WAcKA(わっか)イメージビジュアル
2021.08.19

アップサイクルからSDGsへ取り組むWAcKA代表 梶原氏が目指す未来


サーキュラーエコノミー(循環型経済)の1つである「アップサイクル」は、新しいモノ作りの方法論です。

一見「リサイクル」と同義にされやすいのですが、アップサイクルとは「廃棄される不用品に手を加えることにより、元より高い価値あるモノへ生まれ変わらせること」を指します。

大量生産・大量廃棄による環境汚染は、アパレル産業にとって大きな課題。2015年にSGDs(持続可能な開発目標)が採択され、持続可能な成長が求められている今、アップサイクルは大量廃棄を削減する考え方として注目されています。

今回は、日本で先駆けてアップサイクルの取り組みを始めた「WAcKA(わっか)」代表の梶原(かじはら)さんにインタビュー。

環境保全に貢献する梶原さんに「WAcKA」の取り組みや、目指していく未来の消費のカタチについてお伺いしました!


インタビューイー 梶原 誠(かじはら まこと)写真
インタビューイー
梶原 誠
(かじはら まこと)
WAcKA代表
大阪府出身。繊維専門商社やTシャツメーカーにて営業・生産業務を行う中で、ベトナム・バングラディッシュに駐在経験をもつ。2017年よりWAcKAを立ち上げ、アップサイクルの取り組みをスタート。同年、環境省主催「第5回グッドライフアワード」の環境と福祉賞受賞し、世の中に「アップサイクル」という言葉を広めるきっかけを作った。


アップサイクルは環境問題を知るきっかけ作り

────まずは、WAcKA(わっか)の事業内容を教えていただけますでしょうか?

梶原さん:
WAcKAでは、新品だが廃棄されてしまうTシャツを回収し、Tシャツヤーン(手芸糸)へアップサイクルしています。

一般的に売られているTシャツヤーンは、Tシャツではなく生地から作られていますが、本当のTシャツからアップサイクルしているのは、WAcKAが世界初の取り組みです。



────世界初なのですね!ではなぜ「アップサイクル」をはじめようと思ったのでしょうか?

梶原さん:
私は、元々アパレルの繊維会社で働いていました。日本にいる時は、「消費者のために製品を1円でも安く提供し、大量生産によって新たな雇用を生み出すことができる」と考えていたんです。

しかし、ベトナムやバングラディッシュに駐在し、実際の製造現場を見た時、違和感を覚えました。違和感を覚えたのは、労働問題と環境問題2つの視点からでした。

まず労働問題としては、労働対価として正当な賃金が支払われていないという点です。そこで、生産側に大きな負担をかけ、その先に苦しめている人がいることを目の当たりにしたんですよね。

────なるほど、実情を知ってしまったわけですね。環境問題としてはどういった部分で違和感を感じられたのでしょうか?

バングラディッシュ河川の浸水,so-gud(ソウグウ)
梶原さん:
バングラディッシュは、世界でももっとも気候変動の影響をうけている国でもあります。地球温暖化による海面上昇や河川の浸食、サイクロンや洪水も頻発し、大きな問題となっているんです。

このバングラディッシュでの滞在経験が、環境意識を変え、環境汚染に大きな影響を与えている繊維産業を見直さなければいけないと思ったきっかけとなりました。

そんな中、2013年にファッション史上最悪の事故といわれる「ラナ・プラザ崩落事件」が起きたんですよね。

(*ラナ・プラザ崩落事故とは、バングラディッシュの首都ダッカ近郊にある8階建ての商業ビルが崩落し1,000人を超える死者を出した事故のこと。多くのファッションブランドの縫製工場が入っており、ファストファッションがこぞって劣悪な環境かつ低賃金で労働させていた事実が議論を呼んだ)



────現地にいらっしゃったのですね。ラナ・プラザ事件以降、現地の環境は変化したと思われますか?

縫製工場
梶原:
まだ課題が多く残っているのが現状ですが、変わった部分も多くありましたね。

バングラディッシュは、輸出の8割が繊維産業で支えられており、世界中のバイヤーたちが集まっています。そのためヨーロッパの方も多く、彼らは事件以降コンプライアンス意識が大きく変わったように見えました。

例えば、児童労働や賃金未払いなどの「スウェットショップ(労働搾取工場)」を利用しない選択をする企業も増えていたんです。

またこの頃から、世界ではSDGs(持続可能な開発目標)について関心が高まり、トレーサビリティや、環境問題に対して高い問題意識を持っていました。

しかし、日本ではまだまだSDGsという言葉を知っている人も少なく、環境問題に対してもどこか遠くで起きている出来事として捉えられていましたね。



────当時の世界と日本では、環境に対する意識の差があったということですね。

梶原さん:
そのとおりです。だからまずは、日本の人たちに現状の課題を知って欲しかったんです。繊維産業は、環境汚染産業の世界2位とされ、環境問題として大きな課題とされています。

さらにもう一つの課題は、大量生産によって生まれた廃棄による環境汚染です。この2つの大きな課題を知ってもらうために、資源を使わずにアップサイクルする事業をはじめました。



あえて半製品にアップサイクルする理由

────なるほど、そういった経緯だったのですね。では、どのようにTシャツヤーンをアップサイクルをしているのか教えていただけますか?

梶原さん:
まずは、企業から新品のまま不要となったTシャツを回収します。そこから丁寧にミシンで縫い合わせ、手作業で撚りTシャツヤーンにしていきます。

新たなエネルギー、新たな資源を使わないということが大前提となるため、作業はほとんど手作業。

TシャツからできたTシャツヤーンの「iTTo(いっと)」は、もちろん品質にもこだわっています。綿100%のためマイクロプラスチック排出と言う点では環境に優しく、編みやすさや仕上げもきれいに見えるよう糸の太さを均一にしています。



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────品質にも強いこだわりを持っているのですね。手作業とのことですが、どのような方が作られているのでしょうか?

