韓国の輝き:歴史から現代の文化までの躍進の軌跡
2024.03.04

韓国の輝き:歴史から現代の文化までの躍進の軌跡


*日本の一人当たり名目GDPは2031年に韓国、2033年台湾に抜かれると言われている。
実際日本は、1990年から2020年までの30年間において、労働者の賃金は向上しなかったのに対して、韓国の労働者の賃金は約2倍に増加した。

また韓国ではエンターテインメント業界においても、世界的な地位を確立している。映画では『パラサイト-半地下の家族』がアカデミー賞を受賞し、Netflixで配信された『愛の不時着』や『梨秦院クラス』、『イカゲーム』などが日本でも爆発的な人気を博している。特にK-POPの領域は、BTSやBLACKPINKなど、全世界で数十億のストリームを記録し、グローバルな文化現象へと昇華していった。

世界の若者を魅了し、ビジネス領域においても急成長を遂げる韓国だが、この背景は一体何が起因しているのだろうか?―― そこで今回は、東京女子大学・森万佑子准教授を取材。
森万佑子准教授は、朝鮮半島の歴史をはじめ、朝鮮半島をとりまく国際関係が研究テーマで、『韓国併合 大韓帝国の成立から崩壊まで (中公新書)』『ソウル大学校で韓国近代史を学ぶ―韓国留学体験記 (ブックレット《アジアを学ぼう》)』などの著書も出版している。

今回取材を通して見えてきたことは、韓国の経済・文化がどのようにして世界的な影響力を持つようになったのか、また私たちがグローバル社会で活路を見出す1つのきっかけだった。

出典:公益社団法人日本経済研究センター『日本の一人当たり名目GDPは2031年に韓国、2033年台湾に抜かれると言われている。

森 万佑子
インタビュイー
森 万佑子氏
東京女子大学
現代教養学部 国際社会学科
准教授


韓国近現代史から、現在の韓国の経済成長を考える。


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―――本日は貴重なお時間をありがとうございます。まずは、韓国が現在の地位を確立するに至った、歴史的な背景から教えてください。

はい、韓国が現在の地位を確立するに至った歴史を振り返ると、近代まで遡ることになります。特に、朝鮮と中国との関係は、歴史的にも深い関わりがあります。朝鮮半島が中華の属国として存在した中朝関係は、近代以降に西洋文明が東アジアに流入することで大きく変化しました。

日本は明治維新(1868年)をきっかけに西洋文明に接近し、近代化が始まります。しかし朝鮮は、中国の影響下にあったため、すぐに西洋文明を受け入れて近代化しようとする意見で一致することはなかったのです。朝鮮では、中国との関係を維持して漸進的に近代化しようとする立場と、明治維新に倣って抜本的に近代化しようとする立場で対立も生じました。

その後、明治日本が清朝を破り(日清戦争)、朝鮮は「独立国」となります。しかし、日清戦争という外から与えられた独立だったため、朝鮮国内で理想とする「国民国家」像が多様で、国の近代化においての方向性が統一されていませんでした。

そして、最終的には、帝国主義化した日本によって大韓帝国(1897年に改称)は併合(韓国併合)されます。朝鮮は、国家を損失し民族のプライドを大きく傷つけられることになったのです。

―――なるほど…韓国は韓国併合という国の損失を経験したことが、戦後の国家形成にも影響を与えたということでしょうか?

そうですね。解放(1945年)後、朝鮮半島は分断され韓国が成立します。韓国は日本が高度経済成長を遂げている最中、分断体制による朝鮮戦争と北朝鮮との対立に直面しました。これにより、韓国は国際社会で国家の正当性を訴えながら、北朝鮮ではなく自国との外交関係を築いてもらうことに注力していったわけです。当時の国際情勢では、社会主義と自由主義のイデオロギー対立も激しく、韓国はこうした冷戦体制の中で自己の立場を確立しようと苦闘しました。

一方で日本は1970年代に「一億総中流」と呼ばれる言葉が生まれました。これは日本の人口約1億人が、中流階級に属するという考え方で、国民に広く浸透していたんです。ですが韓国は、韓国併合という国を失い民族のプライドを傷つけられるという歴史の悲劇に加え、冷戦体制下で朝鮮戦争という民族同士の戦いの苦難を経て国家形成をしていきました。そのため、常に国家を成長・発展させようとする努力に意識を傾けてきたと言えます。

その結果、長い年月をかけて現在では、経済面で日本を上回る成果を達成しています。韓国が所得水準で日本を抜いたのも、成果の一つですよね―― 日本の明治維新や戦後の経済成長は強い成功体験を残していますが、韓国はその裏で常に挑戦し続けてきた歴史があるのです。

歴史的な背景により独自の経済政策で歩んだ、韓国の歴史


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―――なるほど…ウサギとカメのお話ではないですが、韓国は違ったアプローチで国を成長させるために努力を続けていったんですね。

