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三井住友カード プラチナプリファードインタビュー!リアルな使い方を聞いてみた
ポイント特化型のプラチナカードとして名を馳せる「三井住友カード プラチナプリファード」。高いポイント還元率で有名ですが、年間33,000円(税込)の年会費がかかるため、申し込みに1歩踏み出せない方も多いようです。そこで、実際に三井住友カード プラチナプリファードを利用している人気のキャッシュレス系Vtube「ゆずひこさん」に実際の使い方やお得に利用する裏技をお伺いしました!「年会費がかかるけど、それ以上のメリットはあるの?」「そもそもどんな使い方をするといいの?」など、三井住友カード プラチナプリファードに関する疑問をお持ちの方は必見です。取材日:2024年3月21日三井住友カード プラチナプリファードとは?発行したきっかけ インタビュー時の様子三井住友カード プラチナプリファードの特徴や発行したきっかけを教えてください。三井住友カード プラチナプリファードは、ポイント特化型のクレジットカードで、何よりあらゆる場面でポイント還元率が高いことが特徴のプラチナカードです。年会費は33,000円(税込)かかるのですが、自分の場合はそれ以上のメリットがあったので申し込みをしました。三井住友カード プラチナプリファードの基本情報 三井住友カード プラチナプリファード基本情報 クレジットカード券面 国際ブランド Visa クレジットカード年会費(税込) 33,000円 家族カード年会費(税込) 無料 ETCカード年会費(税込) 無料 ※初年度無料※前年度に一度もETCカードの利用がない場合550円(税込) クレジットカード総利用枠 〜500万円 ※所定の審査あり ポイント還元率 1〜15% ※プリファードストア(特約店)利用で通常還元率+1~14% 海外旅行傷害保険 最高5,000万円 ※利用付帯 国内旅行傷害保険 最高5,000万円 ※利用付帯 申し込み対象・入会条件 原則として、満20歳以上で、ご本人に安定継続収入のある方 出典:三井住友カードプラチナプリファード公式サイト 上記クレジットカード情報は2025年4月の情報です。特に、SBI証券での投資信託の積み立てでは5.0%の還元率で利用できる(※)(※2024年3月21日時点)ので、その部分のメリットが大きく申し込みをしましたね。それがなくても、基本還元率が1.0%と高還元率なので、日常的にもすごい使いやすいので。あとは、三井住友カード プラチナプリファードに限った話ではないですが、PayPayや楽天Payに紐づけることでクレジットカードが利用できない店舗でもキャッシュレスで支払いができるので、支払いはほぼ三井住友カード プラチナプリファードです。ポイント還元率がアップする店舗が多い点も日常使いにおすすめですね。 2024年9月10日(火)積立設定締切分(2024年10月1日(火)買付分)までのポイント付与。以降は対象カードごとのカードご利用金額などに応じたポイント付与率になります。 三井住友カードつみたて投資のご利用金額は、プラチナプリファードの新規入会&利用特典、継続特典の付与条件であるご利用金額の集計対象となりません。 クレカ積立上限は10万円三井住友カード プラチナプリファード以外に比較したカードはありますか?そうですね、100万円修行系のカードは結構持っていて、三井住友カード ゴールド(NL)やセゾンゴールドプレミアムなどの修行が終わったので、次どうしようかなと思った時に三井住友カード プラチナプリファードが次の候補になったんですよね。100万円以上の利用で毎年ボーナスポイントがもらえる点が魅力的でした。比較で言うと、同じ修行系のカードでイオンゴールドカードもあったのですが、正直私がイオン自体をあまり利用しないというのがありましたので、今回は三井住友カード プラチナプリファード1択で申し込みをしたという感じですね。ズバリ聞いてみた!三井住友カード プラチナプリファードの実際の使い方 2024年3月21日時点の情報です。三井住友カード プラチナプリファードは基本還元率が高い点が普段使いに嬉しいですね。その他、どのように三井住友カード プラチナプリファードを実際に利用されているんですか?SBI証券での積み立て投資でポイントを貯めるまずいちばんのメリットは、SBI証券での積み立て投資で5.0%付与※があることですね。これは、三井住友カード プラチナプリファードを利用するならマストの条件かもしれないです。 2024年9月10日(火)積立設定締切分(2024年10月1日(火)買付分)までのポイント付与。以降は対象カードごとのカードご利用金額などに応じたポイント付与率になります。 三井住友カードつみたて投資のご利用金額は、プラチナプリファードの新規入会&利用特典、継続特典の付与条件であるご利用金額の集計対象となりません。 クレカ積立上限は10万円今だと最大5万円までの積み立て分が5.0%還元になるので、私の場合は毎月5万円の積み立てをして毎月2,500ポイント※が貯まっています。 積立投資のポイント付与画面年会費は33,000円(税込)かかるけど、現状は積み立てだけで年間30,000ポイント※が戻ってくるし、その他の還元も考えると、正直超お得に利用できてますね。ただ、2024年3月からちょうど内閣府令が改正されて、クレカ積立の上限が10万円までできるようになったんですよね。ただ三井住友カード プラチナプリファードがこのまま10万円まで5%の還元率で積み立てできるかどうかは正直分からないのでどうなるか気になっているところですね。上限5万円まで5%だけでも超お得なので使う価値は高いですが。 クレカ積み立ての上限アップと還元率変更について 2024年4月10日積立設定締め切り分より、クレカ積立の上限金額が5万円から10万円に変更になりました。2024年9月10日積立設定締め切り分まではこれまでと同様に最大5.0%のポイントが貯まりますが、2024年10月10日積立設定締め切り分以降はカードの利用金額に応じたポイント付与率に改定予定です。詳しくは三井住友カードの公式サイトをご確認ください。外貨ショッピング利用時では3%のポイント還元率 引用:三井住友カード プラチナプリファード公式HPなるほど。ポイントが貯まりやすいので年会費のハードルがグッと下がりますね。積み立て以外の使い方ではどんなものがありますか?これも正直めっちゃいいと思っているんですけど、外貨ショッピング時の還元率ですね。要は海外で三井住友カード プラチナプリファードを利用した場合のポイント還元率なのですが、これが通常+2%で3%貯まるんです。3%!超高還元率ですね!そうなんです。ちょうど新婚旅行に行ってハワイで結構三井住友カード プラチナプリファードを使ったんですけど、今円安なのもあってポイントで戻ってくるのはありがたかったですね。 外貨決済時の実際のポイント付与画面外貨ショッピングで3%貯まるというのは、お得というよりは手数料がかからず決済できているという側面が大きいです。というのも、三井住友カード プラチナプリファードに限らずクレジットカードを海外で利用すると外貨決済の事務手数料がかかり、三井住友カード プラチナプリファードでは2.2%なんです。だけど、手数料分におつりがくるくらいのポイントが返ってくるので、実質無料で海外で利用できるのは大きいですね。特に私の場合は海外で利用する予定もあったので、迷わず三井住友カード プラチナプリファードに申し込みました。私も結構海外に行くのでこれはありがたいですね。ライフイベントや仕事の関係で海外が多い方には嬉しいですね。コンビニやファーストフードなどでの利用 引用:三井住友カード プラチナプリファード公式HPそうなんです。あとはこれは結構有名ですが、コンビニとかファーストフードとか、その他ドラッグストアとかスーパーとかにもポイントアップの対象店舗があって、基本対象店舗では三井住友カード プラチナプリファードの利用一択ですね。 特約店利用時の実際のポイント付与画面ただし、スマホのタッチ決済じゃないと最大還元率にならない場合もあるのでそこは注意が必要です。なので基本はスマホでタッチ決済してますね。こんな感じで、使っていると、積み立て投資を除いて年間100万円は利用できる計算で申し込んだんですよね。三井住友カード プラチナプリファードは、継続特典として年間100万円ごとの利用で最大で40,000ポイントももらえるし。そうなると、積み立て投資分で年間30,000ポイント※、全部1%の還元率として計算しても年間100万円で10,000ポイント、継続特典で10,000ポイントはももらえるのでそれだけで50,000ポイントはもらえる。となると年会費の33,000円(税込)は全然ペイできますよね。さらに初年度は期間中のキャンペーンの利用で40,000ポイントももらえるので申し込まない理由がなかったです。(笑)そんな感じでペイできる方なら使った方がいいと思いますね。 クレカ積み立ての上限アップと還元率変更について 2024年4月10日積立設定締め切り分より、クレカ積立の上限金額が5万円から10万円に変更になりました。2024年9月10日積立設定締め切り分まではこれまでと同様に最大5.0%のポイントが貯まりますが、2024年10月10日積立設定締め切り分以降はカードの利用金額に応じたポイント付与率に改定予定です。詳しくは三井住友カードの公式サイトをご確認ください。公共料金の支払いでも変わらず1.0%の還元率後は、電気料金など公共料金の支払いでも三井住友カード プラチナプリファードを利用していますね。楽天カードなど、クレジットカードによっては公共料金の支払いは還元率が下がるカードもある中で、三井住友カード プラチナプリファードは変わらず1.0%なのがいいですよね。楽天カードは、こういった一部の還元率ダウンなどの改悪も続いているのでそういった点でも三井住友カード プラチナプリファードは推せますね。ちょっと私も今すぐ私も三井住友カード プラチナプリファード申し込んできます(笑) 即時発行なら最短10秒! 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三井住友カード プラチナプリファード 公式サイトはこちら ※即時発行ができない場合があります。実は…三井住友カード プラチナプリファードにはこんないいところも!注意点も紹介もう申し込まない理由がないくらいの感情になっています(笑)その他三井住友カード プラチナプリファードの使い方とか注意点とかありますか?交通系ICや電子マネーへのチャージはポイント対象外!この裏技がおすすめそうですね、1つ注意点は交通系ICや電子マネーへのチャージはポイント対象外という点ですね。私はよく交通系を利用するのですが、まずプリペイドカードにチャージしてから交通系ICにチャージをしています。実際使っているのは「MIXI M」というサービスのプリペイドカードを利用していて、まずそこに三井住友カード プラチナプリファードを紐づけてチャージします。そのあとMIXI Mからsuicaなどの交通系ICにチャージしていますね。 引用:MIXI M公式HP三井住友カード プラチナプリファードから直接交通系ICへのチャージはポイント対象外ですが、MIXI Mなどのプリペイドカードを間に入れることで、手間はかかりますが1.0%還元でポイントが貯められるので私はそうしています。なるほど!もう1ステップ挟むことでメリットがデメリットではなくなるんですね。そうなんです。よく交通系ICを利用する方はこのやり方がおすすめです。継続特典はつみたて投資分は集計対象外その他の注意点としては、SBI証券でのつみたて投資分は、継続特典の集計対象外になることですかね。なので年間100万円の利用で10,000ポイントが継続特典としてもらえますが、その100万円につみたて投資分は入らないです。それをふまえて利用するかどうか、判断するのがいいと思います。ありがとうございます!家族カードで夫婦で利用していくなどの場合は、結構クレカの利用金額大きくはなりそうですよね。そうですね。ちなみに三井住友カード プラチナプリファードは家族カードが無料なんですよ。プラチナカードだと家族カードでも数万円の年会費がかかることもあるので、家族カードを発行して夫婦で利用などができるとハードルもグッと下がりますね。USJのチケットもお得に手に入る!あとは、USJのチケットも日によってはお得にポイント交換ができますね。通常混雑状況などによってチケット代金が変わって高いと大人税込で10,900円ほどするところ、Vポイントが8,500ポイントで交換できるんです。 引用:USJ公式サイト特に金曜日や土曜日が高い傾向があるので、ポイントで交換してチケットをゲットするのもおすすめです。所得税などの国税支払いの裏技あとはこれも三井住友カード プラチナプリファードに限らずではあるのですが、特に個人でやっている人などは所得税を自分で払うじゃないですか。クレカ払いもできるんですけど、金額に応じて手数料がかかるんですよね。実は「スマホアプリ納付」というのもできて、その場合は手数料がかからず納付ができるんです。なので私はAmazonギフト券を三井住友カード プラチナプリファードで購入して1.0%分のポイントをゲットしながら、実際の税金支払いはAmazonPayで支払いしてます。ただし納付金額が30万円を超える場合はスマホアプリ納付が利用できないのでそこは注意が必要です。三井住友カード プラチナプリファードに関していろいろ教えていただきありがとうございます!その他、カードの使い分けなどもしていますか?三井住友カード プラチナプリファードと他のカードとの使い分けはい。メインはプラチナプリファードなのですが、そのほかに2枚カードを利用しています。1枚目が、「JQ CARDセゾンGOLD」です。このカードのいいところはいろいろありますが、ファミリーマートでの決済で使っています。特約店にファミリーマートが入っているのでポイントが5倍で貯まります。三井住友カード プラチナプリファードはメインどころのコンビニでファミリーマートだけポイントアップの対象外なので使い分けをしています。JQ CARDセゾンGOLDは初年度年会費はかかりますが、年間50万以上のご利用で次年度以降年会費永年無料です。私の場合は一般カードのJQ CARDセゾンというカードを使っていて、インビテーションが来たので無料でJQ CARDセゾンGOLDにアップグレードできました。2枚目は、「SAISON GOLD Premium」。こちらも年間100万円以上の利用で翌年以降の年会費が永年無料で使えます。このカードは主に映画専用で使っていますね。主要な映画館で映画チケットが1,000円になるので。よく映画を観る方にはおすすめできるカードですね。 即時発行なら最短10秒! 三井住友カード プラチナプリファード 公式サイトはこちら YouTube登録者数10万人突破!ゆずひこさんの活動スタンスを聞いてみた本日は、なにからなにまで教えていただきありがとうございます!YouTubeやXなどを拝見させていただき、情報の速さやユーザーに寄り添った発信をされている点が印象的でした。普段どんな想いで発信をされているのですか?大前提として、観てくださっている「お客さんが勝つこと」ですね。観ていただいているかたが困っていることとか損していることとかを、私が実際に体験をしながら具体的に説明することで理解してもらって喜んでもらうことがすごい嬉しいんです。喜んでもらうことはもちろん、今よりもいい経験や得をしてもらうことでファンがついてくるのかなと思いますね。やっぱり自分が儲けたいというのをいちばんに考えたら、もっと他の方法もあるかもしれないですけど、自分だけ得するようなことってあまり長く続けられることでもないのかなと思っています。弊社のメディア「HonNe」もまさにユーザーファーストを大事にしているメディアなので、本日はゆずひこさんにインタビューさせていただき貴重なお話をお伺いできて大変光栄です!ありがとうございました。 当ページ利用上のご注意 当記事の掲載情報は、各金融機関の公開情報を元に作成しておりますが、情報更新等により閲覧時点で最新情報と異なる場合があり、正確性を保証するものではありません。各種商品の最新情報やキャンペーンについての詳細は公式サイトをご確認ください。 当記事で掲載しているポイント還元率は公式サイト情報を元に独自に算出しています。より正確な情報は各カード会社の公式サイトをご確認ください。 -
経済学における“幸福”の深層探訪
