多様性×パラレルアントレプレナーが紡ぐ、未来の経営哲学。有限会社mode-Duo代表・尾島康仁氏という生き方。
「多様性」という言葉を至るところで見聞きするようになった昨今。多様性は単なる流行語を超え、組織の持続可能な成長やイノベーションの源泉として重視されている。
ビジネスシーンにおいて、多様性という考えは企業や社会において、多様なバックグラウンドを持つ人々がそれぞれの視点やスキルを持ち寄り、より豊かな創造性と問題解決能力を発揮する糸口になると考えられている。
そこで今回は「有限会社mode-Duo(モードデュオ)」の代表取締役でもあり、「*パラレルアントレプレナー」としての顔を持つ尾島康仁氏を取材。「有限会社mode-Duo」は、2022年に「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2022」企業部門(従業員規模 101名以上1000名以下の部) 7位に輝いた実績を有しており、バリーションに富んだ様々な事業を展開している。
そこで本インタビューでは、尾島氏が展開するビジネスの多様性と背後にある深い哲学を探求する。取材を通して見えてきたことは、彼の言葉からは、ビジネスと社会貢献が手を取り合い、多様性を活かした独自のアプローチの重要性だった。
■パラレルアントレプレナーとは?
パラレルアントレプレナーとは、複数の事業を同時並行で走らせる並行起業家。それぞれの事業で培った知見やノウハウを活かし、新たな事業を立ち上げられるメリットがある。
学生起業したIT事業を皮切りに、誕生した有限会社mode-Duo
―――まずは、事業概要について教えてください。
「有限会社mode-Duo(モードデュオ/以下:mode-Duo)」は、複数の事業立ち上げの経験を活かし、多岐にわたる事業を展開しています。弊社は、事業承継・M&A支援、AI・DX事業、不動産事業、ミールキット事業などを展開している企業です。
―――かなり多種多様な事業を展開されているので、驚いています!どのような経緯で、ここまで多種多様な事業を展開されるに至ったのでしょうか?
学生時代の経験が原体験となっていますね。
私は中学生の頃からパソコンを触ることが好きだったんです。家のパソコンを使ってプログラミングをしたり、コーディングをしたりすることに没頭していました。今考えるとパソコンオタクな学生時代でしたね(笑)。
その後大学に入学してからは、システム開発に携わる会社を友人と設立しました。この学生時代に立ち上げた企業が、現在の弊社の基盤になっています。
学生時代からIT領域のビジネスに携わっていたこともあり、様々なプロジェクトに参加させていただくことになりました。例えばマクドナルドのような大手企業のERP(大企業が使う、販売、マーケ、在庫、会計などを大規模に統合した管理システムの総称)システムの案件でPMO(プロジェクトの最高管理チーム)を担当したり、中小企業・ベンチャー企業のECサイトを制作したりしていました。
IT業界の仕事を進めるなかで、社員も少しずつ増えていき2006~2008年頃にオフィスも渋谷で構えるようになったんです。
―――学生時代から起業されていたのは、すごいですね!
その後『私(mode-Duo)は、なぜ事業をおこなうのか?』を考え、「世の中に貢献する生き方」を目的とするようになりました。世の中に貢献するための手段が、事業を生み出すという考えに至ったんです。その中で、IT業界の仕事だけではなくて、別事業を展開してみようと思ったことがきっかけで、ヨーロッパに進出しました。
最終的には、北欧でたい焼き屋(飲食事業)をはじめたんです。ですが半年で事業が失敗し、大量の借金を抱えて撤退することになりました。
事業は失敗してしまいましたが、英語も流暢に喋れないなかで、飲食事業をヨーロッパで展開したことは自分にとっても大きな知見と学びを得ることになったんです。
その後、会社の存亡をかけた復帰戦として、ホテルの運営代行サービスや保育事業、ミールキット事業を手掛けていきました。このような経験の積み重ねもあり、私は2社の傘下合計18社のホールディングスを見るような立場で仕事をしているんです。
1つの100点ではなく、3つの80点を生み出す。
―――ご経歴がとてもおもしろいです。このような事業展開は、御社のコーポレートメッセージでもある「多様性」というキーワードがあったからこそ誕生した印象を受けました。この多様性という概念を大切にした原体験などありましたか?
