スローファッションで人と地球へ恩返し。「Enter the E」のビジョン
アパレル産業は、環境問題や人権問題など、いまだだに多くの課題を抱えています。
最近では、「エシカルファッション」というキーワードにも注目が集まっていますが、その言葉の意味を理解しないまま、単なるトレンドとして扱ってはいないでしょうか?
今回は、人や環境に配慮した洋服だけを取り扱い「スローファッション」を提唱するセレクトショップ「Enter the E」代表の植月さんにお話を伺いました。
「大好きな洋服が、環境破壊し誰かの犠牲のうえで成り立っていることを知ったとき、裏切られた気持ちになった」と、過去に見た1本の動画から大きなショックを受けたという植月さん。
エシカルファッションのセレクトショップ事業を立ち上げたきっかけや、「Enter the E」が目指す未来の消費のあり方についてお話をお伺いしました!
・2019年ジャパンソーシャルビジネスサミット 審査員特別賞受賞
・2019年ビジネスで社会問題を解決する株式会社ボーダーレスジャパンにジョイン
・2020年Flauエシカルアワード受賞
破棄率0、消化率100%を目指す
────では、まず「Enter the E」がどのようなブランドなのかお伺いできますでしょうか?
植月さん:
「Enter the E」は、人と環境に配慮した洋服だけを世界中から集めたセレクトショップです。
私たちは「10着のうち1着でもエシカルでサスティナブルな洋服を選べる選択肢」を提供したい考えています。現在は、世界中の同じ志しを持つ35ブランドをセレクトし、どんなテイストの方でも選択できるラインナップを揃えています。
また、「スローファッション」を提唱し、在庫ロス・衣類ロスを無くしていくことを目指しているんです。
────「スローファッション」とは、どのような取り組みでしょうか?
植月さん:
Enter the Eでは、”在庫を持たないセレクトショップ”として、破棄率0、消化率100%へ挑戦しています。その解決策が「スローファッション」です。
「スローファッション」とは、在庫を持たず必要な分だけ必要な人に届ける仕組みであり、お客様はブランドが持つ物語、背景を知った上で本当に欲しい物を注文します。そして愛着をもって長く大切に着ていただく価値観のことを指します。
昨今、年間で約100万トン排出されている衣類廃棄が大きな問題ですが、その半分がなんと新品のまま廃棄されていると言われています。しかし、今より1年長く着ることで、日本全体として約4万トンの廃棄量を削減できるんですよ。
問題解決のためには、簡単に捨てられることなく、1人ひとりが1着を長く愛用してもらう必要があります。だからこそ、消費者の皆さんには、購入する前に本当に必要かどうか向き合ってもらうことが大切なんです。
私たちは「物語を着よう」というコンセプトを掲げています。「物語を着よう」という言葉には、洋服の見えない部分にあるたくさんの生産者の思いや物語を知っていただき、次の世代に受け継ぎたくなるものだけを着てほしいという思いが込められているんです。
6つのサステナブル基準
────ブランドのストーリーに共感してもらうことが重要なのですね。では実際にユーザーはどのようにブランドの想いを知ることができるのでしょうか?
植月さん:
ユーザーにそれぞれのブランドのストーリーを伝える接点として、3つの取り組みをしています。
1つ目はギャラリーを意識したショールームストアです。ショップをショールームのようにしており、ブランドのコンセプトを知ることができる作りになっています。
2つ目はデザイナーへのインタビュー動画をYouTubeにアップしており、トランスペアレンシー(透明性)を開示したり、デザイナーの人となりがわかるような内容をお伝えしています。
3つ目が、毎週木曜日に開催している「スローファッションライブ」です。Enter the Eがおすすめする商品を隔週で紹介し、世界中のブランドとリモートで、直接作り手とユーザーを繋ぐ場所を提供しています。
Enter the Eは、作り手と使う人を繋げる接点を作る場所であり、その後、自分に合うか合わないかはご自身で判断してもらう。なので、Enter the Eは、「お見合い」のようなものなんですよ!笑
────なるほど!ユーザーとしては、できる限りの情報を知った上で購入を検討できるので安心と納得した上で買い物ができますね。では、こだわりのブランドはどのようにセレクトされているのでしょうか?
