EdTechの先駆け「スタディプラス」|未来の教育は学校と塾の垣根を超えた“コーチング”がカギ
近ごろは 「EdTech(エドテック)」という言葉も浸透し、さまざまなスタートアップが学習支援サービスを生み出している。EdTechとは、文字通り“Education(教育)”と“Technology(技術)”をかけ合わせた言葉だが、EdTechという言葉が認知されたのはここ2年ほどの話だ。
しかし、10年以上も前からEdTech事業を展開し、教育現場にイノベーションを起こしてきた企業がある。それが、「スタディプラス株式会社」だ。スタディプラス株式会社は、人気の学習管理アプリ「Studyplus」をメインに、“学習管理プラットフォーム”にフォーカスした事業を展開している。
中でも多くの学習塾で導入され、今では学校からの問い合わせも増加している教育機関向け学習管理プラットフォーム「Studyplus for School」に注目。講師は、生徒たちが記録する学習データを活用し、より精度の高い個別コーチングを可能にしている。
今回は、EdTech事業の先駆けであるスタディプラス株式会社を牽引してきた、取締役COO 宮坂氏と私教育事業部 部長の角田氏に取材。EdTechを通じて未来の教育現場はどのように進化していくのか、また今後のビジョンについてお話を伺った。
取締役 COO
スタディプラス参画前は、株式会社リブセンスにて「転職会議」事業を立ち上げ、
その後、株式会社カカクコムに転職し、食べログ本部にてネット予約・予約台帳事業責任者として事業を牽引。
私教育事業部 部長
大学時代、塾にて講師を務め、教育事業に関心を持つ。新卒で、株式会社内田洋行に入社、民間企業向け業務支援システムのセールスを担当し、2018年にスタディプラス株式会社に入社。大手法人を中心に全国の学習塾のサポートを担当。
「Studyplus」が“学習の継続”を促すために導入した機能とは?
────でははじめに、スタディプラス株式会社の事業概要を教えていただけますか?
宮坂氏(以下 宮坂):
弊社は、2010年の創業から「学ぶ喜びをすべての人へ」というミッションを掲げ、新しい教育の仕組みをつくっています。
はじめは、家計簿をつけるように学習記録をつけることができるアプリ「Studylog」をリリースしました。しかし、学習記録のみに特化したアプリは、あまりユーザー数が伸びなかったんです。
ユーザー数が伸び悩んだ原因は、学習に対する“モチベーションの維持”にありました。学習記録をつけるだけでは、モチベーションが続かないことがわかったので、同じ目標を持つライバルと切磋琢磨できるようなサービスを追加したんです。
そこで2012年にリニューアルし、新たに学習記録をシェアできるSNS機能やコミュニティ機能を搭載しリリースしたのが、今の「Studyplus」です。すると、ユーザー数が顕著に伸び始めました。
現在「Studyplus」の累計会員数は、700万人を突破し、大学受験生の2人に1人の割合でご利用いただいています。
────なるほど、他の人の学習記録を知ることで、モチベーションを維持することができるわけですね。「Studyplus」は、具体的にどのような機能があるのでしょうか?
宮坂:
EdTech企業やサービスは、さまざまな種類がありますが、教材そのものを搭載しているアプリが多いかと思います。一方で「Studyplus」のメイン機能は、あくまで“学習の記録を付けること”なんです。
仮想の本棚空間があり、学習者が勉強している教材を並べていきます。市販のものはバーコードの読み取りで追加できますし、ないものは生徒さん自身が登録することで何でも学習記録をつけることができます。
例えば、筋トレをしようとすれば、腕立て伏せの教材を自分で登録して記録をつけることができるんですよ。今は、学校でも一般教科だけでなく「SDGs」や「脱炭素」といった、テーマをもった探究学習も増えています。そういったすべての教材を登録して、学習ログをためグラフとして振り返ることができるんです。
そして、こういった学習記録のグラフを共有することができるので、「同じ大学を受ける子はこんな勉強しているんだ」とか、「この参考書使ってみようかな」など、シェアされている情報から新たな気づきを得ることができる仕組みになっています。
都心では、当たり前に大学受験する子がまわりにも多いかもしれません。ですが、地方では予備校自体の数も少なく、まわりに大学進学を目指すライバルがいなかったり、情報が少なかったりと課題が多くあるんですよね。
そこで「Studyplus」を使うことで、学習情報やライバルを見つけ、モチベーションを高く維持して学習を継続していくことができます。
お金をかけてでも“学習管理プラットフォーム”を導入するワケ
────では続いて、教育機関向けのサービス「Studyplus for School」のお話を伺っていきます。どのようなサービスなのか教えていただけますか?
宮坂:
「Studyplus for School」は、学習塾や学校で講師や先生に使っていただく“学習管理プラットフォーム”です。
生徒さんにアプリをダウンロードしていただき、学習記録をつけてもらいます。その学習記録を、一括管理してリアルタイムで見ることができ、今まで知ることができなかった「家でどんな勉強をしているのか」を可視化することができるんです。
他にも、メッセージ機能や学習計画の提案機能も搭載しています。“授業だけでは成績が上がらない”という生徒さんに対して、見えない時間も学習管理することで成績を上げていくためのサポートができるんですよ。
「Studyplus for School」は、2016年のリリースから1,000教室以上に導入いただいています。大手学習塾から個人塾まで幅広い教室でご利用いただいているのも、特徴かもしれません。
────実際「Studyplus for School」を導入することで、どのような変化が生まれるのでしょうか?