大切にしている考えは、「100点を一つ持つよりも、80点を10つ持つ」ことです。それが個人、社会、国にとっても重要になると思っているんです。
これは学生時代の経験が起因しているのですが、優秀な同級生たちと自分の得意を比較したときに、勉強ではとうてい敵わないと思ったんですよね。ですがパソコンという得意分野を活かせば、優秀な同級生たちと違う角度で渡り合えました。
この時の原体験があり、80点くらいのアウトプットをいくつもつくり、組み合わせて、オンリーワン、ナンバーワンを獲得できたら良いかもしれないと思ったんです。
実際に国益を見ても、同じことが言えます。例えば、観光業による経済効果のみに依存している国は、その産業が衰退したら国自体も衰退してしまいますよね?
私は、国・人・企業も1つの強みに頼りすぎないことが大切だと考えています。なぜなら複数の強みを持っていることは、その強みが衰退した時の備えに繋がるからです。
―――素晴らしいですね…行動が経験になり、経験が価値観を構築すると思うんです。本当に経験の蓄積から誕生したのが、御社の現在なんですね。
尾島様の事業には独自性が強く表れていますが、その点において大切にしている考え方を教えていただけますか?
他人とは違うアプローチを取ることです。同じようなことをしていると、たとえ一時的に成功しても、一つの失敗が全てを台無しにするリスクがあります。一方で、完全に異なる、世の中にないことをやっても、市場で受け入れられなくなる可能性がありますよね。
重要なのは、世の中のトレンドを理解しつつ、他とは異なるバランスの取り方をすることです。その上で事業を走らせるときには、私は徹底的に現場を調べ、様々な業界の専門家や経営者と会って話を聞くことを非常に大切にしています。
保育園事業であれ、不動産業であれ、IT業界であれ、実際に自分でその仕事を経験し、業界の中の人々の意見を直接聞く ようにしているんです。これにより、その業界が何を必要としているか、どのようなアプローチが求められているかを理解することが可能になります。
私たちは従来の枠にとらわれずに新しい分野に挑戦していくことが重要。
―――尾島様、お話を伺い、本当に多角的な事業展開をされていることに感銘を受けます。多様性を基軸に事業を広げていくにあたり、意識していることを教えてください。
従来の枠にとらわれずに新しい分野に挑戦していくことが重要だと考えています。
一般的には、IT事業から始めると、その関連分野に展開していくのが通例ですが、私たちはホテル、保育園、不動産といった全く異なる領域で事業を進めています。これは確かに珍しいことですが、新しいものを生み出すには異なる分野を融合させる必要があると考えています。
―――そのようなアプローチは、確かに革新的ですね。では、2023年に立ち上げられた不動産エージェントスクール「RinTO(リント)」に関してはどのような思いで立ち上げられたのですか?
「RinTO」は、不動産業界における新しい育成スクールです。この事業を立ち上げるに至ったのは、女性の働き方や人生を拡張するという考えから生まれました。
またRinTOは、ホテルや保育園事業を展開する中で、不動産業界への深い知識を身につけることがきっかけとなり誕生したサービスでもあります。不動産事業を進めるなかで、主要都市の不動産屋さんとの関わりや物件探しの経験から、そのエリアの不動産市場について相当詳しくなりました。この経験から、「不動産屋もできるかもしれない!」と思い立ち、宅建を取得して不動産屋を立ち上げたんです。
―――それは興味深いですね。そして、リモートの不動産エージェントの採用にも進んだとのことですが、それはどのような流れだったのですか?
不動産屋さんを作り、リモートでの不動産エージェントの採用は成功していました。研修プログラムがうまくいって、皆が月に約百万円の売り上げを出せるようになりました。しかし、学んだらすぐに辞めてしまうような営業の人たちも多かったんです。
そこで、この研修プログラム自体をビジネスモデルとして位置づけ、料金を取る形でスクールとして運営することにしました。
実は、リモートでの不動産エージェント事業で特に残ったのは、子育て世代の女性たちでした。男性は副業として取り組むには本業との相性が悪いケースが多かったのですが、女性たちはリモートワークの利便性と、出勤の必要がない点を高く評価していました。
実際に未経験から入社した女性の方の中には、短期間で売り上げを伸ばす例も多く、現在は講師として活躍している方もいますね。
また私たちは、不動産エージェントとしてのスキルや知識を提供するだけでなく、個々のライフスタイルに合わせたキャリアの構築をサポートすることに重点を置いています。これは、単にビジネススキルを身につけるだけでなく、人々の生活全体に貢献するという私たちの哲学を反映しています。
アントレプレナーとして、多様な事業に取り組むことを生涯のテーマ。
―――尾島様、多様な事業を展開する中で、ご自身のスタンスをどのように定めたのですか?
