月日工作舎
2021.09.01

アップサイクル家具で”在るものを生かして暮らしを楽しむ”「月日工作舎」


廃棄されてしまうものに、新しい命を吹き込む「アップサイクル(Upcycle)」。さまざまな種類がある「アップサイクル」ですが、今回は「アップサイクル家具」にフォーカスしていきます。

本記事では、宮城県の石巻市にあるアップサイクル家具を作る「月日工作舎(つきひこうさくしゃ)」のオーナー山内さんにインタビューしました。

環境問題へのアプローチとしても注目を集める「アップサイクル」ですが、アップサイクル家具にはいったいどのような魅力があるのでしょうか?また、山内さんが「アップサイクル」を通じて伝えたい想いをお伺いしました!


月日工作舎,山内さん
インタビューイー
山内 健嗣
(やまうち たけし)
月日工作舎
1990年生、宮城県仙台市出身。大和ハウス工業株式会社にておよそ6年間、特殊建築物の積算見積業務等の実務を経験。退職後は、一般社団法人ISHINOMAKI2.0に所属し、復興庁の委託事業や空き物件のリノベーション工事業務等に従事。その後、月日工作舎の前身であるU.C.P(upcycled products)を立ち上げる。無店舗形式でアップサイクル家具を製作し、主にイベントやネットショップでの販売を行いながら、オーダーメイド家具等の製作業務も開始。2017年に屋号を「月日工作舎」へ変更し、実店舗をオープンさせた。


経年変化を楽しみながら環境問題へアプローチ

────それではアップサイクル家具を作っている「月日工作舎」の詳しい事業内容をお伺いできますでしょうか?

山内さん:
「月日工作舎」では、アップサイクル家具の制作・販売をメインに、既存の家具の修繕やゼロから作るオーダー家具の制作など幅広く行っています。あとは、アップサイクルのオーダーも承っています。

アップサイクルのオーダーというのは、材料を持ち込んでいただき、新しい家具や雑貨などに生まれ変わらせるということです。例えば、思い入れがあって捨てられないけど使う用途がない木材とかですね。



────材料を持ち込むことができるのですね!例えばどのような思い入れがあったのでしょうか?

山内さん:
ブックスタンドを作った時の例を紹介しますね。立派な柱を持ち込まれたのは、東日本大震災の時に津波で家が流され全壊した方でした。

床柱という立派な柱だけ残ったものを回収され、新しい家で数年間保管したまま捨てられず取っておいたそうです。

この柱を何か活用できないかと考えていた時に、うちが掲載された地元の新聞記事を見つけてくださり相談に来られました。

依頼の内容は、家族みんなが日常的に使い、毎日目に留まるものがいいとの事だったので、リビングで雑誌や新聞を入れて使うブックスタンドにアップサイクルしました。



────なるほど!この方の例のように、思い入れのあるモノを使ったアップサイクルという要望が多いのでしょうか?

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山内さん:
そうですね、あとはリペアの要望も多いです。実際、直したほうが新しく買うより高くなる場合がほとんどなんです。それでも皆さん「直して使いたい」とか、「思い入れがあって捨てられないから、別のモノに生まれ変わらせたい」という方が多いです。

新しいモノを作るよりも、リペアやアップサイクルという形で家具を生まれ変わらせるお店って他にあまりないんですよね。だからこそ、うちに持ち込んでくれる人が沢山いるんです。普通に新しい商品を作った方が簡単だし、効率もいいんですよ笑



────たしかに今は新しい家具も安く購入できますもんね。それでも山内さんがアップサイクルにこだわる魅力はどこにあるのでしょうか?

アップサイクル家具,so-gud(ソウグウ)
山内さん:
アップサイクルの魅力は、2つあります。1つは、もともとの素材が持つ歴史と味わいです。そこに新しい価値観やデザインを加えると、そこから月日がたって味わい深くなっていく過程もさらに楽しめるようになるんです。

それに、捨てるしか無いと思っていたモノが、ひと手間加えることでその人にとってお気に入りになったり、愛着が生まれたり、新たな価値が生まれたりするんですよね。そこがアップサイクル家具の面白さだと思います!

2つ目は、アップサイクルが環境問題へのアプローチとしても有効な点です。「月日工作舎」のホームページでは、「ひと・モノ・地球にやさしい暮らしを “アップサイクル”でつくる。」と書いています。

環境問題の解決策としても、新たな資源を使わずに1つのモノを長く大切に使うことがとても重要なんです。なにより、無理なく楽しみながら環境に優しい取り組みができるという部分も、アップサイクルの魅力ですね。



石巻へ戻ったきっかけは東日本大震災

────アップサイクル家具の魅力がよくわかりました!それでは、そもそも山内さんがアップサイクル事業を始めよう思ったきっかけを教えていただけますか?

