コミュニティの未来を考える:宮野准教授の革新的「地域活性化」論
2024.05.28

コミュニティの未来を考える:宮野准教授の革新的「地域活性化」論


日本の人口減少の勢いは止まらず、2,100年に向けて8,000万人国家を目指すべきという議論が始まっているほど深刻な状況にある。

また、2022年の都道府県別人口の統計によると、人口が増加したのは東京都のみだった。つまり、地方転出が増え、まさに東京の一極集中が始まっていると考えられる。

このまま人口減少・便利な都市への転出が進むと、地方運営が継続できないまちが出てくる可能性がある。自らのまちを守っていくためには、自然や文化などの貴重な資源を活用し、地域活性化に向けた取り組みが重要だ。

今回紹介する大分県立芸術文化短期大学・宮野幸岳准教授(国際総合学科)は、まちの自然や文化を活用する考え方であるエコツーリズムを軸に、地域活性化を目的とした観光学の研究を続けている。エコツーリズムでまち独自の観光スタイルを発見すれば、持続的な地域活性化を目指すことが可能だ。

今回は、まちそれぞれの地域資源を源にし、消費行動まで見据えた革新的な取り組みを提唱する宮野准教授に、地域活性化における課題やトレンドだけでなく、観光振興への向き合い方についてお話を伺いました。

宮野 幸岳
インタビュイー
宮野 幸岳氏
大分県立芸術文化短期大学 国際総合学科
准教授、技術士(建設部門)


大分県立芸術文化短期大学・宮野幸岳教授が研究する地域活性化


大分県立芸術文化短期大学 取材イメージ
―――はじめに、研究概要を教えてください。

私が現在力を入れている研究は、エコツーリズムを中心とした観光学です。エコツーリズムとは、地域の保全・活性化を目的として、観光客へ自然や文化などの魅力を伝えることを意味します。

私は以前、都市計画に関するコンサルタントとして従事していました。仕事のなかで、右肩上がりの人口増加を前提として都市開発が進む現状に、違和感を覚えていたんです。既に2000年代初頭から国内人口はピークを迎え、今後は人口減少に進んでいくことが分かっている、それでも「開発」が必要なのだろうか、と。

少子高齢化により、人口減少への歯止めがかからないのが日本の現状ですよね。私たちは、人口が減っていく現実を受け止めつつ、そのなかでもまちが元気になる方法を考えるべきだと感じています。

東京一極集中が進む時代のなか、人口流出が続いているのはいわゆる田舎の地域です。ただ、海や山に囲まれた田舎のまちこそ、地域ごとに有した魅力的な観光資源を使い、外から人を呼び寄せる力をもっているのではないでしょうか。

人口減少が続くまちのなかでも、地域活性化を目指していける観光に興味をもち研究を続けています。

―――ありがとうございます。地域活性化を考えていくなかで、どのようなことが課題として挙げられるでしょうか?

地域の観光として考えていくときには、ステークホルダーの多さが一つの課題になっています。たとえば、行政がいくら観光へ力を入れていこうとしても、住民全員の理解を得られるわけではありません。

まちに外部の人間が多く訪れる状態に、違和感や反対意見を示す人のことも考えつつ、観光に対しての意思決定をする必要があるんです。

これからの観光においては、いままで以上に来訪客と地域住民との触れ合いが大切になる可能性が高いんですよね。たとえば、いまゼミ生と一緒に研究を行っているテーマとして不便益観光が芽生えつつあることがわかっています。

不便益観光とは、SNSを初めとしたインターネットで簡単に行き先の情報が得られるようになっているなかで、行き先のことがはっきりとわからないような不便である状態に面白さを感じる観光のことです。つまり「迷う」ことに新たな価値を見出すような観光です。迷いながらまちを歩くことで、ふとした路地裏にたたずむお店を見つけたり地域住民と触れ合いながら、自分だけオリジナルな観光スタイルを発見できるのがメリットといえますね。

このような不便益観光を一例として、まちに観光客を呼び込むような観光振興に取り組む場合は、地域住民の協力が欠かせません。とはいえ、多くの人を巻き込む形になるため、積極的に関わろうとする住民もいれば、反対に観光客という地域の外から来た人間がまちなかをうろうろしていることに違和感を感じる人も出てしまうところは課題といえます。

ターゲットの絞り込みが、地域の宝を最大限活かすことにつながる


大分県立芸術文化短期大学 取材イメージ
―――地域活性化を成功させたいと思ったときに、どのような要素が大切になるのでしょうか?

