2023.03.29

Z世代×伝統産業。小谷ゼミ「江戸前ちば海苔チーム」が手掛ける挑戦とは?


今回は日本大学生物資源科学部小谷ゼミを取材。小谷ゼミでは「日本大学江戸前ちば海苔チーム」を発足し、地球温暖化に伴う環境変化により存続が危惧される東京湾の伝統産業「江戸前ちば海苔」の消費拡大と持続可能な発展を目的とした活動に取り組んでいる。

この江戸前ちば海苔プロジェクトでは、商品やイベントの企画・運営から、市場調査、商品開発、プロモーション(PR)まで学生が中心となって活動している。

また江戸前ちば海苔プロジェクトは、教育機関では全国で初となる農林水産省事業の重点支援案件に選定されている。さらに「きんじろう南町地域食堂」における食育・コミュニティ形成活動が小田原市の広報番組「colorful」に取材されるなど、メディアからも注目を置かれているのだ。

そんな注目を集める江戸前ちば海苔のプロジェクトだが、ゼミ生たちはどのように伝統産業の課題へアプローチしているのか、生徒たちを取材した。

今回の取材を通して見えて来たのは、小谷ゼミの学生たちが取り組む伝統産業の継続へアプローチするプロジェクトの可能性でした 。

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インタビューイー
日本大学生物資源科学部
江戸前ちば海苔チーム
山本柚菜:プロジェクトリーダー
高橋若菜(ゼミ長):小田原班
関谷乃羽:調査班
名取怜奈:商品開発班
久保田向日葵:PR班
岩崎花香:小田原班
仲安そら:調査班
松葉真大:商品開発班
川瀬歩希:調査班
長谷川來夢(室長):PR班
小谷 幸司 :教授



日本大学・小谷ゼミの江戸前ちば海苔プロジェクトとは?





―――今回は日本大学生物資源科学部小谷ゼミ・「日本大学江戸前ちば海苔チーム」にお話をお伺いします。まずはゼミと江戸前ちば海苔チームの概要について教えてください。

高橋若菜さん:

私たち小谷ゼミは、一言で言うと食を中心とする地域資源のブランディングについて学ぶ研究室です。現在は「江戸前ちば海苔」のほか「ローカルブランド」「淡路島」の3つのプロジェクトを学生主体で取り組んでいます。

江戸前ちば海苔プロジェクトは今年で7年目を迎えており、200年以上続く伝統産業・江戸前ちば海苔の認知度向上と消費拡大、そして持続可能な発展への貢献を目的に活動しています。

――― ありがとうございます。江戸前ちば海苔プロジェクトの活動内容について少し詳しく教えてください。部門やチームごとの役割などはあるのでしょうか?

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▲小谷ゼミの定例ミーティングの様子

関谷乃羽さん:

江戸前ちば海苔プロジェクトは、「調査班」「プロモーション班」「商品開発班」「小田原班」の4つの部門から構成されています。

私が所属している調査班は、表参道のFarmers Market等の販促場所でアンケートを実施して、その分析結果から販売戦略を毎年更新し、販売戦略に基づいて商品開発やプロモーションを展開しています。

プロモーション班は、私たちの日々の活動の様子をSNSにアップしてPRしたり、売り場に掲示するPOP等販促ツールのほか、OGが勤務する(株)食文化とコラボしてECサイト(豊洲市場ドットコム)の制作などに取り組んでいます。

商品開発班は、主にバラ干し海苔の商品開発やレシピづくりなどに取り組んでおり、現在は農林水産省の事業でバラ干し海苔商品のパッケージと5人の漁師の海苔「ORAGANORI」の販促用パンフレットの制作を行なっています。

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▲江戸前千葉のりを使用したレシピの試作

小田原班は、食育と地域コミュニティ形成を目的とした「きんじろう南町地域食堂」(小田原市)の企画運営に取り組んでいます。月に2回程度の開催では小田原の歴史文化や江戸前ちば海苔等をテーマとしたショートイベントに加え、昨年は集客のための地域住民向けイベント(夏祭り、ハロウィン)の運営支援も行いました。

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▲「きんじろう南町地域食堂」の様子。運営に携わる高橋若菜さんは『主な利用者は地域の子供達ですが、これからは地域のお年寄りの方も参加できるような企画に挑戦したい』とコメント。

