中国経済の岐路:専門家が語る現状分析と未来予測
2024.05.27

中国経済の岐路:専門家が語る現状分析と未来予測


1992年に実施された中国の最高指導者・鄧小平による改革開放政策以降、急速な経済成長を遂げてきた中国。世界最大級の工業製品輸出量を誇ることから「世界の工場」とも呼ばれ、国内総生産(GDP)世界第2位まで上り詰めた経済大国だ。

しかし、ゼロコロナ政策の影響により経済は停滞。政策終了から1年以上経った今も回復せず、デフレ長期化を懸念する声も多い。

不動産不況や失業率の高止まりなど、さまざまな課題を抱える中国だが、実際はどのような状況なのか、どんな対策を行なっているのか。そして、本当の問題はどこにあるのか……。

中国で生まれ育ち、現在は鹿児島国際大学で中国経済を中心に研究を行う康上賢淑教授に、中国経済の現状から課題、展望まで話を伺った。

康上 賢淑
インタビュイー
康上 賢淑(こうじょう しおん)氏
鹿児島国際大学 経済学部
教授
専門専門は流通経済論。


バブル崩壊後の日本と同様、経済不況に陥る中国


鹿児島国際大学_取材画像
―――まずは、研究内容について教えていただけますか。

もともと学位論文は繊維・アパレルでしたが、その後はレアアースや介護問題、環境問題などを研究してきました。今は中国経済をメインで研究しています。

私自身28、29年間中国で育ち、ほとんどの教育をこの国で受けてきたので、一番のふるさとと言ったら中国です。

―――現在、中国の経済状況が懸念されていますが、康上先生はどうご覧になっていますか?

約30年前の日本を想像すればいいと思います。1991年に日本はバブルが崩壊してどん底に落ち、「失われた10年」といわれる経済停滞期に見舞われました。そのときの日本のように、今の中国は一番厳しい時期です。アメリカのデカップリング(経済分断)などの影響も大きいですね。

中国は、外国資本の導入など他国との連携を通して経済を発展させてきました。しかし、今のアメリカは自由経済を主張しながら、自国に不利な場合は規制を作ったりして、結局自由経済ではない。そこが今の中国にとっては非常に大変なところです。

ただ、昔は日本やアメリカに依存していた部分も多かったのですが、今は力をつけていているので乗り越えられると思います。

―――ゼロコロナ政策が中国経済のターニングポイントかと思いますが、影響はいかがですか?
鹿児島国際大学_取材画像
コロナにプラスしてアメリカの経済政策があったので、今も中国の経済は大変です。しかし、3月に1度実家に戻ってみたら、日本で報道しているほどではなかったですね。

中国は食べ物も豊かで、海外とのつながりも多い。今政府も観光産業に力を入れていて、南部から北部への人の移動が活発化するような政策なども行っています。

―――不動産業界も厳しい状況が続いているようですね。

市場経済になって自由になったときに、国民がお金儲けのために計画を立てず、どんどん建物を建てたんです。少し前までは家をたくさん持つために、偽造結婚と離婚なども行われていました。これは市場経済の弊害ですね。

でも今は、上海で20階以上のビル建設を規制するなどの建築制限を講じたほか、売れない部屋やオフィスは政府がきれいにして、若い世代に安く提供したりしています。

―――失業率についてはいかがでしょうか。

コロナの影響で失業率は、日本、アメリカ、中国も上昇しました。特に中国は、人口が14億人いるので、失業率も深刻化しました。就職という部分に目を向けると、大学の卒業生たちは就職できないのではなく、行きたい会社に就職できないときは無理に就職しないんです。

コロナもありますし、一人っ子政策もあったので、たった一人の子どもに対して親は「いつでもいいから、本人が行きたい企業行ってほしい」という思いがあります。私の従兄弟の子どももそうで、5、6年浪人してからパッと自分の行きたいところに就職しました。

AIが出てきて、新しいIP化時代に入った今、学生たちが学んだ知識をいかに活かせるかは本人の動機が大事です。

ですから、それを全部就職できなかったって言うのは大きな間違い。人生は一度しかないから、無理矢理生きるために嫌な職場で働いたりはしない。離職率が上がったり、精神病になったりするよりも自由でいいと思います。そういう意味で、中国人は幸せ度が高いんです。

―――多くの投資家が中国経済の将来性に高い信頼を寄せ、「また回復するだろう」と言っていますが、この点についてはいかがですか。

私もそう思います。人口も多いので働き手も多いですしね。ですが、中国を行き来しながら34年間日本で生きるなかで感じるのは、日本なりの良さとか、中国なりの良さとか、各国に優位性があるということ。

日本人は技術系の産業が強いですよね。中国は商業系のビジネスが得意な国なんです。中国は日本の技術や、日本が発展するなかで得てきた経験が必要です。また、市場経済開放して30年ぐらいですから、これからさらに学んだり、政策を変えながら、どんどん良くなっていくでしょう。

