未来を読む力:社会変動を事業機会に変える
2024.05.08

未来を読む力:社会変動を事業機会に変える


AIの台頭、歴史的な円安、新型コロナウイルスのパンデミック、そして戦争の影響により、世界中の経済は未曾有の状況に直面している。

このような社会の激動において、私たちはどのように事業戦略を変革し、新たな価値を生み出していくのか。

大手広告代理店での営業職やプランナー職を経験し、デジタルコミュニケーション局や次世代型クリエイティブブティックを立ち上げた経歴を持つ東北芸術工科大学の関良樹教授。

本インタビューでは、関教授が培ってきた豊富な経験をもとに、新規事業の考え方や立ち上げ方、そして未来を形作るための戦略について探求する。

関 良樹
インタビュイー
関 良樹氏
東北芸術工科大学 デザイン工学部 企画構想学科
教授
専門分野:デジタルビジネス、イノベーションデザイン、新規事業開発


実務でのマーケティング経験からローカルの新規事業戦略の研究へ


東北芸術工科大学 取材イメージ図
―――まずは、研究領域について教えてください。

新卒にて大手広告代理店に勤務し、その後はITベンチャー、Big4外資系コンサルファームで新規事業などに関わりました。

実際の勤務経験からマーケティングに関してある程度の専門知識はあったので、それをベースに、大学では新規事業戦略やDX戦略、そしてマーケティング戦略の三つの分野を専門として研究しています。

現在は特にローカルの新規事業戦略をテーマにした研究に力を入れています。

昨今では少子高齢化や若者の県外転出、中小企業の後続者不足などが、DXを推進する上で重要な課題となっています。

人手不足が進行しているため、まずは業務の効率化が必要です。その後、企業同士のマッチングを促進し、新たなサービスを生み出す必要があります。こういったことには段階的なプロセスがあり、まだ初期段階にあると考えています。

―――近年、急速な変化が続く社会で、新規事業のアイディアを生み出すためのポイントや、取り組む上で準備しておくべきことはありますか?

社会はこれからも大きく変化し、今後、日本では人口の減少が経済に影響を与え、日本の経済は厳しくなると思っています。

よって、ビジネスの主戦場は国内だけでなく、海外にも目を向ける必要があります。

このような状況下では、過去のビジネスモデルが時代に合わせて変革される必要がありますが、同時に多くのチャンスも秘めていると思います。

―――日本で成功している分野で、海外でも戦えるチャンスがあるサービスや事業、業界ではどのようなものがありますか?

日本が持つアセットは多岐にわたります。産業や産物はもちろんのこと、現在はインバウンドの時代で、多くの外国人が日本のホスピタリティを求めて訪れています。

もちろん提供されるサービス自体にも価値がありますし、ホスピタリティの仕組み、いわゆる考え方を海外に輸出していくことも考えられます。

日本で評価されているサービスは、実際には日本国内で考えられている以上に海外で高い評価を受けているということをもっと知ってほしいと思います。

また、技術品質においては日本は先進技術に遅れをとってしまったものの、それを価値に転換する力はとても高いと海外の人々からもよく評価されています。

50年前の日本は、現在の韓国と同様に加工貿易などを行い、サプライチェーン上で商品を組み合わせて価値を見出していましたが、再び注目されてきていると感じます。

先日、TSMCにより半導体の工場が熊本に建設されるなど、日本のメーカーや先端企業に対する期待も高まっています。先進技術に日本人のホスピタリティを組み合わせることで、世界市場でも充分競争できる力を持っていると考えています。

デジタル技術の台頭で変わる市場


東北芸術工科大学 取材イメージ図
―――社会が大きく変化する中で、どの業界が消費者行動の変化に最も影響を受けると思いますか?

私たちの身の回りで最も影響を受けているのは、既存のビジネスモデルの中ではマスメディア業界です。

例えば、広告代理店や放送局は以前は非常に人気がありましたが、今はSNSやデジタルサービスの台頭によって以前と比較し厳しい状況にあります。

SNSやデジタル技術によって、消費者の情報の受け取り方が大きく変わりました。

20年前と比べて情報の受け取り量が増えたことで、消費者の情報を選択する能力も向上しましたが、その結果、自分に必要な情報だけを選択する傾向が強まりました。

要するに、消費者が自分にとって都合のいい情報しか受け入れなくなるという時代に突入し、多くの人に情報を与えていたマスメディアの価値が以前と比較し低下したと言えると思います。

―――昨今では、雑誌社や広告代理店の中でも、デジタルマーケットへの進出をする企業も増えてきました。既存のやり方との違いから、社内から戸惑いや衝突があるといった声も耳にすることがあるのですが、変革する上で必要なことは何でしょうか?