植月さん:
Enter the Eでは「6つのサステナブル基準」を設けています。
- 持続可能な材料を使っているか
- トレーサビリティ(情報の透明性、開示の意思)
- デザイナー、ファウンダーのビジョン
- デザイン
- 作り手へのリスペクト
- エネルギー、Co2、資源の排出量削減に対する努力
すべての項目に100%クリアできるサステナブルなブランドはなくとも、各項目に対してクリアする努力が見えるかどうかが基準になっています。
また、私たちは必ずデザイナー・ファウンダーと直接話し、「ブランドイメージのためだけにサステナブルを謳っていないか」「本当に環境や雇用に対して誠実に向き合っているのか」ということをしっかりと判断しています。
デザインや価格など、全てが完璧ではなくても素晴らしいビジョンとストーリーを持ったブランドが沢山あります。しかし、素晴らしいブランドでも「倫理とビジネス」を成り立たせることが出来ず潰れてしまうショップもたくさん見てきました。
ここにEnter the Eがセレクトショップである理由があります。1人では難しいことも、セレクトショップなら各ブランドを束ねることである程度の規模ができ、少しづつでも社会へ変化を生むことができると思っています。
エシカルファッションの多様性
────なるほど、ビジョンへの共感を大切にされているんですね。全てこだわりのサステナブルブランドかと思いますが、いくつかブランドの特徴を教えていただけますでしょうか?
植月さん:
では、はじめに「DEDICATED」というスウェーデン発のストーリートブランドをご紹介します。
「DEDICATED」は、若者にエシカルファッションが広まらない理由として、高くて買うことができないからだと分析し、若者でも買える価格帯の商品を作ってくれています。
そして国際的な2つの認証「GOTS(ゴッツ)認証」と「国際フェアトレード認証」をもっています。「GOTS認証」とは、オーガニックの繊維製品に設けられた国際基準の認証で、原料から環境に優しく責任ある生産過程を開示し、消費者に信頼できる商品であるという証明です。
「国際フェアトレード認証」は、トレーサビリティへの証明なので、2つの認証は同じような内容になっているのですが、「DEDICATED」はわざわざ2つの認証を取っているんです。
認証にはコストがかかるのですが、ユーザーへの安心のために認証を取得し、なおかつ商品は低価格のまま提供している部分に企業努力を感じますよね!
彼らはトレンドを追うことなく、独自のスタイルを築くことを大切にしています。結果的に毎年大きくデザインを変えず、自分たちのペースで生産のハンドルをきることで、サステナビリティを実現しています。
────やはり多くのサステナブルブランドが認証を取っているのでしょうか?
植月さん:
他のブランドですと「Thinking MU」というバルセロナ発のブランドも同じく全ての素材に「GOTS認証」をとっています。さらに、「Thinking MU」は全ての情報を開示しないと気が済まないと言わんばかりのブランドなんです笑
たとえば、生産過程で使用される水の量やCo2の排出量まで記載し、作り手をQRコードでトラッキングできるような仕組みになっています。
────トレーサビリティへの意識が高いですね。
植月さん:
そうなんです。でも、全てのサステナブルブランドが認証を持っているわけではありません。対比として、「BIBICO」というイギリスのブランドをご紹介しますね。
「BIBICO」は、フェアトレード認証を持っていません。その理由として「認証のために第三者機関を介入させることによってコストが高くなるのは理解できない」という考えをもっているからです。
彼らは工場で働く人の名前も顔もわかる距離感で働いているため、無駄な中間コストがかからずその分労働者に還元できたり、インドのムンバイの雇用推進をしていたりと、別の視点でサステナブルな基準を満たしているんです。
突き動かしたのは「人は生まれついての起業家」という言葉
────なるほど、サステナブルと一言でいっても多様な形があるのですね。では、なぜ植月さんは「人と環境に配慮したサステナブルなブランド」をビジネスとして起業しようと思われたのでしょうか?