そうですね。先程もお話させていただいた「常に国家を成長させるための努力を続けた」という点では、政治家であり軍人だった朴 正煕(パク・チョンヒ)大統領のリーダーシップも無視できません。

朴正煕については、現在でもその評価をめぐって賛否があります。ただ、朴正熙が社会主義に対抗する意識を植え付けつつ、計画経済を推進し、限られた資源を経済開発に優先的に割り振ることで、輸出志向型の工業化を成功させたことは確かです。

実際に1950年~1960年頃までは韓国は北朝鮮よりも、経済的に不利な状況でした。朝鮮半島北部は、日本の植民地支配当時から南部に比べると工場が多く、北朝鮮は工業面において有利な立地であり、インフラも整っていたので韓国よりも早く工業化が進んでいました。ですが、輸出志向型工業化によって韓国の工業化が加速したことで、1970年頃には北朝鮮よりも経済的な優位を確立することができました。

このように経済発展を重視する政策に舵を取ったことが、韓国の大きな成長の土台になったと考えられます。その後70年代に入ると、大学進学率も20%になり、知識人やエリートの間で民主主義の理念が国家形成の面で強調されるようになり民主化運動が高まっていきました。

韓国での成功の鍵は、3つの「縁」?


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―――このような歴史的な背景の中で、文化的な振興が今の韓国のコンテンツ産業を世界的なものにしたと思うのですが、その点はいかがでしょうか?

韓国の教育水準が上がったことが、今の韓国の経済成長にも影響を与えていると思います。1970年代に20%程度だった大学進学率は、2008年には83.8%に達し、現在でも70%程度と、日本よりもずっと高い大学進学率を誇っています。
そして、韓国の若者は今や国際舞台で活躍しています。こうした成長は、教育に対する国民の強い意志と投資があってこそ実現したものです。

―――この成長率は素晴らしいですね…。実際私の友人の韓国人の方も3-4ヶ国語は操れる人ばかりです。ここまで韓国の歴史も知ると、他国に追いつこうとする熱量が、知らず知らずの間に日本よりも上回っていたのかもしれませんね。

そうですね。韓国人は、「自分ができなくても子供にはできるように」という考え方が強い印象があります。また1997年のIMF危機は、韓国経済に大きな打撃を与え、朴正煕政権以来の経済発展が一時的に停滞し、多くの中小企業が潰れていきました。

しかし、この危機は韓国にとってITとデジタル化の発展につながりました。また、この時期、親たちは子どもたちに高等教育を受けさせ、大企業に就職させようと望みました。実際に韓国では2000年代に「キロギアッパ」(キロギは雁、アッパは父)と呼ばれる俗語が誕生しました。

これは妻や子どもをアメリカやカナダに移住させて、英語圏で高度な高等教育を受けさせ、自分は韓国に残って働いて仕送りをする父親を指す造語です。たとえ自分たちの世代が失敗しても、子どもたちの世代では成功することを望むという、韓国の典型的な考え方が背景にあります。

―――なるほど。ある種、自己犠牲?ような気もしますが、“社会を生き残るためには”という強い意思も感じられます。

韓国は、家族や血縁関係を大切にする意識がとても強いんですよね。この血縁は、韓国における社会的な成功にも影響すると言われている3つの「縁」の1つです。

1つが「血縁」、2つ目が「地縁」、そして3つ目が「学縁」と呼ばれているのですが、血縁は特に重要視されています。例えば、コロナ禍で大幅に減ったとはいえ、韓国では旧正月や秋夕(中秋の名月)で祭祀を行うために家族が集まったり、あるいは両親・祖父母の誕生日を家族が集まって祝ったりすることが多く見られます。こうした家族の結束が、社会発展の最小単位として機能しているのだと思います。

このように韓国は、家の概念や血縁を大切にするため、子ども世代に学業面で投資することが可能になるんです。実際に家族が結束して1人を何とかして偉大に成功させるような取り組みは、韓国の政治やスポーツの世界でもありますし、日本とは違う文化だと思います。

■IMF危機(アジア通貨危機)とは
アジア通貨危機(IMF危機)とは、1997年7月よりタイを中心に始まった、アジア各国の急激な通貨下落現象である。東アジア、東南アジアの各国経済に大きな悪影響を及ぼした。



国としての文化政策により、世界で戦う韓国コンテンツ。


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―――一方ここまで韓国のエンタメやコンテンツ産業が成長した背景は何かあるのでしょうか?K-popや韓流ドラマ、韓国ドラマによって、韓国が身近に感じられるようになったような気がしています。

韓国のエンターテインメント業界が成長したのは、2つの要因が考えられます。1つ目はデジタル化が発展したことによるブロードバンドの普及率の向上。もう1つは、コンテンツ産業を国の基幹産業へと位置づけたことが要因です。