山内さん:
少しさかのぼりますが、もともと私は東京でサラリーマンをしていました。転職を考え家具職人になろうと思っていたタイミングで、東日本大震災が起きたんです。

私は地元が仙台市なのですが、震災をきっかけに何か地域へ貢献したいと宮城県へ戻ることを決意しました。

その時ちょうど石巻市に木工科のある職業訓練校を見つけたので、通う予定だったんです。ですがこのタイミングで父が病気になってしまって…

それで学校を辞退して、独学でやってみようとYouTubeや本で木工の基礎を学びながら制作をスタートさせました。ある時、リメイクについて調べている流れで、アップサイクルという言葉を知りました。

アップサイクルについて調べていくうちに、”不要なモノを新たな価値に生まれ変わらせる”という考え方の面白さに魅力を感じ、アップサイクル家具を作りはじめたんです。

もともと「月日工作舎」を始める前に「アップサイクルプロダクツ」という名前で2015年からアップサイクルを始めました。2017年に同じ建物のスペースが空いたので、心機一転、屋号を変えて工房だけでなく店舗を構えたのが「月日工作舎」のスタートです。



「古いモノはかっこいい」次世代へ繋ぐアップサイクルの価値観

────なるほど、色々なタイミングが重なってアップサイクルに出会ったのですね。では、「月日工作舎」がアップサイクル家具を通して伝えたいことはありますか?


山内さん:
「月日工作舎」では、不定期でワークショップを開催しています。ご家族で参加される方も多く、アップサイクルをもっと身近に楽しんでもらいたいという想いから始めました。

アニースローンペンキ
中でも、ペイント体験が人気で、小さいお子さんにも楽しんでもらえるようにイギリスの「Annie Sloan(アニースローン)社」のチョークペイントを使用しています。

この塗料は、硬化すると赤ちゃんが舐めても大丈夫な「トイセーフ」というヨーロッパの認定をとっています。

手や洋服にペンキがついても、お湯と石鹸で洗えば取れるので親御さんにも喜ばれています笑


────そんな便利なペンキがあったんですね!これなら、お子さんたちも安心して楽しめますね。

ワークショップ,so-gud(ソウグウ)
山内さん:
まさにそのとおりで、「楽しむ」というのが1番大きなポイントだと思うんです。我慢をしても長く続かないですよね。自然に無理なく続けられるということこそが、持続性のある生活・暮らしを作ります。

そういった意味でもアップサイクルは1つの有効な手段だと思いますね。あとは、子供たちにアップサイクルの魅力を伝える機会を増やしていきたいと考えています。



────なるほど。次世代にアップサイクルの魅力を伝える必要があるということでしょうか?

山内さん:
そうです。アップサイクルが特別なことではなく当たり前の選択肢になるためには、先入観のない子供の時からアップサイクルに関心をもってもらう必要があると思うんです。

「新しいモノを持つことがかっこいいという価値観は古いんだよ。古いモノを工夫して使い続けることがかっこいいんだ」という新しい価値観を、子供たちの世代が持ってくれたら、社会が変わっていくのではないでしょうか。



月日工作舎の詳細を見る

<編集後記>

「月日工作舎」という屋号の”月日”の部分には、時間の経過を表す意味と、新しい持ち主のもとでまた長い年月を共にしてもらいたいという意味が込められているそうです。

新しい価値を与えられた魅力的なアップサイクル家具は、ホームページまたはインスタグラムでご覧いただけます。ぜひ新しい選択肢として、アップサイクル家具を楽しんでみてはいかがでしょうか?

また、2021年8月11日~9月26日まで石巻市では一般社団法人APバンク主催の「Reborn-Art Festival(リボーンアート・フェスティバル)」を開催中。イベント内の夜市スペースを山内さんがアップサイクルを利用して装飾したそうです!

ぜひチェックしてみてくださいね。最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。



ライター松中朱李
ライター
So-gúd編集部
松中 朱李
神奈川県・横浜市出身。アパレル企業にて販売からバイイングを経験したのち、流行に流されないプロダクトを学ぶためイタリア・フィレンツェへ留学。現地で2年間を過ごし、気づけば靴職人に。帰国後は、メンズシューズブランドにて広報PR、メディア運営、ECサイトディレクション等に従事し、現在に至る。うさぎの散歩とヨガが日課。
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