私も中国に帰るたびに、その進化に驚きます。例えば、システム関連の産業誌はたまに日本を超えているんじゃないかと感じるくらい。一部ではアメリカも超えているのではないかと思います。

中国は宇宙産業にも力を入れていて、宇宙ステーションにも注力しています。もちろんイーロン・マスクもすばらしいと思うのですが、人工衛星発射の際に中国は失敗が少ないんですね。

もともと先端技術、特に宇宙方面では中国は先進国であり精度が高いですが、一部のメディアで偏った報道がされていて、中国には批判的に移りがちです。国際情勢や関係性を考え、『なぜこのような報道がされているのだろうか?』『この背景には何があるのか』ということに視聴者は真剣に考えてほしいと思っているんです。

世界が一丸となり、環境問題の解決に取り組むことが必要


鹿児島国際大学_取材画像
―――話を伺っていて、日本のメディアが情報の一部を切り取り、見せ方を歪めているのかもしれないと感じました。

メディアの情報をただ考えないで信じてしまうのは危険かもしれません。特に中国については、ネガティブな報道がされがちなんです。

例えば日本は敗戦後にアメリカと同盟国になったので、アメリカとの関係を重要視しています。国際関係を考えると日本側の発言力は、弱くなってしまうかもしれません。ですが、国際関係でも、アジア人は知恵も地位もあるのだから自信を持ち、アメリカとはより同じ目線で、仲良くしていってほしいですね。

メディアやSNSなど部分的に切り取られた情報だけで判断せず、真実を知るようにすることが必要です。物事を全体的に捉えるようにすれば、真実が見えてきます。

人類が共に生きるこの地球は、すでに村なんです。私たちの本当の敵はウクライナやロシアではなく、地球の環境問題です。

―――国同士でケンカをしている場合でも、自己主張し合っている場合でもない。深刻な環境問題をここで食い止めることが課題ですね。

そうですね。みなさんもニュースを見たかもしれませんが、サルたちが大家族で列を並んで森の中から降りてきて、住宅に進入して害を与えているんですよ。

産業革命以降どんどん人類が森林を破壊し、森林がなくなることで動物たちと人が接する機会が多くなる。そして、いろいろな動物によってウィルスも入ってくる。今回のコロナもそうですね。自然や動物とどのように共存していくかが、世界の必須課題だと思います。

昨今は災害の頻度も増していますよね…洪水とか台風の動きとか、植物や海の生物も生態が大きく変わってきている。そういうところをもっとクローズアップしないといけないのに、私たち人類同士で殺し合ってどうするんですか。

近代以降にパスポートができて国家間の意識が強くなりましたが、その以前、例えば江戸時代にパスポートはなかったから日本と中国が自由に行き来できて、文化が広がり、相互交流ができたんです。

お金とか物質の豊かさではなく、私たちがいかに健康で幸せに生きていけるかということが大切です。そこには、人種は関係なく、みんな人間で同じ血が等しく流れています。改めて、人類が手を取り合う必要があると強く思っているんです。

物事の本質を見極める力を持つこと。そのためには常に学び続けること


鹿児島国際大学_取材画像
―――中国経済の見通しについてはいかがでしょうか?

さまざまな政策を行なっているので、徐々に回復していくと思います。例えば今、貧困問題撲滅にとても力を入れています。市場経済の発展戦略として沿海地域の工業化が進められ、この地域は豊かになりました。私の弟もエネルギー研究をしており、今は内陸地域活性化のために現地に行っています。

そのための支援も昔からあり、私が大学を卒業するときは、経済的に遅れた地域に行けば給料がアップするし、昇進もできるという優遇政策がありました。

それから、おもしろいのが中国の対口政策ですね。例えば、北京がチベットと恋人同士のように助け合う、姉妹都市提携のようなものを国内でやっています。これは多分、日本ではあまり報道してない部分でもありますが、貧富の都市でお互に助け合うという政策です。

私のふるさとはもともと辺境地域で、北朝鮮やロシアと隣接する、吉林省延辺朝鮮族自治州の延吉という都市なんです。今は非常に活性化していて、日本の豊かさに負けていないかもしれません。そして、朝鮮と言葉が一緒だから、北朝鮮から来ている人たちにもやさしいんです。

今年の3月、娘家族やその友人の家族を連れて行ったんですけど、やはり中国人は寛容で心が温かいと実感しました。

歴史的には、中国の東北は旧満州でした。ですが太平洋戦争の終戦後、中国人はたくさんの残留孤児を自分の子供のように育てました。だから、日本人遺華孤児鹿児島会会長の鬼塚健一郎さんも、自分を育てた両親への感謝の気持ちを込めて鹿児島市内に記念碑を建てました。そういう中国人の良い部分や人としての優しさを多くの人に知ってほしいですね。

地球人はみんなファミリーだと思うんです。最近、出張から電車で帰るときに車内で出会った年配の女性も満州生まれで、ロシア軍が侵入してきた際に隣人の中国人が助けてくれたおかげで、家族と日本に戻ることができたそうです。