宮坂:
多くの学習塾からは、今まで見ることのできなかった情報を知ることで「一人ひとりに合わせた学習サポートができるようになった」という声をいただきます。他にも、コミュニケーション機能を活用することで「退塾数の減少に繋がった」という声もありましたね。
ではなぜ、学習塾がお金をかけてでも学習記録データを必要とするようになったのかといえば、“学習塾が抱える課題”が背景にあります。
学習塾が抱える課題とは、少子化と講師不足によって今までの経営では成り立たなくなってきたことです。学習塾といえば、ご存知のとおり集団指導型が主でしたが、少子化により生徒集めが難しくなったことで個別指導を採用する学習塾が増えたんです。
しかし個別指導塾では、講師を多く確保する必要があります。昔なら大学生講師のアルバイトは、賃金も高く人気がありましたが、今やアルバイトの平均賃金が上がり選択肢が増えているため、大学生講師の確保も簡単ではありません。
これらの理由から学習塾は、今までの集団指導型から、デジタル教材を活用した自立学習型へと変化しています。自立学習型では、講師は教える役割から生徒がデジタル教材で勉強し、そのサポートをする役割へ変わります。
講師の役割が“ティーチングからコーチング”へと変化したことが、学習記録データを必要とする大きな要因なんですよね。もちろん、少ない講師でたくさんいる生徒をアナログにサポートすることは難しいため、もっと自動化し簡易化して学習サポートができるからこそ、多くの教室で「Studyplus for School」が導入されているのだと思います。
────なるほど、教えることより「学習管理すること=コーチング」が重要になっているんですね。
宮坂:
その通りです。また、対面で個別面談となると膨大な時間が必要だったり、タイミングを逃してフィードバックが漏れたりといった問題が発生していました。「Studyplus for School」を活用することで、コミュニケーションロスの問題も効率的に解決することができるんですよ。
講師は学習データをいつでも見ることができるので、すぐにメッセージを送れますし、オンラインビデオツールを活用することで、少ない時間で解像度の高いコーチングを可能にしています。今後は、時間と場所を超えた柔軟な指導ができる環境を整えることが重要になっていくのではないでしょうか?
「Studyplus for School」 導入事例から見る新たな活用術
────今まで導入された塾の中で、印象的な活用事例はありますか?
角田氏(以下 角田):
活用事例はたくさんあるのですが、今回は「地域間の教育格差をなくすこと」を目指し「Studyplus for School」を導入いただいた地方の個別塾での活用事例をご紹介します。
福島県南相馬市にある「京大個別会原町本校」という、東日本大震災後に設立された学習塾です。導入された理由は、生徒さんの視野を広げ学習意欲を高めることでした。
学習記録のシェア機能で他地域の教育レベルを知ることによって、生徒たちの学習意欲を高めることに成功しています。他には、オンラインビデオツールを活用し、都会で働く大学生を積極的に採用しコーチングをされています。
同じ地域ではなく、都会の大学生と直接話すことで、学習サポートはもちろんですが東京での生活についても話ができる機会になっています。それが、将来に対する視野を広げるきっかけになっているそうです。
おそらく、この塾だけでなく多くの地方では、近くに大学がなかったり、周りに進学を希望する生徒が少なかったりと、勉強に対する意識が低くなってしまう“地域性の問題”を抱えていると思います。
全国に同じような課題を抱える塾はたくさんあると思うので、「スタディプラス」ではさまざまな取り組みをされている導入事例を紹介しています。ぜひ参考にしてみて欲しいですね。
公教育と私教育の“橋渡しの役割”へ
────では最後の質問です。これまでEdTech企業の先駆けとして学習支援をしてきた御社が、今後目指していくビジョンをお伺いできますでしょうか?
宮坂:
コロナ禍から、学習塾だけでなく学校からの要望や問い合わせもすごく増えました。またすでに、塾でも学校でも「Studyplus for School」を導入いただいていることもあります。
その結果、塾での学習も学校での学習も、生徒さんが「何を勉強しているのか」を双方向から知ることができるようになってきました。
今まで、塾と学校には溝があり、完全に分けられた存在でした。しかし、主体的に学ぶことにおいて、塾も学校も垣根なく“共に生徒さんに寄り添うことができる環境”をつくっていく必要があると考えています。
私たち「スタディプラス」が、公教育と私教育の“橋渡しの役割”となり、立場を超えて生徒さんに寄り添える環境をつくっていきたいですね。
一方で、学校でも「GIGA スクール構想」がスタートしたことで、デジタル格差なく端末を1人1台持つ時代になっています。今後は、教育データの利活用も重要なテーマとなっていくので、「スタディプラス」としてもしっかり注力していきたいと思います。
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