2023.08.30

『伝えるプロ』としてキャリアを構築する道筋とは?女性アナウンサーのセカンドキャリアを後押しする、株式会社トークナビ。


『エルピス-希望、あるいは災い-』というドラマをご存知だろうか? 長澤まさみが演じる主人公の女性アナウンサー・浅川恵那が、仲間たちと冤罪事件を追うというストーリーの連続テレビドラマだ。

このドラマの作中でも表現されたように、テレビの向こうで輝く女性アナウンサーたちの仕事は、想像以上にハードだ。

高倍率の採用試験を突破し、専門スキルを身に付け、女性アナウンサーのキャリアを歩む一方で、出産をはじめとした女性ならではのライフイベントによって、退職するケースも多い。

そんな女性アナウンサーのセカンドキャリアを後押ししながら、彼女たちの持つ「伝える力」を活かしたソリューションを提供するのが、株式会社トークナビだ。

株式会社トークナビは、アナウンサーとして培ったスキルを活かした、外部研修・セミナーの提供や広報支援などのサービスを提供している。代表取締役・樋田かおり氏も、日本テレビ系列・青森放送のアナウンサーとして活躍した経歴を持つ。

今回の取材では、女性アナウンサーのキャリア形成や女性アナウンサーならではのキャリア形成の未来についてお話を伺った。

株式会社トークナビ Talk Navi Inc,樋田 かおり
インタビューイー
樋田 かおり氏
株式会社トークナビ Talk Navi Inc
代表取締役 アナウンサー
2008年、新卒で日本テレビ系列青森放送にアナウンサーとして入社。テレビ・ラジオの放送現場を経験した後、28歳で独立し、2015年に起業。アナウンサーを講師とするコミュニケーション研修事業や、アナウンサーが中小企業の顔となって広報活動を行う「女子アナ広報室」などの事業を行う。
結婚や出産で離職した女性アナウンサーのセカンドキャリアをつくることに尽力し、5 年で全国各地に女性アナウンサーを 約70名抱えるユニークな企業に成長させた。


アナウンサーの『伝える力』を活かした、ソリューションを提供



――― まずは株式会社トークナビ様の事業概要から教えてください。

私たち株式会社トークナビは、“声”を基軸とした様々なサービスを提供しています。

具体的には、話し方の研修事業を行っており、ビジネスマンや経営者が自分の考えをより良く伝えられるように、話し方の研修や短時間で相手の心をつかむエレベーターピッチ研修を企業向けに提供しています。

また、「女子アナ広報室」という企業様の広報活動を代行する広報事業も展開しているんです。さらに、入社式や経営方針会など、企業の大切なイベントの司会を請け負う「女子アナ司会部」というサービスも展開しています。 これらの事業を通じて、ビジネスシーンにおけるコミュニケーションの課題解決や伝え方(コミュニケーション力)の向上をサポートしているんです。

――― ありがとうございます。樋田さんをはじめ、就業されている方の多くが女性アナウンサーとしてのキャリアがある皆さんだと思います。樋田さんが、起業するきっかけは何かあったのでしょうか?

事業をはじめたきっかけは、人の話す力や伝える力を向上することが、社会貢献に繋がると思ったからです。このような考えに至ったのは私が、テレビ局でアナウンサーをしていた時の経験が原体験となっています。

これまでアナウンサーとして、テレビに出演する企業経営者の方をインタビューしてきました。ですが多くの経営者の方が、自社のサービス・商品をテレビで紹介して知名度を上げるために出演しているのに、自分の考えや想いを効果的に伝えられないまま出演場面が、終了してしまう―― という場面を数多く目撃したんです。

このような経験から『もっと上手に自分の想いや考えを伝えられる人が、増えたらいいな』と感じ、話し方の研修事業をはじめました。

――― なるほど…ビジネスのアイディアやサービス・商品が素晴らしい物でも、相手に伝わらないと意味がなくなってしまいますよね…。

おっしゃる通りです。人前で自分の考えや想いを伝える能力が向上することで、ビジネスもスムーズに軌道に乗ると信じているんです。

――― 実際にどのような研修をおこなっているんですか?