“お金と幸福”の関係は、資本主義社会を生きる我々にとって、一つの重要なテーマではないだろうか? お金と幸福を考察する際、従来の経済学は客観的な数値を用いて研究していた。ところが近年、経済学に「幸福」を採り入れた「幸福の経済学」が注目を集めている。幸福という、客観的な数値を持たない主観的な感情を、経済学に取り組むことで、経済と幸福の関係値、そしてお金と幸福に関しての一つの答えが出るのではないだろうか―― そこで今回は、駿河台大学経済経営学部・教授・佐川和彦氏を取材した。幸福の経済学とは?先生のご専門についてお教えください。私の専門は医療経済学です。医療経済学と聞くと、特殊な学問に思う人もいると思います。ですが「経済学」という学問は、基本的にお金が関係する現象すべてを対象としているのです。例えば、医療の場合、お医者様が患者を治すことがメインになりますが、新薬開発や医療保険といった医療に関連するものにはお金が絡んでいます。医療の分野でも、経済学は重要な役割を果たしています。私はその分野の研究を行っています。幸福の経済学という学問領域については、3年生、4年生のゼミで指導しています。ゼミ生には、幸福の経済学の分野で学んだことを中心にして、卒業論文を書いてもらいたいと考えています。幸福の経済学を研究していると、人の幸福にはさまざまな要因が絡んでいることがわかるんです。例えば医療や健康は、幸福感に対して大きな影響を及ぼしています。このような医療や健康と幸福感との関連性についても研究しているところです。実は、私は幸福の経済学という分野の研究をずっと続けてきたわけではありません。むしろ最近になって幸福の経済学の重要性を認識するようになったのです。私の専門である医療経済学分野にも、幸福の経済学の考え方を絡めて考えていくことは非常に重要であると考えています。幸福とGDPとの関係性について昨今、こういった幸福の経済学が注目を集めている背景についてお教えください。幸福の経済学について説明をしなければならないのですが、そもそも経済学の究極の目的は、人間を幸福にすることです。ただ、従来の経済学は、幸福は主観的なものであり、それを定義づけることや人と人との幸福を比較することは難しいという立場をとってきました。従来の経済学は、幸福感というあいまいな指標の代わりに、GDPを使ってきました。1人当たりのGDPが大きくなると、それだけ物質的に豊かになるので、皆が幸せになるという考えです。さて、ここでひとつの問いかけが、「私たちは本当に幸せなのか?」なのです。先進国である日本は1人当たりGDPが発展途上国と比べれば大きいので、物質的に豊かな国であるとは言えるでしょう。そのため従来の経済学では、私たちは幸福である、となります。ですが、幸せに対しての根本的な疑問はぬぐいきれません。これは、『幸せはお金で買えるのか----』、と言い換えることも可能です。場合によっては、お金に執着することで、逆に不幸になることだってあるかもしれません。なるほど...『幸せはお金で買えるのか』『お金があれば幸せなのか』というのは永遠のテーマというか...私自身も常に考えさせられますね。そうですね、実際にOECD加盟国における1人当たりのGDPと生活満足度との関係を国際比較したデータがあります。GDPが上がれば、基本的には生活満足度、いわゆる幸福感みたいなものが上がっていく関係が見られます。国際的に見て、1人当たりGDPが増えると幸福感も比例して上がっていくものの、一定のところで頭打ちになるのが全体的な傾向です。一方、日本での1人当たりGDPと生活満足度の関係について時系列で見てみましょう、ここでは通常経済学で用いる実質GDPでなく、名目GDPを使います。なぜなら、日常私たちが目にする数字、例えば給与の明細の数字は名目値だからです。1960年代から1990年代において、名目GDPは増加しましたが、生活満足度は多少の上がり下がりはあるものの、ほぼ横ばいです。つまり、1人当たりのGDPと生活満足度とはリンクしていないのです。このような現象が起きることは、リチャード・イースタリンという学者が発見しました。所得と幸福感が連動しないことは、「イースタリン・パラドックス」と呼ばれています。所得が増えても、幸福感が伸びない理由として3つあります。1つめは、人間の幸福度はその人の周りの人たちとの比較で決まるという点、2つめは比較対象が変わってしまう点、そして3つめはそもそも慣れてしまう点です。では、所得は大事ではないのか、といえばそうではありません―― 所得は絶対に大事です。物質的な豊かさを享受しているので、所得がもたらす幸福感に対する感覚が鈍くなっている方も多いと思いますが、所得がもしなくなった時のことを考えたら、人は幸福ではいられなくなるということは容易に想像できると思います。経済学と幸福の経済学が交わることで、社会はより良い方向へ――所得が上がったとしても、幸福度は伸びないことがある一方で、所得が絶対に大切というお話をしました。所得以外の要因もありますので、人は自分がおかれた状況の中でどれだけの幸せを感じることができるのかということが重要です。私は、従来の経済学を否定しているわけではありません。実際に大学ではマクロ経済学というオーソドックスな経済の理論を教えています。強調したいのは、これまでの経済学では捉えきれなかった「幸福」という側面を、「幸福の経済学」という視点で考察していく従来の経済学と幸福の経済学が合わさり、より良い方向に社会の歩みを進めるということです。話は変わりますが、日本の健康指標についても興味深いデータがあります。1つは、OECDの加盟国それぞれの平均寿命で、客観的な健康の度合いを表すものとして一番有名です。もう1つは、自己報告による、いわゆる主観的な健康度です。これは実際に病院等で行った健康診断の結果のような客観的なデータではありません。1つめのOECDの加盟国それぞれの2019年の平均寿命データですが、日本はトップです。一方、2つめのデータの自己報告による健康度では、低いところから2番目のところに日本があります。両極端な結果となっています。このような結果についてですが、私は日本人特有の国民性みたいなものの影響もあるのではないかと推察します。日本は、昔から災害が多い国、地震や台風が多い国です。いつどこで大きな災害が起きるかわからないことを、いつも意識しながら生活しています。日本人は、今は普通に暮らしていても、いつ健康を害することがあるかわからないと、控え目に考えるようにしているのではないでしょうか。もちろん、実際にデータとしてはないので分析できないのです一方で、日本についての私の最近の研究では、病床数などの医療資源量の違いが主観的健康度と客観的健康度の乖離につながる可能性があることもわかっています。これからの幸福と経済の関係性における推察先ほど、他者との比較が出てきましたが、昔と比べて結構強く出てきている時代ではないかと思います。幸福の考え方みたいな部分だったりと、他者と比べたときの幸福にならないといけない、というハードルが高まっている気がしますが、いかがでしょうか?他者との比較については、2つの例が挙げられます。1つは、デジタルデバイスが普及したことで、色々な情報が一瞬に自分の中に入ってきてしまう状況です。さらに、スマートフォンやコンピューターを通してみる世界は、自分と対象のコンテンツだけの一人だけの世界に入っています。若い子たちが、SNSを通して誰かの幸せそうな情報を見てしまうことで、対象の情報をじっくりと考察する時間がないまま、ストレートに享受してしまう可能性が高いかもしれませんね。情報過多のネット社会においては、情報をうまく取捨選択していかなければなりません。ですが、若い子たちは、情報の取捨選択を上手にできないのが現状です。そのまま間違った情報を受け入れ、取捨選択を誤り、道に外れた場合はその子の人生が悪い方向に進んでしまう可能性がありますね。そして2つ目ですが、親と子どもの関係です。今に始まった話ではありません。昔の親は世間体を気にしていました。世間体も他者との比較なのです。もっとも昔は兄弟姉妹がたくさんいたので、親も1人の子どもだけに構ってはいられませんでしたが...現在は一人っ子が多くなったため、その1人の子どもに一点豪華主義で期待をかけるので、親がよその子どもと比較して、「もっと勉強して」となってしまいます。とはいえ、親であれば皆そう思うのではないでしょうか。ですが、世間体から子どもに過度な期待をかけ、親が理想とする人生のルートを強制しようとすると子どもの視野は狭くなってしまう可能性があります。以前に比べて情報の取捨選択のハードルは上がっている気がしますし、他者と比べるというのは顕著に現れている気がします...。自分のなかで本質的な価値を追求したり、心の器のような精神的な軸をしっかり持っていないと、流せれてしまいますよね...。そうですね、今後一層このような現状は、顕著になるでしょう。情報の入ってくる速度や量が進化しています。昔なら、自分の周りの情報しかなかったので、ある意味幸せでした。昔だったら、たとえ貧しくとも周りの人たちもみんな貧しい状況だったら、自分だけじゃない、と感じられたのです。日本人ならではの、仲間意識の強さみたいなところが経済的な幸福を感じられない要因になっているのではないかと思うのですが、その点はいかがでしょうか?私は徳島県出身なんですが、子どもの頃に、地域では「お念仏」という行事がありました。近所に住む人たちがグループになって、月に1回お経を唱える内容です。終わった後でみんながお茶を飲みながら雑談するんですよ。いわゆる情報交換ですね。このような地域のグループの中に入って交流を持つという風習が、昔からありました。全部自分のことが筒抜けになるので、今の若い人たちからしたら信じられないかもしれませんが私自身、お念仏のような集まりは悪くなかったと思います。周りの人がどのようなことを考えているかがわかります。つまりコミュニケーションロスがなくなるわけですよね。そしてグループの繋がりもあるので、いざ困ったことがあったら助けてくれます。これから世代が変わることで、価値観も変わってくると思いますが、昔だったらそのグループの中にいたら幸福でした。今は、グループの助け合いみたいなのがなくなってきています。今は、人との繋がりが希薄になってきており、幸福の基準もあいまいになってきています。よくいえば、多様化しているのです。人間が幸福になるというのを誘導していくことはすごく難しいです。だからこそ、我々個人個人がどう考えるか、というところに行き着くんだろうと思います。個人的に、お金の価値観はそれほど幸せにつながっていないように思っています。私は、人とのつながりとか、精神的な安定性っていうところに幸せを感じるので、人それぞれですね。 自分にとっての幸せを考えた時には、趣味を持つことがとても大事だと思います。私は音楽が趣味で、なおかつ研究もある意味趣味なのです。教育や校務を行うことが仕事であり、それによって給料をもらい生活しています。個人的にはすごく満足しています。私の父親は現在92歳ですが、80過ぎても自営で菓子屋をやっていました。朝から晩まで働いてました。父にはこれといった趣味がないのですが、決して不幸ではないと思います。人それぞれといえるのではないでしょうか。何から満足感、幸福感を感じるかというのは、私の親のように生まれた世代ごとの価値観もあるかもしれません。言い方を変えると、働きづめの生活が不幸かといえば、まったく不幸ではありません。もちろん先程お話したように、ある程度の経済的な豊かさや所得は、必要不可欠です。ですがお金に人生を振り回せれないように、自分の心を理性的にコントロールするための、人間性や心の器を持っていることはこれからの時代は、とても大切なのかなと思っています。GDPそのものは維持でき、生活水準も維持できる可能性がある?5年後10年後の幸福と経済の世界観について、何かイメージされていることはありますか?今、日本は確実に人口が減少していっています。これから5年10年とか、あるいはそれ以降、10年20年先には人の数が少なくなり、高齢化率が上がり働く人の数も少なくなっていくでしょう。世界の中での日本のGDPの相対的な地位は、今後下がっていく可能性があると思います。しかし、ベースとなる1人当たりのGDPは維持できると考えています。働き手が少なくなっても、代わりにコンピュータや機械に置き換えていくだけの研究開発を進めれば、1人当たりのGDPそのものは維持でき、生活水準も維持していけるだろうと私は思うのです。あとはいかに経済水準をキープするかですが、5年、10年の間で生活水準が急激に悪化することはないと私は考えています。私は、大学院で研究している留学生たちと研究以外でもよく雑談を交わします。彼ら彼女らは、日本は急進的ではなく、戦争をしない国といった印象を持っているようです。今後も特段変わることはないであろうと思ってくれているようです。個人的には、日本人の多くの学生たちは、大学院で研究する留学生たちのような、いい意味での貪欲さがなくなっていると感じています。高度経済成長期の日本人だったら、もう少し泥臭く自分の夢を叶えるために努力する、生活の水準を上げるために行動するような、ある種のストイックさを持っていたと思うんです。一方で留学生たちは、いい意味で貪欲です、学問に対して。学問だからすぐ就職に直結するわけではないですが、貪欲に吸収しようとするのです。もう少し日本人の若い人にも貪欲さを持ってもらいたいと考えています。趣味を持ち、心に余白を持つ。最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。最大限努力して、一生懸命自分の仕事も頑張っていることを前提で申し上げると、趣味を持っていてほしいですね。幸福感にもつながるのですが、仕事に真面目な人ほど、万が一仕事でうまくいかなかったときに絶望します。いい意味での逃げ場を作るためにも、趣味はとても大事です。趣味があれば、切り替えが可能となります。切り替えるものを持って生活していくと、追い詰められることがなくなります。追い詰められたら駄目です。もちろん、趣味を持つことは、限られた時間の中でそのための時間まで確保する必要があるので、体力も使います。大変なのですが、いざというときのシェルターの役割を果たしてくれるでしょう。その意味でも、社会人になってもやっぱり趣味を持ってやってほしいと思います。 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株式投資を始める前に知っておくべき前提知識・勉強法【前編】|日本大学 経済学部 三井秀俊教授
積立投資にある程度慣れてくると、「そろそろ個別株に投資してみたい」と考えている方もいらっしゃるでしょう。個別株投資には、自分が気になった銘柄を選んで投資できる魅力があります。しかし、投資の方法は人によってさまざま。自分に合った方法がわからず、始めたくても始められないと思っている方もいらっしゃるでしょう。そこで、HonNeでは日本大学経済学部で主に金融データ分析を研究されている、 三井 秀俊(みつい ひでとし)先生にインタビューを実施。先生の研究テーマを踏まえつつ、株式投資の学び方を前編・後編に分けてお聞ききします。これから自分の投資方法を見つけたい方、投資に関する知識を深く学びたい方は、ぜひ当記事をご参照ください。インタビュー日:2023年11月2日株式投資とは何か?始める前の準備 デューク大学 (客員研究員)の時の様子株式投資を始めるとは何か?2024年から新NISAがスタートするように、株式投資を始める人が年々増えていますが、先生はどのような印象を持っていますか?日本政府は国民の資産が金融市場に流れるよう推進していますが、政府が推進しているからと言って、安易に株式投資を始めて欲しくないと思っています。同時に、「株式投資は簡単」と主張する広告や本を見て、真に受けて始めてしまう人がいることも、個人的に心配をしています。株式投資とは、自分が頑張って稼いだお金を使います。他者の意見に影響されて、十分な知識を身に付けずに株式投資を始め、損をするから「株式投資は怖い」というイメージが付いてしまいます。そのため、最初にやるべきことは、株式投資とは何か、どのように行なったら成功するのか、上手くいっている人から話を聞くことです。具体的に、誰から聞けばいいですか?私がおすすめするのは、自分にとって信頼できる人・本音を言い合える人で、自分のお金で実際に株式投資をしている人から聞くことです。親しい間柄だと、相手は本当の株式投資について話してくれます。ご自身も相手の性格をある程度理解した上で聞けるので、相手が嘘や誇張しているかを判断もしやすくなります。まだ距離感がある人に聞くと、「俺はこの方法で儲かった!」といった自慢話を聞かされるだけでしょう。大切なのは、上手くいったことはもちろん、失敗談も聞くことです。失敗談を聞くと、安易な考えで始めては、株式投資は儲からないことが理解できます。もし身近な人で株式投資を続けている人がいなかったら、どうすればいいですか?身近な人の知り合いから、株式投資を行なっている人を紹介してもらってください。その際、謙虚な気持ちで頭を下げるような姿勢で聞きに行くことが大切です。「株式投資で儲けたいから教えて欲しい」といった、安易な気持ちで聞きにいくと、相手も話す気がなくなって、本当のことを教えてくれないでしょう。その際、話した内容をメモするために、必ず筆記用具とノートも持参してください。株式投資で成功している人が書いた本(例えば、マーク・ミネルヴィニ『株式トレード 基本と原則』PanRolling)には、「本気で株式投資を始めたい人は、筆記用具とノートを持ってきて話を聞きに来る」と書いてあります。株式投資ではありませんが、興味深いエピソードがあります。私のゼミ生に、私のアドバイスを聞き、A4ノートを持って就職活動をしていた学生がいます。もちろん、相手の話をメモするために持って行っているわけですが、何と、リクルーターや人事部の方がそのノートに色々と重要なことを書いてくれたと言うのです。人によっては、図まで描いて詳細に説明してくれたそうです。株式投資に限らず、何かしら教えてもらうときに大事なことですね。真剣な姿勢で話を聞く態度を示せば、相手はもっと教えてあげたいって気持ちになりますね。真剣に聞くか、とりあえず聞いてみようか、その姿勢の差は株式投資に限らず、あらゆる物事の結果に大きく影響します。