2024.02.15

食卓から未来へ:フードロス半減の可能性。


唐突な質問だが、明日スーパーに行って野菜と肉を購入しようとしたら、国内産の商品はなく、値段はすべて1.5倍になっていたらどう思うだろうか?だがこのような現状は、10年後の未来に起こりうる可能性も秘めている。

今回は、SDG12の3番目のターゲット(SDG12.3)でもある食品ロスについて、大正大学・地域創生学部・地域創生学科の岡山朋子教授を取材した。食品ロスの問題は、私たちの生活そのものに深く関わっており、問題を深掘っていくとさらに大きな問題が浮かび上がってくるのだ――

食品ロスの問題に焦点を当てる中で、見えてきたことは日本における食料自給率の問題、そして「生存に直結する安全保障問題」と位置付けるほどの、課題の重要性だった。

岡山 朋子
インタビュイー
岡山 朋子氏
大正大学 地域創生学部 地域創生学科 教授

大正大学・岡山教授研究のきっかけは、名古屋のごみ問題から?


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―――研究概要について教えてください。

私の専門分野は、環境に与える負荷をできるだけなくすための環境政策に関する研究です。その中でも主に「ごみ」に関連した研究をおこなっています。ごみの3R(リデュース・発生抑制、リユース・再使用、リサイクル・再生利用)に焦点を当て、資源としての循環利用を目指しているんです。日本は、物質資源が豊かではないため、資源を大切にしなければならないと思ったことがこの研究のきっかけです。

ごみの3R政策研究に興味を持ったのは、私が名古屋に住んでいた1999年のはじめに、名古屋市がごみ非常事態に直面したことに端を発します。当時の名古屋のごみは、すべてを焼却もできず、埋める場所もないという状況に陥ったんです。

その後、名古屋市ではびん、缶、ペットボトルの他に紙製容器包装やプラスチック製容器包装なども資源化する取り組みが始まりました。私は当時、名古屋のごみの3Rに関するNPOで働いており、市民の立場からこの問題に取り組みました。2001年に名古屋大学の大学院に環境学研究科が設立され、そこで環境政策に関する研究を深めようと進学し、現在に至ります。

―――ありがとうございます。なるほど、市民としての立場から研究に関わってきたわけですね。その中で食品ロスの研究もされていたんですか?

はい、食品ロスも、ごみの問題です。特に家庭の生ごみに興味があります。2000年に制定された食品リサイクル法や、食品ロス削減の取り組みは、私の研究の重要なテーマの一つです。自治体によって異なりますが、だいたい可燃ごみの40%が食品廃棄物(生ごみ)です。

生ごみを資源化リサイクルすることで焼却量を減らすことができますが、食品リサイクル法は事業者が対象で家庭に分別リサイクルの義務はありません。さらに生ごみのうち、食品ロスは統計上の齟齬もあって実態は明らかではありませんが、私の調査では平均すると約45%です。つまり、家庭から出る生ごみのうち、半分近くが食品ロスなんです。

食品ロス削減の具体的な方法が確立されていない。

解説画像 ―――循環型社会政策におけるフードウェイスト(Food Waste)の位置付けや気づきはりましたか?

SDG12.3は、2030年までに食品廃棄物(フードウェイスト)を半減させるという目標です。2015年に制定されたSDGsですが、すでに半分過ぎて、2030年までは6年しかない状況です。

日本もSDGsに呼応する形で、2019年に「食品ロス削減法」を制定しました。しかし、国民の間で食品ロス削減に対する意識はまだ薄いと感じています。食品ロスの定義もまだ曖昧で、特に小売と消費レベルでの食品ロス半減がターゲットとされていますが、削減対象となる食品の範囲や削減方法についてはまだ十分な議論がなされていません。

多くの人が食品ロスという言葉を知っているものの、それが自分たちとは無関係であるかのように思っている人が多いように感じます。そもそも、日々の暮らしで捨てている生ごみのうち、半分近くが食品ロスだと、誰も思っていないのではないでしょうか。このように食品ロスと食品廃棄物の定義は法律上も曖昧なため、多くの消費者や事業者にも削減の意図が正確に理解されていないのが現状です。

―――なるほど…食品ロス問題を取り巻く複雑さを示していますね。

そうです。例えば、店頭の売れ残りのみならず、市場に出ない野菜や、形が悪いために捨てられる食品など、食べられるのに廃棄される食品は多いです。食品ロスとは、本来食べられる部分が無駄になることを指しますが、この「まだ食べられる」という定義すら十分に定義されていないのです。ぼやけている対象を半減しろと言われても、困りますよね。

また、食品リサイクル法は事業者には適用されますが、家庭には適用されません。一方、食品ロス削減法は当初は家庭の食品ロスが対象だったのですが、すべての事業者の食品ロスにも対象が広がりました。これもまた食品ロス問題の複雑さを増しています。

―――事業者側と消費者側、両方に課題があるということですね。

少し細かいお話をするとSDG12.3は「2030年までに、小売・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食品廃棄物(フードウェイスト)を半減させ、収穫後損失などの生産サプライチェーンにおける食品の損失(フードロス)を減少させる。」と記載されています。ここでのフードウェイストとフードロスは、日本語での食品ロスと同義です。

