2023.08.24

貯蓄から投資の時代がやってきた。あの頃の私に伝えたいメッセージ ~ エコノミクスデザイン 代表取締役 / 共同創業者 今井誠


貯蓄から投資が叫ばれて早1年。2024年の新NISAを控え、投資について第一線の方に過去の投資経験を語っていただく特別企画。

今回は、アントレプレナーと研究者の組み合わせによって経済学の学知をビジネスに実装し、市場を通じて社会に貢献していくことを目的として創業したエコノミクスデザインの今井誠 代表取締役 / 共同創業者 にインタビューした。


見出し抜粋
・投資の原体験
・体験について
・失敗談
・投資をはじめた頃の自分に戻れるとしたら、何を伝えたいか
・読者へのメッセージ


今井誠,エコノミクスデザイン
インタビューイ 今井 誠 氏 株式会社エコノミクスデザイン(英名:Economics Design Inc.) 代表取締役 / 共同創業者
関西学院大学卒業。不動産オークション黎明期に実務に従事、その後(株)デューデリ&ディールでオークション理論の導入に取り組み、多くの企業役員を兼務。 エコノミクスデザイン共同創業者の内、唯一のビジネスサイド出身。クライアントの要望を的確に把握し、学知と架橋する。

―――まず、投資の原体験についてお伺いしたいと思います。ご自身が投資をはじめたきっかけ、タイミングについて教えてください。

 

私は1998年に新卒で金融機関に入社しました。そこで「持株会」(もちかぶかい:従業員が自社の株を購入できる制度)に入ったのが最初のきっかけです。

また、1990年代後半は「金融ビッグバン」という規制緩和の大きな流れがあって、投資信託の銀行窓口販売の解禁など、私が関わる業務にも影響がありました。投資について身近に考える機会が自然と増えていった記憶があります。

投資をはじめたきっかけは、内的要因というよりは、外的要因のほうが大きいですね。そういう意味では、これからNISAや投資をはじめる方と環境は似ているかもしれません。

他の投資の原体験としては、金融機関から転職した先の不動産ベンチャーでの東証マザーズへの上場経験です。自社株やストックオプションなど持つために証券口座を開設する必要があり、投資や株式についての情報がとても身近になり、自然と知識を吸収していきました。

1990年代後半から2000年代にかけては、株式関連のニュースが多く、社会的認知も進んでいった記憶があります。北海道拓殖銀行や山一證券が破綻し、株式がいわゆる「紙切れ」となったことは、私自身とても衝撃を受けました。同時に、インターネット時代が到来し、今も日本を代表するインターネット企業が誕生しました。創業者の中には株式が上場したことにより、財産を築いた方も多く、資産形成の一つの形として、バブル崩壊以降、「株式」が再認知された時期でもあると思います。


―――現在も投資を継続されていると思いますが、ご自身の体験について教えてください。


新卒で金融機関に勤めていたことが関係しているかも知れませんが、投資信託は「長期」「積立」の原則を常に頭においています。「ドルコスト平均法」(※)もそうですね。株式市場は日々動いていますので、一喜一憂しないように意識しています。常に株の値動きを見ていたらキリがないですし、精神衛生上も良くないと思います。

※価格が変動する金融商品を一定金額で定期的に購入する手法

2008年にリーマンショックがありました。私の運用状況を見れば、その時期は厳しい状況でしたが長期運用で見れば、全体感は悪くないと思います。運用に関しては、専門家の意見も聞きながら、年に1・2回程度見直す運用をしています。見直した結果、運用方針を変更しないこともありますね。

投資のスタンスですが、関心・興味のある分野を中心に見ています。著名投資家のウォーレン・バフェットではないですが、関心があって理解できるものでないと、投資判断は正直難しいと思ってます。あとは、比較的長期投資目線で運用しています。2030年や2040年を見据えて銘柄を選ぶこともあります。

リスク分散ですが、大半をミドルリスク・ミドルリターンの銘柄で運用しています。ビジネスにはマクロ経済等の不可抗力的な波動の影響が出ることがあるので、リスクが高いものに偏らないようにしています。


―――(言いにくいかも知れませんが)失敗談はありますか?


