「Anyca(エニカ)」が考えるシェアリングエコノミー×モビリティの未来とは?「株式会社 DeNA SOMPO Mobility 」代表・馬場氏が語る、実現したいカーシェアサービスのカタチーーーー
ここ数年の間で「カーシェアサービス」という言葉を見聞きする機会が増えた。またSDGsの追い風もあり、 日本におけるシェアリングエコノミーの市場規模は、2020年の段階で2兆1,004億円。そして2030年では、14兆1,526億円に拡大するといわれている。
一方で自動車産業は、「100年に一度の変革期」と呼ばれており、モビリティを取り囲むさまざまな
環境が変わろうとしている。
このような経済的な背景と自動車産業の変革によって、「カーシェアリングサービス」のニーズが拡大。クルマを所有しなくても、一時的にクルマをレンタルすることで、維持費や購入費などのコストが削減可能だ。
またカーシェアサービスの普及により、クルマは“所有するもの”から“シェアするもの”という新しい価値観を私たちの頭のどこかに芽生えさせたーーーー このような時代のなかで注目を集めているのが、 クルマを使わない間にシェアしたいカーオーナーと必要な時に好みのクルマに使いたいドライバーをマッチングさせるサービス「Anyca(エニカ)」だ。
「誰もが安心・安全にカーシェアを利用して、カーライフを楽しんでほしい」とカーシェアサービスへの想いを語るのは株式会社 DeNA SOMPO Mobility代表取締役社長の馬場光氏。エニカというアプリのプラットフォームを通して、マイカーオーナーとドライバーへ新しい価値を生み出している。
今回はそんなエニカを運営する馬場氏にカーシェアサービスの可能性や未来のあり方について取材してきた。
カーシェアリングなら使ってないクルマのカーオーナーとクルマを利用したいドライバーに、新しいカーライフを提案できるーーーー
────まずは、御社が展開する「Anyca(エニカ)」というアプリについて教えてください。
馬場さん:
「Anyca(エニカ)」は2015年9月にカーオーナーとドライバーをつなぐカーシェアリングサービスのプラットフォームとして誕生したアプリです。
カーシェアサービスといっても大きく分けて2つのタイプが存在します。1つはBtoCのカーシェアサービスです。例えば「タイムズカーシェア」や「オリックスカーシェア」「カレコ・カーシェアリングクラブ」をはじめとして、事業者側がクルマを購入して利用者が利用するという方法です。2つめは、CtoCタイプです。一般のカーオーナーが、クルマの利用希望者に自家用車をシェアできるサービスモデルとなっています。
エニカはこのCtoCのタイプがメインのビジネスモデルになっているんですが、レンタカーとは異なります。個人間でクルマのシェアをして乗ることができるので、オーナーは使用していないクルマの時間を提供して収入を得ることができます。
またドライバーは、用途に応じたクルマを気軽に使用できたり、乗ってみたい憧れのクルマに乗れるのが特徴です。現在エニカのアプリをリリースしてから約6年が経過しましたが、20〜30代を中心に利用者のニーズが増えてきています。
────なるほど、今ではカーシェアを利用する方も増えているようですが、エニカを誕生させたきっかけは何だったのでしょうか?
馬場さん:
実はエニカのサービスを立ち上げる前、私はエンジニアとしてモバイルゲームの開発に携わっていました。エンジニアの仕事をはじめて2年目の時に、私がプライベートでマイカーを購入するタイミングがあったんです。
しかしマイカーを購入したは良いものの、せっかく購入したクルマに月に数回しか乗れなかったんですよね…プライベートで使用する時間がなくて、カーライフを楽しむのは難しいと思っていたんです。なんとなくですが、その時から「使いたい時に気軽にクルマが利用できたら、便利だな」と思っていました。
また2014年頃、「Airbnb(エアビーアンドビー)」が日本へ入ってきたんです。この頃から日本でもシェアリングエコノミーという市場が、注目を集めるようになったんですよね。エアビーアンドビーは、宿泊に特化したシェアリングサービスですが、2010年頃からアメリカでは、クルマの個人間シェアサービスが、すでにはじまっていたんです。
会社としてもモバイルゲームに変わる新しい主力事業を開発するという方向に舵取りをしていたタイミングだったので、新卒の同期と二人で「アメリカのカーシェアサービスを日本で展開したらどうなるんだろう?」という好奇心から、新規ビジネスを会社へ提案したのがきっかけです。
────なるほど! それが形になったのがエニカなんですね!当時はクルマに乗る時間が確保できなかったということですが、もともとカーライフには興味があったのでしょうか?