その道のプロの人が話す内容は、本や記事の内容では絶対に知れないものですから、素直に聞き入れる姿勢を持つことから始めましょう。合わせて、事前に予備知識を勉強しておけば、相手も何を話せばいいか判断しやすくなりますし、本気度合いも伝わります。自分が理解できたことと、そうではないことが整理されるので、具体的に聞きたいことも出てくるはずです。何の準備もせずに聞きにいってしまうと、相手も何から話せばいいか、混乱させてしまいます。株式投資を続けることは仕事やスポーツと同じ!株式投資を始める第一歩を話してくれましたが、株式投資を続けるために一番必要なことは何でしょうか?物事を進めるプロセスを理解していることが一番大事ですね。仕事やスポーツ、受験勉強など、なんでもいいので何かしら努力してうまくいった経験を持っている人は、株式投資も努力が必要で時間がかかることを理解してくれます。合わせて、何を聞くべきか判断もできるので、こちらとしても教えやすいんです。そうではない人は、手取り足取り教えてもらおうとするので、教える気もなくなります。極端に言えば、事前に予備知識を学んでいなくても、何か物事を身に付けるには時間と努力が必要なことを体感していれば、株式投資を続けるために必要なことも理解できると思います。もし、何か1つのことを続けた経験がない人が本気で株式投資を始めたい場合は、何から始める必要がありますか?私の場合、そもそもの勉強の仕方やノートの取り方を教えて、知識の身に付け方や情報を整理する方法を理解してもらいます。そうでないと、いくら株式投資のことを勉強しても自分の身にならないからです。例えば、何かスポーツを始めた場合、最後まで試合を続けられる能力と体力はどんなスポーツでも必要ですよね。たまに面倒くさがる人がいますが、「株式投資でうまくいきたいなら、まずは学び方を学びなさい」と、何が何でも理解してもらいます。方法論で株式投資が上手くいくとは限らない 対外経済貿易大学の中国語語学研修引率の様子先生のお話を聞いて、株式投資は安易に手を出せるものではないことが理解できました。続けられる投資家になるには、実際どれくらい時間がかかりますか?少なくとも、2〜3年は見越したほうがいいですね。本やインターネットを見ると、「1年で何億円も儲かった」といった情報に目が行きがちですが、ほとんどが偶然なので長続きしないそうです。そういった人は、儲かったお金をすべて失っている人が多いそうです。株式投資の目的はいくら儲けるかではなく、いくら残せるかです。だから、コツコツ地味に続けているほうが、最終的に大きなお金を残せます。そのため、株式投資では最初の心構えと準備がとても重要です。どれだけ真剣な気持ちで、続けるための準備を整えているかで、株式投資の結果は大きく変わってきます。仮に100%儲かる投資手法を教えたとしても、実際に理解して実行できる人は1割もいないと思います。絶対に儲かる投資手法を知ったとしてもですか?はい。これは、株式投資に限らず、何か新しいことを始めて、成果を出すまでの本質的な考え方だと思います。みなさん、どうやったら上手くいくか方法論を知りたがりますが、実際に実行できるかどうかは自分次第です。確実な方法論を知ったから、上手くいくのではありません。例えば受験勉強の場合、有名大学に合格する方法はある程度確立されています。その方法を最後まで実践できる人が少ないから、有名大学に合格する人が限られるんだと思います。何事も、ある程度のレベルまで行く方法は確立されていて、そのハードルもそこまで高くありません。一部の人が上手くいくのは、上手くいく方法を最後までやり続けたからです。だから、仮に絶対儲かる投資手法を知ったとしても、真剣にやる心構えと身に付けるための準備を徹底しないと、続けることは難しいでしょう。どのような方法論を選ぶかが重要ではなく、本気でやり続ける姿勢が大前提と…。あと、道具等にもこだわって欲しいです。100円ショップで売られている包丁よりも、プロが使っている包丁を使ったほうが食材を美味しく切れ、料理が上手くできるように、株式投資でもプロが読んでいる本や記録の付け方を学ぶことにこだわってください。スーパーで売っているテニス・ラケットで試合に出るプロのテニス選手がいるでしょうか。小さなメモ帳を使用して、上手くいくわけがありません。私個人の意見ですが、スマートフォンの画面で見ても株式投資は上手くいかないと思います。プロは大きな画面を使い、しかも複数の画面を準備しています。株式投資はいろんな情報を見て判断することが多いので、画面が小さいと見れる情報が限られて、効率が悪くなるからです。チャート等も小さい画面では、ただ見てるだけで何もわからないともいます。社会人の方でスマートフォンを使用して、まともな仕事はできないことは理解して頂けると思います。スマートフォンは通信手段などごく限られた分野で使うものです。プロのカメラマンがスマートフォンで写真は撮りませんし、我々研究者もスマートフォンで論文は書きません。私の授業である学生がスマートフォンでノートを取っているのを見て、腰を抜かしたことがあります。そのような学生の成績は察して知るべしです。株式投資では、断片的に入ってくる情報を効率よく集めて整理することも求められます。そのため、情報の集め方や整理する方法も、プロの投資家や経験者から学ぶのがおすすめです。もうみなさんおわかりだと思いますが、株式投資で大事な要素は仕事やスポーツなどと共通します。なので、「株式投資」だからと言って変に身構える必要はありません。株式投資を続ける考え方が、何ら特別ではないことがわかって目から鱗でした。むしろ「自分でも株式投資は続けられる!」と、勇気をいただいた気分になっています。株式投資を知るために読みたい本まず株式投資の心構えが学べる「古典」を読むそれでは、続けられる投資家になるために、最初に何をすべきか教えてください。株式投資について本当のこと知りたいなら、まずは株式投資の世界で「古典」と呼ばれる本を読んでください。世に出ている株式投資の本は、そのほとんどが〇〇業界の立場を配慮して書かれているため、私たち個人投資家にとってあまり参考になりません。私が知っている限り、初めて個人投資家のために本を書いたのは、林輝太郎(はやし てるたろう)さんだと思います。現在でも林輝太郎さんの本は、ECサイトはもちろん、大きな本屋さんでも必ず株式投資コーナーに置かれています。 引用:Amazon「林輝太郎相場選集〈1〉相場金言集」何冊も出版されていますがどれか1冊でもいいので、これから株式投資を始めたい方は、ぜひ林輝太郎さんの本を手に取ってみてください。他に先生が最初に読んで欲しい本はありますか?もう1つ絶対読んで欲しいのは、板垣浩(いたがき ひろし)さんの『自立のためにプロが教える株式投資』(同友館)です。初版は1990年ですが、今でも増刷されているほど、多くの投資家から支持を受けています。 引用:Amazon「プロが教える株式投資: 自立のために」この本は株式投資の心構えや姿勢が書かれており、良い意味で株式投資の現実、厳しさを教えてくれます。本当に株式投資で儲けたいなら、アマチュアではなくプロとして株式投資に臨む必要があるというメッセージが込められています。初めて株式投資の本を読む方からすると、知りたいことが書かれていないかもしれません。しかし、ある程度経験している方にとっては、趣味や片手間といった考え方では甘いと痛感し、身が引き締まる思いを抱くでしょう。そのため、林輝太郎さんと板垣浩さんの本を読むだけでも、株式投資に対する心構えが変わると思います。1冊2,000円程度ですが、1万円以上払ってもおかしくないくらい価値がある本なので、ぜひ読んでみてください。先ほども申し上げたように、株式投資は自分の大事なお金を使います。そのため、最初は腰を落ち着けて勉強する時間を作ることが大切です。心構えを理解してから投資売買の原則が学ぶ先ほど紹介していただいた本は、株式投資の心構えが学べるということですが、その後はどうすればいいですか?株式投資を真剣にやる必要があると理解できたら、株式トレードのパフォーマンスを競い合う「USインベスティング・チャンピオンシップ」の優勝者である、ミネルヴィニさんの本がおすすめです。 引用:Amazon「株式トレード 基本と原則 (ウィザードブックシリーズ) 」 引用:Amazon「ミネルヴィニの成長株投資法 ━━高い先導株を買い、より高値で売り抜けろ (ウィザードブックシリーズ) 」日本語に翻訳されているのは4冊あって、その中でも、前に紹介した『株式投資の基本と原則』と『ミネルヴィニの成長株投資』(PanRolling)の2冊は必ず読んでください。投資対象となる銘柄の条件やリスク管理など、どのような投資手法を行なう場合でも必要な知識が書かれています。ちなみに、プロの投資家といえばウォーレン・バフェットが有名ですが、彼の本を読むのはどうなんですか?個人的な意見としては、ウォーレン・バフェットさんの本は個人投資家にとって、必ず読むべきであるとは思っていません。もちろん、株式投資の本質や哲学に関して、学べることは沢山あると思います。ただ、私たち個人投資家の資金は数百万円、多くても数億円程度ですよね。一方、ウォーレン・バフェットさんは、何千億・何兆という巨額のファンドを数十年単位で運用しています。投資金額と期間が違えば、株式投資の考え方も当然変わります。そのため、彼の書いた本は機関投資家や大口投資家には役立っても、個人投資家にはあまり参考にならないと思います。個人投資家でも、数十億・数百億円を運用している方には参考になるでしょう。地元の八百屋さんと全国展開するスーパーマーケットでは、経営手法は異なります。同じことは、投資手法でも当てはまると思います。このような観点からも、株式投資を勉強するときは、個人投資家の視点に合わせて書かれた本を読むのがおすすめです。ここまで教えていただいた事だけでも、投資に対する考え方が大きく変わると感じました。とはいえ、私が紹介した本を読んで理解できたとしても、株式投資の全体の進捗度合いとしては、せいぜい20%~30%程度です。ここから先は、模擬売買をやってみましょう。証券会社が提供している模擬トレードツールを使って、半年〜1年程度は続けてください。スポーツだと、何日ものトレーニングや多くの練習試合を重ねてから、初めて本番の試合に臨みますよね。株式投資も同様で、いきなり自分のお金を使うのではなく、模擬売買を通じて株式投資をする感覚を養いましょう。ここまでのお話だけでも、株式投資に対する考え方がガラッと変わると感じました。模擬売買以降のお話は、後編でお聞きしたいと思います。株式投資の学び方が知りたい方は、ぜひ後編もご一読ください。後編に進む -
株式投資を始める前に知っておくべき前提知識・勉強法【後編】|日本大学 経済学部 三井秀俊教授
当インタビュー記事は、日本大学で主に金融データ分析を研究されている 三井 秀俊(みつい ひでとし)先生からお聞きした、株式投資の学び方を前編・後編に分けて掲載しています。前編では、株式投資を始める前の心構えや最初に読みたいおすすめの本を解説しています。当記事の後半では、模擬売買や本番の投資で知っておきたいポイント・注意点をまとめています。「これから株式投資を始めたいけど、何から始めたらいいかわからない」という方は、ぜひ前編をお読みになった上で、後編をご一読ください。※前編はこちらへインタビュー日:2023年11月2日模擬売買して投資する感覚を身に付ける 三井秀俊ゼミ:東京証券取引所見学の様子超重要!記録する習慣を身に付けよう模擬売買を始める際、何が一番大事ですか?自分が実行したこと等を記録する習慣を身に付けることです。売買した銘柄はもちろん、日付・売買価格・売買した理由をしっかり「書いて」記録してください。余裕がある方は、日経平均や米ドル・円為替レート等も書いておくと良いと思います。記録する習慣が付くと、自分が上手くいくパターンと失敗するパターンが見分けられ、銘柄の選び方や売買を決める土台になるんです。ほとんどの個人投資家は、この記録の作業をやっていません。株式投資で上手くいっている人が書いた本には、必ず売買を記録していること、また、チャートを手書きで記録していることが書かれています。ミネルヴィニさんの本にも、記録することの重要性が強調して書かれています。私の仮説ではありますが、カルテを書く習慣がある医師は、株式投資が上手くいく傾向があります。患者の身体状況を1人ひとり記録することと、銘柄ごとに重要なことを記録することが共通することから、日々の記録が大事なことをすぐ理解できるからです。習慣化されているので面倒くさいとか言う方はほとんどいません。このような観点からでも、模擬売買を通じて記録する習慣を身に付けることは、株式投資が上手くいくための必須要素だと断言できます。記録を付ければ、自分に合った投資手法は見つけられるのでしょうか?「こういう手法で投資すれば儲かる」と謳っている投資手法を実践したら、確かに上手くいく可能性はあります。ただ、特定の投資手法は、個人の性格が大きく影響することを理解しておいてください。例えば、長期的に運用する投資手法は、短期ですぐに売買する人からすると我慢できないでしょう。逆に、短期的に売買を繰り返す投資手法だと、気長に運用したい人にとっては抵抗を抱くかもしれません。そのため、模擬売買で記録する習慣を身に付けることは、投資における自分自身の性格を理解して、相性の良い投資手法を見つけることにも繋がります。記録は物事を上達させるコツ!有名スポーツ選手も実践している心構えを知ることはあくまで前座で、記録を取ることが投資で一番重要な作業なんですね。記録を取ることは、株式投資に限らず、あらゆる物事に共通して重要な作業です。サッカーの本田圭佑や野球の大谷翔平も、毎回の練習・試合内容をしっかり記録し反省しているそうです。何事もトップレベルに上り詰める人は、何かしら記録する習慣を身に付けています。記録したことを見返すことで、自分が何を考えているのか、何を大事にしているか確認できるからです。自分が積み重ねてきたものを振り返って、失敗しても次はどうするか考えられるから、「もっと続けよう」という粘り強さが芽生えてくるんじゃないでしょうか。ただ、ここまで言っても実際に記録し続けられるのは、10人中1人くらいでしょう。残りの9人は聞いて終わってしまいます。ここが重要です。ほとんどの人が実践しないからこそ、自分はちゃんと記録しながら投資を続けられるかが、株式投資で結果を残せる大きな分かれ目となります。先生も実際に記録を続けてきたからこそ、記録の大事さを確信されているんですね。ちなみに、他にも記録することが大事な理由はありますか?記録することが習慣化すれば、冷静に投資判断しやすくなり、感情的に大きなリスクを取ることも避けられます。感情的になりやすい人は、冷静に判断するための時間を取っていないことがほとんどです。記録することで一旦冷静になり、株価の一時的な値動きに惑わされず、自分がどのような売買戦略にしたがって投資しているか確認できます。個人投資家は、文字通り「個人」で投資する人です。職場の先輩・上司のように、失敗を指摘・修正してくれる人がいません。ということは、自分が実行したことが上手くいったのか失敗したのか、すべて自分自身で判断して修正する「自己管理能力」が必須です。この自己管理能力の大事さって、組織の中で仕事しているとなかなか気付けないと思います。上司や先輩のおかげなのに、「自分が頑張ったから今の自分がいる」と考える人が意外に多いからです。特に、大きな組織に属している人ほどその傾向が強いです。そのため、スポーツや受験勉強、国家試験、個人事業主の経験がある人だと、自己管理の重要さと大変さを理解しやすいでしょう。実際にお金を投じて「土壇場の自分」を知る模擬売買で記録する習慣が出来たら、やっと本場の投資でしょうか?はい。本番の投資ができる準備が整って、株式投資で必要なことの50%まで進んだと言えます。でも、ここからが大変なんです。模擬売買と違って本番の株式投資だと、「違う自分」が出てきます。自分の大切なお金を使っているから、売買する感覚が全然違うからです。模擬売買なら購入した銘柄が50%下落しても気になりませんが、本番だと5%下落しただけでも絶望するでしょう。夜、眠れないこともあるでしょう。人によっては、保有している株が10%下落したら、二度と株式投資はしない、株式投資はギャンブルだと思うかもしれません。ここが、模擬売買との大きな違いであり、越えなければならない壁になります。現実には、一か月で10%以上の上昇・下落は株式市場ではザラにあります。株式投資に関してメンタルに関する本が多く出版されているのもうなずけます。方法論だけでは十分でないことがここからも理解できると思います。ここで、多くの個人投資家は、株式市場から退場することになります。そのため、実際に自分のお金を使った株式投資を始めたら、下落したときの対処方法を身に付けていきましょう。ここがアマチュアとプロの違いです。実を言うと株価の値動きは、一定のパターンの繰り返しが多くみられます。この感覚が体感できれば、下落時の対処方法が見出せて忍耐力が付き、株式投資を続けるモチベーションも保てます。そのためにも、模擬売買で記録する習慣を身に付けることが大事なのです。どの銘柄を選んでいつ売るか、株式投資の醍醐味は最後に控えている 三井秀俊ゼミ:卒業式の様子本番の投資を始めるためにも、どの銘柄に投資するか選ぶ必要がありますが、具体的にどうすればいいでしょうか?ミネルヴィニさん本に、選択する銘柄の最低条件が書かれているので、それらは必ず守って投資してください。株価の値動きは、銘柄によって異なります。