まちづくりの新潮流:協働の力を解き放つ
2024.04.16

まちづくりの新潮流:協働の力を解き放つ


今回は沖縄大学・経法商学部・経法商学科/現代沖縄研究科・地域経営専攻の石川教授を取材。

人口減少や少子高齢化に伴い、地域のまちづくりにおいて様々な課題が存在している。地域のまちづくりにおいて昨今では、学生参加型のまちづくりも実施されており、成果を残している事例もあるようだ。

石川教授は、日本のまちづくりに関して、お金儲けという視点だけではなく、まちに賑わいを溢れさせる方法に着目して研究している。

今回は石川教授の研究を通して見えてきたまちづくりに必要な重要性、そして地域課題から未来のまちづくりに求められる要素を取材した。

石川 公彦
インタビュイー
石川 公彦氏
沖縄大学 経法商学部 経法商学科/現代沖縄研究科
地域経営専攻主任


石川教授が考える日本のまちづくりに必要な「プラスアルファ」の重要性


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―――現在の研究領域や概要、取り組まれていることを教えていただけますか?

私の研究分野は、もともと日本的経営と呼ばれる分野で、特に日本における雇用慣行や人事労務に関する分野を専門に行ってきたのですが、あるきっかけから、まちづくりに関する調査や研究にも携わるようになりました。

大学院に進む際の問題意識は『日本の企業でハッピーに働くことは可能なのか』『ハッピーな経営は可能なのか』というものでした。もし日本の企業で幸せに働くための方程式があるなら実際に実践してみたいという思いがあったのです。

研究を進めて、博士号を取得した後に、ある先生からNPO(非営利組織)の研究チームへ入らないかとお誘いをいただきました。今までの自身の研究とNPOの研究には、どうやらお金儲け以外の「プラスアルファ」が大切という部分に共通点があると感じたため、チームとして活動することを決めました。

参加したNPOの研究チームの中には複数の分野別グループがあり、その中の「まちづくり」グループから声をかけていただき、その後のまちづくりの研究に繋がっています。

―――ありがとうございます。まちづくりの研究で重要な点はどういったものでしょうか。

「まちづくり」は、各研究者たちが関心のある研究領域に合わせてまちづくりの研究を行っていることから明確な定義はありません。同じ「まちづくり」という言葉を使っていても、様々な観点から研究が成されています。ただそうは言っても、多くの場合、地域の活性化や住民の環境改善を目指す活動を意味しています。地域の活性化には、経済活動も含まれます。

私の考えとしては、経済活動に関わるお金儲けの部分は大切だと思いますが、それだけではなく、お金儲け以外の「プラスアルファ」が含まれていることがまちづくりの試みであり、重要な点だと考えています。

お金儲け以外の「プラスアルファ」とは、「社会防衛」「生活防衛」という要素だと考えています。つまり、地域に住む人たちが楽しさを感じながら暮らしたり、安心して生活できるような「プラスアルファ」の要素が必ず含まれていることがまちづくりには重要だと考えています。

調査や研究、実践している人それぞれの問題意識によって課題背景は変わると思います。地域によって様々な課題が存在していますが、多くの場合、少子高齢化にともなう問題は共通課題として見えてきています。

経済の活性化と賑わいづくりにおける現在の課題


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―――ありがとうございます。研究を通して見えてきた、地域課題について詳しく教えてください。

地域課題は大きく分けて3つあります。

1つ目は、各地域の共通課題である少子高齢化の問題です。2つ目に、活性化や賑わいの減少です。そして特に重要なのが3つ目の経済活動の縮小です。

地域の高齢化が進んでいることで働き口が少なくなり、若年層の都心部への移住が増加しています。これにより過疎化が進み、まちの活気や賑わいが失われていきます。そして、経済活動の縮小へつながっていきます。

こういった大きな地域課題の背景があることで、さらに具体的な課題が出てきます。例えば、若年層による担い手不足や高齢化が進むことで、地域の安全面の整備や清掃活動に関する美化問題が発生します。高齢化することで、作業ができなくなった地域は、伐採や草刈りの人材不足など自然環境整備の問題が生まれてきてしまうのです。

熊やイノシシ、猿が増加しているのも里山を管理する担い手不足による問題であると考えます。

他にも、高齢者の生活に適したまちとしての環境づくりや、医療や介護問題の課題も挙げられます。

―――仰る通りですね。相対的に課題を見て解決するためにはどのようなアプローチが良いと考えますか?