―――ありがとうございます。チーム化されていて、会社の組織のようにワークしていると思うのですが、もともと江戸前ちば海苔の活動のはじめた経緯について教えてください。

山本柚菜さん:

千葉県水産課の方から小谷先生へ「販売促進のために組成した地域連携体を強化するにはどうしたらよいか」という依頼があり、小谷先生が若手の漁師さんと学生をメンバーに取り込んだことがきっかけでした。

千葉県、千葉県漁業協同組合連合会、海苔問屋、海苔漁師、そして私たち大学生の連携による活動がスタートしました。

最初の活動は表参道のFarmers Marketでの販促活動と来場者調査でしたが、そこから徐々に売り場や活動の幅が広がっていきました。

学生目線で消費者へアプローチ。SNSやイベント出店で認知度を拡大。



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――― なるほど!ありがとうございます。さまざまな取り組みをされていると思いますが、江戸前ちば海苔プロジェクトの特徴は何かありますか?

岩崎花香さん:

江戸前ちば海苔プロジェクトの特徴は、毎月必ず表参道や小田原で販促活動を行っている点だと思います。

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▲Farmers Market(表参道)での販促活動の様子。

生産者さんと直接関わったり、販売先(マルシェの担当者様や企業様)の方と関わったり、 そして商品を購入してくれるお客様と関わったり――― プロジェクトを通して様々な人と関われるゼミ活動は珍しいと思います。

またクライアントワークという形でプロジェクトを拡大し、商品の認知度を上げていくというのも小谷ゼミの特徴かもしれません。例えば、海苔の漁師さんや問屋さんからの依頼を受け、パッケージデザインや味を提案するなどアイディアを形にしていきます。

実際に完成した商品に対して、クライアント様やお客様からポジティブな声が帰ってくるととても嬉しいですね。

――― ありがとうございます。実際に販売してみて、お客さんの反応や反響はどうでしょうか?

関谷乃羽さん:

商品のファンになる方が、少しずつ増えて認知度も上がって来たと実感しています。

アンケートの結果から認知度の向上に繋がっているということもわかりました。またリピーターのお客様も増えてきた気がしています。

――― 少しずつ固定のお客さんがついてきたんですね! 確実にファンを増やしていると思いますが、活動の成果や反響はどうですか?

長谷川來夢さん:

先輩方の活動の積み重ねがあったからこその今があると思うのですが、これまで「日本クラムチャウダー選手権」で特別賞、農林水産省「ディスカバー農山漁村の宝」で関東優良事例などを受賞しています。また農林水産省からのお声がけにより「Let’s 和ごはんプロジェクト」にも参加させて頂いています。

Let’s 和ごはんプロジェクトは、家事・育児と仕事の両立の難易度が高い子育て世代の親御さんと子どもに対して、和食(和ごはん)を食べる機会を増やすという国の事業です。この事業への参加がきっかけとなり、江戸前ちば海苔による食育の推進と多世代による地域コミュニティづくりを目的に、小田原市の「きんじろう南町地域食堂」の企画・運営支援にも関わるようになりました。

また江戸前ちば海苔の販促活動や販売チャネル、PRの機会などは少しずつ増やしてきましたので、本日の取材もそうですし、消費者の方に江戸前ちば海苔を知っていただくチャンスは増えてきたと思います。

――― ありがとうございます。学生目線でZ世代を主なターゲットにしていると思いますが、ターゲットに対して購入してもらうために注力していることは何かありますか?

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長谷川來夢さん:

以前、海苔問屋さんの依頼でパッケージデザインを制作したのですが、その際に意識したのは、Z世代に人気のカラーやデザインのトレンドを積極的に反映させることでした。

Z世代にささるトレンドは結構変化するので、それをキャッチしデザインに落とし込むというプロセスには注力してきました。

――― なるほど、実際にデザインを変えて購入者の変化はありましたか?