一方、人によって投資の仕方も違いますよね。ということは、自分にとって相性が良い値動きをする銘柄があるということです。模擬売買の時点から、自分と相性が良い銘柄を意識しながら銘柄選択をすれば、上手くいく可能性が上がるでしょう。ちなみに、銘柄選定の仕方を身に付ける際の注意点は何でしょうか?いきなり何銘柄も手を出さず、まずは1銘柄だけ選んで売買してください。仕事・スポーツ・料理でも、まずは1つのことをとことん極めた方が、結果的に上手くなりますよね。株式投資も同様で、まずは1銘柄の株価の値動きや事業内容、決算時期など、関連情報を網羅できるまで極めてください。それが出来たら、他の銘柄に手を出しても良いでしょう。「いつ売るか」の見極め、損失を抑え利益を残していく銘柄選定では、自分にとっての得意銘柄を作ることが重要なんですね。あとは、投資した銘柄をどのタイミングで売るかでしょうか?はい。「いつ売るか」とは、ベストな株価で売却できるのはもちろん、損失を抑える「損切り」も含まれます。どれだけ上手くいっている投資家でも、時には失敗します。ということは、損した分を取り戻せないと、株式投資で利益を増やし続けられません。ほとんどの個人投資家は、ちょっと儲かっただけで売ってしまいます。もしくは売るべきタイミングを逃して、そのまま持ち続けて大きな損失を出しています。実際にチャート見たらわかりますが、株価の値動きは一定のパターンを繰り返しているので、長期的に保有しても永遠に上がり続けることはありません。そのため、いつ売るかを見極められて、初めて中・長期的に株式投資を続けられる投資家になります。あとは、別の投資手法を試したり他の銘柄に投資したりして、時には失敗しつつも、少しずつ利益を増やし続けていきましょう。人気を集める投資信託とロボアドバイザー、先生の意見は?ここまで株式投資に関するお話を聞いてきましたが、投資家の中には投資信託を運用したい人もいます。個別銘柄がわからないから投資信託に走る人が多いですが、私からすると投資信託はあまりおすすめしません。長期的に見て、投資信託で利益を得ている人がほとんどいないためです。もし投資信託が気になるなら、リチャード・エリス『敗者のゲーム』(日本経済新聞社)という本を読んでください。この本には、投資信託はどういうものか丁寧に書かれており、投資信託における「古典」に相当します。投資信託に投資するかは、『敗者のゲーム』を読んでから判断することをおすすめします。敗者のゲームというタイトルには、どのような意味があるんですか?敗者のゲームとは、自分のミスを極力減らせば勝てるゲームを指します。例えば、テニスで実力が拮抗している選手同士が試合をすると、相手より素晴らしいショットを打つのではなく、ミスを減らすことが勝利に繋がるということです。下手同士の場合には、ポイントはほとんど相手のミスによるものです。投資信託もテニスと同様で、ファンドマネージャーの実力や得られる情報に大きな差はなく、間違った投資判断を下したファンドが損をする、敗者のゲームとなっています。どうしても購入したければ、株価指数連動型ETFぐらいでしょうか。投資信託を選ぶのも個別銘柄を選ぶのと同じぐらい労力を使うと思います。ちなみに、ロボアドバイザーはいかがでしょうか?一見、ロボアドバイザーやAI投資を利用したら、簡単に儲かるような印象を受けますが、そのようなことはあり得ません。みなさん意外と誤解されていますが、株式市場は売りたい人と買いたい人がいるから成立します。言い換えたら、これから株価が上がると考える人とこれから株価が下がると考える人がいるから、価格が決まって売買できるのです。経済指標が株価を動かしているわけではありません。あくまで株式投資は、商取引の一形態に過ぎません。つまり、ロボアドバイザーやAI投資を利用する人が増えると、同時にそれを逆手に取る投資家が出てきます。それらに使用されているアルゴリズムの戦いになるかもしれません。今はアドバンテージがあっても、いずれは無くなるものも出てきます。また、今度はどのロボアドバイザーやAIを選択するかの問題に直面します。個人投資家にそれらの判断ができるでしょうか。投資信託・ロボアドバイザー・AI投資、いずれにしても利用する際の注意点がありますね。そのため、私が一番お伝えしたいのは、「自分のお金は自分で運用・管理しましょう」ということです。あなたのお金を真剣に増やしてくれる人は、果たしてこの世の中にいるでしょうか?自分で真剣に働いて稼いだお金だからこそ、株式投資も自分で真剣にやらないと増やせません。自分の大切なお金だからこそ、他人に委ねず自分で運用・管理してください。そのためにも、必要なことを正しい手順で学ぶことが大切なのです。株式投資についてお聞きするつもりが、人生で大事なエッセンスをたくさん教えていただきました。投資が上手くいけば、仕事でもスポーツでもうまくいく人になれそうですね。今回はインタビューを受けていただき、本当にありがとうございました!前編を読む 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日本の金融・経済の流れから学ぶ、将来に向けた投資先は?|フェリス女学院大学 国際交流学部 齊藤直教授
皆さんは、これからの日本はどのような道を歩むと考えていますか?人にとっては、あまりポジティブな印象を持てないかもしれません。日本で生活していく以上、少しでも希望を見出し、自分の将来に期待を持てたほうがいいですよね。そこで、今回はフェリス女学院大学で主に経済史を研究されている、齊藤直(さいとうなお)教授にインタビューを実施。これからの日本が何が求められ何が必要なのか、日本の金融・経済史を踏まえつつ、日本の将来についてお聞きしていきます。日本の未来に希望を持ちたい方、日本経済をあらためて理解したい方は、ぜひ当記事をご参照ください。常に変化する世の中で、新たな一歩を踏み出すためのヒントが得られるでしょう。インタビュー日:2023年10月18日戦前・戦時中の金融史戦前の金融市場は世界トップだった?!先生は日本経済史を研究されていますが、具体的にどのような研究をされていますか?日本経済史は、文字通り日本の経済の歴史を指していますが、その研究対象の幅は広くなっています。その中で私は金融史を専門としており、特に1920〜1930年代の企業金融や資本市場を研究中です。今日に生きる私たちのイメージからすると、当時の日本は発展途上で、欧米に追いつけ追い越せという状況にあったと思いがちです。しかし、実際には、当時の日本の資本市場は非常に大きく、特に株式の売買高では圧倒的に世界トップだったんです。当時の米国はもちろん、1990年代の先進諸国と比較しても、上位に入るくらいの規模でした。このようなことから、当時の日本は資本市場中心の金融システムだったと先行研究で言われています。戦前、日本の資本市場は活発だったんですね。これだけ聞くと、当時の日本経済は十分に発展していたという印象を受けますよね。そこで売買高の中身を調べてみると、売買高の大部分が短期清算取引で占められていました。清算取引とは、今で言うところの先物取引を指しており、一定期間先に受け渡しを約束する取引手法です。しかも清算取引では差金決済が行われるのが通常でした。想像されるような、所有権の移転を伴うような取引ではなかったのです。さらに、取引された銘柄を調べてみると、1930年代にはたった3銘柄の売買高だけで短期清算取引全体の7割程度を占めていました。具体的な銘柄は、東京株式取引所新株・大阪株式取引所新株・日本産業旧株です。これに鐘淵紡績新株・帝国人造絹糸旧株などいくつかの銘柄を加えると、8割程度に達します。つまり、1930年代の日本の株式市場は、上記の限られた銘柄の短期清算取引のみで、世界トップの売買高を牽引していたと言えるんです。当時の金融市場は、私たちのイメージと全然かけ離れていますね。多くの人が想像する通り、資本市場は数多くの商品が高い流動性で取引されていて、妥当な価格が形成されているイメージがあると思います。戦前についても、頻繁に取引されている銘柄は限られますが、それらの銘柄については価格形成における情報の効率性が高かったのではないか、という意見もあります。当時から、他の投資家を抜け駆けして自分だけ儲けることは難しいという意味で、公平な市場という面はあったといえるかもしれません。とはいえ、たった数銘柄の売買で世界トップの資本市場だったと評価するのは、いささかの違和感を抱くのではないでしょうか。歴史研究にとって、地道に当時のデータを集めて検証することが重要です。例えば、当時の東京株式取引所の月報は国会図書館で閲覧できるので、足を運んで情報を入力することもあります。他にも、金融市場で今日と違う点はありますか?今日、ニュースや新聞で報道される株価は、1日の終値ですよね。投資をしていなくても、なんとなく終値が重要な情報であることはわかると思います。当時も同様で、終値は重要な情報でしたが、東京株式取引所の売買だと午前中の終値が重要視されていたんです。先ほど紹介した短期清算取引では、1日目の午後と2日目の午前という実質1日間を単位とした先物取引を行っていて、受渡に適用される株価が2日目の午前の終値でした。当時の投資家にとっても、短期清算取引が最も関心が高い取引方法であったため、午前の終値が1日の終値としての意味を持っていました。今ならスマホですぐに株価がわかりますが、当時の人たちが株価を見るには、「株式日報」を取る必要がありました。この日報を見てみると、午前中の終値が記載されています。この日報が夕方に配達されますので、投資家たちは夕方には午前の終値を知ることができたわけです。生活上の1日が終わるタイミングで、最も重要であった短期清算取引の午前の終値を知ることができたんですね。今日の金融市場が形成された背景戦前の株式市場は短期清算取引が中心でしたが、戦後はどのように変化したのでしょうか?株式市場についていえば、戦時統制と戦後改革を経て、取引所での清算取引は廃止されますので、戦前とは全く異なる特徴を持つ市場になります。それに伴って、証券会社についても大きな変化がありました。今日の証券会社といえば、全国に支店を構えている大規模な企業をイメージしますよね。ただ、これらのいわゆる大手証券会社は、戦時中の資本市場の変化に合わせて成長してきました。戦前の証券業の中心は、実は個人商店とでもいうべき小規模な業者が担っていました。先ほども申し上げたように、戦前の株式市場は短期清算取引が中心でした。そして清算取引には取引所集中義務があり、それを担うのは仲買人(後に取引員)と呼ばれる正式な資格を持つ証券業者でした。取引所での売買が認められる仲買人は、最も格式高い業者だったといえます。清算取引の売買高が大きかったこともあり、仲買人は大きな収益を得られます。例えば、東京都文京区の目白台に「小布施坂」という地名がありますが、東京株式取引所の仲買人だった小布施新三郎さんの邸宅があったことが由来となっています。つまり、個人商店と言えるくらいの規模でありながら、大量の取引を担っていたため、地名に影響を及ぼすほどの経済力を持っていたんです。戦前の証券業は個人商店のような業者によって担われていたんですね。では、何がきっかけで今日の大手証券会社が生まれてきたんでしょうか?戦時中、公社債の発行量が増加したことがきっかけです。戦時期には財政赤字の拡大に対応して国債の発行が増加し、国債以外にもさまざまな債券が発行されます。それら大量の債券を消化することが必要になるわけです。先ほど紹介した仲買人(取引員)は支店を設けることが認められておらず、1つの営業所しか持てなかったんです。これは大量の債券を売り捌くうえでは不利な条件になります。一方、今日の大手証券会社と言われる、野村證券・大和証券・SMBC日興証券は、元々公社債を取り扱う証券業者でした。それらの公社債業者は、支店開設を制約されておらず、実際に債券の売り捌きのために複数の支店を有していました。戦時期に大量の債券を投資家に売り捌くためには、全国に支店を構えている証券業者が優位です。必然的に、全国で公社債を販売できる証券業者の地位が高まって、営業所が1つしかない仲買人(取引員)に取って代わりました。そして戦後の大手証券会社へと成長することになります。証券業は、戦後の有力行が戦前から存在していた銀行業とは違う歴史を辿ってきたんですね。そうですね。ただ共通して言えることは、どちらも時代の変化に対応できた企業が生き残っていることです。経済がずっと安定して推移することはなく、どこかで必ず変化が訪れることは、ここまでお話した内容からも理解できるでしょう。戦後の日本経済の変化キャッチアップ型だから機能した銀行中心の経済システムでは、戦後の日本経済が発展したのは、どのような要因があったんですか?さまざまな要因があるのですが、1つ言えるのは銀行中心の金融システムですね。戦後の日本経済は、欧米先進国をモデルとしたキャッチアップ型の成長を実現しました。発展途上段階にあるうちは、海外に自国よりも進んだ技術が多く存在しますので、それを導入し、自国の市場に合うように調整することにより、自前の技術開発に伴うリスクを抑えながら成長することができます。海外からの技術導入に頼る場合、成長軌道はある程度明確になっているので、毎回異なる投資家から資金を集めるよりも、1つの銀行から継続的に融資を受ける方が、効率的に事業を成長させられます。銀行にとっても、企業と長期的な関係を築けば情報が蓄積されるので、融資におけるリスク判断もしやすくなります。このように、銀行を中心とした金融システムがうまく機能したことで、戦後の日本経済は大きく発展しました。銀行中心から資本市場中心の経済システムへ戦後の日本経済が成長できたのは、銀行の存在が大きかったんですね。ただ、今の日本経済は停滞している印象が強くなっています。現在の日本経済は停滞していると言われていますが、そう見えるのはキャッチアップ型で日本経済が十分に成長し、先進国の仲間入りを果たしたからです。先進国の仲間入りを通り越して、衰退する局面に入っていると感じてしまうこともありますが・・・。それはさておき、近年までに日本は技術力において世界のトップランナーとなり、他国からモデルにされる存在となっています。そこからさらに成長するには新たな1歩を進めること、すなわち新しい技術を開発することが求められます。ということは、研究開発への投資が必要不可欠です。当然、成功するかわからない不確実性の高い状況ですので、複数のプロジェクトに投資する必要があります。そのうち1つでも成功するプロジェクトが出れば万々歳というような状況です。このように多くのプロジェクトから勝者となるプロジェクトを選抜する過程を「ウィナーピッキング」と呼びます。つまり、今の日本経済はキャッチアップ型から、数ある投資先から当たりを選ぶ「ウィナーピッキング型」の経済に移行したということです。では、これからは何が日本経済を支えていくのでしょうか?「ウィナーピッキング型」の経済システムを支えるには、銀行よりも資本市場が適しています。なぜなら、これから大きく成長する投資先を見つけるのは、銀行よりも資本市場の方が得意だからです。キャッチアップ型の経済では大きな役割を果たした銀行ですが、何が成功するか不透明な状況で、多くのプロジェクトのなかから適切な案件を見つけ出して融資するのはとても難しいことですよね。それを踏まえれば、1980年代に金融自由化がおこなわれ、資金調達先が銀行である必要がなくなったのは、時代の流れとして自然でしょう。経済の変化に伴う働き方の変化時代の変化に合わせて、私たちの働き方も変化してきました。先生は今の働き方についてどう考えていますか?キャッチアップ型の経済では、ある意味、多くの企業の成長が約束されていたため、従業員の終身雇用が現実的でした。よほどのことがない限り定年退職まで雇用が約束されているから、人生設計もある程度立てやすかったでしょう。しかし、今日ではキャッチアップ段階を終え、ウィナーピッキングという特徴を持つ経済へと移行しています。どの企業が大きく成長するか、確かなことは誰にもわかりません。世間で「勝ち組」と捉えられている企業に勤める人のなかには、「自分はこれから伸びる企業を見抜いて、新卒の段階で就職した」と考えている人もいると思いますが、それはあくまで結果論です。ボタンの掛け違い1つで、「負け組」と捉えられる企業になっていたかもしれません。ひょっとしたら、倒産していたり、他者に買収されたりしていた可能性もあるでしょう。そう考えると、自分自身のキャリアや人生設計に応じて転職するのは、なんら不思議なことではなく、むしろ当たり前だと思います。そうしたことが起こり得ると想定しておくのが当然の世の中になったということでしょう。働き方の変化に合わせて、時間に対する考え方も変わっていますよね。いわゆる「Z世代」と言われる人たちは、自分の時間を大切にすると言われていますが、ここまでの話を踏まえたら当然ですよね。これからの世の中がどうなるかわからないから、将来のために自分の時間を作りたいのは、過去から現在までの経済の流れを踏まえると納得いただけるでしょう。自分自身への投資は手間や体力も必要なので、何かしらのしがらみに囚われず、自分の時間を守ることは、とても大事なことだと思います。これから私たち個人に求められるもの変化が激しくなる時代、最も有効な投資先とは?時代が変化したからこそ、求められるものも変わると思います。おっしゃる通り、「ウィナーピッキング型」の経済だからこそ、自分は何に時間を使うかが重要です。スキルを身につけるのか、資産運用を始めるのか、さまざまな選択肢があるでしょう。