宮城大学・佐々木秀之が探求する、地域資源マネジメントを軸にした市民参加型のまちづくり
2024.02.01

宮城大学・佐々木秀之が探求する、地域資源マネジメントを軸にした市民参加型のまちづくり


持続的な社会問題の解決に向け、世界全体の目標として掲げられているSDGsは、すっかり世の中に浸透した。しかし、環境汚染や貧困などの問題は、世界のどこかで起こっている無関係な出来事のように思えてしまうのが現実だ。

早すぎる時代の波に飲まれながら、SDGsの達成目標である2030年は近づいていく。私たちは、このまま世界の動きを眺めているだけで良いのだろうか。

今回紹介する宮城大学・佐々木秀之准教授は、地域資源マネジメントを軸にし、個人が地域のために意見を発信する「市民参加型のまちづくり」についての研究を続けている。一人ひとりが地域活性化の意識をもつことで、目の前の環境問題を解決する意識も芽生えるのが特徴だ。

今回は、地域資源の発見を目的としたワークショップの開催や、デジタル技術の活用による合意形成(意見を集約する)の仕組みづくりなどをしている佐々木教授に、地域資源マネジメントが社会にどのようなインパクトを与えるのか、市民参加型のまちづくりの先に、どのような未来が期待できるのかについてお話を伺いました。

宮城大学 佐々木 秀之准教授
インタビュイー
佐々木 秀之氏
宮城大学 事業構想学群 准教授
地域連携実践教育推進室副室長

宮城大学・佐々木秀之氏が研究する地域資源のマネジメント


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―――はじめに、佐々木教授の研究概要について教えてください。

私は、地域資源のマネジメント研究を行っています。地域資源とは、歴史的建造物や伝承技術など、地域活性化につながる資源のことです。

地域資源は、自然や文化だけでなく、まちに住む人も含まれるのが特徴です。私は、地域資源に眠る宝である人にフォーカスを当て、現在は「市民参加型のまちづくり」のサポートに力を入れています。

「市民参加型のまちづくり」を成功させるためには、まちに住む誰もが、世代を越えて平等に意見を出し合う仕組みを整えなければなりません。現在は、進化していくデジタル技術を用いて、市民が気軽に議論へ参加できるアプリの開発にも注力しています。

―――ありがとうございます。どのようなきっかけで、地域資源マネジメントの研究を始めたのでしょうか?

私の過去の研究や経歴が、地域資源マネジメントの土台になると気付いたからです。

地域の歴史的な景観を守る活動をしていた祖父の姿を追って、大学ではまちづくりに関わる研究をしていました。

現代における民泊のような仕組みについて構想を練り、行政への提案を行ったときのことです。私が民泊として提案した地域は、5階建ての大きなビルが建つ予定だと言われ却下されてしまいました。

景観に合わないビルが建つ想像をしたときに、便利なだけがまちにとって重要なのかと疑問が湧いたんですよね。良いまちづくりとはなにかと考えざるを得なかった経験は、地域資源マネジメントを想起するきっかけとなりました。

30代になると、資本主義の表と裏の関係性、具体的には「駅裏」に興味が湧き、専門的な研究を始めます。表舞台ではない駅裏にこそ地域発展の秘密があると感じ、博士論文の執筆を行いました。

地域マネジメントの研究を始めるターニングポイントとなったのは、東日本大震災です。復興に向けて動く世の中を見たときに、市民が災害時にも活用できるコミュニティ拠点が必要だと感じたんですよね。

地域マネジメントへの興味や駅裏の知識を土台とし、自分にできることを考えたときに、市民参加型のまちづくりの発想が浮かび上がりました。

地域資源マネジメントで重要なのは、なによりも人的資源


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―――地域資源におけるマネジメントの方法には、どのようなものがあるのでしょうか?

人的資源の観点で、地域資源を守っていくことが挙げられます。人的資源とは、人こそが世の中に経済的な価値を与える資源だという考え方です。

これまでは、地域資源を守っていくためには、経済的な成長が第一だとされていました。しかし、東日本大震災で経済が無力化された経験から、人のつながりを地域資源とする考えが再構築されています。

人的資源に注力しつつ、地域資源のマネジメントを行なうためには、市民が積極的に議論へ参加する「市民参加型のまちづくり」が大切です。

たとえば、まちに眠る地域資源について話し合うワークショップの開催は、代表的な市民参加型のまちづくりの手法といえますね。

―――地域資源を活かし、市民が主体のまちづくりをすると、どのような効果が期待できるのでしょうか?

