日本交通株式会社の挑戦。持続可能なモビリティ革命を目指して
2024.07.08

日本交通株式会社の挑戦。持続可能なモビリティ革命を目指して


急速にデジタル化が進み、環境への配慮がさらに重要視される現代社会において、モビリティ業界は今、新たなステージに突入している。その最前線でタクシー・ハイヤーサービスを提供する日本交通株式会社(以下、日本交通)は、長年にわたり日本のモビリティ業界を支えてきたリーダー的存在だ。

進化の早いモビリティ業界のトレンドに対し、同社はどのような対応を行い、どのような未来を描いているのか。そのビジョンと具体的な取り組み、同社が目指す次世代のモビリティサービスの展望について、日本交通の土屋氏に話を伺った。

土屋 真吾
インタビュイー
土屋 真吾氏
日本交通株式会社
社長室・秘書広報室


日本交通の強みは、安全と品質を追求したサービス


日本交通 取材用写真
―――まずは、御社の基本情報について教えてください。

日本交通は1928年の創業以来、ハイヤー・タクシーサービスを提供する会社です。今年で設立96年を迎え、東京、埼玉、神奈川や関西圏で事業を展開しています。

現在、グループ全体で車両の保有数は約9,000台、ドライバーの在籍数は約1万人。業界トップの売上高を誇るリーディングカンパニーとして邁進しています。

―――昨今、注力している取り組みや他社との差別化について伺いたいのですが、具体的にどのような点に力を入れていますか。

基本的に我々の目指すところは、まず「安全」、そして「品質」です。これが他社との差別化の大きなポイントです。

安全については、まずは「車」ですね。2017年にトヨタが発売したユニバーサルデザインのタクシー専用車「JPN TAXI」を導入し、資本直系の会社ではほぼすべての車両をJPN TAXIに換えました。この車両は「セーフティ・サポートカー」であり、歩行者が近づくと自動でブレーキが作動する機能が搭載されています。このように、車のハードウェア面から安全を確保しています。

日本交通 解説用画像 引用:日本交通株式会社 歩行の不自由なお客様

そして、「安全教育」。法令に定められたことを守るのはもちろんのこと、ドライブレコーダーを用いて運転状況を分析して指導に活かしたり、狭路での走行や切り返しなどについて定期的に訓練機会を設けています。

次に、「健康」です。乗務員の健康なくして、運行は成り立ちません。日本交通は2015年に「健康経営」宣言を行っており、組織的に健康への取り組みを推進しています。具体的には、タクシー部門とハイヤー部門に1人ずつCWO(Chief Wellness Officer)を配置し、組織的に乗務員の健康状態を管理しています。

もともと年2回健康診断を実施していますが、2022年からは「健康管理プロジェクト」をスタートしました。血圧が高いと診断された場合は病院に行くよう指示し、乗務前には毎日血圧を測定させます。そして、危険な状態の日には乗務をさせず、その後の治療状況まで追跡します。

また、無呼吸症候群(SAS)のリスクがある場合、例えばBMIが30以上の乗務員には簡易検査キットを配布し、「要診断」「早期受診」に該当した人には呼吸器外来を受診させます。脳疾患のリスクがあると判断された場合は、脳ドックの受診を推奨します。

日本交通 取材用写真 ▲事業所には、血圧測定機の他にもアルコールチェッカー等の機械も常備。

タクシーの運行管理者が日々乗務員とコミュニケーションを取り、その日の体調チェックを行うことも重要ですが、さらに一歩進んで個々の健康状態を組織的に管理し、事故リスクを根本的に減らすよう取り組んでいます。

ほかにも、さまざまな脳トレアプリを使ってみたり、眼底検査を導入したりしています。例えば脳トレアプリは、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授と仙台放送が共同開発した「運転技能向上トレーニング・アプリ」を使い、予測力や危険予知能力を高めて事故防止につなげています。