当時、10人に1人は満州国に行っていて、彼らは中国人の助け合いの心をきっと覚えていたのかもしれません。ですが、メディアはそれをあまり伝えませんよね…もちろんどの国にも悪人はいて、中国の詐欺グループなどの悪事も度々報道されています。

1人の中国人が悪いことをすれば、すべての中国人そうだと言われてしまう…。そこで、中国では出国するとき、ここを出ればあなたの行動は中国を代表しているような看板もあるようです。

日本人の若者の9割は中国が嫌いだといわれていますが、歴史や事実をもっと知ってほしいですね。学生たちを中国に連れて行くと、イメージしていた中国と違うと実感するようです。「百聞は一見にしかず」という言葉があるように、実際に見て初めてわかることは多いし、問題の捉え方も変わるでしょう。

無知というのは愚かです。無知は偏見をも生み出します。孟子は「人間はもともと動物であり、死ぬときに初めて人間になる」と説きましたが、何を通して人間になるのかというと、それは一生一文字「学(学び)」を通じてです。だから死ぬまで学び続けることの大切さを私も恩師から教えてもらいました。

日本と比べると中国はまだ数十年遅れていますが、中国は多民族国家なので幅広い視野を持っています。

悪いところに目を向けることも大事ですが、物事の本質を見極める力がないと利用されてしまいます。「日本と中国のメディアが言っていることがどう違うのか」「こんな短期間でどうやって発展できたのか」「30年後はどうなるのか」と考えてみると視野が広がり、新しい学びを得る機会にもつながると思います。

人類愛を持つことで世界が平和に近づく


鹿児島国際大学_取材画像
―――「15年後の日本の経済が危ない」「海外に住んだり働いたりする準備をしておいたほうがいい」という意見も聞くのですが…これから私たちに求められることは何なのでしょうか?

そうですね。まず海外で仕事ができるスキルは大切だと思います。世界にいる留学生の4分の1は中国人で、現地で国同士のつながりを持ち、ブリッジ人材になっていく。

私もイギリスに1年間いたんですけど、そのときのみんなに自分がどこの国の人間か聞いてみると、日本人、中国人、韓国人など、当てられる人は少ないんです。つまり、外見だけで見たらみんな一緒のアジア人なんです。

学生たちは私が中国人だからわからないだろうと、平気で嘘をついたり、無礼なことを言ってくることがあります。しかし、この生徒たちとも祖先は一緒なんだと思えば、心を広く持てるようになります。同じ人類なんだから、人類愛を持とうと決めているんです。だから私は、絶対に相手を憎まないんです。

彼らも社会に出たときに初めて、「あのとき先生が言ったのはこういうことか」と気づくと思います。失敗したり壁にぶつかったりして、傷ついたりして学んでいくはずです。

私は中国で、一人っ子政策で娘1人だけ育てたのですが、孫は年子なんですよ。孫を見ていると、人間は生まれたときみんなゼロだ、毎回転生して再スタートするんだと実感します。生まれたときは動物なんですね!。1歳と2歳の子が玩具を奪い合うときの必死さといったら、噛み合ったりしてある意味では殺し合い(笑)。だから、いかに教育が重要かということを痛感するんです。

私の恩師中村哲はいつも、「人間は愚かだ」と言うんです。100年に1回は必ず戦争をすると。文字があり、それによって物事が伝承されて私たち人類が発展してきたのに、悲しいことには戦争は止まない。

特にアメリカは何兆円ものお金をウクライナに与えていますが、それはロシアとの戦争を長期化していることに繋がっています。

戦争で人は人を傷つけるのは、西郷隆盛の言葉で言えば「野蛮」ですよ。孫たちのことを考えると切なくなります。

―――最後に、これだけは読者に伝えたいといったメッセージなどがあれば、お聞かせください。

実は、経済の「済」の字は救うという意味があり、経済の本質は世の中に富を作って人を救うことです。人間がお互いに助け合うことが私たちのやるべき仕事であり、自分たちの贅沢のために物を作ってお金を儲けることではない。

富を作ることでみんなを幸せにすること、それが本来の経済です。

今、地球の深刻な環境問題などに多くの人達は無関心ですよね。地球についてもっと学び、問題を自分事として認識してほしいと思います。私の最後のメッセージはね、「人類愛を意識しましょう」ということです。

人類愛を考えると心が広くなりますよ。恨む気持ちがなくなり、慈愛心のある人間になれる―― 世界中の人が人類愛を持てば、地球は平和に近づくのではないでしょうか。

ロシア対ウクライナ戦争に行った人たちのように、自分の大切な人が帰ってこないかもしれないと、自分の立場に置き換えて考えてみてほしい。

自分の子供、家族が苦しんでいたらどういう気持ちになりますか? 自分には関係ないと思うのではなく、他人のことを自分事として捉えること。そこにはやはり、人類愛が必要です。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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