ここで重要なのは、「異時点間」の観点から考えることです。異時点間とは、文字通り異なる時点の間を指します。この異時点間での資金の配分は、金融の最も基本的な役割の1つです。投資で考えるとわかりやすいでしょう。例えば、投資信託を30年間運用する場合、30年後の自分に今のお金を渡していると言えます。逆に、将来のお金を今使うことも可能です。貸与型の奨学金で大学に進学したり投資家から資金を借りて起業したりするのは、将来の自分がそれを返済することになりますので、将来の自分からお金を受け取っていることになります。これが借金の本質的な考え方となります。つまり投資とは、異なる時点の自分とお金のやり取りをしているのです。「借金をする」というと、どうしても他者から借りるという発想になるわけですが、その先には将来の自分がいるわけです。いかなる場合にも、この「異なる時点の自分と」という視点は決して忘れてはならない点だと思います。それを踏まえて、先生にとっておすすめの投資先は何でしょうか?将来、何が起こるかわからないので、一般的な投資だと必ず何かしらのリスクは伴います。銀行預金だと銀行の倒産、金融商品だったら価格変動のリスクがありますよね。タンス預金しておいても盗まれてしまうかもしれません。幸い窃盗被害や銀行の倒産がなかったとしても、インフレが起こればタンス預金や銀行預金の実質的な価値は減少します。インフレを恐れて不動産に投資したとしても、土地の価格が将来どうなるかは不確実で、下落することもあり得ます。いずれの選択肢にせよ、あらゆる状況に対応できるとは言い切れません。だから私たちは、自分自身のお金を何に投じるか真剣に考えるわけですよね。では何に投資したら、あらゆる時代の変化に対応できるか。それは人的資本、すなわち自分自身の能力に投資することしかありません。どのように時代が変化しても、その変化を的確に認識し、その都度適応できる力を身に付けることで、新しい環境に応じた稼ぎ方をすればよいのです。資産運用をすることもちろん大事ですし、そこで蓄えた財産がいざという時に自分を助けてくれる、ということもあり得るでしょう。しかし、それだけで不確実性にあふれる将来に十分に備えることは難しいでしょう。やはり最も自分を助けてくれるのは自分の能力なのだと思います。その際、歴史を学ぶことは、ある意味私たちに勇気を与えてくれると思います。過去に起きた変化に対して、世の中はどう対応したのか知ることで、これからの変化を読み解くヒントが得られるでしょう。幕末の開国や明治維新にせよ、太平洋戦争や戦後改革にせよ、それにより社会のあり方は大きく変わったわけですが、人々はその変化に対応して、たくましく生き抜いてきました。決して現在だけが特別な状況ということはないと思います。新しいことを学ぶときのポイントそう考えると、歴史の学び方が大事になってきますよね。おっしゃる通り、歴史に限らず新しいことを学ぶときは、何を基準で学ぶかが大切です。たくさんの時間が残されている若い頃であれば、がむしゃらに学ぶというのもありだと思いますし、その経験自体が人生の糧になり得ると思うのですが、社会人になればなかなかそのような時間はないはずですから。その道の専門家から学ぶことが効果的ですが、その人が偏った考えを持っていたら、適切に学べない可能性があります。あるいは初めて学ぶからこそ、情報の非対称性も課題となります。そうであるからこそ、自分なりの目利きと申しますか、判断力を養っておくことが望ましいわけですが、そのためには日頃から幅広い意見に触れる機会を持っておくことが重要だと痛感します。年齢を重ねて、仕事でそれなりの責任も負うようになってくると、意識してそのための時間を作らなければならないなと感じています。私の場合、他の分野で活躍している同世代の話を聞くことが、意外と有意義な学び方だと感じています。コロナ前くらいの時期に、20数年ぶりに高校の同窓会が開催されたことがありました。私たちの世代は、高校を卒業した時点ではメールも携帯電話もなく、SNSで繋がることもできなかったので、少し大げさですが卒業は今生の別れであってもおかしくないというような感じだったんです。どの同窓会も、高校時代の名簿に記載された実家の電話番号に連絡が来て・・・、という形での開催でした。当然、ほぼ20年ぶりに再会したら、積もり積もった話をします。当然、各々違う道を進んでいるからさまざまな話が聞けますし、特に自分と違う意見や自分よりも深い考えに触れると、「そういう考え方もあるのか」と、学べることがたくさんあったんです。影響力のある人の話を聞くのも大切でしょうが、年齢など自分と条件が近い身近な人の話を聞くことからも、自分にとって大きなヒントが得られるように思います。少なくとも自分が学んでいることや考えていることを相対化するうえで効果的だったように感じます。同年齢の人だからこそ、良い影響が受けられるということですね。同じ経験は、私にもあります。経済史に関するお話を聞くつもりでしたが、これからの時代を生き抜くヒントをたくさんいただきました。今回はインタビューを受けていただき、本当にありがとうございました! 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日常生活に生かせる会計情報の知識|愛知学院大学 経営学部 西海学教授
投資先を調べる方法の1つとして、会計情報が挙げられます。日本では元々独自の会計基準を設けていますが、任意で国際会計基準を導入することも可能です。この2つの会計基準には、どのような違いがあるのでしょうか。企業情報を正確に調べるために、会計基準の違いや会計情報を読むポイントを知りたい方もいらっしゃるでしょう。そこで、HonNeでは愛知学院大学で主に財務会計を研究されている、 西海学(にしうみさとる)教授にインタビューを実施。先生の研究テーマに触れつつ、国際会計基準の特徴や日本の会計基準との違いをお聞きします。会計情報が読めるようになりたい方や、国際会計基準について詳しく知りたい方は、ぜひ当インタビュー記事をご参照ください。インタビュー日:2023年10月20日国際会計基準と日本の会計基準の違い国際会計基準を導入するメリット先生は国際会計基準について研究されています。日本の上場企業は任意で導入できますが、導入することでどのようなメリットがありますか?1番大きなメリットは、外国人投資家に対するアピールです。文字通り、国際会計基準は世界基準の会計基準なので、外国人投資家にとって他国企業と比較がしやすく、その分投資するハードルが下がります。日本独自の会計基準で海外投資家にアピールする場合、会計情報を英語に翻訳し、日本ならではの話も英語で説明しないといけません。当然、海外投資家に理解を促すことは困難になるでしょう。国際会計基準に基づいて会計情報を作成する際、メインである財務諸表は英語を使います。国際会計基準を採用すれば、自然と海外投資家にとって読みやすい会計情報が作成可能です。なので、海外投資家から資金を集めたいなら、国際会計基準で作ったほうが断然有利になります。国際会計基準は2009年から任意移行が可能ですが、既に15年近く経過しました。なぜ、近年になって移行する企業が増えているのでしょうか?国際会計基準を率先して採用した企業の株価変動や利回りの動きを見て、大きな変化はないという学習効果が得られたからです。日本の会計基準と国際会計基準は、組み立て方が異なります。日本の会計基準は、細則主義的な基準で、どのように処理、記載すべきか細かく指定されています。一方、国際会計基準は原則主義的な会計基準で、世界中の様々な企業に適用可能なように、大枠を定めるにとどめ、細かなところまでは規定されてません。国際会計基準に移行すると、移行前までの会計情報と比較しにくくなります。連続性のない情報となり、参照できる会社情報が実質的に減って情報の非対称性が大きくなります。なので、日本企業が国際会計基準に移行することは、当時はかなり戸惑いがあったでしょう。ただ、実際に導入した企業に対する市場の反応を見てみると、大きな違いがなかったため、ここ数年で移行する国内企業が増えていると思います。国際会計基準で書かれた会計情報の特徴日本の会計基準と国際会計基準で組み立て方が違うなら、会計情報の見え方にも違いが出てきますよね。はい。国際会計基準で書かれた会計情報は、日本の会計基準で書いた会計情報よりも資産が大きくなる傾向があります。その理由の一つは、企業買収して計上された「のれん」を、日本の会計基準なら規則的に償却し、必要なら減損処理しますが、国際会計基準では減損処理のみで、償却不要だからです。かつて、企業結合した場合、会計における処理方法は2種類ありました。1つはパーチェス法と呼ばれる会計処理で、この場合はのれんが計上され、のちの年度に規則的に償却されます。もう一つは持分プーリング法と呼ばれる会計処理で、この場合は2社の財務諸表をただ合わせるため、のれんは計上されません。敵対的買収を含む子会社化など他社を買収するタイプの企業結合はパーチェス法が、対等合併のような企業結合は持分プーリング法が適しているといえます。ただ、のれんが大きくなってしまうような買収をおこなった場合、のれんの償却を回避するために、持分プーリング法を使おうとする企業が多く問題となりました。その結果、2001年に米国で持分プーリング法が廃止され、2003年に国際会計基準も追随しました。この持分プーリング法の廃止に合わせ、米国と国際会計基準ではのれんを償却しないことにしましたが、我が国ではのれんの償却は残しています。そのため、買収を頻繁におこなう企業にとっては、のれんが償却されない国際会計基準を採用するほうが、見栄えがよく見えます。頻繁に企業買収をしていて、かつ国際会計基準を採用した日本企業の代表例として、どこが挙げられますか?わかりやすいのはソフトバンクですね。貸借対照表を見ると、のれんの金額が多く、資産に占める割合がとても高くなっています。2023年3月末の連結貸借対照表では、資産総額が約14.7兆円のところ、のれんは約2兆円あり、資産全体の13.6%も占めています。また、同期の売上高は約6兆円、当期純利益は約6,540億円です。もしのれんを20年で償却すると、この年の償却額は1,000億円となります。赤字になるわけではないですが、当期純利益は15%程度減額します。当然、国際会計基準を採用してのれんを償却しないほうが、明らかに財務諸表の数値は良くなりますよね。仮に、ある企業買収によって思いの外売上が伸びなかったとしても、のれんを償却しないので業績は著しく悪化せず、投資家から悪い印象を持たれにくいでしょう。比較のために、同業他社で国際会計基準を採用しているKDDIを見ると、資産総額は増えてきていますが、のれんはほぼ横ばいです。一方、ソフトバンクは国際会計基準を採用してからさらに多角化を進めていく中で、のれんはほぼ毎年増大しています。ソフトバンクとKDDIののれんの推移(単位:百万円) ソフトバンク 2019年3月末 2020年3月末 2021年3月末 2022年3月末 2023年3月末 資産総額 5,775,045 9,792,258 12,226,660 12,707,913 14,682,181 うち,のれん 198,461 618,636 1,256,593 1,257,889 1,994,298 3.44% 6.32% 10.28% 9.90% 13.58% KDDI 2019年3月末 2020年3月末 2021年3月末 2022年3月末 2023年3月末 資産総額 7,330,416 9,580,149 10,535,326 11,084,378 11,917,642 うち,のれん 539,694 540,886 540,420 540,962 541,060 7.36% 5.65% 5.13% 4.88% 4.54% そのため、ソフトバンクは経営戦略の一環として、国際会計基準を採用した側面もあると私は推測しています。ということは、国際会計基準を採用した企業の会計情報を見るときは、のれんに注視する必要がありますね。のれんの価値とは?国際会計基準でのれんを減価償却しない理由なぜ、国際会計基準ではのれんを償却しないのでしょうか?確かに日本の会計基準だと、のれんは20年間で償却する必要がありますね。国際会計基準でのれんを減価償却しない理由は、敵対的買収をしたのに、会計上では合併したと見せかける恐れがあるからです。その背景を説明するために、米国の会計基準についてお話する必要があります。企業買収が頻繁におこなわれる米国では、企業の負担を考慮して2001年までのれんの償却期間が40年でした。しかし、40年という長期間だと不正する企業がいたため、20年に変更する議論が出てきました。減価償却の期間が半分になるので、単純に言うと企業の負担が2倍に上がりますよね。そこで一部の企業が危機感を抱き、実際は敵対的買収をしたのに、会計上では合併したように見せ、持分プーリング法を採用することが問題になりました。そのため、米国の会計基準では、持分プーリング法を廃止し、のれんは償却しないと変更されました。その結果、国際会計基準も米国の会計基準に準じて、のれんは償却しないと決められたんです。では、なぜ日本の会計基準では今でも償却するのですか?のれんとはいえ、基本的にのれん分の対価は支払っています。損益計算書で企業結合という投資の成果を計算する、つまり投資の回収計算をおこなうのであれば、稼得した収益にのれんに対する支払対価を賦課、対応させた方が良いと言えます。これまでの財務諸表の機能を維持したと言えるでしょう。なお、のれんを償却する意味として、商法の影響もあります。商法は、債権者を1番保護するように考えられています。のれんは換金できないものなので、少しでも早く貸借対照表から抜いた方が、債権者保護の観点にかないます。そのため日本の会計基準では、現在では20年で減価償却できますが、1997年の連結財務書表原則の改訂までは、のれんはわずか5年で償却することとなっていました。のれんの価値を正確に測る方法ここまで、会計基準によってのれんの考え方が違うことがわかりました。投資家がのれんの価値を正確に測るには、どうすればいいでしょうか?買収された企業の「超過利益力」を見定めることですね。のれんは、言い換えたら企業の超過利益力を指します。平均的に市場で10万円で販売される商品を15万円で売ることができれば、超過利益は差額の5万円です。つまり、将来の超過利益を現在価値と合計して資本化したものが、のれんの価値になります。しかし、これはのれんの価値の話で、財務諸表上の「のれん」とは分けて考えた方が良いです。企業買収の場合、買収される企業の純資産(資産―負債)の公正価値を超えた額で買収した場合、基本的にその超過分が財務諸表上の「のれん」となります。例えば、純資産の一株あたり構成価値が800円のところ、一株あたり1,000円で全株式取得して買収すれば、財務諸表上の「のれん」は一株あたり200円です。さらに、TOB(株式公開買い付け)を実施して、1株1,500円で買収したら、さらに500円分財務諸表上の「のれん」が増大します。つまり、買収価格が高いほど財務諸表上の「のれん」は大きくなりますが、裏を返せば高い買収コストを支払っていると言えます。そのため、財務諸表上の「のれん」がそのまま超過利益力を表しているかというと、必ずしもそうではなく、単純に買収コストをかけ過ぎている可能性があるんです。株価には、すでに市場が評価したのれんがある程度含まれています。市場の株価は投資家の企業利益に対する期待が反映されているので、財務諸表の一株あたり純資産より、高くなることが一般的です。単純ですが株価が高いほど、その分超過利益力も高いと考えられます。しかし、企業買収を行った場合、株式取得に対して支出している以上、のれんに対しても支出がなされているので、財務諸表上の「のれん」は、全額が超過利益力を指していると考えない方がいいでしょう。どうしたら、具体的な超過利益力を見定められますか?上場企業に限られますが、買収された企業の買収直前の時価総額とその時点での純資産額を比較すれば、買収時点での市場が評価するのれんの価値がおおよそ推定できます。これを買収した企業の財務諸表に計上された「のれん」と比較すれば、のれん価値以上に買収対価を支払っているかどうか予想可能です。TOBによる敵対的買収の場合だと、買収される前後の時価総額を調べたら、TOBの金額がある程度算出できます。このように、買収価格と買収された企業の株価を調べれば、超過利益力を推定する参考になります。のれんの研究を始めたきっかけインタビューが盛り上がり、お話は先生の研究テーマに移りました。先生は、何がきっかけでのれんの研究を始めたのですか?実は学部生時代、私の専攻はミクロ経済学で会計学とは無縁だったんです。ある日、いつものように大学へ向かっていると、普段なら見向きもしなかったガラス板工場が目に止まりました。「ガラスって、日本板硝子と旭硝子の2社がほぼ独占してるから、価格競争って起こりにくいはず」と、独占市場の価格設定のメカニズムに興味を抱きました。その研究を論文にまとめる際、大学院から会計学を専攻する予定だったので、担当教官から「研究論文は会計学寄りに書いた方がいい」とアドバイスをもらいました。その際、「独占市場は超過利益が得やすいから、その分のれんが大きいよな」と思って、のれんに注目して論文を書いたんです。ちなみに、私は大学に進学する前、音大で作曲を学んでいました。そのことを担当教官は知っていて、のれんを選んだことを伝えたら、「作曲って雲を掴むようなものだから、不確定な要素が多いのれんは西海くんに合っているかもね」と言われたことを、今でも覚えています(笑)。