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環境問題について個人レベルで考えられるようになり、地域発展への貢献が期待できます。

SDGsは、いまや環境維持における世界共通の認識です。しかし、あまりにテーマが大きすぎるがゆえに、個人レベルではどこか他人事になってしまいますよね。

もちろん、マイバックの所持のように、世の中で浸透してきている取り組みはあります。そのことは行動のきっかけとして重要なのですが、世界的な数値で考えると、環境問題の解決には程遠いことがわかるんです。

私たちが将来も豊かな生活を送るためには、一人ひとりが環境問題を自分事にする必要があります。環境問題を自分事にする方法として、地域資源マネジメントの実践が挙げられるんです。

地域資源マネジメントを実践していくためには、まちを活性化させる活動を行なうなかで、環境保護についても考える必要があります。豊かなまちを作るためにも、環境の維持と経済活性化のバランスを保つことを考え続けなければなりません。

地域資源におけるマネジメントを実践すれば、身の回りの環境問題を解決する意識を持てるため、自分事として世の中に貢献できるといえます。

市民参加型のまちづくり成功には、デジタル技術の活用が重要


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―――市民参加型のまちづくりで地域資源マネジメントをしていくために、課題となっているものはあるのでしょうか?

周りとのコミュニケーションが希薄になり、世代ごとの価値観の差が埋められなくなっていることは、市民参加型のまちづくりにおける課題です。

一昔前は、地域の課題が発生したときも、深い議論をせずとも解決できていたんですよね。しかし、テクノロジーの急速な進化とともに、世代ごとの価値観が異なる現代では、問題の早急な解決が困難になってしまいました。

対話が生まれなくなっているとはいえ、一部の市民だけが意見を出し合っていては、まちの地域資源を活用するアイデアは生まれません。まちに住む全員で地域資源を定期的に見直し、資金を循環させることまで考えたマネジメントをしていくことが大切です。

世代間のコミュニケーションが減っているいまこそ、対話をして分かり合う時代を作っていかなければならないと思っています。

―――ありがとうございます。市民同士が活発なコミュニケーションを取れるようにするために、どのような解決策が考えられるのでしょうか?

デジタル技術を活用し、誰もが平等に意見を出せるような仕組みづくりが挙げられます。

世代の違う人々が、意見を集約する「合意形成」を行なうのは、大変難しいことですよね。しかし、現代のデジタル技術を駆使すれば、合意形成を円滑にする仕組みづくりが可能です。

デジタル技術の活用例として、「合意形成アプリ」の実装が挙げられます。合意形成アプリとは、意見をなかなか言葉にできない人でも、アプリを通して気軽に議論へ参加できるシステムです。

私も、学生と民間企業に協力をしてもらい、合意形成アプリの「TACHI-NO-VOICE」を開発しました。

―――「TACHI-NO-VOICE」では、具体的にどのようなことができるのでしょうか?

宮城大学 TACHI-NO-VOICE

アプリ上で、市民の意見を集約する合意形成が行えます。進行役が設定したテーマについて参加者が意見を述べ、複数回の議論で方向性を定めていくのが基本的な進め方です。

ほか、「TACHI-NO-VOICE」の名称のなかにもある「NO」が言える仕組みも整えています。NOの意見を出すのは勇気がいりますが、アプリ上であれば周りを気にせずに意思表示ができるのが特徴です。

「TACHI-NO-VOICE」は、機能拡充のため実証実験を進めている段階です。将来的には、災害時の問題を解決する合意形成の場として活躍してほしいと思っています。

地域資源マネジメントの持続は、将来的な豊かさにつながる


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―――地域資源におけるマネジメントを続けると、将来的にどのような効果が見込めるのでしょうか?

地域の魅力を最大限に活かしつつ、豊かなまちづくりの継続が可能です。

良いまちづくりとは、作って終わりではなく、市民がモニタリングを続け、時に積極的に運営に関与していくことなんですよね。市民が地域マネジメントに関する対話を止めなければ、まちの魅力の維持や再発見につながり、地域が活性化し続けます。

人間は、議論のテーマが大きいほど、自分事として捉えられません。たとえば、SDGsのような壮大な話題を聞いても、自分が動いても仕方ないと思ってしまいますよね。

しかし、自らのまちを守っていくことを考えれば、目の前の生活を豊かにするための活動を続けられるのではないでしょうか。地域資源マネジメントには、地域に愛着を湧かせて、良いまちづくりを可能にする力があると思っています。

―――最後に、いまもなおチャレンジを続けている佐々木准教授より、地域資源を支える若者や、未来の研究者に対してのアドバイスをお願いします。

社会がどうなっていくのか予測がつかない現代で、こうあるべきというアドバイスはできません。ただ、自分がすべきことを信じてやっていかなければ、地域や社会を変えることはできないと思っています。

「なぜ利益も出ないのにTACHI-NO-VOICEを作ったのか」と聞かれたときのことを思い返すと、自分のなすべきことをしただけなんですよね。

何かしらビジネスをしたいのであれば、時代の流れに乗りながらも、自分は何をすべきかを常に問い続けることが大切なのではないでしょうか。

何ができるのか答えが出せなくても、まずは自分を信じてやってみることで、地域だけでなく世界の環境問題すら解決できるかもしれません。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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