つまりスーパー、飲食店、家庭における食品廃棄物を半減させるという目標が記載されているわけです。しかし、例えば居酒屋で食べられるけれども残される刺身のつまやパセリなど、どこまでが食品ロスに含まれるかも明確ではありません。

ですから決まった計測方法もないですし、食品ロス削減の具体的な方法もまだ確立されていないのが現状です。食品ロス削減法に基づく政策は、飲食店での食べ残しを持ち帰るドギーバッグと、家庭の不要な食品を寄付するフードドライブが明示されていますが、刺身のつまを持って帰るでしょうか。家庭の食品ロスは賞味期限切れ食品が多いのですが、期限切れ1ヶ月前の寄付が求められて、家庭の食品ロスをどれだけ削減できるでしょうか。
解説画像 すべての「食品廃棄物(厨芥類・生ごみ)」は、まず食べられる「可食部」と食べられない「不可食部」にわけることが可能です。不可食部は、例えば鶏肉を精肉するさいに出る鶏の羽や、家でローストチキンを食べた後に残る骨などです。これは減らす(発生抑制する)ことはできない回避不可能な食品廃棄物で、食品ロスではありません。

一方可食部は、食べられる(可食な)のに捨てられてしまう部分が含まれます(回避可能性のある食品廃棄物)。例えば、長ネギの青い部分や人参の皮などですね。刺身のつまもそうです。それに対して、狭義の食品ロスは、野菜の使い残しや賞味期限切れで捨てられる食品を指します。

つまりおそらく一般的に合意される食品ロスとは、回避可能な食品廃棄物のことを言うのです。このような構造がある中で、その食品を廃棄物と捉えてリサイクルすることと、食品ロスとして人に食べさせる(食用にする)ことのどちらを優先するべきなのかも、議論の対象にすべきです。

食品ロスは、社会全体の問題。


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―――今後の食品ロス問題の解決に向けて、どのようなアプローチが必要だとお考えですか?

現在、国からはドギーバッグの使用促進や食品の寄付(フードドライブ)など、様々な方法が提案されていますが、これらは食品ロス全体の中で見れば本当にほんの一部を削減させるに過ぎませんし、そもそも効果があるかどうかも不明です。食品ロス削減のためには、食品を無駄にしない文化の醸成や、消費者と事業者の意識の変革が必要です。また、政府も食品ロス削減のためのもっと効果的かつ具体的な方針と支援策を提示する必要があります。

私は、食品ロス削減は環境問題への対応のみならず、日本の大きな社会課題だと考えています。消費者と事業者、政府が一体となってこの課題に取り組むことが重要です。

―――食品ロスについて、事業者や消費者の間には様々な認識の違いがあるようですね。

そうですね。飲食店や小売店でも食品ロス削減の取り組みが進んでいますが、家庭での食品ロスは大きな問題です。賞味期限は作りたての美味しさの保持期間ですから、切れても普通に食べられますし、その期間も相当に余裕があるので、いきなり不味くなるわけでは決してありません。十分食べられるにも関わらず、賞味期限が切れたからと行って、捨てられることが非常に多いです。

食品ロスの問題は、消費者の食の安全に対する意識や賞味期限に対する誤解から始まります。スーパーマーケットやコンビニの手前どり、閉店間際の食品の値下げによる売り切りは、食品ロスを削減しようとする事業者に対して、消費者がどのように対応するかに大きく影響されます。

―――それでは、消費者一人一人が食品ロスを解決するためにどのような行動が求められるのでしょうか?

消費者としては、賞味期限や食品の状態を正確に認識し、無駄に捨てずとにかく食べ切る・使い切ることが重要です。また、飲食店での食事においても、食べ残しをしないことが大切です。食品ロスの問題は、一人一人の食生活や価値観、意識から始まるので、その変革が必要です。

―――食品ロス削減のためには、消費者、事業者、そして政府の協力が必要なのですね。

まさにそうです。食品ロス削減は、社会全体の課題です。消費者の意識改革、事業者の取り組み、政府の方針と実効性ある政策が一体となって、食品ロス削減を実行する必要があります。SDGsの基本理念の通り、誰一人関係ない人はいません。みんなで取り組まなければなりません。

日本の農業を守るためには、農業を守ることが重要。


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―――食品ロスの話を伺ってきましたが、どのようにしてこの問題に対処していくべきでしょうか?

食品ロス削減という課題の前に、そもそも日本の食料自給率の低さがかなり問題ですね。

日本の食料自給率は非常に低いため、多くの食品を外国からの輸入に頼っています。食料自給率が低い状態が続くと、将来的に食品の供給が不安定になり、価格が高騰する可能性がありますね。農林水産省が発表した2022年度・日本の食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで58%です。G7の中でも日本の食料自給率は突出して低いと言えます。

特にタンパク質の自給率が著しく低い状況が続いています。日本は海に囲まれていますが、魚介類(食用)は56%に留まり、肉類は8%、卵13%、大豆7%、という極めて乏しい状況(2021年)です…。これは家畜の餌を自給できていないことによります。小麦も国内では13%しか生産されていないため、残り87%は他国から購入しているわけです。

―――そうですよね…この深刻な状況を打開する方法は何かあるのでしょうか?