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松葉真大さん:

売上等のデータは持ち合わせてないのですが、若い世代や女性のお客様の購入ニーズは高まった印象を受けます。

Z世代をはじめとした若い世代の方を意識したデザインや味付け(レモン風味やオリーブソルトなど)の商品を開発することで、着実にターゲットの購入意欲や関心は高まったと実感しています。

また商品開発班では、江戸前ちば海苔のレシピも提案しています。調査結果に基づき、どのような料理にどう組み合わせると美味しいかなど、日々思考錯誤しています。

――― ありがとうございます。これまでイベントやマルシェの出店、オンラインでたくさんのお客様に購入していただいたと思うのですが、商品の特徴についても教えてください。

仲安そらさん:

江戸前ちば海苔は、全国シェアが約2%と市場に出回りにくい商品です。

市販の海苔と比べて希少価値が高いので、売価は高くなってしまいますが、旨味や香りが強く口当たりもまろやかなのが特徴です。

またこまめに養殖網を交換するので、きめが細かく柔らかい海苔の新芽が多く獲れます。そして養殖網の張替えの時期を決めていないのも江戸前ちば海苔の美味しさのポイントです。生産者さんが、海苔と海のコンディションを考慮して最適なタイミングで網の張替えをおこないます。

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▲江戸前ちば海苔を収穫する様子

山本柚菜さん:

補足すると漁師さんの生産方法によって、味が変わるのも面白いです。漁師さんのこだわり、代々伝わる技術がそれぞれ異なるので味に個性が生まれます。

もともと海苔には、旨味成分のもとになるグルタミン酸とイノシン酸が豊富に含まれます。特に東京湾は、関東平野から多くの河川が流れ込むので、栄養分が豊富で旨味・香りが強くなります。

また江戸前ちば海苔は、いわゆる黒海苔だけでなく、上質な青海苔を含んだ「青混ぜ海苔」も収穫が可能です。「青混ぜ海苔」は香りや旨味が強く、ほろ苦さもありクセになる味わいが特徴ですが、香りが豊かな江戸前ちば海苔の「青混ぜ海苔」は他産地と比べて市場評価は高いと言われています。

立場が違う意見をまとめ、プロジェクトの魅力をどう発信するか――



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―――ここまでさまざまな成果が生まれていると思うのですが、プロジェクトを進める上での苦労は何かありましたか?

川瀬歩希さん:

このプロジェクトは、漁師さん、問屋さん、企業の方たちと一緒になって取り組む活動です。

関わる人が多いので、全員の意見を一致させて落とし所をみつけてカタチにしていくことがとても難しかったですね… 立場が変わると目線も変わってくるというか… ゼミのメンバー内でも、ミーティングを重ねて江戸前ちば海苔の良さをどのように発信していくべきか、真剣に議論してきました。

――― プロジェクトに関わる方が多いと思うので、意見をまとめ上げるのが大変そうですね…

長谷川來夢さん:

今は10人のメンバーがいるので、全員が同じ意見になることはほとんどありません… ですがプロジェクトを進めるには、最終的な結論や方向性を出さなければなりません。

結論を導くプロセスでは、各メンバーがどのような考えや意見を持っていたのか全員分の意見を聞くように心がけていました。

――― ありがとうございます。大学生のゼミとは思えない、社会人と変わらない活動をしていると思いますが、このような方式のゼミは昨今メジャーなのでしょうか?

久保田向日葵さん:

増えているとの印象があります。例えば、今年度の農林水産省の「ディスカバー農村漁村の宝AWARD」では大学の活動が選定せれていますし、ビジネスコンテストでも他大学がエントリーしているのをみかけることが増えました。このような地域社会の課題解決に実践的に取り組むゼミは、まだ多くないのかもしれませんが少しずつ増えていると思います。

――― ちなみにゼミを選んだ理由は、何かありますか?

産学連携により地域課題の解決に取り組むといった、他のゼミでは体験できないような活動に関われるからです。先輩達の就職先などをみても、社会人になるための準備期間としては、とても良い経験になると思います。

伝統産業を継続させるには、何が必要かーーーー





――― ゼミのメンバー、漁師さん、問屋さん、クライアントさんなど様々な人たちと多角的にプロジェクトを進めている気がしますが、活動をする上で大切にしていることは何かありますか?