課題を相対的に見て解決するには、違う立場の人達が一つの課題に取り組むような「協働」が大切な要素だと思います。

まちづくりに関して言われることですが、「わかもの、よそもの、ばかもの」が必要だと言われます。これらの人たちは地域にとって常識外のことをする人、地域の日常と異なる視点から物事を捉える人たちという意味で、異質な存在です。「ばかもの」は少し説明が必要かもしれません。ここで言う「ばかもの」とは、何かに夢中になっている人、美の追求の中にある快楽や、日常をざわつかせドキドキさせるような刺激を与える存在という意味合いです。

地域に従来から暮らしている人たちは、地域の課題が明確に見えていなかったり、見えていてもその解決策を見つけられないことがあります。それはなぜかと言いますと、地域の住人は、その地域の日常の暮らしの中に組み込まれて生活しています。もう少し強い言葉を使うと、その地域の日常に埋め込まれて生活していることが通例です。そのような状況では、地域の課題が「課題」として相対化されなかったり、解決策が思いつかないということが生じます。そのとき、地域の常識を相対化し、地域の課題を「見える化」し、解決策を提案して実践するものとして、「わかもの、よそもの、ばかもの」が本領を発揮するというわけです。

そういうわけで、「まちづくり」においては、色々な可能性を秘めていて、違和感を感じさせる異なる存在同士のコラボレーションが大切なんだと思います。その異質な存在が「協働」したときに、埋没していない違う角度から課題が洗い出されて、解決の糸口に繋がることがあるのです。違う立場の人たちが一つの課題に取り組むような「協働」が、一つのキーワードになると考えています。

―――なるほど…「協働」はとても大きな要素のようですね。

そうですね。まちづくりにおける「協働」は、3つの意味合いで捉えることのできる言葉だと思っています。

まず1つ、「協働」の意味には、行政と民間が協力してしてきたことが背景としてあります。

一時期、公務員は税金の無駄が多いのではないかと批判的意見が飛び交っていた時代がありました。その際に、効率性を高める施策として行政のスリム化が行われ、民間へ業務委託が行われるようになりました。この流れで指定管理者制度が導入されて、民間に公の施設の管理を代行してもらい、地方公共団体の無駄を省くような「協働」が行われるようになりました。

2つ目に、「協働」というのは市政を行う上でも使われてきた言葉です。意味としては、市政に「民意をしっかり反映させます」「反映しました」ということをアピールするために、「協働」という言葉が活用されることがあります。この場合、「協働」を掲げて地域住民の意見聴取や参加を促しながらも、実際は偏った意見や一部の参加にとどまっていることもあります。本当の意味で「協働」が実現しているのか、どのように評価したらよいのかといった問題もあります。

そして3つ目は、経営学的にはダイバーシティマネジメントという概念があるのですが、多様な方々が関わることにより創造性豊かなものを生み出せる意味の「協働」です。最近では「共創」というキーワードも活用されていますね。

ここで、行政や市政に関わる二つの「協働」と、実利的なテクニカルな問題として使われるダイバーシティという意味での「協働」の三つを挙げましたが、私が注目しているのはダイバーシティとしての「協働」についてです。新しいものを生み出す視点が大事だと思います。

「協働のまちづくり」には、ワクワクする仕掛けが重要。


大イノコ祭り 大イノコ祭りを支える市民の会提供

―――ダイバーシティという視点の「協働」において、これまでに携わったプロジェクトで特に印象に残っている事例はありますか?

広島市の中心部で行っている大イノコ祭りの事例が印象的でした。西日本を中心に伝えられてきた「亥の子祭り」というお祭りがあるのですが、大イノコ祭りというのは、その広島市内の「亥の子祭り」に、アーティスティックな要素を取り入れて現代的なスタイルへと大幅にバージョンアップしたものなのです。神主さんをお招きして正式の儀式も執り行う本格のお祭りでありつつも、毎年新しい要素を取り入れながら、いろいろな人たちが繋がり、活性化や賑わいづくりに成功しています。

まちづくりには2つの側面があります。1つは、街並み、景観、建物、設備といった物理的な要素を創造したり、整えることで作り出すまちづくりがあります。これはハード面のまちづくりです。
もう1つは、祭り、ゴミ拾い運動、市民マラソン大会といったイベントを立ち上げて、人と人との関り方ややりがいを創造したり、整えることで作り出すまちづくりがあります。これはソフト面のまちづくりです。
まちの活性化や賑わいを作り出すといったとき、ハード面を整えても、それだけでは必ずしもうまくいきません。むしろ、人々がワクワクするようなソフト面での仕掛けづくりがうまくいけば、ハード面が十分に整っていなくても、既存の施設を活用することで、まちの活性化や賑わいづくりは可能です。