見たこと・経験したことが、今の研究テーマに繋がっているんですね。のれんについて、現在どのような研究をしているんですか?国際会計基準を導入した国で、情報の非対称性が解消されたのか研究しています。その中で、国際会計基準を全面的に採用したカナダに注目して、一時期は現地に行って研究を進めてきました。カナダの上場企業の数は米国と比べて10分の1程度しかなく、その分経済規模は小さくなっています。理屈で考えたら、自国の経済事情に合わせた独自の会計基準を定めたほうが良いんですが、既に完成された国際会計基準を導入した方が負担が少ないと判断したんです。要は、多少合わなくてもお金がかからない方を選ぶ、プラグマティズム(実践主義)的な考え方が進んでいる国なんです。例えば、カナダでは1セントといった少額硬貨を発行していません。少額硬貨を発行してもみんな捨てて市場に出回らないからです。なので、カナダでは四捨五入でお金の計算をします。正確に計算できないことより、1セント硬貨を作るコストのほうが経済的損失が高いと考えてるんです。日常生活も同様で、例えば家や車などの大きな買い物をする際、書類上の手続きが不要でクレジットカードを切るだけで購入できるんです。会計や買い物に対する考え方が、日本と比べて全然違いますね。とはいえ、実際に国際会計基準を導入し始めると、ほとんどのカナダ企業が混乱していました。そこで印象的だったのは、企業同士で国際会計基準の導入をサポートしていたことです。カナダ人は困った人がいたら助ける習慣が根付いていて、差別・区別を嫌う国と言われています。市場も同様で、お互い経営スタイルが異なることを認め合い、相手の企業が困っていたら助けるそうです。そのため、国際会計基準の導入方法がわからない企業があれば、証券委員会や競合他社、監査法人までもが導入のサポートをしていました。そのおかげで、導入における混乱を最低限に抑えられたんです。ただ、他に国内に似たような企業がない航空機メーカーのボンバルディアはかなり苦労したと聞いています。なので、日本の国柄との違いに、大きなカルチャーショックを受けましたね。国際会計基準やのれんについてお聞きするつもりでしたが、先生の研究対象であるカナダの国柄も知れて新鮮でした。やっぱり何事も違いを知ると、新たな学びが得られますね。今回はインタビューを受けていただき、本当にありがとうございました! 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経営者を見極める重要な手がかり「利益予測」とは?財務諸表の関係性も解説|阪南大学 経営情報学部 中條良美教授
株式投資で銘柄を選ぶには、さまざまな分析方法があります。その中でも特に重要で知りたいのが、経営者の資質に関する情報ではないでしょうか?しかし、個人投資家が経営者と直接会う機会は非常に限られており、何を考えて企業を経営しているか知ることは難しいのが現実です。少しでも経営者のことがわかれば、より正確な投資判断が下せるでしょう。そこで今回は、阪南大学で主に会計情報と株価の関係を研究されている中條良美(ちゅうじょう よしみ)教授にインタビュー実施。先生によると、「利益予測」が経営者を知る重要な手がかりだと言います。経営者の利益予測とは何か、投資判断でどのように活用できるか財務諸表と絡めながらお聞きします。企業の銘柄選定の方法を知りたい方、企業の将来性を正確に分析したい方は、ぜひ当記事をご参照ください。この企業に投資できるか、より明確に判断できるヒントが得られるでしょう。インタビュー日:2023年9月27日経営者を知る手がかり「利益予測」とは?利益予測からわかる経営者の4タイプ――――中小企業であれ大企業であれ、経営者の存在は企業に大きな影響を与えます。優秀な経営者かどうか判断するには、どうすればいいでしょうか?投資先の経営者がどのような人か、誰もが知りたいですよね。経営者を知るための手段として、私は利益予測が有効だと考えています。なぜなら、経営者が不確実な将来を適切に予測できるかどうかで、企業経営の成否が決まるからです。もちろん、経営者も神様じゃないので全知全能ではありませんが、将来を見通す能力は経営者の必須条件と言えるでしょう。幸いなことに、日本の上場企業では経営者による利益予測の公開が半ば義務付けられています。毎期の利益予測が確認できるので、その推移を分析することで、経営者の学習能力を予測することが可能です。――――経営者の学習能力が予測できるとのことですが、具体的にはどのようなことがわかりますか?大きく4つのタイプに分かれることがわかりました。どのようなタイプがあるかお話するために、まずは以下のグラフを確認してみましょう。縦軸は、利益予測の誤差を表します。ゼロを正確な利益予測とした場合、正の値は楽観的、負の値は悲観的な利益予測となります。横軸に時間軸を設定し、予測誤差の時系列変化をグラフで表します。1つ目は初期値がプラスで、その後の利益予測が増加傾向にある自信過剰な経営者。私は「最強」パターンと読んでいますが、正直私の1番苦手なタイプですね(笑)。2つ目は「最強」の真逆で、初期値からマイナスでさらに下がってしまう「最弱」パターンです。どんどんネガティブな利益予測を立ててしまう経営者と言えます。上図のグラフはイメージしやすいよう、予測誤差のパターンをあえて単純化して示しています。現実の予測誤差の推移は、これほど滑らかではありません。――――時系列変化とともに、正確な予測値からどんどん離れていますね。そうなんです。正確な利益予測から離れているので、ポジティブ・ネガティブ関係なく、学習能力があまり高くないと判断できます。そして、残りの2パターンは初期値がプラスかマイナスでも、徐々にゼロに向かっていくタイプです。言い換えれば、最初は自信過剰でも徐々に慎重な予測を立てる、または初めは慎重な予測でも時間が経つほど客観的な予測に寄せる経営者と考えられます。経営者のもともとの心理的偏りを示す初期値がどこにあるかも重要ですが、予測誤差がゼロに向かって縮小していくことが、学習能力の高い経営者の特徴と言えます。利益予測からわかるのは経営者の学習能力――――最初ははずれたとしても、そこからどう修正するかが重要なんですね。その通りです。うまく学習されている経営者は、自分自身の心理的な偏りを冷静にコントロールできているのでしょう。一方、利益予測がはずれ続けていても、自信過剰・慎重のままでいる経営者も意外と多いんです。良い意味でも悪い意味でも、ブレていないと言えます。そのため、1期の利益予測だけでその企業の経営者が優秀かどうか、判断するのは早計です。短くても5年、可能であれば10年以上の利益予測の推移を見るのをおすすめします。――――なぜ10年が目安になるんですか?景気循環もさることながら、リーマンショック・東日本大震災・コロナ渦など、世界的な大事件も10年に1回は起きているからです。余談ですが、投資の時間分散を考えるなら、10年でも短く、30年は見越しておくと良いと言われています。30年くらいコツコツ投資を続ければ、大恐慌が起きても立ち直る機会があるからです。とはいえ、歴史が浅い上場企業もあるので、10年以上のデータが使える企業は少なくなります。なので、利益予測に限らず、使えるデータはすべて使うのが望ましいでしょう。――――ちなみに、利益予測から経営者の学習能力を分析するときの注意点はありますか?利益予測のグラフは、経営者の能力そのものを表していないことに注意してください。なぜなら、経営者は立場上さまざまな影響を受けているからです。代表的な例として、企業文化をはじめとする組織特性が挙げられます。周りを自分自身と同じようなタイプの人で固めることで、伝達される情報に偏りが生じると、さらに自信過剰になったり慎重になったりするかもしれません。そこで自分の能力を補完してくれる人を置けば、自身の強みを発揮しつつ、客観的な意思決定が下せるでしょう。実際、私は2023年4月から大学院の研究科長を担当していますが、副研究科長にすごく助けてもらっています。私は心理的にブレてしまうタイプで、いきなり判断を求められるとYESもNOも言えないんです。ただ、副研究科長が良いトスを上げてくれるおかげで、意思決定の精度が上がっていると実感しています。なので、経営者も周りにどのような人を置くかで、学習能力は変わります。もっと言えば、組織全体の情報処理システムが、経営者の学習能力そのものと言い換えられます。学習能力に大きく影響する要素とは――――つまり、企業の組織作りが経営者の学習能力に影響する、ということですか?はい。経営者のタイプや会社の状況によって必要な情報は変わるので、必要に応じて正しい情報が入ってくる組織作りが大切です。おそらく、多くの経営者は組織作りに関われておらず、ましてやどんな情報が欲しいのか明確に伝えられていないと思います。「気づいたことがあったら、なんでも言ってね」という雰囲気だけでは、必要な情報がほとんど上がってこないのが実情でしょう。そのため、どのタイミングでどのような情報が必要か明確に伝え、情報処理の仕方とルートを整理できていれば、正確な利益予測に繋げられるでしょう。――――先生にとって、欲しい情報が上がる組織を作れている経営者として、誰が挙げられますか?私が知る限りでは、Panasonicの松下幸之助さんやリクルートの江副浩正さんですね。おふたりとも、従業員のことを真剣に考えて経営されていたと思います。特に江副さんは「人たらし」な経営者として有名で、従業員を動かすのがすごく上手かったと言われています。末端の従業員の誕生日も覚えていて、自ら誕生日プレゼントを渡しに行くくらい、従業員1人ひとりの情報を把握していたそうです。やっぱり、経営者が従業員を大事にしていることが伝わると、従業員のモチベーションが上がるのはもちろん、情報伝達を遮る「壁」も低くなるのではないでしょうか。世間ではリクルート事件で悪者扱いされている印象ですが、経営者としては非常に優秀だったと私は思います。経営者の学習能力が影響を及ぼすもの経営者の学習能力と財務諸表の関係性――――企業分析の手段といえば財務諸表がありますが、経営者の学習能力と何かしら関連性はありますか?はい。経営者の学習能力は経営判断と密接に関わっており、その影響は財務諸表の質にも及びます。ここで言う質とは、投資家が投資判断する際に財務諸表からどこまで有益な情報を得られるかを指します。しかし、財務諸表を見るにしても、ほとんどの投資家は損益計算書しか見ません。損益計算書は端的にどれだけ儲けたかを表しているので、直感的に理解しやすいからです。私としては、損益計算書と一緒に貸借対照表、特に資産の部を見て欲しいと思っています。――――それはなぜでしょうか?貸借対照表は企業の財政状態を表すだけでなく、どのような事業にフォーカスして経営しているのか把握できるからです。例えば、現金の割合が大半を占めていたら、極端に言うとその企業は何もしておらず、投資家から預かったお金を増やす努力をしていないと言えます。なので、企業の現状を理解するなら、損益計算書と貸借対照表をセットで見るのがおすすめです。――――では、ちゃんと本業をおこなっている企業の財務諸表には、どのような特徴がありますか?売上や利益に対して、資産がどれくらい増えているか確認してください。売上や利益が拡大するにつれて、自然と資産も増えているはずです。企業は売上・利益を増やすために生産設備の増強や店舗増加など、いろんな活動をおこないますよね。事業活動の拡大に伴って投資が活発になると、貸借対照表に計上される資産も大きくなります。そのため、売上・利益が上がってくると、貸借対照表も同時に拡大するのが普通です。――――確かに、企業は資産を活用して売上・利益を生み出すから、売上・利益が増えたら資産も増えるのは当たり前ですね。もし、売上・利益が増えても資産が増えていない場合は、資産の中身を見てください。資産構成がどのように変化したことで、売上・利益が増えたか理解できると面白いですよ。ただ日本企業の多くは、売上・利益に対して貸借対照表が拡大し過ぎているんです。例えば、自信過剰な経営者はM&Aを頻繁に実施する傾向があります。M&Aも大事な経営戦略ですが、多角化するため経営の難易度はグッと上がります。また、M&Aで買収した企業の価値より多く支払った分は「のれん」として貸借対照表に計上されますが、現実には減損処理されることが大半です。つまり、支払う必要のないお金を出してしまった。売上・利益を増やすことよりも、企業規模を大きくすることが目的になっているのかもしれません。今の日本企業に求められること――――なるほど、売上・利益に対して、身の丈に合った資産管理ができているかが重要ということですね。はい。学習能力の高い経営者は、企業の資産をきちんと管理しているはずなので、きちんと将来の利益に裏付けられた資産が増えるという意味で、財務諸表の質も高くなると考えられます。だから、今の日本企業の経営者に求められているのは、資産のやみくもな拡大ではなく選択と集中だと思います。ただ単に資産を減らすのではなく、不要なものを整理する。成熟し切って減退局面に入った事業セグメントは、ある程度清算したほうがより良い経営に繋がるはずです。始めるだけでなく終わらせることも、経営者の大事な仕事ではないでしょうか。とはいえ、経営者にとって撤退は1番やりたくない意思決定でしょう。今まで自社が長年頑張ってきたことを自分の代で清算したら、余程やり方が悪かったと思われるので、やりたくても怖くてできないと思います。――――良い形で終わらせるには、どうしたらいいんでしょう?トップダウンしかないと思います。強力な経営者でないと、なかなかできないかもしれません。それこそ松下さんや江副さんのような、オーナー社長であれば実行しやすいでしょう。20世紀は民主的な会社が伸びやすく、21世紀はオーナー社長の会社が伸びやすいと考えられています。周りの意見を聞くことも大切ですが、そこで悩み過ぎて意思決定できなくなるのは本末転倒です。思い切った行動が必要なとき、権限が強いオーナー社長なら、いち早く決断できます。ただ、オーナー社長の将来に対する見方に偏りがあると怖いですね。人間なので、どうしても何かしらの色眼鏡を持っています。大胆にリスクをとれるのがこうした企業の魅力ですが、大胆さは無謀さと背中合わせです。決断力のある経営者こそ、冷徹な現状認識が求められます。だからこそ、学習能力が重要なんです。最初は偏りがあっても、徐々に客観的な地点から予測できるようになれば、誤った決断を避けて地に足のついた企業の舵取りができるでしょう。――――トップダウンだからこそ、高い学習能力が求められるということですね。経営者の利益予測は、財務諸表や組織作りとの関係性が高く、経営者を知る重要な手がかりだと理解できました。今回はインタビューを受けていただき、本当にありがとうございます! 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国のお金の使い方を見極めるには?財政の理解を深めるポイントも解説|京都府立大学 公共政策学部 三宅裕樹准教授