川瀬歩希さん:

私が担当する調査班では外部の方との連絡調整、そして在庫管理に注力しています。

マルシェ等で販促活動をするうえでは、漁師さんや問屋さん、マルシェ運営者など外部の方と迅速に連絡を取り合えることが重要だと実感しています。

例えば外部の方との連絡ミスで、マルシェに出店できなければ海苔をPRする機会を失うことになりますよね―― 一方で出店できても、必要な海苔の在庫がなければ売ることができません。

在庫管理も外部との連絡も細かい仕事ですが、些細な仕事でも慎重に進めていくことを大切にしています。

――― 学生時代からその意識を持てているのは、素晴らしいですね…。話は変わるのですが、 伝統産業は5年後10年後どのように変化すると思いますか?

高橋若菜さん:

地域の活性化には、伝統産業の持続的な発展が大切だと考えています。

伝統産業を単体で考えるのではなくて、地域の関係者が連携し、若い世代を巻き込みながらその産業を盛り上げていく――― そうすることで伝統産業が文化としても継承され、地域の活性化にも繋がると思います。

例えば千葉の酒造りも伝統産業ですが、海苔と同じように衰退傾向にあります。そこで先輩達が6つの蔵元さんに協力を依頼し、君津の地酒まつりなど複数のイベントにコラボ出店したこともあります。また調査により若い世代のニーズが確認されたオリーブソルトやレモンなど新しい味付けの商品開発などにも取り組みましたが、こうした活動も伝統産業の持続的な発展には必要だと考えています。


千葉県の日本酒とコラボした時の様子

伝統産業の文化に敬意を払いつつ、地域や企業、学生のアイディアを掛け合わせることでイノベーションを起こせると思います。

―――ありがとうございます。伝統産業の活性化にともない、重要になってくるのはZ世代をはじめとして若い世代へのアプローチはマストなのでしょうか?

岩崎花香さん:

やはり伝統を次世代につなげていくことが大切だと思います。一方で伝統産業の魅力を伝え、つなげていくことは難しく、多くの課題が存在しています。

そのため私たちは、伝統産業を若い世代に繋げる一つの取り組みとして、Z世代に向けたプロモーションを実施してます。そうすることで、江戸前ちば海苔の魅力を若い世代に伝えることができると思います。

例えば、Z世代にアプローチするには商品開発の段階でターゲットに即したデザインを商品へ取り入れる必要があります。また情報を発信する媒体も、Z世代に最適なツールを選択する必要があります。



今はプロモーション班が、主にInstagramを使って情報発信をしていますが、数年前まではTwitterやFacebookが主流でした。このように情報を届けるツールを適切に選択することで、より効果的なZ世代へのアプローチができると考えています。

自分が“魅力的だと感じる何か”を、学生のうちに発信できる。



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――― ありがとうございます。ここまでお話をお伺いして、ハイレベルな活動をおこなっていることに改めて驚かされました。そのうえで、これから江戸前ちば海苔プロジェクトとして挑戦していきたいことは何かありますか?

名取怜奈さん

江戸前ちば海苔の認知をさらに広げるために、全国規模のビジネスコンテストなどに積極的に参加していきたいと思っています。

例えば私たちの先輩は、2019年に開催された「第2回日本クラムチャウダー選手権」に参加しました。その際は江戸前ちば海苔を使ったクラムチャウダーを船橋市のフレンチレストランと海苔問屋である飯塚海苔店さんと連携して考案し出場しました。

特に大学生が関わっている点が評価され「特別賞」を受賞し、メディア等でも取り上げられました。

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このような結果を残すことで江戸前ちば海苔の認知度が自然と広がっていくと考えています。

――― ありがとうございます。インタビューも終わりに差し掛かっていますが、このプロジェクトに参加したゼミ生活はどうでしたか?

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長谷川來夢さん:

学生時代に一番熱中できたのが、このゼミ活動でした。もちろん他にも色々な思い出がありますし、楽しかったことも多くあります。ですが楽しかった思い出は、あくまでも楽しかったという範疇でしかなく、自分の成長を実感することとは少し違う感覚でした。

小谷ゼミの活動は、楽しかったのと同じくらい大変でした(汗)。ですがこの江戸前ちば海苔プロジェクトを通して得た経験やゼミの存在は、 “ただ楽しいだけの学生生活”ではなくて”社会に出るための貴重な学びの場”でもありました。

――― 素晴らしいですね…学生時代に何かに没頭できるのは、かけがえのない時間だと思います。インタビューも最後になりますが、江戸前ちば海苔をまだ知らない人たちにメッセージをお願いします。

山本柚菜さん:

まだ江戸前ちば海苔を食べたことがない人は、ぜひ一度試していただいて商品の魅力を知って欲しいです。自画自賛するようですが、言葉では伝えきれないくらい美味しい海苔に出会えると思います!

