2024.10.18

お花の未来を咲かせる生産者と花をつなぐmedeluの挑戦


九州でシェアNo.1を誇る花きの仲卸業をいとなむ株式会社hanamiが2017年、花のサブスクサービス「medelu」をスタートさせた。

5,000種以上の花を自分の部屋のインテリアスタイルに合わせて届けてもらうことができる、花の定期便だ。生産者との直接取引も可能なため、産地から自宅まで最短2日で新鮮な花が届くという。

定額制で商品やサービスを楽しめるサブスクサービスは、音楽や動画から始まって、さまざまな分野に広がっているが、「お花」の分野でも、これまで小売店に足を運ぶことの少なかったライトユーザーの興味を引いて、確実に定着しつつあるようだ。

「medelu」をゼロから起ちあげたのは、株式会社hanamiの4代目社長となった公門誠治氏。東京のコンサルティング会社、ヘッドハンティング会社を経て、社長に就任した同氏、それまで身につけたITスキルを応用して起ちあげたサービスだが、そこに至るまでの道のりは決して平坦なものではなかったようだ。

明治39年創業という歴史ある家業を承継した誠治氏が令和の時代になって、「花を愛でる人を増やす」というミッションにたどりつくまでの道のりについて、大いに語っていただこうではないか。

株式会社hanamiプロフィール写真
インタビューイー
公門 誠治氏
株式会社hanami
代表取締役
1984年生まれ。コンサルティング会社、ヘッドハンティング会社を経て、先祖代々続く想いを引き継ぐために花業界へ。2017年にお花の定期便medeluを創業、2021年に事業承継し、株式会社hanamiの代表取締役に就任。”花を愛でる人を増やす”という理念実現に向けて邁進中


高齢化、人手不足、購買力低下…。日本の花産業が抱える深刻な課題とお花のサブスクの可能性


株式会社hanamiイメージ画像
―――株式会社hanamiのルーツは、明治39(1906)年にさかのぼるそうですね。今に至るまでの歴史を紹介していただけますか?

株式会社hanami引用画像 引用:株式会社hanami公式ホームページ

創始者は、私の曽祖母にあたる、公門ツモという女性です。彼女は家計を助けるために山に登り、当時、どこの家庭にもあった神棚に供える榊の枝葉をとって、ふもとの町に売りに行っていたのです。

そんなふうに言うと、「日本昔ばなし」に出てくる民話やおとぎ話のような漠然としたイメージしか浮かんできませんが、2代目を継いだ私の祖母、公門コミエは戦争の時代を生きた人で、戦災で傷ついた人々の心を癒そうと、天秤棒に花を乗せて行商をしながら四人の子どもを育てました。

その後、昭和49(1974)年に日本で2番目に早く佐世保市場に花き仲卸制度が開始すると、流通額が長崎市場の2倍になるほど成長していきました。1980年代後半のバブル景気の後押しもあって、日本の花き産業は1兆円規模になるほどの盛況をむかえることになるんですが、3代目代表である私の父の公門満也は、その屋台骨を支えたひとりです。九州でシェアNo.1の花き仲卸企業となったのは、父の功績です。

そんな父が病に倒れたのが2010年代後半のこと。そのとき初めて「家業を継ぐ」という選択を迫られたわけです。

もちろん、これまで積み上げてきた仕事のキャリアや実績を手放し家業を継ぐという選択肢に対して、葛藤がなかったと言えば嘘になります。

ですが決断の決めては、祖から代々つちかわれてきた家業への誇りと、恩返しの気持ちです。

ありがたいことに私は、父の家業である「花」によって何不自由のない生活を送ることができました。大学も卒業できたり、アメリカの大学へ留学ができたりしたのも、「花」のおかげだったんです―― 私が幼少期の頃から見ていた父の背中が、道標となりここまで進んでこれたと思っています。

それに、東京のコンサルティング会社を経てヘッドハンティング会社で働いていたため、IT業界を中心にさまざまな経営者の経営相談を受けていました。そのため、これまでの経験をさまざま課題を抱えた家業に生かせるかもしれないと考えたのです。

―――当時のご家業の課題とは、どんなものだったのですか?

