に控えている
三井秀俊ゼミ:卒業式の様子
――――本番の投資を始めるためにも、どの銘柄に投資するか選ぶ必要がありますが、具体的にどうすればいいでしょうか?
ミネルヴィニさん本に、選択する銘柄の最低条件が書かれているので、それらは必ず守って投資してください。
株価の値動きは、銘柄によって異なります。一方、人によって投資の仕方も違いますよね。
ということは、自分にとって相性が良い値動きをする銘柄があるということです。
模擬売買の時点から、自分と相性が良い銘柄を意識しながら銘柄選択をすれば、上手くいく可能性が上がるでしょう。
――――ちなみに、銘柄選定の仕方を身に付ける際の注意点は何でしょうか?
いきなり何銘柄も手を出さず、まずは1銘柄だけ選んで売買してください。
仕事・スポーツ・料理でも、まずは1つのことをとことん極めた方が、結果的に上手くなりますよね。
株式投資も同様で、まずは1銘柄の株価の値動きや事業内容、決算時期など、関連情報を網羅できるまで極めてください。それが出来たら、他の銘柄に手を出しても良いでしょう。
「いつ売るか」の見極め、損失を抑え利益を残していく
――――銘柄選定では、自分にとっての得意銘柄を作ることが重要なんですね。あとは、投資した銘柄をどのタイミングで売るかでしょうか?はい。「いつ売るか」とは、ベストな株価で売却できるのはもちろん、損失を抑える「損切り」も含まれます。
どれだけ上手くいっている投資家でも、時には失敗します。ということは、損した分を取り戻せないと、株式投資で利益を増やし続けられません。
ほとんどの個人投資家は、ちょっと儲かっただけで売ってしまいます。もしくは売るべきタイミングを逃して、そのまま持ち続けて大きな損失を出しています。
実際にチャート見たらわかりますが、株価の値動きは一定のパターンを繰り返しているので、長期的に保有しても永遠に上がり続けることはありません。
そのため、いつ売るかを見極められて、初めて中・長期的に株式投資を続けられる投資家になります。
あとは、別の投資手法を試したり他の銘柄に投資したりして、時には失敗しつつも、少しずつ利益を増やし続けていきましょう。
人気を集める投資信託とロボアドバイザー、先生の意見は?
――――ここまで株式投資に関するお話を聞いてきましたが、投資家の中には投資信託を運用したい人もいます。個別銘柄がわからないから投資信託に走る人が多いですが、私からすると投資信託はあまりおすすめしません。長期的に見て、投資信託で利益を得ている人がほとんどいないためです。
もし投資信託が気になるなら、リチャード・エリス『敗者のゲーム』(日本経済新聞社)という本を読んでください。
この本には、投資信託はどういうものか丁寧に書かれており、投資信託における「古典」に相当します。投資信託に投資するかは、『敗者のゲーム』を読んでから判断することをおすすめします。
――――敗者のゲームというタイトルには、どのような意味があるんですか?
敗者のゲームとは、自分のミスを極力減らせば勝てるゲームを指します。
例えば、テニスで実力が拮抗している選手同士が試合をすると、相手より素晴らしいショットを打つのではなく、ミスを減らすことが勝利に繋がるということです。下手同士の場合には、ポイントはほとんど相手のミスによるものです。
投資信託もテニスと同様で、ファンドマネージャーの実力や得られる情報に大きな差はなく、間違った投資判断を下したファンドが損をする、敗者のゲームとなっています。
どうしても購入したければ、株価指数連動型ETFぐらいでしょうか。投資信託を選ぶのも個別銘柄を選ぶのと同じぐらい労力を使うと思います。
――――ちなみに、ロボアドバイザーはいかがでしょうか?
一見、ロボアドバイザーやAI投資を利用したら、簡単に儲かるような印象を受けますが、そのようなことはあり得ません。
みなさん意外と誤解されていますが、株式市場は売りたい人と買いたい人がいるから成立します。言い換えたら、これから株価が上がると考える人とこれから株価が下がると考える人がいるから、価格が決まって売買できるのです。経済指標が株価を動かしているわけではありません。
あくまで株式投資は、商取引の一形態に過ぎません。
つまり、ロボアドバイザーやAI投資を利用する人が増えると、同時にそれを逆手に取る投資家が出てきます。それらに使用されているアルゴリズムの戦いになるかもしれません。今はアドバンテージがあっても、いずれは無くなるものも出てきます。また、今度はどのロボアドバイザーやAIを選択するかの問題に直面します。個人投資家にそれらの判断ができるでしょうか。
――――投資信託・ロボアドバイザー・AI投資、いずれにしても利用する際の注意点がありますね。
そのため、私が一番お伝えしたいのは、「自分のお金は自分で運用・管理しましょう」ということです。
あなたのお金を真剣に増やしてくれる人は、果たしてこの世の中にいるでしょうか?自分で真剣に働いて稼いだお金だからこそ、株式投資も自分で真剣にやらないと増やせません。
自分の大切なお金だからこそ、他人に委ねず自分で運用・管理してください。そのためにも、必要なことを正しい手順で学ぶことが大切なのです。
――――株式投資についてお聞きするつもりが、人生で大事なエッセンスをたくさん教えていただきました。投資が上手くいけば、仕事でもスポーツでもうまくいく人になれそうですね。
今回はインタビューを受けていただき、本当にありがとうございました!
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