地域資源を見直して、「どのような観光客を呼び込みたいのか」を明確にしていくことが大切です。たとえば、外国人観光客と国内旅行者などをきちんと切り分けて考えることが挙げられますね。

外国人観光客と国内旅行者を一括りにしてしまうと、観光の軸にブレが生じてしまい、リピートにつながる呼び込みができません。

ターゲットを明確にすれば施策も練りやすくなるので、観光振興を考えるときの有効な手段の一つといえます。

―――地域活性化というキーワードのなかで、トレンドになっているものはありますか?

最近注目されてきている言葉に、「アドベンチャーツーリズム」があります。アドベンチャーツーリズムとは、「自然・文化・アクティビティ」の2つ以上で構成され、主に富裕層に届く割合の大きいといわれる旅行のことです。

たとえば、外国人の富裕層向けに、自然を鑑賞してもらいながら座禅体験を組み合わせるのも、アドベンチャーツーリズムの一つといえます。

また、富裕層は文化や自然などの体験に時間をかけ、ゆっくり楽しむ傾向があるとされているんです。富裕層に限定せずとも「自然・文化・アクティビティ」を組み合わせるアドベンチャーツーリズムは、旅行者の滞在時間を延ばす意味でも有効なんですよね。

アドベンチャーツーリズムのような革新的な考えが、これからの観光振興のトレンドとなっていく可能性はありますね。

地方経営の「閉じ方」は、目を背けてはいけない問題


大分県立芸術文化短期大学 取材イメージ画像
―――人口減少が続いているいまの日本で、とくに懸念されることがあれば教えてください。

人口減少が進むなかで、地方経営が継続できなくなるまちが出てくることです。いくら自然環境や地域文化を強みに観光事業を行っていたとしても、20年~30年後には地域に担い手がいなくなってしまうかもしれません。

従来の都市計画では、まちは成長していくものとして話が進められてきました。しかし、急速に進み歯止めがかからない人口減少という流れを想定すると、どうしてもいまの形での地域経営が維持できなくなってしまう場所がでてくると思います。今後のこうした将来像から目を背けず、地域経営の「閉じ方」についても正直に議論する必要があるのではないでしょうか。

たとえば、人里離れた場所に住む方のためだけに、年間数千万円かけて橋のメンテナンスをするのは現実的ではなくなるかもしれません。これから、一つの集落を守るために維持コストをかけるべきかを問われる場面が、全国で発生するのではと感じています。 また、人々が継承してきた地域の文化は、人がいなくなることで受け継いでいくことも難しくなります。地域固有の文化を後世に伝え、残していく方法をいまのうちに考えていないと手遅れになってしまうかもしれません。

地方経営の「閉じ方」の議論は、歯止めのかからない人口減少に対応するために必要です。とはいえ、居住の自由という権利も守りつつ話を進める必要があるので、都市計画に関わる立場だけでなく、行政や専門分野の学者などが集まって慎重に議論し、国民レベルでの合意形成をすべき難しい問題ともいえます。

―――一部のまちが都合よく消費されていくのではなく、持続的に地域が活性化していくためにはどのような要素が必要でしょうか?

持続的に地域が活性化するためには、県を越えた地方行政の取り組みも重要になると思います。多くの場合、県境は県庁所在地(県都)からは遠い場所になりますが、こうした辺境にある市町村では、人の往来を含め、隣県の市町村との関係が強いことがあります。とくに私が研究テーマとしているエコツーリズムは、県都から離れた田舎の魅力を強みとして取り組むことも多いので、同じ価値を有する隣県の地域との協働も考えられます。ほかの県の観光振興を手伝い、観光客を回し合っていく仕組みづくりができれば、長く愛される地域へ成長していく可能性があります。

以前、九州に来た外国人がどのような回り方をしているのかを分析したことがありました。すると、近くの県を三角形を描くように巡っているケースが多いことがわかったんですよね。

県同士が協力して観光客を呼び込むことができれば、より地域活性化への道が開けてくると思っています。しかし、県が手を取り合うなかで問題となるのは、本当に効果が出るのかというエビデンスがあるかどうかなんです。

エビデンスを作るためには、地域住民だけで考えていくのではなく、いままでにない力をどんどん取り入れていく必要があります。たとえば、データサイエンスの知識をもつ学者や専門家を呼ぶことでも、数値で示した根拠のあるデータの作成が可能です。将来的にはこうした領域にAI(人工知能)の活用も見込まれます。