デジタル化については、デジタル化の進展により、以前は特権階級に限られていた情報へのアクセスが一般化しました。例えば、1999年時点での韓国のブロードバンド普及率は1.9% でしたが、2006年までに韓国のブロードバンド普及率は90%に達しています。これは、日本の地方における高齢者のインターネット利用状況と比較してもかなり高い数字です。

そして、国の基幹産業としてコンテンツ産業を位置づけるのは、韓国は資源が乏しいため、ソフトパワーを利用して国の地位を高めたいという意図がありました。「ワンソース・マルチユース型」の高付加価値産業としてのコンテンツ産業に注力し、国の基幹産業として成長させていく流れになったんです。例えば、ドラマや音楽などのコンテンツ産業において、ヒット作品が生まれると、関連商品やロケ地巡りなど、さまざまな分野で利益を生み出します。今日の韓国コンテンツ産業の成功の背景にはこうした戦略があります。

特に1990年代にソフトパワーが世界的に注目され始めた時期に、韓国はこの流れに乗り、ソフトパワーを積極的に利用し始めました。

1990年代後半のJ-POP全盛期には、日本でBOAが人気になりました。TBS系列の『うたばん』で石橋貴明や中居正広さんと、フジテレビ系列の『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』でダウンタウンと、BOAが日本語でトークをするというのが日本人には印象に残ったんだと思います。BOAは、今から見れば、あくまでもJ-POPの枠組みで成功していますが、結果、その後多くのK-POPアイドルが活躍する土台を築き、日本のファンを獲得することにもなりました。2000年代初めの「冬ソナ」人気も韓流ブームを加速させました。

その後、K-POPは、中国や台湾でのブームを経て、YouTubeやiPhoneなどのプラットフォームを活用することで成功していきました。日本のように著作権に厳格なアプローチをとらず、2008年に日韓で導入されたYouTubeを利用して、K-POPのミュージック・ビデオを公開して、魅力を幅広く無料で伝えることが成功の大きな要因になりました。また、同時期にiPhone3Gの販売が開始され、ファン同士が音楽情報にリアルタイムでアクセスできるようになり、交流も活性化されました。

水平な目線を持ち、韓国の成長の良い面を日本でも活かす。


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―――なるほど…国が力を入れているからこそ、世界で戦えるだけのエンターテイメントを提供できているわけですね。ここまでのお話を聞いていると、日本はますますアジア圏はもちろん、その他の国からも差をつけられてしまう気がするのですが、韓国のこの勢いから学ぶべきことは何かありますか?

あくまでも主観的な考えかもしれませんが、韓国では競争社会を生き抜くというストイックさのようなものが強い印象を受けます。例えば学業において、韓国の難関トップ3の大学には、ソウル大学校・高麗大学校・延世大学校があります。

この学校に通おうとする学生は、小中高校生の時から非常に熱心に勉強します。放課後は英語の学校に通ったり、塾だけでなく家庭教師もつけたりして大学受験に備えます。さらに彼らは大学入学後も、成績が就職に直接影響するため、あるいはさらに高みを目指してアメリカの大学院などに留学するため、猛勉強を続けます。

芸能タレントやK-POPアーティストの努力も、ドキュメント番組などを見るとかなりストイックですよね―― 競争が激しい社会の中で、「成功したい!」「社会で高い地位を獲得したい!」と思っている若者の熱量は、日本よりも高いかもしれません。

―――なるほど…ストイックさ故にアジアをリードする国に成長したということですね。

もちろんこのようなストイックさ、韓国ならではの特色がマイナスに作用してしまうこともあります。ですが『野心のすすめ』という本が出版されるほど「野心」に乏しい日本人の立場から見れば、韓国の発展をポジティブに捉え、偏見なく受け入れて、良い点を活かすことも大切だと思います。

実際に韓国は、ダイナミックに変化する政治と速いスピードで動く経済を背景に非常にエネルギッシュな国だと思います。今や韓国は、物価も所得も高く、IT化も進んでいるので、日本を追い越し先を行く分野が多く見られます。

とはいえ日本では、そうした韓国の活気ある先進的な社会の現状が十分に理解されていません。背景には、日本による植民地支配や戦後の独裁体制、そして韓国が日本よりも貧しかった時代の記憶が強くあり、韓国の民主化や経済発展を十分に評価していないことがあるのかもしれません。今、両国の経済状況が変わりつつある中で、日本はどのように対応すべきか、国民感情が追いついていないためにアンバランスな状態になっている気がします。

―――なるほど…時代も変わり、歴史も変わり、国際社会において、偏見なく良いところを受け入れることが重要ということですね。

そうですね。実際に私が教える学生たちは、韓国に対してリスペクトや謙虚さをもっている学生が多いですね。そのため、韓国の良い部分をどのように日本に落とし込めるかを考えるフェーズに入っていると思います。どちらが上か下か、ではなく「水平な目線」を持ち、相手の良いところは素直に認め、日韓で一緒に考えていく―― 今後、日韓が協力し、最良のパートナーになることは、両国にとって良いだけでなく、東アジア地域の安定にもつながります。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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