梶原さん:
WAcKAは、先ほど説明したとおりアップサイクルでいらなくなったモノを再び輝かせる事業をしています。

もう一方の思いとして、手作業によって雇用を生み、生きづらさを感じている人が輝ける場所を増やしたいと考えているんです。

そこで、WAcKAのTシャツヤーン「iTTo」は、福祉作業所の方に生産を依頼し、新たな雇用を生んでいます。現在は、生活困窮者支援事業として、雇用の促進や、就労支援にも積極的に事業を活用しています。



────雇用問題にも取り組まれているのですね。Tシャツヤーンをバッグなどの製品にすれば、さらに雇用は増やせるのではないでしょうか?

WAcKAのワークショップ風景,so-gud(ソウグウ)
梶原さん:
WAcKAでは、あえて製品にはせずTシャツヤーンという半製品にアップサイクルしています。なぜなら、私たちの目的は、Tシャツヤーンを使って編み物をすることで、製品を作る楽しさを体験してもらうことだからです。

ワークショップを通じて楽しみながら製品を作り、その先に環境問題や人権問題を考えるきっかけを作っていきたいと考えています。

そして半製品にするもう1つの理由は、実際にワークショップとしてTシャツヤーンから製品を作ることで、本当のモノの価値を知ることができるようになって欲しいからなんです。

例えば、かばん1つ作るのに5時間かかれば、店頭に並ぶバッグが正しい価格で売られているのか判断できるようになりますよね。

モノの価値を正しく判断することは、モノを大切に使うことができるようになりますし、無駄な購入を防ぐこともできます。消費に対する意識の変化が、最終的に大量生産、大量廃棄を防ぐことに繋がっていくと思っています。



────あえて半製品にする理由がよく分かりました!一方で、製品にして欲しいという要望もあったりするのではないでしょうか?

Tシャツヤーンで作ったバッグ
梶原さん:
実は最近、不要なTシャツを提供してくれる企業から「ノベルティとして製品にして戻してもらえないか」という要望が増えてきたんです。例えば、バッグやキーホルダー、布ぞうりなどを要望に合わせて作ることができます。

これらの製品は、Tシャツヤーン同様に福祉作業所で作ったり、シニア・シルバー世代のコミュニティを利用して、制作を依頼する場合もあり、新しい雇用も作り出しています。

「廃棄を無くし不要な在庫を活用することは、企業の責任」という意識の変化が少しづつ広がっているのだと感じますね。



アップサイクルで地域の輪を広げる

────それでは、WAcKAの今後の展望を教えていただけますでしょうか?

梶原さん:
現在は、Tシャツのアップサイクルをしていますが、今後は「地捨地産(ちしゃちさん)」という言葉に置き換えて新たなアップサイクルへ取り組んでいきます。

地捨地産とは、「地域で生まれる廃棄物を、地域の魅力に変える」ということ。ゴミをゴミと捉えず、資源として捉えることで新しい価値を生むことができると思っています。

例えば、牛乳パックを名刺にアップサイクルし廃棄費用を減らすことで、最終的に地域の財源を生み出すこともできるかもしれません。



────なるほど。今度は地域の間でアップサイクルの輪を広げていくということですね。梶原さんの活動範囲が広くて驚きました!

梶原さん:
実は、この取り組みはWAcKAだけでなく、地域のNPO法人とパートナーシップを組んで推進しています。

私も歳なので…笑 
今から自分でできることを増やすより、できる人と協力してスピーディーに解決に導くことが大切だと思っています。



僕らの事業が無くなることがゴール

────それでは、最後の質問です。ビジネスモデルとしての「アップサイクル」は、未来の消費のあり方を変えていけると思われますか?

梶原さん:
サーキュラーエコノミー(循環型経済)や、アップサイクルは、環境問題や大量生産による廃棄問題などの根本的な解決にはなりません。あくまでも、アップサイクルは、問題を解決するための延命措置です。

課題解決のためには、ひとり1人が本当に必要なモノだけを必要な分だけ購入し、大切に長く使うことが重要ではないでしょうか。

その結果、無駄な在庫がなくなり僕らの事業が最終的に無くなっていることがゴールですね。これからもアップサイクルを1つのきっかけと捉え、モノの本質を見極め消費のカタチを変えていきたいと思います。


WAcKAの詳細を見る

<編集後記>

梶原さんは、「アップサイクル」事業をしていますが、サーキュラーエコノミーが広まることに疑問を感じているとも、おっしゃっていました。

新しい資源を使わない事は大前提ですが、「サーキュラーエコノミーで作られた商品だから買っていい」、「エシカルだから買っていい」と簡単に判断してしまっては、本末転倒。

「モノを購入する前には、本当に必要なのかどうか一度立ち止まって考えてみることが大切」と梶原さんは言います。

ひとり1人の意識を変えることが、未来の消費のかたちを変えていくのではないでしょうか?



ライター松中朱李
ライター
So-gúd編集部
松中 朱李
神奈川県・横浜市出身。アパレル企業にて販売からバイイングを経験したのち、流行に流されないプロダクトを学ぶためイタリア・フィレンツェへ留学。現地で2年間を過ごし、気づけば靴職人に。帰国後は、メンズシューズブランドにて広報PR、メディア運営、ECサイトディレクション等に従事し、現在に至る。うさぎの散歩とヨガが日課。
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