眼底検査は、定期健康診断に眼の健康チェックサービスを導入し、眼の異常を早期に発見することを目的としています。この検査には、株式会社QDレーザが開発した「RETISSA MEOCHECK(レティッサ メオチェック)」が使用されており、網膜の状態を測定し、白内障や緑内障の初期症状を早期に発見することができます。

―――乗務員の健康管理といった対策が人命を守ることにつながりますね。

そうですね。次に品質についてですが、これは他社との差別化を図る上で非常に重要な要素です。なぜなら安全は大前提であり、品質が付加価値となるからです。

従来は、タクシーを企業で選ぶという概念があまりなく、せいぜいビジネス利用や接待の際に特定のタクシーを待つ程度でした。しかし、現在ではタクシーアプリが広く普及し、アプリ内で会社を指定することができます。これはつまり、ユーザーが指一本で会社を選べる時代になったということです。逆に言えば、指一本で他社に流れてしまう可能性もあるということです。

そこで重要なのは乗車体験、ユーザーエクスペリエンスですね。「今のタクシー会社よかったな」「次も日本交通に乗ろう」と感じていただけるよう、快適な乗車体験を提供することが大切です。

創業以来、品質に重点を置いておりますが、2007年にはスタンダードマニュアルを制定し、最低限のサービス基準を設けました。このマニュアルには、乗務員が必ず行うべき挨拶や振る舞い、服装、身だしなみに関する規定が含まれています。サービスを平準化することで、お客様がどのタクシーに乗っても最低限のサービスが提供され、ハズレを経験することなく安心して利用できる。乗務員の個々のホスピタリティも重要ですが、「桜にN」を掲げてタクシー運行する当社にとって、やるべきことを怠る理由はありません。

日本交通 取材用写真
それから、モニタリングチェックも導入しています。これは、社員または会社が公認した一般モニターが覆面で減点方式による乗務員のチェックを行うというもの。乗務員が基本マニュアルを遵守しているかどうか等を確認し、降車時にネタばらしをして、適切な対応ができているかフィードバックをします。乗務員は1人で業務を行っているので、放っておくと各々がバラバラな仕事をしている可能性がありますから。

また、ITの力を活用しながら利便性の向上を図っています。例えばアプリなどの場合、自社で完結させることが難しいため、外部の力を借りながらアプリやキャッシュレス決済などのサービスを導入しています。

日本交通 解説用画像 引用:日本交通株式会社 EDSについて

あとはやはり、ニーズに合ったサービスの開発ですね。「EDS(エキスパート・ドライバー・サービス)Ⓡ」というサービスは2015年度グッドデザイン賞(公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞しており、「観光タクシー」「サポートタクシー」「キッズタクシー」の3種類あります。

観光タクシーは、事前にご予約いただいたコースの観光ガイドを乗務員が担当します。ドア・ツー・ドアで観光地に行くことができ、場所によっては車で入れるので、観光バスよりも自由度が高い。

サポートタクシーは、車椅子や高齢者の方に対応するために介護職員初任者研修を修了した乗務員が対応します。キッズタクシーは、共働きの家庭が増えているニーズに応えて、お子様の送迎を行います。

ほかにも「陣痛タクシー」というものがあり、妊婦さんが事前に電話番号やかかりつけの病院、出産予定日などの情報を登録しておき、いざ陣痛が来たときには電話1本ですぐにタクシーが手配されます。

人々のニーズはどんどん多様化しています。そのニーズに柔軟に対応できるのが、タクシーというモビリティサービスだと思います。

―――東京オリンピックも一つの転換期になったのはないかと思いますが、この大会を機に取り入れた外国人向けのサービスもあるのでしょうか?

