2024.03.21

企業成功の背後にあるもの:イノベーションと戦略の融合


企業としての成功に不可欠なイノベーション。

社会に大きな変革をもたらすイノベーションは、物だけに留まらず、サービスやシステム、組織改革など、多岐に渡る。

多くの企業がイノベーションに挑戦するものの、市場にまで普及できる企業は多くない。 成功する企業と失敗する企業の違いはどこにあるのか?

また、従来の方法で物作りに励んでいた企業は、変化の多いIT時代にどう立ち向かっていけばいいのか?

イノベーションマネジメント論を研究する近畿大学の河知延教授にお話を伺った。

河 知延
インタビュイー
河 知延氏
近畿大学 産業理工学部 経営ビジネス学科・産業理工学研究科(福岡キャンパス)
教授/経営ビジネス学科長
専門は専門:イノベーション・マネジメント、経営戦略。現職の他に、九州大学大学院 統合新領域学府 非常勤講師(イノベーション・マネジメント論担当)にも従事する。


物に対する技術だけでなく、組織やサービス、会社内部の組織の変革も含めたイノベーション


台湾企業訪問 ▲台湾企業訪問時の写真

―――まずは、先生の研究領域について、教えてください。

経営戦略が私の専門領域ですが、その中でも様々な視点の研究があります。

当初はアジア企業のグローバル戦略に興味を持っていましたが、急成長するアジア企業はその成長の背景にイノベーションがあるのではないかと考え、現在は特にイノベーションに焦点を絞って研究を進めています。

―――ありがとうございます。「イノベーション」というキーワードが出てきましたが、先生はこの言葉をどのように定義していますか?

一般的に、イノベーションの定義としては、よくヨーゼフ・シュンペーターの定義が引用されています。
彼の定義から、新しいアイディアから新たな価値を創造し、社会的な大きな変化をもたらす幅広い変革を指します。

日本ではイノベーションは技術革新として捉えられがちですが、製品や物に対する技術だけでなく、組織やサービス、会社内部の組織の変革も含めた幅広いものを指していると考えています。

―――「イノベーション」から派生して、「イノベーションマネジメント」とは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか?

イノベーションマネジメントは、企業や政府、組織、そして個人が、イノベーションを効果的に管理して、社会的に意味のあるものや競争力のあるものをどう生み出すかについての考え方です。
具体的には、研究開発現場における人の属性や力量、ネットワークなどに焦点を当てる分野もありますし、政府のイノベーション政策の効果や、それに合致する企業の戦略についても考えられます。

また、企業が競争する中で生じる現象や、歴史的なイノベーションの分類、政府や企業の管理体制、研究開発の現場など、さまざまな側面を含む理論体系をイノベーションマネジメントとして捉えています。

つまり、イノベーションマネジメントとは、イノベーションを組織全体でどう管理し、社会や競争力にプラスになるようにするかを考えるための手法やアプローチを指しています。

発明と普及、市場のニーズを捉え、適切なマーケティングを行うまでがイノベーション


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―――イノベーションを起こしたい企業や団体は多数あると思いますが、イノベーションはどこから生まれてくるとお考えですか?ひらめき、もしくは普段の行動の蓄積から導きだされるものなのか、先生の考えを教えてください。

イノベーションのプロセスは複雑ですが、段階があり、発明の段階と普及の段階に分けて考える必要があります。

まず、商品やサービスのアイディアを絞り込む発明の段階があります。この段階ではひらめきや、技術の蓄積などが重要になるでしょう。しかし、イノベーションは、発明だけではなく、社会に浸透することで初めて成立するものだと考えており、これが普及の段階です。

研究所内で生まれた新しいアイディアでも、それが普及しなければイノベーションとは言えません。
また、イノベーションの定義は、社会に大きな変化をもたらすことです。
市場のニーズが十分に存在することが前提条件となると考えています。

ほとんどの場合、完全に新しいものをゼロから生み出すことは稀であり、既存の知識や技術を組み合わせて新しいものを作り出すことが一般的です。
「新結合」とも言われる、新しい組み合わせが、イノベーションを生み出す重要な要素であると考えられています。
さらに、アイディアを実際の製品やサービスに昇華させる発明の段階でも、その製品やサービスを市場が広く導入していく普及の段階でも、多くの人が関わります。

―――イノベーションにおいて、多くの人が関わるとのことですが、人と技術進化の関係性で近年大きく変わった点はありますか?