財政は、私たちの生活を良くするために重要な役割を担っており、ニュースでも日々取り上げられています。しかし、財政がどのようにおこなわれているか理解するのが難しく、自分とはあまり関係ないと思う方もいらっしゃるでしょう。そこで、HonNeでは京都府立大学で主に財政学を研究されている、 三宅裕樹(みやけ ひろき)准教授にインタビューを実施。先生の研究テーマに触れつつ、財政を見るためのポイントを解説していただきます。当記事を読めば、財政の見方や自分との接点が理解でき、日々のニュースを読み解く力が身に付けられるでしょう。インタビュー日:2023年10月12日財政を理解するためのコツ財政が持つ3つの役割と3つの見方財政は重要だと理解しているものの、難しい印象もあります。財政にはどのような役割分担があるのですか?大きく3つに分けられます。1つ目は中央政府です。北海道から沖縄まで、47都道府県を統括して財政を管理しています。イメージとしては、いわゆる永田町・霞ヶ関が中央政府に当たります。2つ目は地方自治体です。各都道府県・市町村ごとの財政を管理します。3つ目は、社会保障基金です。年金や医療など特別な基金を積み立てています。これら3つの財政に、私たち国民の税金が行き渡ります。具体的には、所得税であれば中央政府、住民税なら地方自治体、年金は社会保障基金に振り分けられています。私たちが納めている税金がどこに行っているか把握できると、イメージしやすいですね。では、私たちの資産運用という観点からは、財政の動きをどのように見たらいいでしょうか?こちらも3つ挙げられます。1つ目はマーケットを規定する財政です。財政では事前に予算を決めますが、その使い方は日本経済全体の動向に大きな影響を与えます。また、予算の使い方によって、盛り上がる業界もあれば冷え込む業界もあります。2つ目は、投資ライバルとしての財政です。GPIFや大学ファンドなど、私たち個人投資家と同じように、政府自身も大きなお金を運用しています。どのような考え方で投資先を選んでいるか理解しておくと、ご自身の投資判断で役立てられます。3つ目は投資対象としての財政です。中央政府は国債、地方自治体なら地方債、他にも財投機関債など、各部署で借金をしています。そのため、私たちが直接的に投資して財政運営に関わることも可能です。財政が難しいと感じる原因今までは1つ目の見方が強い印象でしたが、投資家として活動するなら2つ目・3つ目の見方も重要ですね。おっしゃる通りです。どの立場で見るかによって、財政の見え方は変わってきます。2つ目は資産運用する主体、3つ目は投資する対象として財政を見るので、金融の側面が強くなっています。なので、投資家としては比較的馴染みやすい見方と言えます。1つ目は、金融というよりも財政学の見方になってきます。政府がどのようにお金を使うのかを決める際には、基本的に金融の発想とは大きく異なります。なぜなら、お金を儲けようという発想で使っていないからです。財政は日本全体を良くするため、困っている人を助けるために運営されています。社会をどうやって安定させるのか、格差を減らすことができるのか、狭い意味での経済とは違う視点で考える必要があります。つまり、全く逆の発想なんですよ。儲けることと社会を良くすることは全然違いますよね。このように財政には2面性があって、場面に応じて考え方を切り替える必要があります。財政は難しい印象がありますが、その原因は金融の視点から関わる要素があるからなんですね。では、投資家として関わる場合、具体的にどこに注目すればいいでしょうか?私たち個人投資家からすると、何百兆円ものお金を動かす中央政府には太刀打ちできないですよね。だから財政の動きに合わせて、「財政がこれからこう動くのなら、世の中はこうなるのでは?じゃぁこの分野に投資しよう。」という発想で投資するのは、1つの考え方として挙げられます。財政の動きがわかれば、1歩進んで自分自身の投資判断が下せます。財政のことを理解するのは、投資する上で大切なことだと私は思います。財政は、どうしても動きが遅いんですよ。学校でも学んだように、国民の税金をどう使うかを決める際には、あらかじめ国会や地方の議会を通す必要があります。通過しても官僚や公務員たちが色んな手続きをおこなって動くので、時間のラグが生じます。この時間のラグを先取りして、どこに投資するか考えることは有力な投資行動になります。国の借金に対する考え方借金が多いことは良くないこと?財政では国債・地方債などを通じて借金をしていますが、よく聞く意見として「日本は1人当たり1,000万円も借金している」という意見があります。この意見に対して、先生はどのような見解を持っていますか?さまざまな意見があるので、正直一概には言えません。しかし、少なくとも1つ知っておいて欲しいのは「ただ借金があるのか?」ということです。現在、日本には約1,000兆円の借金がありますが、そのお金は何に使われているでしょうか?橋や道路などインフラを作ったり、公営施設を運営したりするために使われていますね。つまり、日本には借金があると同時に資産もあるわけです。この話は、私たちの家計にも当てはまります。例えば、住宅ローンも一種の借金ですが、ただ借金している訳ではないですよね。住宅ローンを組むことで、マイホームという資産が手に入っています。したがって、借金だけ見るのではなく、その裏側にどのような資産が作られたか見ることも大切です。確かに、民間企業の貸借対照表も資産と借金を合わせて記載していますよね。ただ、借金と資産を同時に見るには、その資産が売却できる前提があります。じゃあ「橋や道路を転売できるか?」というと、個人や民間企業と同じように考えることはできません。例えば、道路を売却する場合、すべて買い取ってくれるほどの買い手がいるとは限りませんし、外国人投資家に買われると安全保障面での問題を考慮する必要があります。国の資産は国民が使うために作られているため、個人や民間企業のように単純に売却できるものとして見れない側面もあるのです。いわゆる担保の考え方が、財政では当てはまらないということですね。財政だからこそ考えられる、もう1つの考え方実はもう1つ、「そもそも国の借金って大したことないんじゃない?」という考え方があります。例えば、10兆円分の20年国債を発行した場合、本当に20年後に返す必要があるかというと、同じ金額の20年国債を発行して先送りすることが可能です。このような借金の先送りを「借換債」と言いますが、同じことは個人や民間企業ではなかなか政府のようにはできません。個人はいつか必ず死にますし、民間企業も永続性が求められるとしても絶対倒産しないとは限りません。ただ国の場合は、ちょっと不謹慎ですが国民がいる限り返済元である税金は集まります。その気になれば、一気に増税することも可能です。そのため、国債を繰り返し発行して永久に引き継ぐなら、実質的に返す必要がないとも考えられるわけです。このような考え方から、国の借金の大きさは、そこまで大した問題じゃないという意見も見受けられます。国が存在し続けている限り、借金を繰り返せば実質的に存在しないと…。ただ、借換債を何回も続けられるかというと、毎回同じ利子で借りれるとは限りません。例えば、最初は1%で借りれたのに、20年後は日本のマーケットが落ち込み、日本政府の信用度が下がっていると利子が3%に上がるかもしれない。つまり、将来のマーケットや日本政府の信用度がどうなるかわからないので、本当に同じ条件で借換債が発行できるとは限りません。もし出来なかったら、返済するために私たちの税負担が跳ね上がってしまいます。借金の大きさよりも使い方がポイントそもそも、なぜ国債・地方債を発行するのか?国債や地方債は私たち国民の税金で返済されますが、そもそもなぜ国債・地方債を発行する必要があるんでしょうか?時間のラグを埋めるためです。例えば、コロナ渦で日本社会が大きく混乱し、その対策として何十兆円という例年にはないお金が必要になりました。そのお金を増税すれば集められるかと言うと、混乱の最中では現実的ではないですよね。そこで、とりあえず国債・地方債を発行すれば、今困っている人を助けてコロナ渦を乗り越えることが可能です。もちろん返済する必要があるので、混乱が収まれば将来的に税金を増やして徐々に返済していきます。つまり、お金を使うタイミングとお金を集めるタイミングのラグを埋めることが大切で、その手段として国債・地方債が重要なんです。例えば、東日本大震災の復興で必要だったお金は、国民全員で負担しようということで復興増税が実施され、震災の後しばらくしてから少しずつ返しています。なので、コロナ渦で発行した国債・地方債の返済も、何かしらの形で増税されて少しずつ返していく流れになるでしょう。金額の大きさよりも健全な使い道が重要そう考えると、国を運営するために国債や地方債の存在は重要ですね。ただ注意したいのは、発行された国債・地方債で集めたお金が健全に使われるかどうかです。本当にコロナで困った人たちに使われたか、使われたとしても必要以上に使っていないか見る必要があります。お金の使い方と規模が理にかなっていれば、国債を発行する、そして将来私たちが税金で負担することも納得しやすいでしょう。日本の財政には、少子高齢化や安全保障などいろんな課題が挙げられます。そのような課題に対して、約1,000兆円の借金を納得した使い方ができていれば、そこまで大きな問題にはなりません。もし借金が膨らみ続けていることを問題視するなら、歯止めをかける仕組みがしっかり機能していればいいでしょう。つまり、国のお金の使い方に対して国民全員が納得できているかが、大きな問題でないかと考えています。現状、国民がちゃんと理解できないまま一部の偉い人が一方的に予算を決めたり、無駄な使い方が見つかってもなかなか修正しなかったりする部分があると、私は感じています。なので、本当に大事なところに予算を振り分けたり、無駄だった使い方が見つかったら軌道修正したりする議論を、積極的におこなうことが1番の課題だと考えています。借金自体の大きさではなくその使い方、財政運営に対するガバナンスが効いているかが、大きな課題ということですね。とはいえ、選挙や支持率調査の回答だけで、財政運営に変化を促すのは難しいでしょう。だからこそ、投資対象の財政として、投資家目線から財政のガバナンスにプレッシャーを与えることが鍵だと考えています。民間企業が何をしたいのかわからない経営をしていたら、投資家はその企業の株式を買うか迷ってしまいますよね。同じように財政が納得できないお金の使い方をしていると、投資家は財政に投資しにくくなります。となると、資金調達源である国債・地方債の買い手が減るので、金利を上げざるを得ません。当然、金利が上がると借金しにくくなるので、結果として財政のあり方を見直させるプレッシャーを与えられます。したがって、私たちが財政運営に対して影響力を行使することには、いろんな観点から相乗効果を生み出す可能性があると思います。 -
日本のキャッシュレス事情をまとめて解説!|専修大学 経済学部 小川健先生
「日本のキャッシュレス決済、多すぎてどれを使えばいいかわからない!」と感じたことはありませんか?ここ数年、さまざまなキャッシュレス決済サービスが普及しました。便利になった一方、使えるサービスが乱立し、どれが自分に合っているか迷ってしまう方もいらっしゃるでしょう。そこで、今回は専修大学で主に国際経済論を研究されている、 小川 健(おがわ たけし)先生(以下、OGAWA先生)に日本のキャッシュレス事情をお聞きしました。ここまで複雑になっているのは、日本ならではの背景があると先生は言います。日本のキャッシュレス事情を知りたい方は、ぜひ当記事をご参照ください。取材日:2023年9月14日キャッシュレス決済が重要な理由とは?当たり前に使っている銀行口座、実は珍しい?!日本のキャッシュレス事情を知るためにも、まずは日本の金融の現状について教えてください。OGAWA先生:まず日本の金融の強みとして、日本在住の日本国籍保有者の銀行口座保有率が他国より高いことが挙げられます。特に成人だと、銀行口座保有率は97〜98%となっています。ほとんどの銀行が口座維持管理手数料を取っておらず、水道光熱費や家賃などあらゆる支払いが銀行口座からの引き落とし・振り込みで済ませられます。企業が新入社員を採用する際、給与振込用の銀行口座を聞きますよね。「銀行口座はありません」と言えば、「作って来てね」と返されるのがオチになります。本来、給与の支払いは労働基準法24条で原則手渡しと定められています。給与の手渡しなんて、日雇いバイトくらいしか考えられないと思いますが、銀行口座は例外的な扱いです。それくらい、日本の金融は銀行口座によって支えられていると言えます。現金の弱みとは?当たり前のように銀行口座を持っていることが、実は凄いことだったんですね。OGAWA先生:そうですね。ただ、強みと弱みは表裏一体です。銀行口座を活用した現金の支払いが普及したことで、逆に新しい金融サービスが普及しにくい側面があります。「金融包摂(きんゆうほうせつ)」という用語をご存知でしょうか?どんな人・地域でも金融サービスを受けられるように、という意味で貧困対策でも使われています。この用語の背景には、現金だけしか使えないと出来ることが限られる、という実情が含まれています。具体的には、どのようなケースが考えられますか?OGAWA先生:例えば通販サイトでお買い物をする場合、支払い手段が現金しかないと、代金引換に対応している商品しか買えなくなります。なぜなら、代金引換は配達人を選ぶ必要があり、その配達人の安全性を確保する必要があるからです。結果として、支払い手数料が引き上がってしまいますし、買えないものが出てくるでしょう。海外通販サイトの商品も直接買うことができません。また、所有者の証明手段が今その場で持っていることに限られる点も、現金の弱みとして挙げられます。昔のCMにもありましたが、自分が保有している現金でも他人の手に握られていたら、持ち主は自分だと主張しても信じてもらえないですよね。一方、クレジットカードを使えば海外の通販サイトでも簡単にお買い物できますし、虚偽申告でない限り不正利用の申告は基本的に認められます。つまり、状況によっては現金よりもキャッシュレス決済を使える方が良いと言えます。そう考えると、キャッシュレス決済は重要な役割があることが理解できますね。日本のキャッシュレス決済サービスの現状中国大陸・韓国は普及率高!日本の普及率は?ここ数年で、キャッシュレス決済サービスがかなり普及した印象ですが、実際はどうなんでしょうか?OGAWA先生:実は日本のキャッシュレス決済の普及率は32.5%と、先進国の中でかなり低いんですよ。特に、同じ東アジアの中国大陸 ・韓国と比べて、さらに差が開いています。 引用:経済産業省「キャッシュレス更なる普及促進に 向けた方向性」中国と韓国は、80%を超えていますね!どうしてここまで普及したんでしょうか?中国大陸では、日本でも使えるAlipay・WeChatPayの2大QRコード決済アプリがかなり普及しています。ほとんどの支払いが、どちらかのアプリで済ませられます。韓国では1997年のアジア通貨危機をきっかけに、一定年商以上の店舗ではクレジットカードの取り扱いが義務付けられています。そのため、お店の支払いはほぼクレジットカードで済ませられ、結果として普及率が高くなりました。痒いところに手が届かない!日本のキャッシュレス事情中国と韓国、それぞれ異なるキャッシュレス決済が普及しているのが面白いですね!日本でもキャッシュレス決済が使える場所は増えていますが、使えるサービスが多すぎると感じています。OGAWA先生:そうですね。サービスが多様過ぎる一方で対応しているサービスがローカル過ぎる部分があることが、日本のキャッシュレス事情だと言えます。もし、外国人がキャッシュレス決済だけで日本を旅行するなら、空港に着いた時点で“詰み”になるかもしれません。 というのも、公共交通機関でキャッシュレス決済が使える場所が、日本で最も国際線が乗り入れている成田空港でさえも、かなり限られるからです。外国から来た人が持っているキャッシュレス決済では在来線・バスはほぼ直接の乗車には使えません。 切符を買うのにクレジットカードが使えたとしても、外国製だと一部使えない場合があります。また、オンラインサイトでの切符の購入もインターフェースが複雑で、購入し難い面があります。一方で、シンガポールでは「SimplyGo」という、Visaタッチ決済のような非接触型のクレジットカードで直接鉄道に乗れる仕組みが普及しています。 引用:MSNEWS「SimplyGo EZ-Link Gives You Unlimited Cashback With Every Tap, Save Money On MRT Rides」日本でも、一部の鉄道で採用されていますが、全国規模で普及するのはまだ先の話でしょう。でも、SuicaやICOCAなどの交通系ICカードなら、現金を使わなくても全国の電車やバスに乗れますよね?OGAWA先生:おっしゃる通りです。特に「10カード」と呼ばれる交通系ICカードなら、全国相互利用サービスに対応しており、ICOCA圏内でSuicaが使えるといったエリアを跨いだ利用が可能です。全国くまなく、とはいかないまでも都市部を中心に数多くの地区で使えるように広がりつつあります。 引用:TeraDas「交通系電子マネーの相互利用状況が分かる相関図」2023年10月時点で、Suica・PASMO・ICOCAがスマートフォンに対応しているので、初めて日本に来た外国人でも、アプリをダウンロードしたら交通系ICカードが使えます。ただ、日本の交通系ICの規格は国際的に少数派のFeliCaで、海外のAndroidスマートフォンだと使えないと言われています。しかも、海外でのスマートフォン普及率はiPhoneよりもAndroidが高いため、スマートフォンで交通系ICカードを使える人は限られます。プラスチックカードを買えばいいと考えがちですが、SuicaやPASMOなど一部の10カード系の交通系ICでは、2023年10月時点でプラスチックカードが販売されていない例もあります。 交通系ICカードを使いたくても、使えない人が多数なんですね。OGAWA先生:もちろん、外貨両替やキャッシングで現金を確保したら問題はありませんが、普段からその国のキャッシュレス決済に慣れている外国人にとっては、少々戸惑うかもしれません。なので、もし私が日本に来る前に相手へ手紙を送れるなら、「日本中多くの主要都市の鉄道・バスで使え、少額の買い物もできるカード」と添えて、数万円チャージした無記名のSuicaなど10カード系の交通系ICカードを送りますね(笑)。乱立する日本のキャッシュレス決済サービス、その背景とは?統一化されないキャッシュレス決済の規格どうして、日本は他の先進国と比べてキャッシュレス決済の普及速度が遅いのでしょうか?OGAWA先生:これは日本の色々な業種で起きていることですが、サービス提供会社・地域が各々規格を持ちたがるからです。先ほど申し上げた交通系ICカードの全国相互利用サービスは、正確に言うと「10カードの規格を地方へ一方的に開放した」という意味です。例えば、札幌市営地下鉄で使えるSAPICAや広島の路面電車・モノレール・バスなどで使えるPASPYは、Suica圏内では使えません。SAPICAやPASPYの圏内でSuicaなどは使えるのに、です。また、未だ交通系ICカード自体が使えないエリアも未だに多くあります。例えば東北圏内はまだまだ普及しておらず、2023年5月に青森県・秋田県・岩手県の主要駅でやっとSuicaが導入されたのが現状です。また、 JR四国の駅にも非対応区域は多いと言われています。 引用:読売新聞「JR東がSuica「空白県」を解消…ICカード対応改札機、一つもなかった青森・秋田にも」普及が遅くても、いずれ全国で交通系ICカードが使えるようになるのではないですか?OGAWA先生:実は、そうとも言い切れないんです。