馬場さん:
現在はエニカというサービスを運用するなかで、カーライフをいかに充実した形で継続させるか、また車種などにも興味がありますが、サービス立ち上げ当時は違いましたね。
クルマを購入した時のことを振り返ると、クルマを購入した結果、行動範囲が変わったり、普段クルマがないと経験できない体験ができるのが嬉しかったんです。カーライフの楽しさや魅力に気がついたのは、この頃からですね。
────大の車好きというわけではなかったんですね!カーライフの充実というお話がでましたが、エニカの特徴や強みについても教えてください。
馬場さん:
エニカの最大の特徴は、一般的なBtoC向けのサービスに比べて、選択できる車種が圧倒的に多いという点です。エニカに登録されているクルマは、現在1,000車種を超えています。電気自動車の「Tesla(テスラ)」、ヒョンデの水素電気自動車「NEXO(ネッソ)」などの新型車から、20年以上前のクラシックカーまで、利用者のストーリーに最適なクルマに乗ることができるのが魅力ですね。
────最新の電気自動車からクラシックカーまで、幅を持たせたラインナップですね!特に人気の車種などはありますか?
馬場さん:
エニカでもっとも人気なのが、「トヨタ」の「アルファード」です。次に人気なのが、「Porsche(ポルシェ)」の「Cayenne(カイエン)」シリーズとなっています。この理由としては、エニカに登録していただいているドライバーの方は、半分以上が自家用車をすでに所有しているというデータがあります。
また普段はセダンに乗っているけど、友人家族と大人数で旅行に行く時はアルファードなどの大きめのクルマを利用するといったニーズが多いようです。一方でカイエンシリーズは、『一度はあの車種に乗ってみたい!』という憧れを目的とした方が利用されるケースがあります。
カーシェアリングに特化した保険により、利用者の安心・安全を支える
────クルマをどのような目的で使うかによって、ニーズも変化していきますね!一方でこのようなシェアリングエコノミー市場で、サービスの課題はどのようなものがあるのでしょうか?
馬場さん:
根底としてシェアリングエコノミーに最適な商材は、「初期購入価格が高くて、稼働割合が低いモノ」というのがベストです。
例えば、クルマ、マンション、別荘などは、シェアリングサービスのニーズとマッチングしていると思います。
しかし自分で購入した資産が、他人にシェアという形で使われるのはリスクも存在します。使用させる側、使用する側の両者が、「安心・安全に利用できるのか?」という疑問や課題に対しては、問題点を一つずつ潰して、徹底的に改善していく必要があります。
────シェアリングエコノミーならではの課題ですね…一方でこのような背景を受けて、エニカでは、どのような「安心・安全」の課題にアプローチしているのでしょうか?
馬場さん:
エニカの場合は、安心・安全のカーシェア体験を実現するために個人間カーシェア専用保険の「カーシェアプロテクト」をリリースしました。
私が2015年にエニカのサービスをリリースして以来、ずっとカーシェア専用の保険を作りたかったんです。しかし当時は、シェアリングエコノミーやカーシェアサービスの市場が小さかったので、保険自体がそもそもないし需要がないという状態でした。
そこでDeNAとSOMPOホールディングスが協力して、対人・対物・人身傷害の補償をベースに、車両補償の4つの補償を強化した保険を作っていきました。
カーシェアプロテクトは、カーオーナーが各クルマに最適なプランを自分で設定することが可能です。プランは「ライト」「スタンダード」「プレミアム」の3つから選択できます。またドライバーの方は、「免責金額0円オプション」に加入していただくことで、万が一の事故による自己負担での修繕費が0円になるオプションも設けました。
また一般的な自動車保険は、クルマの走行中のみに適用されるものが多いです。しかしカーシェアプロテクトは、クルマの走行中の事故だけではなく、旅先の駐車中の接触事故や当て逃げ、盗難などのトラブルも補償の範囲内となっています。
────カーオーナーとドライバーのどちらも安心・安全にカーシェアを利用できるということですね。
馬場さん:
そうですね、また保険以外にも、万が一の事故に備えた事故受付専用カスタマーサポートも設置しています。専任スタッフが、365日24時間対応しているので事故時の初動対応をサポートできるんです。
────このようなカーシェア専用の保険を作るまでに苦労したことは何かありますか?
馬場さん:
いざカーシェア専用の保険を作るために動き出したものの、ローンチまでのプロセスは本当に大変でしたね(汗)。
そもそもどのような保険を作ることが正しいのか、保険の内容をどのように作っていくのか、世の中の誰も知らない状態だったんです。
そのため実際にカーオーナーとドライバーと飲み会などを通じてコミュニケーションを取る機会を設けたり、両者の声をヒアリングしたりしました。利用者の声を反映させるのと事故率の定量データをすり合わせながら、保険の内容を設計していきました。
エニカ、ドライバー、カーオーナーの三者で作る「信頼」
────データと利用者の声をすり合わせて保険を設計したんですね。その他に利用者同士の安全・安全へのお取り組みは何かありますか?