近年の変化は、特にAIなどの技術進歩によるIT化の進展が顕著です。
これにより、従来多くの人が関与していたプロセスでも、少人数でも成果を生み出すことが可能になりました。

また、ITの進化により、距離の制約が緩和され、情報の流れ方も変化しています。
以前は人との対面でのつながりによって知識が伝わっていましたが、現在はZoomなどのツールを利用したオンライン交流が一般化し、情報の収集や共有が容易になりました。

このような状況下で、AIの進化により、個人や小規模組織でも大企業と同等の成果を出せるようになり、イノベーションのスピードがさらに加速すると感じています。

―――ITの進化によって、大企業から小規模なベンチャーまで、新しいイノベーションが生まれやすい環境が到来したと感じますが、どのようにお考えですか?

以前は大規模な組織が製品を量産し、市場に投入してニーズに応え、社会を変えるという動きが主流でしたが、今はそうではありません。
製品の作り方が大企業だけでなく、インターネットを通じて多くの人が参加できる状況に変わりました。
イノベーションが普及する過程も大きく変わり、これからの時代は、異なるフェーズに入っていると感じています。

企業が成功するイノベーションを創出する秘訣とは?


台湾新竹サイエンスパーク訪問 ▲台湾新竹サイエンスパーク訪問時の写真

―――企業が成功するためのイノベーションにおいて、どういった要素が必要になってくると思いますか?

難しく、複雑な話ですが、一番必要な要素はニーズを発掘することだと思います。
技術イノベーションといえば、高度な技術や製品を想像しがちですが、それだけではありません。

経営学者のクレイトン・クリステンセンが確立させた「破壊的イノベーションの理論」によれば、技術の高度化だけでなく、ニーズの把握も重要です。
技術のレベルを下げることで、マスの市場を取り込むことが可能になり、技術も改良されていきます。
大企業が行っている高度な技術からのパラダイムシフトも、この考え方に基づいており、技術を低く抑えてマスのニーズを満たす製品がイノベーションを起こす上で重要だと考えられます。

そのため、自社の製品やサービスが現在のニーズに適合しているか常に確認することが、企業のイノベーションへの成功にとって重要だと思います。

―――なるほど。では、サービスを提供する上では、市場調査やニーズの把握、そして適切なマーケティング戦略が中心になるということですか?

研究者たちは、既存の製品の性能向上には長けている傾向があります。
新製品の開発も行いますが、高度化した技術をさらに進化させ、シンプルな製品を作るというのは、研究者たちの得意分野ではありません。

新しいニーズを考慮するためには異なるアプローチが必要です。
一般的な開発をする通常の組織とは別に、現在の社会にはないニーズを考えるような、柔軟性のある組織作りも重要だと思います。

大企業だと、ベンチャー企業に投資をするなどの方法もありますが、会社の組織に入ってしまった固定化された研究開発をする場合は、どうしても今売れている製品に集中しがちです。

現在売れている製品に合った市場調査をやり、それを改良していこうというのが一般的な考え方なので、イノベーションが生まれにくくなってしまいます。

組織内部の抵抗が一番の障壁となる


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―――先生が見られてきたイノベーションの中で、特に印象に残った成功事例はありますか?

多くの製品はイノベーションによって生まれていると言っても過言ではないので、たくさんあります。

例えば、シャープペンシルもシャープが生み出した製品もですし、TOTOのウォシュレットもニーズに対応しながら開発されました。
最初はアメリカの会社が温水洗浄便座を作ったものの、医療現場の一部で導入されるのみで、アメリカの一般市場に普及されることはありませんでした。その一方で、日本では和式から洋式トイレに変わる際にお尻が冷たいという問題がありました。

そのニーズをキャッチして日本で便座カバーなどが発展し、温水洗浄便座では後発だったTOTOが日本人に適した製品への改良と常識を覆したキャッチコピーを使ったCMによって日本の生活様式まで変えていきました。
この製品開発には、水回りに電気を置くことの懸念など、会社内でも反対意見が多かったそうですが、様々な人の協力を得て開発が成功しました。

企業がイノベーションを成功させるためには、ニーズだけでなく利用者の行動様式や文化に合うような提案も重要です。
例えば、お尻を洗う文化はタイやヨーロッパなどで一般的ですが、大体がホースが出ていて、そこで直接洗うというようなタイプなんです。
日本以外ではユニットバスが主流であり、電気を設置することは日本よりも抵抗があったかもしれません。
このような文化や環境の違いを考慮することが重要です。

―――企業がイノベーションを取り入れる際、発生する障壁や課題の共通点はありますか?