植月さん:
実は、以前ストレス発散として洋服を買いすぎまして、500万の借金をしてしまったことがあるんです……汗
この時、大好きな洋服で周りに迷惑をかけてしまったショックと、自分のためだけに生きる虚しさを知りました。せっかく生きているなら自分のためではなく、好きなもので貢献したいと思ったんです。
そして同じタイミングで1本の動画を見るのですが、そこには散布剤を撒き大地が枯れていく様子、農家さんの手がただれ、近隣住民が散布中は家から出られない様子が映し出されていました。
「大好きな洋服が人と地球の犠牲の上に成り立っている」という事実を知り、絶望にちかい大きなショックを受けたんです。
そこでまず考えたのが「自産自着(じさんじちゃく)」という、自分で原料を育てて自分で着るという考えを、当時在籍していた会社の中の1事業としてスタートさせました。でも想像以上に誰にも共感してもらえない日々で……
その後、震災やラナプラザの崩壊事故、そして2015年に発表されたSGDsと、まわりの環境がソーシャルグッドな動きになってきたのですが、それでもアパレルはまったく変わらなかったんです。
この状況に我慢の限界を感じていました。ちょうどその時、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が来日した公演をたまたま見に行っていたんです。
そこで彼が「人は生れついての起業家。誰もが社会起業家になれる」と言ったんです。この言葉を聞いた瞬間、「私がやらなきゃ誰がやるんだ!」と起業を決意しましたね。
────ずっと抱えていた不満が爆発したんですね!ではその後、起業家として立ち上がった植月さんは、どのようなビジョンを持ってセレクトショップをスタートさせたのでしょうか?
植月さん:
やはり、「今まで楽しませてもらった大好きな洋服に恩返しする」というのが一番のミッションです。そして私が感じた大きなショックを、これからの世代の人に感じさせてはいけないという思いを持ってセレクトショップをスタートさせました。
だからこそ、心から気持ちがいいと思う洋服を提供して、ファッションの新しい楽しみ方を知ってほしいと思っています。
「人や環境に配慮した洋服を選びたいけど、価格やデザインの選択肢がない」と感じている人へ、デザインや品質も兼ね備えたエシカルな洋服を世界中から取り揃え、サステナブルな選択をあたりまえに選べる環境をEnter the Eは作っています。
「人と地球へ恩返し」する仕組み
────それでは、最後に植月さんの今度の展望をお伺いできますでしょうか?
植月さん:
Enter the Eは、あくまでもきっかけにすぎません。私たちは、冒頭でも伝えたとおり「10着のうち1着でも環境に配慮したエシカルなものを選択してもらう」という目標があります。
そして最終的に「人と地球が洋服を楽しむ世界」を目指しています。実現のためには、洋服を買うことで地球に還元できる仕組みをつくる必要があるのではないかと考えています。
人や地球に恩返しできる仕組みづくりとして、実は、来月から洋服を購入したら植樹できる「植樹サービス」を始める予定です。どこかのアパレル産業によって失われた土地に木が植えられるサービスです。
また、もう1つ「ポイントサービス」もはじめます。商品代金の1~2%にあたるCo2使用量を地球に還元しようというサービスです。ポイント割引や寄付できるようにしていく予定なんです。
────まさに恩返しですね!最後に、エシカルな選択をあたりまえにできる世界になるためにはどうしたらいいと思われますか?
植月さん:
アパレル産業が環境への負荷を与えていることに対して、問題を解決できるのは消費者である皆さんです。1人ひとりの行動と選択、消費マインドが変わることで、ユーザーの変容によって大きなうねりが生まれるのではないでしょうか。
そしてユーザーの変容を助けるのは、私たちの役目。やはり、まだまだどのような基準で選んだらいいのかわからないという「サステナブル迷子」が多いと思うんです。
だからこそ、サステナブルではない通常のブランドを含めたすべてのブランドを、同じ基準で見れるようにできたらいいと思っています。そして、各ブランドが取り組んでいることに対して「見える化」をしていく。
そうすることでユーザー自身がサステナブルに対して玄人になっていくのではないかと思っています。その1歩として、すべてのブランドのサステナブルな情報の「見える化」が必要なのではないでしょうか。
今後は各ブランドのサステナブルな取り組みを「見える化」したアプリケーションも作っていきたいですね。
Enter the Eの詳細を見る
今回のインタビューの中で「長く愛用するために必要な耐久性は、素材だけではない。デザインが一番の耐久性です」という植月さんの言葉が印象的でした。
筆者自身、まさにそのとおりだなと激しく共感を覚えたからです。続けて植月さんは「シンプルだから長く着るというのは少し違うと思うんです。デザインのクオリティの高さ、デザインの豊かさが一番の耐久性なんです」とおっしゃっていました。
好きなデザインは何年も着ているという方も多いと思います。長く愛用し、本当に必要なのかどうか、デザイナーのビジョンに耳を傾けてサステナブルな洋服を選んでみてはいかがでしょうか?
ぜひ一度Enter the Eの世界感に触れてみてくださいね。最後までご覧いただき、誠にありがとうございました!
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