例にあげた大イノコ祭りも、常設の施設はありません。市内中心部の公園を舞台としていて、空間があるにすぎません。公園の中心に、たくさんの竹と大きな石を用いて、シンボルとなる造形物を作り出して、祭りの当日を迎えます。
その過程で、さまざまな立場の人たちがフラットな関係で企画会議に参加して、毎年新しい計画を練り、準備を進めていきます。
協賛者に声をかけて運営費を集め、竹山へ竹を切り出しに行き、公園までなんとか運び込み、それと同時に、地域の商店街の人たちや学生たちが出店の準備を進めていきます。その過程のすべてがまちづくりになっています。普段は接点のない人たちがつながり、賑わいが生み出されていきます。

意見や思いをぶつけ合ったり、仲直りしたり、嬉しいことも苦しいことも共有しながら、人と人とがつながり、賑わいが生まれて、まちが活性化していきます。
一方で、人と人とがつながって活動していくと、その地域で飲食をしたり、活動を支えるために何かを調達して、おカネを使います。すると、その地域のおカネのめぐりが活性化します。大イノコ祭りの当日に多くの人たちが集まれば、その人たちもその地域で何らかの消費行動を行いますので、地域の商店街や地元企業は潤います。その日におカネを使わなくとも、その地域の賑わった雰囲気が印象に残って、良いイメージのつながりが生まれます。そして、大イノコ祭りに協賛金を提供してくれる協賛者の多くは、その地域の商店街の人たちや地元企業です。大イノコ祭りというコンテンツを主軸にして、地域でおカネがめぐり、地域の経済が活性化していきます。

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ところで、まちづくりという概念を私が定義する際には、その活動の中に、「社会防衛」や「生活防衛」といった、お金儲け以外の「プラスアルファ」が含まれているということを、もう一度、繰り返しておきたいと思います。この定義でいうと、大イノコ祭りは、人と人とが繋がって賑わいを作り出し、そのことで生きがいややりがいを感じたり、家庭や会社とは別に地域に居場所ができたりといった点が「プラスアルファ」なのだと理解しています。

また、「協働」という視点では、大イノコ祭りには商店街の方々や地域の住民のみならず、アーティストや学生たちがフラットな関係性の中で大いに関わっています。私は40名ほどの学生たちと自由な空気の中で大いに参加させていただいたのですが、アーティストや学生たちは、「わかもの、よそもの、ばかもの」の代表格として、地域を活性化させる触媒や起爆剤として大活躍していました。

その中でも、日常に刺激を与える存在であるアーティストが、まちづくりに関わっていることは、とても大切なことだと思います。大イノコ祭りには、県内有数の彫刻家で石を用いた造形物をつくっているアーティストやフランスの国民美術協会(SNBA)の展示会に作品を出展するようなアーティスト、ステンドグラス作家、ラジオパーソナリティ、書家などが中心的に関わっていて、個性的で自由な精神を発揮しています。大イノコ祭り全体に漂う「協働」の空気感は、アーティストたちの精神性によって生み出されている部分が大きいと思っています。

そしてもう1つ、「協働」を機能させるうえで、地域のしがらみから切り離され、利害関係からも一定の距離を保ち、自由な発想を持つ事ができる”大学”という場が、貢献できる部分も大きいと考えています。特に学生たちです。地域住民だけでは解決できない課題に対して、しがらみから離れ、何にも捉われない自由な立場から学生たちが参加することで、「わかもの、よそもの、ばかもの」として、まちづくりに新しい風と活気をもたらせると思うからです。

人と人の繋がりこそが日本の特徴であり、未来に必要な要素である


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―――ありがとうございます。今後のまちづくりにおいて、重要な要素があれば教えてください。

まちづくりにも色々なテーマがあります。賑わいづくりというテーマであれば、ソフト面を整えることが大切だとお話しましたが、ソフト面を稼働させるには、人と人との関係性が重要です。さらに言えば、リーダーが必要です。マニュアルや決められたルールに基づいてマネジメントするような、固定化された筋道ではなく、同じ目的に向けて大枠のフレームを作ってメリットの部分を交通整理できるリーダーの存在が重要だと感じます。

私のもともとの研究分野である日本的経営の内容によりながら言いますと、日本企業は独特なつくりかたや仕組み持っています。主に80年代に、海外の実務家や研究者が日本企業を調べにきた際に、海外と日本ではヒトのマネジメントに大きな違いがあることを発見しました。