東京オリンピックはタクシー業界にとってもエポックメイキングな出来事でした。羽田空港や成田空港に到着した外国人観光客が最初に接するのはタクシーですから、まずはそこで日本らしいおもてなしをすべきだと。

助手席後部に設置された翻訳機能付きのタブレットもこの取り組みの一環として当時の関連会社により開発されたものです。弊社でもこのタブレットを導入しましたが、コロナ禍の影響があり、大活躍したかというと、想定よりは活躍の機会は減ってしまいました。

―――今インバウンドが増えているので、これから活躍しそうですね。

日本交通のSDGsを達成するための4つの取り組み


日本交通 取材用写真
―――モビリティ業界でも持続可能性が重要視されていますが、御社で行っている取り組みがあれば教えてください。

SDGsに対する考え方の骨子としては、大きく4つあります。

1つ目は、タクシーを通じて、誰でも快適に移動できる社会の実現に貢献すること。そのためにはお客様のニーズに対応したサービスを行うことが大切で、新しいソリューションをどんどん取り入れています。

例えば、コロナ禍には感染者の搬送も行なっていました。車内に感染防止用の仕切りを設置して感染対策を行い、日本財団と協力しながら、自治体からの依頼などを受けて感染者を病院やホテルにお送りしていました。

それから、空気清浄機や空気のきれいさを示すモニター、飛沫防止シールドを設置した「ニューノーマルタクシー」。あと、通常のタクシー運賃で食品や料理を自宅に届ける「タクシーデリバリー」ですね。本来タクシーは旅客運送業なので荷物のみを運ぶことはできないのですが、コロナ禍に特例として認可されたので、一番に申請を行いました。どれだけ量が増えても料金は上がらないので、バイク便ともうまくすみ分けができたと感じています。

日本交通 取材用写真 ▲ニューノーマルタクシーでは、空気清浄機モニターを常備。新型コロナウィルス対策の感染予防にも注力する形で、導入に至った。

また「車椅子研修」も行っており、新任の乗務員は車椅子の扱い方やスロープの設置方法を必ず学びます。けがをしている人、車椅子を利用する人、妊婦など、誰もが快適に移動できる街づくりを目指しています。

2つ目は、繰り返しになりますが、安心・安全なモビリティを提供し続けること。

3つ目は、環境への配慮です。我々は車を扱うので、環境問題とは切っても切り離せません。GO社のプロジェクトに参画し、小田原や関西など一部の営業所でEV車両の導入と、充電ステーションの設置を行いました。実際に運行しながら、充電スケジュール等についての支援を受けています。

これまでタクシー業界で電気自動車が普及しなかった理由の一つは、充電効率がタクシーの運行形態に合っていなかったからなんですね。タクシーは一度街に出ると営業所に戻らないことが多く、1回に200〜300キロメートル走るので、充電ステーションが普及していないと航続距離が問題になります。

しかし、最近では電池技術が発達し、電池が長持ちするようになってきています。また、車庫に待機し、注文が来たら出動するというシステムの場合、待機中に充電を行うなど、効率的な充電ロジックをAIで導き出す試みも行われています。

すべてを電気自動車にするのが現実的かというと、まだ課題はあります。ただ、実証実験などがあれば、積極的に協力していく姿勢でいます。余談ですが、タクシーの多くはLPG(液化石油ガス)を使用しているので、ガソリンよりは少し環境にやさしいかなと思います。

4つ目は、乗務員や社員の労働環境です。持続的に経営を続けるためには、働きやすい労働環境を整えることが欠かせません。労務の質や制度の整備はもちろん、キャリアパスを明確にしています。日本交通の乗務員のキャリアには段階があり、普通の乗務員はブルーの桜のマークがついたタクシーに乗りますが、乗務経験1年以上、事故やクレーム等に関する一定の基準を満たすと、ゴールドの桜のマークがついたタクシーに乗れるようになります。

日本交通 解説用画像
さらに、もっとチャレンジしたいっていうやる気のある人には、エキスパートドライバーとして高いサービスを提供する乗務員になる道もあります。このようにピラミッド型のキャリアパスを作ることで、乗務員のモチベーションアップにつなげています。乗務員が長く働き続けるためには、ただ同じ仕事を続けるだけではモチベーションが保てない。上を目指せる仕組みがあることで、やりがいや目標を持って働けるようになります。