確かにネット上の情報と、雑誌など専門領域のクリエイターによる情報とのクオリティは全く異なります。しかし、クリエイターたちの「その価値を理解してくれる読者に購入してもらいたい」という願いに、読者の需要が追いついていないと感じています。

例えば、私自身も趣味のアイテム購入など、特定のレアなアイテムを求めることがあります。レアなアイテムの情報はネット上にあっても、愛好家たちは必ずその情報を買いに行く傾向にあります。

現代のようなネット社会においては、マジョリティーで単価を下げるのではなく、レアマーケットに焦点を当てて、高品質かつ高価格でサービスを提供することも必要と感じます。

変化の多い世の中で、成功するビジネスと失敗するビジネス


東北芸術工科大学 取材イメージ図
―――事業を立ち上げたからには成功させたいと願う経営者は多いと思いますが、変化がの多い現代で、新規事業を成功させるために重要な要素は何でしょうか?

基本的な概念を変えていくことは重要ですが、ただ概念を変えても競争力が生まれるわけではありません。

近年は、デジタル技術を活用し、既存のビジネスモデルや商習慣、業界の壁を変革するディスラプターが世界中で登場しています。

新しいビジネスモデルに完全に転換するというよりは、従来のビジネスモデルであるコンベンショナルモデルに新たなビジネスモデルを組み合わせることで価値が生まれると思います。

新規事業を成功させるために最も重要なのは、事業を運営し続ける意志です。

また、意志の強さや精神力も求められます。アイディアが良くても、継続性がなければ実効性に欠けることになります。

―――新規事業を立ち上げる際に、具体的にはどのようなリサーチや準備を行っていくべきでしょうか?

基本的には、マーケット調査を行い、サービスや商品が誰に利用されるか、そのサービスの性質を徹底的に把握する必要があります。アイディアだけでは不十分であり、競合サービスの分析や優位性の確認、売り上げ構成率や顧客の購買動機など、細かい点まで調査することが重要です。対面調査を通じて深く掘り下げていくことも不可欠であり、この段階はどの業界でも行われるべきです。

その上で、私が特に重視しているのは、サービス展開に伴って多くの仮説が出てくることです。これらの仮説を対面で消費者に提示し、想像させることでさらに高度な調査を行います。その結果、想像と実際の結果の一致や構成が見えてくることがあります。

特殊なアプローチかもしれませんが、デジタル転換の際には、仮説を立てながらA/Bテストを常に実施し、PDCAサイクルを繰り返すことが重要です。

調査結果はエリアや時期によっても異なりますが、常にウォッチしていくことが必要です。このように準備をすると、事業の立ち上げにはかなりの時間がかかりますが、精度を高めることでビジネスを効率的に始められ、効果が速く出るようになります。

効果が得られない場合でも、ここまで事前調査をしていると、またすぐにA/Bテストを行え、素早く対応ができるんです。

ビジネスでは、時代の特性によって答えが見えないこともあります。

例えば、日本の株価が最高値に達した時、消費者の心理や購買金額が変わり、普段では購入しないような贅沢品を購入したりします。

このような要因も考慮して、不確実な世の中で未来を予測しなければなりません。

―――未来を予測することは出来たらいいなと思いつつ、なかなか難しい部分もあると思いますが、先生が未来予測をする際の思考方法や視点について教えてください。

未来予測に関しては、寝る間を惜しんで、様々な要素を考慮し、あらゆるシナリオを検討してしまいます。不確実性の時代であるので難しくなりましたね。

一方で、個々の要因や背景、地域や性別などによって、人それぞれ行動は全て違います。

基本的には商品・サービスが誰を対象としているのか、その需要の変化や行動パターンの理解が鍵となります。特に新商品の場合、顧客の行動特性や将来的なニーズの変化を見極めることが不可欠です。

例えば、大学生向けの商品であれば、彼らが社会人になった際に必要とするものや行動パターンの変化を想定し、そのターゲット層のニーズを正確に捉える必要があります。

私がよく行っているのは、学生との対話を通じて、異なる要素同士の関連性を把握し、大きな黒板にポストイットを貼っていき、整理する一般的な作業です。このプロセスを繰り返すことで、これまでに見えなかった新たな発見やアイデアが浮かび上がることがあります。

東北芸術工科大学 取材イメージ図
―――研究を通して、これまで様々な企業の事例を見られてきたかと思います。成功したプロジェクトの事例やその成功の背後にある戦略的要素について、教えてください。