例えば、2022年に北海道釧路市では流通系ICカードと言われるAEONの電子マネー「WAON」で、バスに乗れるサービスが拡大しました。地方ではAEONの影響力が強く、お買い物で使うWAONでバスも乗れた方が助かるニーズがあるんです。他にも、一部の吉野家ではWAONと10カード系が両方とも使えるお店でも、両者の決済端末を分ける事があるくらい、相互利用のハードルは高いんです。このように、技術的・地域的な背景からキャッシュレス決済サービスの規格が分断されてしまって統一化が難しく、結果として普及が遅れていると考えられます。なるほど、今のお話はQRコード決済・送金アプリにも当てはまりますね。OGAWA先生:おっしゃる通りです。ここ数年でQRコード決済アプリが使えるお店は増えましたが、顧客データの確保・給与のデジタル払い・マイナポイントへの対応等で、サービスが乱立してしまいました。そのため、使えるお店が増えたと言っても、お店によって使えるサービスが異なり、使いたくても使えないケースが出ています。個人間送金も、サービス自体は便利でも使える機会が少ないと感じています。OGAWA先生:そうですね。サービス間の互換性がなくて、個人間送金も利便性があるとは言い難いです。例えば、主に横浜で普及している「はまPay」から「PayPay」への送金はできません。送金するなら、相手が同じサービスを使っていることが前提となっています。飲み会の代金をもらう際、各サービスの電子マネーで集められたとしても、互換性がなければ幹事も困ってしまいますね。このような背景から、数年前に「JPQR」というQRコード決済の統一規格の動きもありましたが、現状うまくいっていません。技術的な責任だけにはできませんが、異なるコード決済アプリへの送金は難しいのが現状です。日本ならではの事情で、キャッシュレス決済の普及・統一が上手く進んでいないんですね。キャッシュレス決済と合わせて注目したい変化ちなみに、キャッシュレス決済に関する変化として、先生が注目しているものはありますか?OGAWA先生:電子レシートと無人レジですね。お買い物でほぼ必ずもらえるレシートですが、受け取ってもすぐに捨てたりそもそも受け取らなかったりすることがほとんどではないでしょうか。レシートを電子化すれば、受け取りの手間が省け、レシートに使われる紙を削減することも可能です。電子化すれば家計簿アプリ等にも組み込みやすい筈です。また、レシートに使われる紙の多くはFaxでも使われる感熱紙で、紙の中でも再生困難と言われています。環境保全に繋がるため、米国では環境団体の後押しもあって、スマートフォンで受け取れる電子レシートへの移行が進んでいます。無人レジは、日本でも一部のコンビニエンスストアやファッション店で普及しつつありますね。商品をバーコードで読み取る作業を購入者がおこなえば、人件費の削減が可能です。中国大陸では、顔認証決済端末も普及しつつあります。入店時の顔と登録した顔が一致していれば、棚から商品を取ったまま店を出ても自動で決済されるため、財布・スマートフォンがなくてもお買い物できます。細かな違いはあるのですが、日本でも話題となったAmazonのレジ無し店舗「Amazon Go」も近い性質を持った実験として知られています。番外編:ニュースを俯瞰的に見る方法とは?先生のお話を聞いて、情報を多角的に仕入れていらっしゃると感じました。ニュースを俯瞰的に見るには、どうすればいいでしょうか?OGAWA先生:目的を持ってニュースを見ることが大切です。私の場合は、講義で使えそうかどうか考えながら読んでいます。研究者であれば自身の研究に活かせるか、教育に意識がある人は教材として使えるか考えるでしょう。大事にして欲しいのは、自分と関連すること・興味の向くことに繋げるように見ることです。やはり、人間なので興味の向かないことに意識は向きにくいですから。確かに、私も今回のようなインタビューをさせていただく機会が増えたことで、金融・経済に関する興味が大きくなりました。OGAWA先生:「投資の勉強をしたかったら、少額でもいいから買ってみよう」という意見がありますよね。これってある意味正しくて、自分自身の意識を投資に関連付けるための手段の1つなんです。例えば、投資信託を少しでも購入すると、運用報告書が年に数回届きます。1回でも読めば、新しい気づきを得られるかもしれません。気づきを得られれば、世の中の出来事が自分にも関係あると感じて、自然とニュースが読めるようになるでしょう。私も担当する講義で外貨建て保険を教えたいと思い、実際に入ることで日本建て保険との違いが理解できました。なるほど!ニュースを読みたくても続けられない場合は、自分と関連付けることや興味を持たせる工夫をすればいいんですね。自分にとって新しいことを知っていく意義・楽しさが理解できました。この度はお話していただき、ありがとうございました! -
国際貿易の視点から見る日本の未来|神戸大学 大学院経済学研究科・経済学部教授 胡雲芳
日本はバブル崩壊後、経済が停滞し続けていると言われ、「失われた〇〇年」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。しかし、日本国内に住み続けていると、今の日本がどのような状況にあるのか、把握するのが難しくなります。これからの日本はどうなるのか、日本経済は復活してまた成長できるのか気になるかもしれません。そこで、HoNneでは神戸大学 大学院経済学研究科で主に国際貿易を研究されている、 胡 云芳(こ うんほう)教授にインタビューを実施。先生の研究テーマに触れつつ、国際貿易の視点から見た日本の現状や未来をお聞きしていきます。より一層深い知識が知りたい方、専門家から経済を学びたい方は、ぜひ当インタビュー記事をご参照ください。変化の激しい時代のなかでも、変化し続ける世の中と向き合い続けるヒントが得られるでしょう。取材日:2023年9月22日【1】国際貿易の定義からわかる、日本の強み【1-1】そもそも国際貿易の定義とは?先生は国際貿易に関して研究されていますが、経済学における国際貿易の定義はなんでしょうか?国際貿易と言うと、モノのやり取りがイメージしやすいかもしれませんが、モノだけでなくサービスのやり取りも国際貿易の一部です。例えば、旅行や留学で外国人が日本に来ると、外国人がサービスを買う形になりますよね。このような、モノやサービスの国際間の取引を国際貿易と言います。国際貿易と聞くと、為替の存在は避けて通れないですよね?はい。国際貿易をおこなう以上、お金のやり取りも同時に発生します。国際貿易におけるお金のやり取りは国際金融と言い、学術的には国際マクロ経済学とも言います。ご存知のように、国内金融と国際金融の違いは、お互いの貨幣が違うことです。為替レートは、異なる通貨でも取引ができる重要な要素となります。例えば日本だと、自動車などの輸送機器および半導体関連の機械・機器等について、世界市場で比較優位を持っています。貿易収支が黒字になって円高になると、日本の商品・サービスが売れにくくなります。逆に円安だと、外国から輸入する資源の円建ての価格が上がるため、資源が少ない日本に住む私たちの生活に大きな影響を及ぼします。ただし、いずれにしても外国と貿易することで、日本全体としては利益になることは間違いありません。【2-2】技術大国日本、現状はどうなってる?国際貿易において、日本の強みは何でしょうか?日本の強みは沢山あります。やっぱり高い技術力を持って、上手に綺麗で高品質な製品が作れることですね。日本の自動車は勿論、化学品、精密機械および集積回路・半導体製造機器機械なども世界市場で高い競争力を持っています。古典的な貿易理論では、各国の特有な生産要素や資源賦存による優位性に基づいて貿易のパターンを決めます。いわゆる、自国に相対的に豊富な資源を利用し、優位性のある商品を安く作れるため、自然と国際競争力が高くなると考えられてきました。現在は国際市場において、自国企業の競争力を生かして産業間の貿易をおこなうことが重要視されています。日本の場合だと、資源を豊富に持っていない代わりに技術力を高めることで、国際競争力を付けてきました。特に、自動車のような最終財や、自動車の部品といった中間財が強いですね。以上のように、たくさんの分野で日本は国際市場に対して強い競争力を持っていることは、ぜひ忘れないで欲しいです。しかし、米国や中国など、日本と同じくらい技術力が高い国が増えていますよね。この場合、何が重要になるんでしょうか?確かに現代的不完全競争貿易理論では、産業内の貿易が重視され、特に日本と米国のような先進国同士での間では、このような産業内貿易においてはブランド力が大きく影響します。商品だけではなくサービスを含む技術力で裏付けされたブランド力が世界で競争することが、これからの日本経済全体が競争力を高める鍵になるでしょう。トヨタのブランド力は言うまでもなく、日本特有のサービスのブランド力ももっと発揮すべきできないかと思います。【2】日本の国際競争力を高める鍵は?【2-1】国際貿易でも問われる生産性そのためには、先生として何が必要だと考えられますか?大企業だけでなく中小企業も国際市場で活躍できることです。とはいえ、国際市場へ進出するには、それ相応のコストがかかります。中小企業が自ら海外に市場開拓するのは難しいのが現状です。ただ、日本の自動運転スタートアップが中国のEVメーカーと提携するニュースがあったように、国際間の協力で市場開拓ができれば、日本の中小企業が世界で活躍できるでしょう。なぜ、中小企業が国際市場で活躍しづらいのでしょうか?2000年代以降の産業内貿易について注目されたのは、同じ産業の中では大企業と中小企業を区別し、国際市場での競争力によって、国内市場で生き残れるかどうか、生き残った企業が国際市場に進出可能かどうかについての議論です。これを最初に研究したのは、メリッツという著名な国際経済学者です。イメージとして簡単に言いますと、横軸を企業の生産性、縦軸を利益としてグラフで表すと、生産性が小さい企業は国内市場しか事業をおこなえず、生産性が高い大企業は海外進出できていることがわかります。市場参入特に海外市場の開拓コストを考えますと、確かに財力的に中小企業にとっての壁が高いことがわかります。ただし、近年IT技術と規制の進歩によって、より深い経済統合が可能になり、新興企業や小規模企業も参入障壁を軽減され、海外市場にアクセスしやすくなりました。ここでカギになるのは中小企業のIT技術力です。世界的なデジタル・ネットワークにどこまで参加できるかということですね。【2-2】危機をいち早く脱出するために必要なもの日本の経済が成長するために、中小企業の生産性以外に考えられる課題はありますか?リーマンショックやコロナ禍のような危機が起きてから、いかに早く回復できるかですね。資料によりますと、アメリカと中国は金融危機が起きた2008年末から2014年の四半期までそれぞれ14%と65%とGDPが成長し回復しましたが、なかなか元の成長経路に戻らず長期停滞(Stagnation)に陥る経済も少なくありません。日本もバブル崩壊後に長期的な停滞にあると言われています。その原因の一つとして、金融市場の効率性に関連があるといわれています。この金融市場の効率の差が企業の参入・退出のダイナミクスに差をつけ、ショックから経済回復スピードの差が生まれると関連研究では推定されています。2015年の日銀リサーチラボによりますと金融危機後の景気回復が緩慢であった原因の一つは、「企業の資金調達環境の悪化を通じた生産性の低迷」だと指摘されています。例えば米国の場合、コロナショックが起きた2019年から2020年の間に新規ビジネスが生まれた数が20%も上がりました。金融市場があまり発展していないと思われがちな中国がベンチャーキャピタル取引額においてすでにアメリカ市場に続いて世界2位になったことが最近の研究で判明しました。これによって、中国でも新規ビジネスが多く生まれております。つまり、金融市場の効率性、特に資金調達力を高めることで参入と退出がうまく円滑化されているのです。他にもさまざまなケースが考えられますが、参入と退出のスピードを高めることで、リーマンショックやコロナ禍といった大きな危機から早く回復することが可能だと考えています。なぜ、日本は参入と退出が比較的遅いのでしょうか。難しい質問ですね。我々の進行中の研究では、新規企業の育成における金融市場の働きを究明することを目指しています。金融市場がうまく機能すれば、生産性の低い企業・産業の退出と将来の可能性が大きい産業への資源配分の転換が効率的に実現可能となり、経済全体の生産性上昇にもつながるのではないかと期待しています。例えばコロナで一気に普及したZoomは、10年ほど以上前からエンジェル投資を受けてきました。逆に言えば、投資を受けられなかったら、今のような大きな発展はなかったかもしれません。それくらい、スタートアップが資金調達できる環境は重要なのです。【3】国際貿易では避けて通れない政治的側面国際貿易は、政治的な影響も受けると思います。日本が国際貿易を続けられるためには、何が重要でしょうか?国際競争力を保つためには、地政学的なリスク分散が重要です。日本の製造業はアジアを中心に成熟しており、特に中国は最も大きな投資先かつ貿易相手です。ここで何か問題が起きると困りますよね。場合によっては、経済安全保障の観点から考える必要もあります。実際、コロナ禍で半導体の供給が滞ってしまったことをきっかけに、半導体の生産拠点を海外から日本国内に移す動きも出ています。グローバルバリューチェーンは日本経済において非常に重要な役割が果たされ、今まで培ったネットワークが壊れないよう、今後の動きに注目していきたいですね。国際貿易は為替の影響も考慮する必要があります。ここ数年、日本の円安が続いており、国際市場における日本の競争力はどうなっているでしょうか?確かに、米ドルやユーロと比較すると、円安が続いていることが目立っていますね。円安は日本のサービス業にプラスの影響を与えますが、輸出促進効果が弱まっていることがデータで示され、円安の正の効果が以前より弱くなるように思われます。また、円安による資源を中心とした輸入負担増、人員の国際間移動のコスト増にもなっており、今後も注目したいです。【4】日本が成長するために若い世代に求められること・出来ること日本にとって国際貿易がいかに重要か理解できました。日本の国際競争力を高めるためにも、今の日本に必要なことは何でしょうか?これからの国際競争力は人材の競争ともいわれています。若い世代が日本の将来に自信を持つこと、能力・実力がある人に見合った環境を提供すること、この2つが大切だと思います。能力・実力がある若い世代が、世界で活躍できることが勿論良いことですが、日本でも有能な若手が活躍できる環境が提供できれば、世界から人材が集めてくることが可能ですし、AIなどの新しい技術を含めて、次世代の技術発展につながることができます。私たち個人としては、何が大切になりますか?以前、私のゼミ生から「なんで経済成長させないといけないの?今のままでも十分に便利な生活が送れるじゃん」という質問を受けました。一見、その通りかもと思うかもしれません。しかし、今の便利な生活を維持するために、経済成長させる必要があるのです。実際、年金や医療保険など、今の生活を維持するための財政負担が大きくなっています。日本の充実した生活を守るために、経済を成長させて日本の財政を保たないといけません。若い世代の中には、年金をもらえないと悲観的に思う人がいるかもしれません。Animal spiritsまたは自己実現(self-fulfilling)という行動表現があり、人々の思いや行動によって、実際の経済に影響を与え、結果として人々の思う方向へ経済が動くことが可能なことを指します。年金はもらえないと諦めるのではなく、年金をもらうために、今どのような行動が必要か、と考えて欲しいなと思っています。個人の生産性を高めることについて、最近は女性の労働環境も注目されています。女性がもっと活躍するために、何が重要だと考えていますか?近年日本の女性が積極的に市場進出し、世界から見ても高い市場参加率になりました。1980年代からのデータ分析から見れば、日本女性の労働環境は良くなりつつありますが、まだまだ改善の余地があります。例えば、男女間の賃金格差が依然として残っていますし、休みの取りやすさや育休からの復帰のしやすさも課題になっています。女性の社会進出は、日本経済全体にとっても重要な意味を持っています。我々の試算では、もし男女の労働環境が同じように改善されれば、女性と男性の労働意欲ともに高くなることが可能で、これによって日本の財政状況の改善にも繋げられます。そのため、だれでも働きやすい環境づくりに可能な範囲でサポートすることを意識して欲しいなと思います。国際貿易という大きなテーマでインタビューさせていただきましたが、突き詰めると私たち1人ひとりに関わる話でびっくりしました…!では、最後に読者へメッセージをお願いします。英語が苦手だと思っている日本人が少なくないですが、私は日本人の英語力は高いと思っています。実は、外国の方とはキーワードだけを言っても、お互いコミュニケーションを取れるので、周りの異文化の人と友達を作ったらいかがでしょうか。これは国際貿易と同じ理屈で、きっと双方ともに利益になると信じます。日本の英語力は低いと思っていて、私も自信がなかったんですけど、すごい勇気をもらえました…!身の回りだけでも、積極的に英語を使ってコミュニケーションを取ってみます。今回はインタビューを受けていただき、ありがとうございました!