馬場さん:
エニカのサービスバリューの1つは、信頼を意味する「トラスト(Trust)」です。ですがただのトラストではなく、「ビルディング トラスト(Building Trust)」という言葉にしています。
シェアリングサービスの難しいところでもあるので、誰がどんなに「このクルマは、安心です!」と言ってもそこには信頼が重要になります。クルマをシェアする際には、全員でこの信頼を創り上げる必要があるんですよね。「ビルディング」という言葉も全員で信頼を構築する必要があるので、トラストに付け加えました。
信頼を全員で築くためにエニカでは、ドライバーとカーオーナーの情報を正しく提示します。例えば、トラブルの時の対処方法、受け渡しの際に傷や汚れの有り無しなどのチェックを細かくして記録できるようにしたり、信頼関係を作り込むための体制を整備してきました。
クルマは所有からシェアする時代へ
────保険を作るうえで、カーオーナーとドライバー両者の声をヒアリングしたということですが、消費者のクルマに対するニーズの変化は感じられますか?
馬場さん:
この数年の動向見ていると、クルマは「所有からシェアするもの」という、考え方が間違いなく広がっているように思います。
しかしCtoCのカーシェアは、自分の資産であるクルマをシェアするので、事業者側が事前に購入しているクルマを貸し出すBtoCやBtoBのサービスとは、構造的な違いが生まれます。
例えばBtoCカーシェアは、「クルマを持たなくても使いたい時に使いたいだけ乗れる」というニーズに最適ですよね。一方でCtoCカーシェア最大の特徴は、カーオーナーの存在です。先程クルマを購入した際にほぼ使用していなかったとお話しましたが、 自家用車の稼働率を調査したところ約3%というデータがあります。クルマは持っているけど、大多数が動いていないということになります。
こういった稼働していないクルマをシェアすることで、クルマの維持費を軽減したいカーオーナーとクルマを持たずに自分が必要な時にだけ使いたいドライバーは、エニカのサービスを利用することで両者の金銭的なメリットにも繋がります。またカーシェアサービスは、ただ眠っているだけの自己資産をシェアという形で提供することなので、所有と利用の循環を生み出すことができるようになるんです。
────所有と利用の循環とは?
馬場さん:
弊社では利用と所有の二元論ではなく、利用しながら所有する、利用と所有の間という意味をこめて「利所有(りしょゆう)」という言葉を使った考え方を大切にしています。クルマが良い例かもしれませんが、人生において手元に置いて頻繁に使用する時と使用しないタイミングがそれぞれあると思います。
そんな時にCtoCのカーシェアサービスを使用すれば、カーオーナーは、クイックにクルマを所有したり、クルマを売ったり、エニカを利用して別のクルマに乗ったりできるんです。カーシェアサービスは、 利用と所有の循環をスピーディーに構築できると考えています。実際にエニカでシェアする前提で、アウディを購入してカーシェアをおこない、維持費のコスト削減に成功している方もいらっしゃいます。
────これまでのクルマの所有という概念から抜け出た所有スタイルですね。エニカがあるからこそ、購入されている方もいるんですね。
馬場さん:
そうですね、東京都23区内のカーオーナーの平均の受け取り金額を調べたところ3万円というデータが出ています。新車を購入してもエニカを利用すれば、駐車場代程度ならコストをカバーすることが可能です。シェアを前提にクルマを購入することで、維持費などのコストを軽減しながらクルマを所有できますね。
電気自動車が、ガソリン自動車の販売台数を抜く
────クルマを所有する側の価値観も変化してきたと思いますが、一方でクルマを生産・販売する側として、ここ数年での変化で気になる点はありますか?
馬場さん:
商品としての変化と売り方の変化があると思っています。1つめの商品の変化は、ガソリン車から電気自動車へ徐々に移行している点です。例えばPorsche(ポルシェ)のスポーツカー「Taycan(タイカン)」は、EVモデル(電気自動車)が存在します。
ポルシェが、2021年1月~9月の新車販売台数を発表しましたがEVモデルの方が、ポルシェを代表するスポーツカー「タイカン911」というモデルよりも販売台数が多かったんです。電気自動車が、ガソリン車の販売台数を抜いたんですよね。このようにEVの追い風は、世界中で伸びてきており、将来的にはすべてのクルマは電気自動車にシフトすると言われています。
またクルマの販売という点では、オンラインで自動車を購入する層が今後は増えると予測しています。例えば、ホンダは「株式会社ホンダセールスオペレーションジャパン」というメーカーのオンライン販売事業を開始したようにOEMもこの領域でのチャレンジを始めました。
このように従来のディーラーを介しての販売手法から、今後はオンラインサイトでのEC販売にも取り組む新しいビジネスモデルを模索し、構築する大きな流れが来ていると考えています。
────なるほど!売りたいターゲットに対して、オンラインで直接やり取りするほうが、リーチもしやすい気がしますね。
馬場さん:
そうですね、弊社では、ディーラーとクルマをシェアするビジネスモデルも現在考案中です。ディーラーは、クルマの販売・メンテナンス、エニカはクルマに乗る、お客様がクルマを見るという領域をそれぞれ担当できるようなビジネスモデルの構築もはじめています。
このような取り組みは、クルマをシェアできる体制があるからこそ実現できる世界観だと考えています。弊社はその入口であるシェアの部分が強みなので、ドライバーからディーラーへつないでいく取り組みができればと思っております。
カーシェアリングサービスは、ますます拡大する
────シェアリングエコノミーとクルマがクロスオーバーすることで、5年後10年後はどのような未来が来るとお考えですか?