東南アジアの国で日本企業が手がける清涼飲料水の進出は、大きな成功でした。

当初は暑い国で汗をかくことからの需要を考えたのですが、実際には現地の文化と習慣が大きな発見でした。

具体的には、ラマダンという断食明けに飲まれる飲料として評価されることが、その地域の文化や習慣、今回の場合は宗教を理解することで明らかになりました。

現地での調査や対話を通じて、ラマダン明けの商品として、マスメディアも使用しましたが、主に口コミ形式で展開したことが効果的でした。

その土地の文化や習慣に入り込み、かつ日本人特有の丁寧さや国民性を活かすことが成功の鍵となりました。

現在策案している一つは、さくらんぼやリンゴなど、山形の農産物の海外輸出など、日本の多様なアセットに付加価値を追加し展開することです。

海外市場でも日本産品の価値は高く評価されており、さらに日本特有の丁寧な販売や品質保証を付加価値として提供することが可能だと思います。

日本では人口の減少により、将来を見据えて、産業の継続性を確保することが課題となっています。

単にホスピタリティを提供するだけでなく、日本の国民性や文化を輸出し、海外への教育や技術支援を通じて産業を育成していくことが重要です。

特に、医療や介護などの分野では、ベトナムなどの国々からの需要が高まっています。

現在は円安の影響で、多くの人々がヨーロッパに流れていますが、日本のホスピタリティに対する関心は依然として高いです。海外での経験を通じて学んだ知識や技術は、帰国後に自国の発展に役立てられると考える経営者もいます。

―――逆に失敗した事例もたくさん見られてきたと思いますが、失敗の要因は何でしたか?

まず一つ目の避けられない要素は、差益です。現在の円安状況では、多くの企業が大きな損失を被っています。

二つ目の大きな要因は、カントリーリスクです。特に、かつては中国が世界の工場として機能していましたが、日本人のように細かく丁寧な作業を得意としないことも言われていますね。多くの企業がサプライチェーンの場所を他の国に移す動きが活発化しています。

このような国の変更は、ロットの出し方や工場の選定に関わる問題を引き起こし、損失を埋めることが難しくなります。

特に小ロットビジネスにおいては、カントリーリスクを十分に考慮することが非常に重要です。

コロナ禍と戦争の影響で、世界中の経済を支える人々が過去に経験したことのない状況に直面しました。このような状況においては、将来を見据えての準備や蓄積、常に未来を読み取ろうとする努力が重要だと考えています。

常に未来予測をしながら、強いマインドを持って継続すること


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―――移り変わりの激しい時代に、新規事業がこれから求められていく要素は何でしょうか?

AIとの共存は今後のビジネスにとって不可欠な要素です。

例えば、OpenAIによってChatGPTが発表されて以来、大きな社会の変革が進んでおり、多くの業務が変革を起こしています。さらに、最近では、ノーコードのシステムの登場や働き方改革による業務の変革も進行しています。こういった革新は、AI未導入の企業と導入済みの企業のリテラシーの差を生み出し、今後、スキルの差による問題が発生する可能性があります。このような状況下で、伝統的なビジネスモデルに依存している企業は衰退のリスクに直面し、新しいビジネスモデルの採用が必要になっています。

―――技術の進化が新規事業開発に与える影響には、肯定的な面と否定的な面が表裏一体となって現れると思いますが、どうお考えですか?

影響という観点で考えると、従来のビジネスモデルだけでは、AIの進化によって衰退し、サービス需要変革が起こる可能性。これにより、雇用の衰退が始まり、経済全体に影響を及ぼす懸念があります。

しかし、新しいテクノロジーを活用して新たなビジョンを生み出し、新たなビジネスモデルを構築することもできます。多くのノウハウを持つ旧型ビジネスモデルはM&Aやビジネスマッチングを通じて活用し、サプライチェーンの変革や新型ビジネスと旧型のビジネスとの融和を促進することが重要です。

これまでも従来の工場などを持つ旧型の産業とAIを活用するIT業界が連携することで、ビジネスが加速してきました。今後は、個別企業のAIへの設備投資だけでなく、パートナーシップを組んで共同で取り組んだり、M&Aを通じて業務改革を促進することが増えて来ると思います。

こうした変化をどのようにマネージメントするか、そして自社のビジネスを拡大していくためにどのような不確実性時代に未来予測を行っていくかが、今後の課題になってくると思います。

―――最後に読者の方にメッセージをお願いします。

今の現状だけでなく、社会の実情を踏まえてto beを予知し、次にどうなるかを常にウォッチすることが重要です。また、自己実現をするために強いマインドを持つことも欠かせません。

これらの二点を持って、日本の未来を皆さんで築いていってほしいと思います。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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