色々な会社にインタビューしていると、やはり新しいものに対しては、組織内部の抵抗が大きいというのがあります。
開発者が新しいアイディアを持って行っても、トップがこれまでにないので、市場が読めないという理由で却下してしまいます。

イノベーションというのは新しく、市場にないものを提案するわけですから、検証ができません。
もちろん先見性のある方もたくさんいらっしゃいますが、組織内部で色々な考え方があり、世に出せないんじゃないかと、イノベーションが破壊されてしまうというのが一番大きな障壁だと思います。
中小企業の場合は、経営資源の不足も障壁になりますが、それよりも経営者方がどういうふうに考えているかの方が大切です。

―――イノベーションという観点から海外の企業と日本の企業を比較した時に、日本の企業の弱点は何だと思いますか?

日本は、本当に良い製品やサービスを多く生み出していますし、高度経済成長期のような競争が激しい中で新しい製品を生み出すことには長けていると感じます。
また、日本企業は、組織内でゆとりを持ち、柔軟性を持って新しい取り組みを進める文化があります。しかし、海外ではこのような自由な文化を持つ企業が少ないため、日本企業の強みとも言えると思います。
ただし、最近はこのようなゆとりが失われつつあり、日本企業の競争力が減少しているという懸念もあります。

また、日本の大企業においては、外部組織との連携がうまくいっていないと感じます。大手企業が外部からの知識を取り入れる動きが遅れており、組織が硬直化していることが問題です。
特に、オープンイノベーションの取り組みが最近始まりましたが、その成果はまだ見られていない状況です。
つい最近、大手自動車メーカーの担当者が、オープンイノベーションの部署を立ち上げ、相談に乗りました。
部署が設立された当初は、外部との繋がりがあるものをたくさんセッティングするけれども、各部署からの理解が得られずに苦労していました。
実際に自分達が外部の人々と意見交換を行い、時間を割いて議論することで、やっとその価値を実感することができるという状況でした。
欧米では、組織が柔軟であり、転職も多く、労働市場も流動的であるため、外部の知識を取り入れる文化が根付いていると感じます。

時代の変化を察知する大きなチャンス、非常識を常識に変える努力を


河 知延先生
―――ありがとうございます。今後、イノベーションがビジネスにもたらす影響として、どういった変化が訪れ、何がニュースタンダードとなっていくと思いますか?

AIやIT技術、CT(コンピューターテクノロジー)などが、ビジネスのあり方を大きく変える最大の要因だと考えます。
情報の波が押し寄せ、現在では買い物もAmazonやインターネットを通じて行うようになり、社会そのものが大きく変化しました。

IT化が進展する中で、ビジネスのやり方も大きく変わることが予想されます。
物のイノベーションからサービスやシステムのイノベーションへのシフトが起こりつつあり、半導体やその他の技術がこれを支えています。

また、サブスクリプションモデルの普及により、物を所有する必要性が減少し、サービスやシステムへの需要が増えています。
これからは、物に集約されるのではなく、サービスやシステムにイノベーションが起こる方向に変化していくと考えられます。

―――複雑になっていく社会において、イノベーションを生み出すのも複雑化していくのではないかと思いますが、成功するビジネス戦略において、イノベーションが果たしていく役割はどう変わっていくと考えますか?

企業にとって、競争相手が無限に現れる時代が訪れており、これにより環境は複雑化しています。
個人でもイノベーションを起こせる時代が到来しており、資源が限られている人々が新しい発想でイノベーションを促進する絶好の機会となっています。

ただし、これまで伝統的な製造方法で事業を行ってきた企業にとっては、新たな脅威となる可能性があります。
そのため、より小規模で柔軟性のあるアメーバ組織に転換し、個々のレベルで新たなアイデアを生み出すことが必要とされています。

―――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

イノベーションについて、一般的には多額の資金が必要だったり、競争相手と戦わないといけなかったり、といったイメージが強いと思いますが、これらを逆手に取り、企業にとっては時代の変化を察知する大きなチャンスと捉えるべきだと感じています。
急成長をもたらすチャンスとして積極的に捉え、非常識を常識に変えていく努力が、イノベーションを促進する鍵です。

今日では、パソコンの前で様々な情報を得ることができ、AIが何でも答えてくれるような時代になりました。しかし、それらの情報は一方的な場合が多いので、今までにないものを新たに生み出す上では限界があるでしょう。
これからは、人との繋がりや双方向の情報交換を通じて生まれる新たな発想や情熱が、ビジネスにつながる可能性を秘めています。
このような人と人のネットワークが、ITスキルだけでは補完できない重要な要素として、今後ますます重要性を増していくと考えます。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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