馬場さん:
シェアリングエコノミーの強みは、個人が簡単にサプライヤーになれて価値を生み出せるという点ですね。現在日本の乗用車の保有台数は約6,000万台あるといわれており、この母数がターゲットになるので、シェアリングエコノミーという市場においてカーシェアはますます伸びると思っています。
しかし一方で課題もあります。クルマはどうしても自動車事故が発生するリスクがあります。そのためすでにお話したような安心・安全の取組みは、今まで以上に注力する必要があります。
またさらに未来の考察にはなりますが、クルマの自動運転が浸透することで、交通事故のリスクは格段に下がると個人的には思っています。自動運転のクルマをシェアするという未来も案外早めに到来するかもしれませんね。
────自動運転のクルマをシェアするサービスは、未来の乗車体験ですね。
馬場さん:
確かに自動運転のシェアカーが、自宅まで迎えきてくれたり、目的地まで送迎してくれるのは、SF映画でもよく見るシーンですよね。ただ、日本中のクルマが、自動運転になったとしてもカーシェアというのはスムーズにいかないのではないかと思っています。
クルマのドライバーとカーオーナーの時間がマッチングしなかったり、受け渡しの時間が合わないという課題は今でも発生しています。そのためエニカでは、ドライバーとカーオーナーが、よりスムーズにマッチングし、お互いが快適にクルマがシェアできるための課題解決を常におこなっていますね。
“仮想的なマイカー”を3台持てる世界を実現したい
────これからエニカが挑戦したいことは?
馬場さん:
先程もお話した”利所有”の概念から、クルマを持ちたい時に持って、手放したい時に手放す、そしてクルマを手放しても“カーシェアという形で仮想的なマイカーが常に身近にある”という世界観を作っていきたいですね。
その世界観を実現するためには、安心・安全への取り組みは常に最需要項目でもあります。保険内容やプランの見直しは常におこない、誰もがカーシェアを安全に利用できる体制を作り続けていきたいと思っています。
またシェアカーサービスの弱みでもある、視覚的に認知されにくいという問題にもアプローチしていきたいですね。エニカの場合では、視覚的な認知を集めるために商業施設である代官山T-SITEにメルセデス・ベンツ「Gクラス」とトヨタ「スープラ」を配備したり、コンビニの敷地を利用して韓国「現代自動車(ヒョンデ)」の水素電気自動車「NEXO(ネッソ)」を配備したりしています。
『エニカならこんなクルマに乗れるんだ!』という体験を多くの方に味わってほしいですね!私も休日は、代官山でGクラスをシェアして家族と動物園に行くこともあるんです(笑)。
────Gクラスに乗れるのは、”男の憧れ”を叶えてくれますね(笑) エニカで実現したいビジョンと紐付いてくるかもしれませんが、馬場さん個人としてはどのようなことに挑戦したいですか?
馬場さん:
エニカで実現したいビジョンと似ていますが、仮想的に数台のマイカーを誰でも持てる世界を作りたいですね。どうしてもライフステージが変わると、クルマの使用用途も変わってきます。独身の時はスポーツカーを乗っていたけど、結婚して家族ができたからファミリーカーに乗り換えるという経験をされた方も多いと思うんです。
ですがカーシェアサービスを利用して仮想的に3台程度のクルマを所有できたら、大人数で移動する時は、ワゴン車、デートの際はツーシートのスポーツカー、ちょっとした買い物には軽自動車などいつでも自分が乗りたい3台が持てる状態が実現できます。
クルマ好きな人は、最新モデルからクラシックカーまで色々な車種に乗り続けることができますし、乗り物としてクルマを利用する方は、用途にあった車種が選択できるーーーーこんな世界観が実現できたら、色々な方のカーライフが充実できると思っているんです。
馬場氏の言葉にもあったように「誰もが仮想的なマイカーを3台持てる」世界が実現したら、カーライフは今まで異常に充実したものになる。これからの未来のカーシェアサービスの動向に今後も目を光らせていきたい。
はい
86%
いいえ
14%
はい
86%
いいえ
14%