はい、もちろん失敗はあります。分析を疎かにしたり、決算書をよく見ないで買った銘柄は大抵パフォーマンスが悪いですね。あとは、流行やノリで買った銘柄も良くなかった記憶があります。やはり自分で考えて判断する。そこが大事だと思います。

他には、やはり専門家の記事を読んだり、話を聞いたりして、プロの判断軸の情報を自分の中にも入れておくことも大事だと思います。

あとは、さきほどの体験と重複しますが、一喜一憂して売り買いしたものは大抵ダメでした。そういう時は全体が見えていないですね。鳥の眼とまではいかなくても、俯瞰的に見ながら投資をしないとダメなんじゃないでしょうか。


―――投資をはじめて数十年が経過していると思いますが、今、投資をはじめた頃の自分に戻れるとしたら、何を伝えたいですか。


失敗からの知見になりますが、長期目線でファンダメンタル(経済の基礎的条件)をきちんと見ていくように伝えたいです。情報収集や基礎知識の習得も大変ですが、とても重要です。投資運用のプロもいる世界なので、ある程度の基礎知識は早めに付けておかないと、ちゃんとした運用成果が出ないと思っています。

長期目線といえば、私は広島県出身なのですが、今や有名なアパレル会社の1号店が広島にありました。その会社はその後、株式を公開することになるのですが、例えば、その会社が身近だったということで株式を購入していたとしても、ちょっと値上がりしたらすぐに売っていたと思うんですよね。会社の成長を長期で見ることができなかったと思うので。長期目線は、保有の面でもそうですが、投資先の長期の成長を見るという点でも非常に大事だと思います。

長期とファンダメンタル以外では「自分なりのルールを作る」ことも伝えたいです。投資は意思決定と判断が必要ですから、事象を前にすると、悩んだり、試行錯誤してしまいます。事前に投資運用プランを練って、マイルールを作って、そこに照らし合わせて判断するほうが、結果として運用方針がブレないと思います。当然、個々の事象では優劣が出ることもあると思いますが、ルールやスタイルといったものは大事だと思います。

鳥の眼の話でいえば、インターネットのプラットフォーム・サービスやAIといったセクター(領域)をまとめて見ておくことができれば、投資実績も全然違ったものだったでしょうね。

AIについては、以前から脳科学系の方とも話す機会も多く、注目していた分野です。しかし、こんな急激な流れ(ChatGPTなどの登場)は、かなり衝撃的です。正直、それまでのAIは、一般での利用にはまだほど遠いものが多かったと思います。

ChatGPTは、その性能もありますが、UI・UX(ユーザーインタフェイス・ユーザーエクスペリエンス)含めた利用の面での進化というか、工夫の点に一日の長がありますよね。この1年くらいで、様々なセクターでの進化がとてもすごいです。

投資をはじめた頃はインターネット黎明期でしたが、いまはインターネットを通じ膨大なデータが蓄積している。このデータをいかに活用するか?ここに差し掛かってきていると思います。ちゃんと時流を見て、流れを見逃さないように伝えたいですね。この20年でデータ活用が本格化しました。生活も世界観も変わっていく中で、自分自身の投資戦略、投資スタイルを考えるように自分に伝えたいです。


―――読者の方にメッセージをお願いいたします。


まず、日本が再成長するためには「もっと投資にお金が回っていく必要がある」と思っています。銀行預金などからリスクマネーに多くのお金が回っていかなければなりません。(注:ここでのリスクマネーとはヘッジファンド等が運用する短期資金の意味ではなく、ベンチャー企業やスタートアップ企業が必要とする資金のことである。)