説得力のあるエビデンスをもったうえで、隣接する行政も巻き込みながら、既存の「壁」を越えるような取り組みが求められると思います。

地域の祭りで、神輿を担ぐ外国人がいたっていい。


大分県立芸術文化短期大学 取材イメージ画像
―――地域がコミュニティを形成していくうえで、住民の気持ちやモチベーションの観点で、大切だと思うことがあれば教えてください。

地域の活性化度合いを表す指標はたくさんありますが、実際のところ、活性化しているかどうかはかなり主観的な部分もあります。このため地域コミュニティの形成という視点で住民のこと気持ちを考えるならば「自分の町を楽しめるかどうか」が最も大切な観点になると思います。

ただ、地域活性化プロジェクトのような事業を推進するとなると、楽しむだけでは結果がついてこないこともあるかもしれません。こうした事業を推進するためには、結果に対する責任をともないながら活動することが大切だと思います。言い換えると、さまざまなプロジェクトを進めていくうえで、内外で発生するリスクに対応しながらも、諦めずに進んでいく力が大切になると思います。

地域振興に責任感やリスクをもつ意味では、大分県で実施されている「アウトドアガイド認証制度」は、これからの地域振興に意義のある制度だなと思います。

アウトドアガイド認証制度とは、山岳ガイドのような自然体験・鑑賞をサービスの主体とする方向けの登録制度です。とくに、この大分県の制度では「感動」「責任」「協同」という3つの共通理念を掲げた上で、「お客様に感動を提供します」という行動指針を掲げていることも興味深いです。ここまで正面切って「感動を提供する」と掲げている制度は全国的にもみても珍しいと思います。責任をもって地域にコミットメントしていきつつ、県からの援助を受けられるのが特徴といえます。

現在は「登録ガイド」のみですが、今後、一定以上の高い技能や責任感を持ち合わせたガイドさんを「認定ガイド」として顕彰していくことも検討されています。ガイドさん仲間の中から認められるほどの質の高いガイドさんは、業務遂行責任をもって仕事をしてくれる方だと思います。また、ガイド同士のネットワークをもち、より地域を色濃く守れる方たちだと思うんです。

さらに、ガイドさんのような地域づくりに本気で関わっていく人たちは、「自分が実際に登った山の景色を観光客に見せてあげたい」などの思いをベースにし、感動を提供する力をもっています。まちの魅力を伝えたいという強い思いに、観光客の心も動かされるのではないでしょうか。

―――最後に、これから地域活性化を目指していきたいと思う方にメッセージをお願いします。

21世紀の日本は、サスティナブルやダイバーシティが重要なキーワードになると思います。地域活性化においても、これらの考えを積極的に取り入れるべきなんですよね。

たとえば、企業で働いているときには、サスティナブルやダイバーシティを考えながら仕事をすることも多いと思います。一方で、日々の暮らしの中ではいつもこうしたことを考えて、実感する機会は少ないかもしれません。

ただ、いざ地域活性化という視点を持ち込んで日常生活を眺め見てみると、地域とはサスティナブルやダイバーシティを考えていくための面白い舞台であることがわかるんです。

たとえば、地域で開催されるお祭りも、多様性の観点で見直せる部分があるかもしれません。私見ですが、昔のように神輿は若い男性だけが担ぐものではなく、地域を好きだと思ってくれているよそ者や外国人が担いでもいいと思うんです。人によっていろいろな考え方がありますし、そもそも、その土地における「お祭り」の意味合いが宗教的観念よりも賑わいの創出に移っているのであれば、誰であっても、楽しく担げる人が神輿を担げば良いかもしれません。

もちろん、宗教的な意味合いも含め、地域が継承してきた文化として「お祭り」の意義を後世に伝えていくということもサスティナブルな発想といえますが、果たして人口減少を見据えた場合、このいままで通りの取り組みが持続的なものであるかは疑問符が点ります。歴史が物語っているように、社会が大きく変容すると、地域の文化も変わってきたことも自然な流れです。このようにとらえると、「地域文化は変わっていく」という考え方を後世に伝えていくことも大切な気がします。

サスティナブルやダイバーシティを考えていけば、おのずと境界を越えて、外部との連携を意識した地域活性化に動けると私は思います。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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