相手に好印象を持ってもらい、自分の考えや想いを効果的に伝えるには、声、表情、視線、立振舞、話しの流れ(構成)など様々な要素をかけ合わせることが重要です。

樋田 かおり,株式会社トークナビ,ソウグウ

私たちの研修では最初のステップとして、真っ直ぐな姿勢を作ることからはじめています。

姿勢と声は密接に関係しており、姿勢が悪いと声が小さくなったり、声がこもってしまったりすることがあります。そのため、良い発声をするためには、まず姿勢を正すことが重要になります。

樋田 かおり,株式会社トークナビ,ソウグウ

この姿勢の矯正の後、次にお辞儀の仕方、仕草、視線の使い方、ジェスチャーといった細部までチェックし、改善していきます。演技指導のように細部までチェックを入れていくので、研修が終了した時には、参加者の方自身が驚く程、自分自身の変化に気がつく場合が多いですね。

“転職のお手本”を探しながら、セカンドキャリアを模索する女性アナウンサー


女性アナウンサー,アナウンサーセカンドキャリア,ソウグウ

――― 女性アナウンサーのお仕事は、世間一般では、“華やかな憧れの職業”というイメージがあるかもしれませんが、女性アナウンサーならではのキャリアの課題は何かあるのでしょうか?

アナウンサーのキャリアの課題は、退職後のセカンドキャリアですね… 特に、女性アナウンサーは27歳~28歳くらいになると結婚や出産といったライフイベントを考えはじめ、その選択が、仕事にどう影響するかを検討するため、自分の仕事に迷いが出てくることが多いんですよね。

また地方局でのアナウンサーのキャリア形成にも、特有の課題があります。

多くの地方局では、年数が決まった契約が主流なので、入社時から1年~3年契約が明示されていることが多いです。

そのため地方局のアナウンサーは、入社してから1年が経過すると転職活動を始める場合が多く見受けられます。しかし、転職活動をはじめても、具体的な進路を示す情報がなく、同じ悩みを抱えながら転職活動をする方が多いのが現状です。

――― なるほど…転職をはじめてもキャリア形成のイメージを抱きにくい環境になっているんですね… 御社はその点、女性アナウンサーのセカンドキャリアとしてピッタリな印象を受けました。

ありがとうございます。女性アナウンサーのキャリア形成を考えた場合に、自分のこれまでの声のスキル・経験を活かす仕事はもちろん、研修講師から広報など幅広い仕事に挑戦できる環境を整えています。そして自身が、進んでいきたいキャリアの方向と企業が求めるニーズとを照らし合わせて、仕事内容を明確に定めているんです。

――― 素晴らしいですね。女性アナウンサーのセカンドキャリアの課題を解決して、キャリアの可能性を広げている印象を受けました。

私も現役のアナウンサー時代は、女性の先輩たちにキャリアの相談ができない環境だったので、不安を抱えていました… そのため弊社では、先輩の女性アナウンサーが後輩を見守る制度があります。

先輩が育児と両立しながら働く経験を後輩に共有したり、1人ひとりの特性や強みを活かしたキャリアの方向性をアドバイスしたりしています。これにより、後輩は先輩の経験から学び、自身のキャリア形成に役立てることができるんです。このような一連のプロセスと文化が、我々の企業におけるキャリア形成の基盤となっています。


女性アナウンサーが家庭を持ちながらでも、活躍できる未来に――


樋田 かおり,株式会社トークナビ,ソウグウ


――― 女性アナウンサーというキャリア形成は、5年後、10年後の未来、どのように変化していくと思いますか?

あくまでも私の考察ですが、女性アナウンサーの働く環境が改善され、キャリア形成もしやすくなると思います。

アナウンサーの仕事は、勤務時間が不規則で昼夜逆転のような状態が続くこともあります。私自身も31歳までTBSのニュースを担当していましたが、深夜0時からCS放送でニュースを担当し、朝6時まで働くというワークスタイルが当たり前の毎日でした。

子育てをしながらこの時間帯に働くのは難しいので、多くの女性アナウンサーが番組を降板することに繋がります。

しかし今後は、このような状況が改善され、アナウンサーが働きやすい環境が整っていくと思います。

私と同世代の子育て中のアナウンサーが会社に残ることができ、徐々にですが働き方についてもスケジュールが上手く調整されるようになってきています。子育てをしていても、女性アナウンサーとして特定の番組を持てるというニューノーマルが浸透すれば、女性アナウンサーが活躍するケースも増えていくと思いますね。


――― 女性アナウンサーのキャリア形成について、アドバイスはありますか?

