2024.04.11

企業のSDGs戦略:持続可能な社会への道筋


2015年9月に国連総会で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」。今では「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉を聞かない日はないほど、私たちの社会生活に溶け込んだ考え方となっている。

しかし、企業経営という側面からみるとまだまだ未開拓な部分が多いようにも感じられないだろうか?

そこで今回は東北工業大学の小祝 慶紀 教授にお話を伺った。

小祝 慶紀
インタビュイー
小祝 慶紀氏
東北工業大学 ライフデザイン学部
教授


「環境経済学」と「法と経済学」という2つの分野の融合を目指して


イメージ画像
―――まず、教授の研究テーマ、研究概要を教えてください。

私の専門分野は「環境経済学」と「法と経済学」です。

「環境経済学」は、経済的なインセンティブによって環境問題の改善や保全を研究する分野です。その一つに、環境を意識する生活様式にもっていくため上手くお金をインセンティブにしようというのが環境経済学の考え方です。

実際、私たちはすでに環境経済学のなかで生活をしています。どういうことかというと、ごみを出すために地域指定ごみ袋の購入が必要な地域があると思います。ごみを出すためには、1枚数十円のごみ袋を購入しなければならない、つまり、ごみ処理にはコストが掛かることを意識してもらい、そらならごみを出す量を減らしていきましょうというインセンティブになるのではないかというのが、まさに環境経済学なのです。

現在、地域指定ごみ袋は1枚数十円です。地域指定ごみ袋制度の導入直後はごみの排出量は減少しますが、その後ごみの排出量は横ばいになってしまいます。なぜなら、人は日常的に支払う地域指定ごみ袋の金額に慣れてしまうからです。仮に地域指定ごみ袋が1枚1,000円となったとしたら効果が期待できるかもしれませんが、1,000円は高すぎる……。

もうひとつ具体例を挙げると車のガソリン代にかかる地球温暖化対策税(環境税)も環境経済学のひとつですが、ガソリン代にかかる地球温暖化対策税はリッターあたり0.76円と1円にも満たない価格であるため、車を乗る人であっても知らない人が大半であり「CO2排出量を減らそう、車を乗る機会を減らそう」と意識する人は少なく、インセンティブにもなっていません。

このように環境経済学は、理論上では上手くいくが、政策に落とし込んだ時に、人々にとってのインセンティブになるかという点が非常に難しい分野なのです。

もうひとつの「法と経済学」は、経済的な負担や経済的なインセンティブが制度(法)のなかでどのように働くかを考える分野です。私は、環境に負荷を与えた人が環境汚染の防止や対策にかかるコストを負担すべきであるという「汚染者負担の原則」を法制度のなかできちんと確立した場合に経済的にどのような影響を及ぼすかを研究しています。

「環境経済学」はお金、「法と経済学」は制度と見方は違いますが、この2つの分野を上手く融合させることはできないかというのが、私の主な研究領域になります。

企業経営におけるSDGsの取り組みの現在

イメージ画像 昨今、SDGsという言葉を聞かない日はないほど社会にSDGsは浸透着てきています。なかでもSDGsを企業経営に組み込むことの意義と現状の立ち位置を教えてください。

2015年9月に国連総会で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」は、持続可能な開発のための17の国際目標です。

  1. 1.貧困の撲滅
  2. 2.飢餓撲滅、食料安全保障
  3. 3.健康・福祉
  4. 4.万人への質の高い教育、生涯学習
  5. 5.ジェンダー平等
  6. 6.水・衛生の利用可能性
  7. 7.エネルギーへのアクセス
  8. 8.包摂的で持続可能な経済成長、雇用
  9. 9.強靭なインフラ、工業化・イノベーション
  10. 10.国内と国家間の不平等の是正
  11. 11.持続可能な都市
  12. 12.持続可能な消費と生産
  13. 13.気候変動への対処
  14. 14.海洋と海洋資源の保全・持続可能な利用
  15. 15.陸域生態系、森林管理、砂漠化への対処、生物多様性
  16. 16.平和で包摂的な社会の促進
  17. 17.実施手段の強化と持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップの活性化

採択された当時(2015年)は私たちの身近なものというイメージはなかったでしょう。しかし、今ではSDGsを意識しない企業経営は厳しいと言えるほど、SDGsを意識せざるを得ない状況になってきています。大手企業だけでなく、地域企業においても環境面のSDGsの考え方を企業理念の中に含める企業も出てきている……そのような時代になったのだと思います。

【参考】環境省:持続可能な開発のための2030アジェンダ/SDGs

―――SDGsと企業経営という文脈において、特に注目が集まっている取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか?

私の専門領域でお話すると持続可能な社会である「循環型社会」をどのように作っていくかという点が重要になってくると思います。

特にSDGsの17の開発目標(ゴール)のなかでは「7. エネルギーへのアクセス」にあたる、エネルギー問題は企業を取り巻く大きな課題であり、新しい市場を作っていく分野でもあると思います。

あるシンクタンクの調査でも「SDGsの17の開発目標のなかで今後、市場規模として拡大が見込まれる分野は何か?」というアンケートの結果は「エネルギー問題」が多く挙げられたそうです。「エネルギー関連で企業業績を伸ばし新たな市場を開拓する」や「現在使っているエネルギーをいかに循環型エネルギーに替えていくか」など、企業経営の大きな柱になるものと考えています。

金融機関でもSDGsを進めている企業には融資を積極的に行ったり、利率を緩和したり、銀行が脱炭素化を達成した企業を表彰したりと、企業にとっての新しいビジネスチャンスにもなっていると思います。

企業のSDGs達成のために必要なのは「気づき」と「アピール」


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―――企業のSDGsの取り組みにおける最大の課題どのようなものが挙げられますか?