当たり前かも知れませんが、世界的に見ると「チャレンジしている国」が伸びています。日本でも、もっとチャレンジできる環境を作るためには、株式投資などの投資への資金流入が重要になります。

2024年から新NISAがはじまり、初めて投資される方もいると思いますが、投資はご自身の損得に加えて、国力に対しても、多少なりとも影響があるということを理解していただけるといいと思っています。

最近のニュースでは、日本はここ20年、給与が他の先進国に比べてほとんど伸びていないという報道もされています。報酬面もですがその他の面を見ても、日本の再成長は必須です。日本が再成長するためには、様々なチャレンジする環境を作っていく必要があると思っています。

私はエコノミクスデザインという会社を2020年6月に経済学者と創業しました。創業したきっかけの中に企業に稼ぐための「仕組み」を提供していきたいという想いがあります。

―――なるほど、「デザイン」というと図や意匠を想像しがちですが、「仕組み」ということなのですね。


エコノミクスデザイン創業の原点は、不動産オークションです。不動産業界は、とても属人的で、ノウハウなどが全くと言っていいほど「仕組み」になっていません。そうなると、個人としては成長できても、企業としての成長は難しい。そこで、「仕組み」にするため、「学問・学知」の視点からビジネスを再度検証し、「仕組み」にしていくことを行いました。そうすることにより、その企業では全員が同じレベル感での仕事が可能になります。
企業として、再現性や効率性を高める。実は、多くの日本企業ではこの点ができていない。そこで、この点に課題着目して、課題を解決していこうというのが、エコノミクスデザインの発想の一つです。それを「学知の社会実装」とも言ったりしていますが、日本の成長においてもベースとなるもの、「仕組み」を作って、その上にビジネスを乗せる、走らせるということも大事なのではないでしょうか。

学問・学知の優位性の一つは、再現性です。この点は、ビジネスでも強力な武器となります。うまくいく原因を見つけて、それをベースに「仕組み」を作っていく。データ分析などはその好例でしょう。

2024年の新NISAを機に日本に「学問・学知」をビジネスで使いこなすという考え方がインストールしていってほしいですね。実際にビジネスが活用されると、労働生産性は間違いなく上がっていくはずです。

エコノミクスデザインのホームページにも書いていますが、エコノミクスデザインは自分たちで学知のビジネス活用を推し進め、多くの企業を通じて社会に貢献していくと経済学者三人と私で創業した会社です。創業期は、未知のウイルスとの闘いがはじまる時期でした。

―――本日はありがとうございました。「学知の社会実装」「経済学のビジネス活用」という想いが伝わってきました。


時代は誰かが良くしてくれるものではなく、自らが良くしていくものだと思います。新NISA、そして、貯蓄から投資へという流れが、自分たち、そして後世のためになることを強く願っています。

今井 誠 氏 近影
株式会社エコノミクスデザイン
代表取締役 / 共同創業者


ご注意:当記事は一般的な情報提供を目的としており、投資の勧誘を目的としたものではありません。特定の商品の勧誘や売買を目的としたものではなく、また、特定の銘柄やセクター、株式・債券・為替市場全般の上昇や下落を示唆するものではありません。投資にかかわる最終的な意思決定はご自身の判断にてお願いいたします。当社、及びインタビュー関係者は本記事によって被ったいかなる損害についても一切責任を負いません。

曽根康司
インタビュアー・ライター
So-gúd編集部
曽根 康司
黎明期からインターネットに携わる。 アマゾンジャパン株式会社では4人目の社員として、立ち上げとオンラインマーケティングに携わる。ヤフー株式会社ではビジネス開発・営業企画を皮切りに中期事業計画策定等、株式会社キャリアインデックスでは事業管理から広報・採用と多岐に従事。Forbes JAPAN等にも寄稿中。また、焼肉探究集団YAKINIQUEST(ヤキニクエスト)のメンバーとして日本国内数百軒の焼肉店を食べ歩き、時折メディアにも出演。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)
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