海外のうち、特に欧米の職場は、それぞれのデスクが高いパーテーションで区切られていて、同僚がお互いに仕事の内容や進捗状況を把握できなくても、仕事は順調に進みます。なぜなら、個人個人がやるべき仕事の内容と範囲が、事前に明確に定められているからです。いわば、一人あたりの仕事がパッケージ化されているわけです。賃金はパッケージ化された仕事ごとに決まっています。このような場合、上司はパッケージ化された仕事を単位として、職場を管理することが可能ですし、それが合理的です。現在、このような職場を「ジョブ型」と表現することが多くなりました。

一方、日本の職場は、各自がこなすべき仕事の内容と範囲が不明確で大ぐくりになっています。事前の契約では、ざっくりとした内容しか取り決めていません。そのため職場で仕事を進める際には、同僚も上司もお互いに仕事の内容と進捗状況とを随時把握しながら、いま自分は何をすべきかを判断し、臨機応変に進めていくことが求められます。隣の人の作業が滞っていたら、その同僚の作業を手伝いますし、自分の作業が滞っていたら同僚や上司が手伝いに来ます。
日本の職場は、一人当たりの仕事がパッケージ化されていません。仕事がパッケージ化されていないので、仕事だけを基準として賃金を決めることができません。また、人事異動が定期的に行われますので、担当する仕事の内容がガラリと変わります。このような職場では、仕事を基準として管理し、仕事を基準として賃金を決めることは不可能です。そこで、日本の職場では、ヒトを基準として管理し、ヒトを基準として賃金を決定しています。
現在、このような職場を「メンバーシップ型」と表現することが多くなりました。

上司と部下、あるいは同僚同士が、直接的に繋がりながら働いているのが日本という国で、だからこそ人と人の関係性がすごく重要とされています。そして、この日本の職場で求められるヒトを基準としたマネジメントのスキルが、まちづくりにおいて、特に賑わいづくりというテーマにおいては、非常に重要な働きをすると考えています。

と言いますのも、賑わいづくりをテーマとするまちづくりでは、人と人との関係性をいかにつくっていくか、人々の意見や思いをいかに一定の範囲内に収めていくかが求められます。これには、パッケージ化された仕事を管理するのとは異なるスキルが求められるからです。

―――未来の地域社会に対し、私たち一人ひとりができることはありますか?

「おせっかいと自己責任のバランス」だと思います。この両者のバランスを保つことで、自分が人を必要とし、自分も人から必要とされる、そういう関係性を築くことが大切だと考えています。
このバランスを上手く取れれば、まちづくりの「プラスアルファ」の実現に繋がる関係性もおのずと生まれて、維持できるのだと思います。そして、活動の持続可能性にも繋がるように感じます。

そういう意味では、私たちが参加させていただいた「大イノコ祭り」は、このバランスが取れていた好例だと思います。学生たちに対して、年配者がお世話を焼きすぎない、かといって放置しているわけでもない。一方、学生たちも言われたことをやるというスタンスではなく、自分たちから関わっていく。自分たちでできること、やりたいことは、自分たちで取り組む。できないことは、年配者の指導をあおぐ。かといって、頼り過ぎない。
要するに「おせっかいと自己責任のバランス」なのだと思います。関わる人たちが、それぞれ丁度良い距離感でいることが大切だと思います。

捉われない自由な発想を交えつつ同じ目的を目指す未来を目指して—読者へメッセージ


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―――改めて、まちづくりの研究を通して読者へ伝えたいメッセージはありますか?

「おせっかいと自己責任のバランス」は、まちづくりに限らず、人と人との関係性において常に意識できたら良いなと思っています。特に若い人たちは、いろいろな経験を通じて、「おせっかいと自己責任のバランス」感覚を磨いてほしいと思います。
自分の殻の中に引きこもらず、孤立しない。孤立している人がいたら、自分にとっても相手にとっても心地よい距離を保ちながら、関わっていく。自分が人から必要とされ、自分もまた人を必要とする。
私たちが、このバランスを上手に取れるようになったとき、とても居心地の良い場が生まれると思います。

また、近い未来には、アバターで参加できるバーチャル空間のまちが、身近に存在するようになると思います。まちがバーチャル空間へ移ったとしても、「おせっかいと自己責任のバランス」は大事なことであり続けると思います。
まちに出るのが、たとえアバターであったとしても、人を必要とし、人から必要とされる関係性が作れたら素敵だと思います。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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