2022年には「HRM(Human Resource Management)プロジェクト」という部署を設置し、新卒乗務員のモチベーションやスキル向上のための取り組みも行っています。弊社では2012年から新卒社員の採用を行なっており、毎年100〜200人の若手が入社しているのですが、新卒社員と中途社員を見てみるとやはり求めるものが少し違う。新卒社員は給料よりも、キャリアややりがい、社会貢献を重視する傾向があり、彼らのキャリアマネジメントをしっかり行う必要があるなと。

そこでこの部署では、営業所を巡回し、個別に面談して品質向上やメンタルケアの支援を行ったり、乗務員の中で委員会制度を設け、共通の目標を持ってスキルアップを図る仕組みを作っています。

日本交通 取材用写真 ▲社内大運動会のポスター

また、プライベートを充実させることが仕事の充実にもつながりますので、社内の交流を深めるためにサークルや同好会を設立したり、社内大運動会などのイベントも企画しています。こうしたエンゲージメント施策を通じて、新卒社員が目標を持って働けるようにしています。

あとは最近、カスタマーハラスメント対策として「防犯カメラ作動中」という電光掲示板を順次導入しています。これによって乗務員の不安を軽減できますし、これから応募してくる人も安心できるのではないでしょうか。現在は新卒入社者の中でも女性が約3割を占めますので、安心して働ける環境づくりがより重要だと考えています。

日本交通が培った「人・モノ・クルマ」の3つの軸を強化し、さらに安全で質の高いサービスを目指す


日本交通 取材用写真
―――これから目指す方向性や挑戦したい領域についても教えていただけますか。

今までのスタンスを大きく変えるよりも、これまで大切にしてきたことを継続的し、さらに強化していくことが大前提です。安全で付加価値の高いモビリティをこれまで以上に造っていきたいと思っており、それにはやはり「人・モノ・クルマ」の3点が軸になります。

「人」は、乗務員ですね。健康管理やスキルアップを図り、人ならではの付加価値を提供していくこと。高度なホスピタリティを発揮することが求められるエキスパートドライバーサービスは、その最たるものですね。

「モノ」は、IT技術などを活用して安全性や利便性を向上していくこと。例えば、『DRIVE CHART』というサービスを導入しているのですが、これは乗務員が脇見をしたとか、ちょっと危ないなっていう動きをしたときに自動で検知するシステムです。運行管理者はリアルタイムで状況を把握でき、乗務員の安全指導に生かすことができるし、乗務員も自身で振り返ることができます。

「クルマ」は、車両の質を向上させること。ドライブレコーダーは全車両に導入しているので、街を見守る防犯カメラとしても機能するかもしれない。また、ジャパンタクシーの一部にはコンセントが付いているので、災害時には被災地に行って電気の提供ができるのではないかと考えています。

これら3つの軸を強化し、社会的要請に応えていきたいと思っています。もはやタクシーは別の場所に移動するだけのものではなく、多くの可能性を秘めています。さらに安全性や顧客満足度を高めるために、さまざまな付加価値を提供していくことが目標です。

―――最後に、お客様からの寄せられたうれしい言葉や読者に伝えたいメッセージなどがあれば、お聞かせいただけますか?

日本交通というブランドは個人から法人まで多くの方から支持されており、褒めの言葉もたくさんいただいているのですが、以前、花見をしたい、というお客様の会話を聞き、乗務員が機転を利かせ、それに合わせて桜並木のルートをご提案し、大変喜んで頂き、後日お礼のお手紙を頂いたといったことがありました。

移動には何かしら目的があり、移動することで人や物、情報との出会いが生まれます。我々が移動に貢献することは、人々の出会いを支え、生活を豊かにすることにつながります。我々はそういう存在であり続けたいと思っています。そのためにも、時代の変化に対応しながら安全と質を磨き続けていきます。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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