一度食べたら忘れられない味だと思うので、表参道のFarmers Marketや豊洲市場ドットコムの特設サイトなどで購入して頂けたら嬉しいです。

また小谷ゼミの学生が“魅力的だと感じた何か”をPRしたり販売したりする活動を知ってほしいです。このような活動をしている大学のゼミはまだ少ないと思いますし、普段から海苔を購入してくれているお客様はもちろん、同じ大学生からも興味を持ってもらえたら嬉しいです。

私たちの日頃の活動はSNSに投稿しているので、ご覧いただきマルシェ等に遊びにきてほしいと思います。

4年生は卒業してしまいますが、これからも江戸前ちば海苔の認知度拡大はもちろん、伝統産業としての持続的な発展に貢献できるようメンバー全員で頑張りたいです。

――― 小谷ゼミの皆さん、本日は貴重なお時間ありがとうございました。

Z世代の学生の関わりが地域にイノベーションを生む。



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取材の最後には、小谷教授からもゼミの活動と伝統産業の継続に関して下記のようなコメントを頂いた。

インタビューイー
小谷 幸司(KOTANI Koj)氏
日本大学生物資源科学部教授

千葉大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了後、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)食産業・農林水産業戦略室長/主任研究員を経て2015年より現職。農山漁村発イノベーション中央サポートセンター事業「プランナーによる活動支援の実施に係る検証委員会」委員長(農林水産省)、農村地域の関連所得検討委員会委員(農林水産省)など



小谷教授:

伝統産業や地場産業の商習慣や係る人々の関係性は、長い時間をかけて成立したが故に、固定的で変化を受け入れにくいという側面があります。その点が少子高齢化や人口減少、グローバルな環境問題などに伴う社会経済状況の変化への柔軟な対応を阻害している要因でもあると考えています。

こうした旧態依然としたビジネスモデルにイノベーションを誘発し持続可能な発展を実現するには、若い世代の価値観を受け入れ、巻き込むことが不可欠と言えます。

今、あらゆる産業・業界でZ世代のマーケティングが行われています。つまり、Z世代市場への商品・サービスの投入は、ビジネス展開において避けて通れないんです。

この江戸前ちば海苔プロジェクトでも、学生達の価値観を漁師や問屋など産地の関係者が少しずつ受け入れてくれ、連携活動を展開する中で流通構造や商品、販売チャネルなどに確実にイノベーションが起きています。

こうしたゼミ活動を通じ、学生たちにはリアルな社会問題とそれに係る人を知り、課題解決力を修得して欲しいと思っています。また、企業等と共同で活動することで、一般社会のスピード感やスケジュール感を体感することができ、こうした経験は社会に出た際に必ず役立つと確信しています。



私はゼミの活動において「学びの機会は平等に与えられるべき」――その機会を活かすかどうかは学生次第と考えています。その機会から何かを得ようと頑張る学生は、積極的にサポートしています。

与えられたチャンスをどう活かし、そこで自ら何を学ぶかという意識は、社会人となってキャリアパスを形成していく上でとても重要です。ゼミ活動を経験することで、卒業後でもいいので、教え子達がそのことに自覚してくれるととても嬉しいですね。

日本大学生物資源科学部の詳細を見る

江戸前ちば海苔プロジェクトのInstagramを見る

<編集後記>

商品やサービスを販売するのが最も難しいと言われているZ世代。伝統産業にZ世代の感覚をかけ合わせることで、今までにないイノベーションが起きる、その渦中を覗くことができた取材だった。また自分がもし学生だったら、小谷ゼミのような実践的なゼミに入りたいとつくづく思った―― 江戸前ちば海苔のプロジェクトを通して、これからも躍進していく小谷ゼミの活動はもちろん、伝統産業の現場で発生する新たなイノベーションに目を光らせていきたい。



新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(脚技の特訓中)。
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