株式会社hanamiイメージ画像
バブル時代のピークだった1兆円規模の売上高は、その後の30年間で2割以上も減少していました。

それだけでなく、生産者の平均年齢は69歳と高齢化が進んでいて、お花の購買者数も減少していました。

購買者数の年齢別の内訳を見ると、50代以上が80%を占めていて、40代が10%、30代が7%、20代に至っては1%ほどの人しかお花を買う習慣を持っていなかったのです。5年後、10年後の未来のことを考えると、日本の花産業は危機的な状況に陥っていることが容易に想像されました… 実際に花を育てているビニールハウスの中は、夏場は40度~50度を超える室温になります。

その中で高齢の花の生産者の方が作業をしているんです… このような状況は、現場の人間としてはかなりの労働負担になります。

さらに生産者の方は、深夜に卸売市場に花を持ち込むわけです―― また仲卸業者や小売店も早朝から始業したり、毎回市場に足を運ばなければいけなかったりと労働負荷が多いのが現状です。

このような状況の中で若い世代が、花産業に身を置いたり、家業を継ぐ選択肢を取るのは難しいですよね…。だからこそ、花産業の構造自体を変えたいと思うようになったんです。

「花の国」オランダで見た人の心を豊かにする花の魅力


株式会社hanamiイメージ画像
―――企業の事業承継は、非常にむずかしいという話をよく聞きます。東京でコンサルタントとして活躍していた誠治さんは、どのようにして改革を進めたのですか?

まず現場の一兵卒として入社する前に、取引高、生産量において世界トップを誇る「花の国」オランダを訪ねて教えを乞うことにしたんです。

オランダのフローリストからまず最初に教えてもらったのは、「オランダでは年収200万円の層でもお花を買う習慣がある」ということでした。

そう、当時の日本の花き業界のマーケティングのターゲットは、主に富裕層でした。開店・開業祝いのコチョウランや、結婚式やお葬式などの冠婚葬祭で祭壇を飾るお花など、非日常での商品開発が盛んに行われていました。

ひるがえってオランダの状況を見てみると、年齢、性別、職業の隔てなく、すべての階層の人々が普通に小売店でお花を買っているのです。スーツ姿のダンディな初老の男性が誰かにプレゼントするお花を選んでいたり、若いカップルが一緒になってお花を買う姿を見て、ある種のカルチャーショックを受けたんです。

株式会社hanamiイメージ画像
オランダの家屋の多くは、窓辺にカーテンのない家が多いんです。そのかわり、家の中は外から丸見えになってしまうんですが、その手前に花瓶が置かれていて、季節に応じたお花が活けられています。

個人的に忘れられない風景は、スーパーマーケットでお花を買った家族3人の後ろ姿です。その日の食材などを買った帰り道、お父さんは買い物の入った袋を片手に抱え、まん中のお子さんと手をつないでいました。もう一方のお母さんも子どもと手をつなぎ、もう一方の手には、とてもきれいな花束を抱えていたのです。

つまり、オランダでお花という商品は、「お金に余裕のある人が贅沢のために買うもの」ではなく、「貴賤にかかわらず、人々が日常を豊かに暮らすための必需品」なんですね。

そのとき、オランダのフローリストから聞いた「セイジ、日本にはまだまだチャンスがあるよ」というアドバイスに進むべき道を示されたような気がしました。

日本では生け花や花見の風習があるので、「お花は綺麗なモノ」という認識はあっても「お花が日常にあることで、心や感性が豊かになる」という考えは、オランダのようには定着していません。だからこそ、オランダのお花文化は、日本人の心を豊かにすることにも通じると思いました。

花に関わるすべての作り手と買い手をつなぐ


株式会社hanamiイメージ画像
―――その後はどのようにしてお花のサブスクサービス「medelu」のブランディングをしていったのですか?

日本語には「愛でる」という美しい言葉があることに着目して、ネーミングに活かしました。

サブスクサービスでお花を提供するにあたって、もっとも気をつかったのは、ユーザーごとのパーソナライズです。まだまだ各ユーザーに対して詳細なパーソナライズができていませんが、インテリアや花瓶の嗜好に合わせて選べるようなコースを設けています。

株式会社hanami引用画像 ▲自分の好みのテイストで花が選択できるコースと本数が指定できる

それに取り扱っている花の種類は5,000種類以上ありますし、初心者でも自分に合ったお花を選べるような仕組み作りをしなければなりません。

そのためお花が送られる段ボールには、QRコードがプリントされていてそのQRコードを読み込めば、花の手入れ方法、生け方の動画、花言葉、花言葉の由来などの情報がわかるようになっています。

また、生産者がどんな思いでその花を育てたのかということも、できるだけわかりやすく伝えることに苦心しました。

例えば、直径10cm以上になる大輪咲きのバラは、開花の数カ月前に小枝を剪定して、初めてきれいに咲くんです。そうした生産者の工夫を伝えることで、見た目や香りだけではない、花の奥行きの魅力が伝わるように工夫しました。

その一方で、生産者に対しても、今、どの花が人気なのか、今後、どんな花が求められているのかといったエンドユーザーの嗜好を伝え、作り手と買い手の距離を縮めることにも気を遣いました。

株式会社hanami引用画像 ▲どんなお部屋の雰囲気にもマッチする「ANYROOMコース」と、シンプルで洗練されたお部屋向きの「MODERNコース」、自然なぬくもりのあるお部屋向きの「NATURALコース」の3つのコースを選ぶことができ、それぞれの配送頻度、到着日時、配送方法を指定できる
引用:medelu「コース紹介」


生産者応援キャンペーンに寄せられた熱いメッセージ


株式会社hanamiイメージ画像
―――買い手は作り手のことを知らない、作り手は買い手のことを知らないという状況があって、その垣根を取り払おうとしたわけですね?