女性アナウンサーがキャリアを形成する際のアドバイスとしては、私自身の経験から「長期スパンで考えること」が重要だと感じています。私も過去には短期的に1年、2年先のことだけを見て動いていましたが、現代社会では40代、50代でも働きたいと考える女性が増えています。

その長いスパンを見据えて逆算して考えることが、本当に適切な選択をするためには必要だと感じています。特に女性がフリーアナウンサーを目指すケースも増えていますが、現実はそう甘くありません(私もフリーに転身した際は苦労したので…)。

また、自分がどのように活躍するか、組織の一員として活躍するタイプなのか、それとも個人事業主として生きていくタイプなのかを見極めることも大事です。

個人事業主として成功するためには、十分な自己分析が必要です。それは一度だけではなく、転職を考える際など、定期的に実施するのが重要となります。

自分の得意なことと、目指したいものが異なる場合もあるので、自分を内観することで、自分に最適なキャリアを発見することにも繋がります。

今まで以上にアナウンサーが、長期で活躍できるキャリアを構築する。



樋田 かおり,株式会社トークナビ,ソウグウ

――― これから挑戦したいことは何かありますか?

挑戦したいことは、ビジネスとしての「外向き」の話と、社内向けの「内向き」の2軸があります。

ビジネス面では、事業収益を4年間で5倍に成長させるという目標を設定しています。

これまでは、話し方研修、企業広報の代行、司会などを担当してきました。ですが今後は、これまで培った経験とノウハウを活かして、企業の伝えたいことを任せてもらえるような存在になりたいです。そして、より大きなプロジェクトスコープの仕事を手掛けられるように事業を成長させていく予定です。

――― ありがとうございます。社内向けの取り組みは、いかがでしょうか?

樋田 かおり,株式会社トークナビ,ソウグウ

アナウンサーという職業を選択した女性が、長期的なキャリアを構築できる環境を提供することも重要だと考えています。ありがたいことですが、経験豊富なアナウンサーの皆さんが、全国から弊社に集まってくれる状況ができています。

その一方でアナウンサーの皆さんが、5年後、10年後を見据えたキャリア形成を構築していくこともこれからの時代は大切になってきます。

また弊社は、多くの社員が子育てをしながら働いています。業界的には、アナウンサーとして、働きながらも子育てをするというワークスタイルは、まだ浸透していません。

女性アナウンサーが子育てをしながらでも、働ける道を示し、外部に「諦めなくてもいいんだよ」と情報発信をし続けることが、女性アナウンサーのキャリア形成の課題を解決する一つの手段だと思います。

――― なるほど、ご自身も経験したからこそ理解できる課題に、アプローチしているんですね。

そうですね―― また人財の育成という側面で、研修にも力を入れて行く予定です。

これまでの研修領域で蓄積されたノウハウを社内教育に落とし込み、講師や広報未経験からでもプロのアナウンサー講師や広報アナウンサーとして成長できる環境を提供していきたいですね。

女性アナウンサーは、「時と人の人生を伝える職人」


樋田 かおり,株式会社トークナビ,ソウグウ

――― 最後の質問ですが、樋田さんにとって「女性アナウンサー」とはどのような存在ですか?

私にとってアナウンサーは、「時と人の人生を伝える職人」です。彼女たちは、取材や報道を通じて、現在(今)の情報を人々に伝える重要な役割を果たしています。

「職人」と表現したのは、彼女たちの“細部”にまでこだわる能力です。特にスピーチの時間を1秒単位で厳密に把握し、時間を守る技術や、一瞬で的確な回答を提供する能力は、アナウンサーならではの職人技と言えます。

また、見た目に対する配慮も重要です。カメラの向こう側には、何十万人という視聴者が自分を見ているので、常に人前に立つのにふさわしい佇まいでいる必要があります――

その佇まいや立振舞自体が、アナウンサーとしてのプロフェッショナリズムを体現していると思います。

まだまだ、私も一人のアナウンサーとして、そして経営者として学ぶべきことばかりです。ですが一人ひとりのアナウンサーが、今まで以上にキャリアの可能性を広げ、アナウンサーとして輝けるセカンドキャリアの構築を会社のメンバー全員で、創造していきたいですね。

樋田 かおり,株式会社トークナビ,ソウグウ

株式会社トークナビ Talk Navi Incの詳細を見る

新井那知,新井那智
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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