ひとつはSDGsに取り組んでいると誇示するばかりで、実態が伴っていない企業があること。そしてもうひとつは、企業のなかでもすでにSDGsの取り組みに当てはまる活動をしているにもかからず、それが社会に示せていない(SDGsの取り組みであることに気が付いていない)企業があることです。

特に地域企業へ講演に行くと、昔から続けている小さな取り組みであるが故にSDGsに結び付けられていないことに気が付くことが多くあります。

とある印刷系会社を例に挙げてみます。この企業では「エコキャップ活動」や「環境に配慮した印刷物」、「地域の清掃活動」を長年続けていました。しかし、SDGs のために始めた取り組みではなく、長年続けている取り組みであることで、17の目標のどこに結び付けられるかがわからなかったそうです。そういった小さな活動をSDGsとマッチングさせることにより、銀行の融資が受けられたなど会社経営が変化したという事例がありました。小さな取り組みかもしれませんが、企業経営にとっては大きな一歩になるはずです。

―――では、企業がSDGs達成のために直面する経済的・社会的な障壁はどのようなものが考えられますか?

先ほどもお話したように「SDGsに取り組めているかどうかがわからない」という企業も多く、そこを認識させることが難しいと思っています。企業経営にとってSDGsが大事であることは伝わっているが、経営者に大事さをどう伝えるか、啓蒙していくかが求められていると感じます。

そこで重要になるのが、社会全体として企業にSDGsという考え方を求めるような社会にしていくことです。しかしそうならないのが最大の障壁と言えるでしょう。

社会全体として「SDGsに取り組んでいる企業の製品を積極的に購入しよう」という考え方に変化していかなければ、せっかくSDGsを取り入れた理念であっても表に出ることはないでしょう。

一見すると、お金を取ることでコストは増えているように感じますが、実は、このように社会が変化すると経済的に社会的コストは下がる可能性があります。 先ほど例に挙げた地域指定ゴミ袋が1枚1,000円だった場合、ゴミを出す度に1,000円かかるならば、ゴミを減らそうと思う人が多いでしょう。そうすれば、ゴミを処理する費用も減り、社会的な負担が減少することになるのです。

みんなでこのような事実を認識し、社会や経済活動を作っていくことが大事なことだと思います。

また企業としても、ラベル(広報)を明確化することも求められるでしょう。「この企業は環境に配慮している」と消費者にうまくアピールすることが重要です。

重要なのは社会的責任のある存在であることを自覚すること


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―――教授が考える、SDGs達成に向けて、企業が取り組むべき新たな戦略や将来的なイノベーションはありますか?

そもそも企業がSDGsに取り組む場合、儲けに繋がらなければいけません。CSRは企業がコストを負担するという考え方でした。しかし、SDGsはコストだけでなく、企業利益にも結び付けていくのが考え方の一つです。

そのためにはSDGsの取り組みを理解している人材育成が大切になってくるでしょう。どうしても企業は、新卒採用よりも即戦力になる中途採用に力を入れがちですが、人的なデコボコのある企業は生き残れない時代になってきています。

―――教授が見る、持続可能な未来に向けた企業の最も重要なステップとは?

企業は、まず社会的な責任に持っていることを自覚し、そこからDXなど戦略やイノベーションを進めていくべきだと思います。

従業員1名を雇っている企業だとしても、その1人には家族がいます。企業は経営者自身の家族を含めて社会的に守っていく必要があります。

それはSDGsの根幹である「誰も取りこぼさない」という考え方にも繋がり、取り残さない経営をすれば地域にとっても有用であり、人材も集まり、イノベーションも進んでいくでしょう。

私としては特にGX(グリーントランスフォーメーション)と言われる、温室効果ガスを発生させるエネルギーから、CO2を排出しないクリーンなエネルギーへの変革に興味を持っています。GXから新しいイノベーションが生まれるような気がしています。

最後に読者に伝えたいメッセージをお願いします。

私たちの世代で、環境やエネルギーを使い切ってはいけないのです。企業が取り組むことも重要ですが、私たちも社会的な存在として「次の世代に社会をどう繋いでいくか」を真剣に考える必要があるでしょう。

SDGsは2030年までに達成すべき目標ではありますが、2030年が来たら終わるものでもありません。永遠に続くものであり、基本的な考え方である「持続可能性」は常に考え続けるべきです。

実際、地球温暖化については約30年間「このままではまずい」、「海面が〇㎝上昇している」など同じ議論が繰り返され続けています。

なぜでしょう?特に環境問題は「これでいいのか?」と疑問を持って欲しいです。疑問を持つことで、色々な問題が見えてくるでしょう。

最後に本学でのSDGsの取り組みを紹介させていただきます。東北工業大学では、「東北SDGs実践研究拠点」という活動に取り組んでいます。これは東北SDGs研究所をいくつか立ち上げ、地域との連携を図りながら、東北地方におけるSDGs経営や技術革新に寄与していこうという活動です。 気候危機、地域対策などの研究拠点があり、地域と連携しながら進めています。「東北SDGs実践研究拠点」は、地域からも期待されている活動になっています。

参考:東北工業大学 東北SDGs研究実践拠点

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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