食料自給率の問題は、安全保障にも関わる重要な点であるということを国・国民がきちんと認識する必要があります。どんなに武器を備えても、食料がなければ国民は干上がります。

日本はこれまで工業で稼いだお金で食料を海外から購入するという政策を貫いてきました。一般の消費者は、スーパーで食品を買って、食べなかった食材は捨てる―― そして次の日にはスーパーで食材を購入すれば良いという生活様式が当たり前になっています。

ですが、昨今の紛争や戦争、温暖化の影響、さらに円安もありの食材の値段は高騰しています。今はまだ『少し値段が上がったけど、まだ耐えられる』程度の感覚かもしれませんが、5年後10年後を考えると従来の値段で購入できていた食材は、外国からも買えなくなる可能性があり、日本の食品の価格は、どんどん値上がりを続けることが予想されます。

技術力が低下する日本は自国から他国に輸出できる商材がなくなる―― そして日本円の価値も下がっていく―― その結果、食べ物の金額が高騰していくことが考えられますね。

このように食品が貴重なものになったとき、簡単に食品を捨てることができるでしょうか。逆説的ですが、食料安全保障が危うくなれば、きっと食品ロスは激減するでしょう。しかしこれは打開策ではありませんね。

―――なるほど…食品ロスしかり、食料自給率しかり、国民の私たちが意識を変えるしかないということですね。

そうですね。特に政府は食品生産者を経済的に支援し、食料自給率の向上を目指すべきです。日本国内では、農家が高齢化していて今後急速に農家数が減少していきます。つまり食べ物を作る人たちがいなくなるわけですよね…。新規就農者支援施策も見受けられますが、野菜を販売しても生産コストが高いわりには、農作物の価格は低く利益率も低いので跡継ぎもいません。

そのため、日本の食料自給率を上げるためには、政府が食品生産者を手厚く保護することが必須ですね。例えば、スイスでも日本と同じく、農業の方とその他の業種だと賃金の格差が大きいのが現状です。しかし日本と違うところは、スイスは食料自給率が安全保障の問題に関わるということを自覚し、農業生産者に対して補助金などを導入し他業種と変わらない収入を保証しています。

政府の農業支援策も、この重要性を反映しています。2011年のデータによれば、スイス政府は農家に対し、年間約35億スイス・フラン(約3,675億円、1CHF=約105円)の財政支援を提供しているとのことです。この支援額は、農業部門がスイス国内総生産(GDP)に対して貢献する割合とほぼ等しい水準になっており、国の経済における農業の重要性を物語るものと言えるでしょう。

出典:
水産庁『令和4年度の水産物自給率』
農林水産省『大豆のまめ知識』
日本貿易振興機構(ジェトロ) ジュネーブ事務所『スイス農業政策の改革』



食料自給率という問題に向き合い、私たち一人ひとりが声を上げる必要がある。


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―――最後の質問ですが、読者の方へメッセージをお願いします。

まず、自らの食生活を見つめてください。毎日、どのくらい食品を捨てているのか自覚した上で、日々の廃棄行動を改善することが重要です。食品の価値を認識し、生産者を支援することが食料安全保障に繋がります。政治に対しても、真剣な取り組みを求める声を上げることが重要です。私たちの未来は、今日の行動によって形作られます。

食品ロスや食料自給率の問題は私たちの生存に直結していますよね。何度も申し上げていますが、これは安全保障の問題です。豊かな食生活を維持したいのであれば、私たち一人ひとりが政治に声を上げる必要がありますね。大切なメッセージを伝える相手は飲食店や個人ではなく、政策を決定する国なのです。

経済界だけの自浄作用を期待するのは現実的ではありません。特に重要なのは、生産者、つまり農業生産者への意識改革です。

彼らはただの生産者ではなく、私たちの生活を支える大切な存在です。農家や畜産農家、漁師の重要性をもっと認識し、彼らが持続可能な方法で働けるよう、さらに生産者を増やしていけるよう、私たち日本国民全員が真剣に考えるべきです。そうでなければ、私たちは自らの首を絞めることになりかねません。

食品ロスは単に自分が捨てなければいい、という問題ではありません。私たちは、食品を生産する農地での問題にも目を向ける必要があります。例えば、畑で収穫されないジャガイモが大量にあることについて、もっと考えるべきです。

それらを食料として食べないならば、せめてバイオエタノールの原料として利用するなど、食品をとことん無駄にしない方法を模索することも重要になってきます。

国民が食品ロスを出さなくなっても、食料自給率が上がるわけではありません。しかし食べ物を大切に最後まできちんと食べ切ること、無駄にしないことを、どうか毎日心がけてください。

―――ありがとうございます。ここまでのお話を聞いて食品ロスの問題は環境の問題だけではなくて、安全保障に関わる重大な問題ということに気がつかされました。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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