その通りです。2022年2月には、新型コロナウイルス感染症の影響で打撃を受けた、沖縄の生産者を対象にした「生産者応援キャンペーン」を展開しました。

それに私は、生産者とエンドユーザーを結びつけたいという気持ちが強くあったんです。

もともと沖縄は、トルコギキョウ、ラン、キク類などの花の産地としても有名なのですが、イベントなどの自粛により、せっかく育てた素敵な沖縄のお花が使われる機会が減ってしまったのです。

そこで、沖縄の生産者に応援のコメントをいただいた人から抽選で100名様に「沖縄県の花で仕立てたLite+のブーケ」を無料でお送りすることにしました。

寄せられたコメントには、心を打つものがたくさんありました。パニック障害を患い、外出できなくなった女性は、近所のお花屋さんで買い物をすることを目標に病に向き合ったこと、以前、沖縄旅行で見た花々の色濃く美しい姿を見たときの感動を語ってくれました。

また、コロナのおかげで2年間も帰省できなくなった沖縄出身の女性も、故郷のお花の美しさを懐かしむメッセージを送ってくれました。

それら多くのメッセージが、沖縄の生産者たちをどれだけ慰めたか、計り知れないほどです。

花を通して、豊かさと繋がりを――


株式会社hanamiイメージ画像
―――少し話はかわりますが、花と地球の生態環境も紐付いていると思うのですが、SDGSへの取り組みはいかがでしょうか?

私は花産業についての課題は向き合ってきましたが、花自体の課題にも注目するタイミングがあったんです。とある大学の研究者の方から、地球の温度が2度上がると花の種類が16%死滅して、それを媒介にする昆虫が18%死滅して、その虫を餌にする動物が16%いなくなるという話を聞いたことがありました。

そのためまずは、お花を配送する際に花の根本を水の入ったプラスチックのケースに入れているのですが、これを自然由来の電解質なプラスチックに変える予定です。

花のマーケットはもちろん、花を通して地球環境の課題にもアプローチしていきたいと思っています。

―――興味深いお話、ありがとうございます。最後にこれから挑戦したいこと、そして読者の方へメッセージをお伺いしてもよろしいでしょうか?

株式会社hanamiイメージ画像
株式会社hanamiでは、エンドユーザー向けの「medelu」と並行して、花屋さんをはじめ、カフェ、雑貨店、個人作家などに向けたネット仲卸サービス「Carry」を展開しています。九州No.1を誇る花の在庫量をいかし、どこにいても、いつのタイミングでも、小ロットでも、スマホ1つで注文から24時間以内にお花をお届けするサービスです。

「持続可能な業界構造を創る」という事業ミッションに取り組むことで、「花を愛でる人を増やす」という企業ミッションの成果をより大きなものにしたいと考えています。

少し話は変わるかもしれませんが、私は花業界に携わる中で「人の想いと優しさに触れられる業界」に身を置いていると感じています。

丹精を込めて花を育てる生産者さんがいて、花を小売店に届けるための市場で働く仲卸の方がいて、顧客へお花を届ける花屋さんがいる。そして花を介して購入した人の生活は、優しく豊かになる―― このような全プロセスの中心には、常に「花」の存在があります。

実際に私もIT業界から家業を継ぎ、花を自宅に飾る生活を送るようになったのですが、“日常の小さな変化”に気がつける感性が持てるようになりました。例えば、ツボミだった花が咲いた時に季節の移り変わりを感じたり、何気なく外出した時に季節ごとの空気感に気がついたりするようになりました。

このような感性は結果的に、ビジネスや仕事の人間関係に対してもポジティブな効果が出ると思うんです。お花を購入することにハードルの高さを感じる方もいるかもしれませんが、 日頃からお花を購入しないという方はぜひ、近くのお花屋さんやスーパーでお花を購入して部屋に飾ってみてほしいですね。

きっと花を通して心の豊かさを感じるきっかけになると思います。

―――ありがとうございます。今日のお話を通して感じことは、メデルのサービスは公門さんの“優しさ”が起点に構築されている印象を受けました! 私自身も学ぶことが多かったです。ありがとうございました!

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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