正直言って、初めは周囲の反応や投資家の意見に左右されることもありました。ですがある時点で、自分はアントレプレナーとして、多様な事業に取り組むことを生涯のテーマと決めました。それを受け入れて支持してくれる人たちと共に進むことを選ぶことを決めした。この決断をメディアやプレスを通じてオープンにし、それによって人々が去っていくこともあれば、新たに支持してくれる人たちも現れたんです。
この覚悟が、私にとって正しい道だと感じています。実際、他の事業家仲間たちと話すと、彼らも同じようなことで悩んでいることが多いですね。同じ悩みを経営社の友人たちから聞いて、私の選んだ道が間違っていないと確信しました。
多様性を活かし、それぞれの要素が相互に支え合うエコシステムを作る
―――多様性を事業展開に取り入れる上での哲学や、それに対する社会的な考え方について、どのようにお考えですか?
世界観に近いかもしれませんが、弊社では『多様性をもってより良い世界を創る』という概念を大切にしています。
また私が描いている理想の世界は、多様性を活かし、それぞれの要素が相互に支え合うエコシステムを作ることです。アイディアや小さな資本がヒト、モノ、カネ、情報と結びつき、教育、文化、福祉、芸術などさまざまな領域に発展し、循環することがこのエコシステムの基盤だと考えています。
そして社会的な課題領域に資本を投じることで、新しい学びや文化が生まれ、コミュニティが形成され、最終的には新しいアイデアや機会が生じると考えています。
―――それは、非常に包括的なビジョンですね。家族、企業、国というスケールで考えると、どのレベルでも適用可能なモデルと言えます。
正にその通りです。私の目指す世界は、様々なプレーヤーがそれぞれの役割を果たしながら、全体としての調和と循環を促進していることです。こうした循環がスムーズに行われている状態が、私が考える幸せな良い国、良い社会の基本だと考えています。
何か選択に迷ったときは、きっかけと縁を大切に未来に進むことが重要
―――尾島様、今後のビジネスにおける展望や、社会に与えたいインパクトについて、どのような計画がありますか?
これまでのゼロから事業を立ち上げるアプローチから、他の会社の事業承継や統合へと少し方向性を変えています。最近、多くの企業から代表を引き受けるか、事業買収の相談を受けるようになりました。これまでは自分自身の事業に集中していましたが、他の会社を引き継ぐことで、より広い範囲での社会貢献や影響を与えられるのではないかと考える ようになりましたね。
具体的には、オーストラリアの会社の事業承継や、ホテル業界での買収など、多岐に渡る業種での活動を検討しています。これは単なる買収ではなく、組み込んで伸ばしていくことを目的としているんです。
また、海外展開も視野に入れており、特に以前からの挑戦であったたい焼き屋の再挑戦も含め、グローバルな規模でのビジネス展開を目指しています。
―――様々な経験をされて来たと思いますが、これから起業する若い世代の方へ伝えたいメッセージは何かありますか?
まず、起業する上で大義名分は最初から必要ではないと思います。実際、私自身も学生時代からビジネスを始めていて、その動機は単純に「稼ぐこと」でした。起業して自分の生計を立てることが、まず第一歩です。その後に、どれだけ稼ぎたいか、何を成し遂げたいかを考えることができます。
私は、自分のことをまず自分でしっかりと管理できるようになってから、他人のことや社会的な問題に目を向けられると考えています。
自分自身が十分に生計を立てられるようになったら、次は自分がどれだけ稼ぎたいのか、そしてそのお金をどのように使うかを考えるようになるはずです。
多くの人がその過程で、「他人のために」とか「世の中のために」という考えに至ると思います。だから、最初は自分のために稼ぐことからスタートすることも、事業を進めていくうええの一つの道のりであるような気がしますね。
―――なるほど、まずは足元を固めることが重要とうか…自分の生活が整ってないと他人にもギブすることができないですよね…。
そうですね、何か選択に迷ったときは、きっかけと縁を大切にすることが大切なのかもしれませんね。あとは、やっぱり私は自分を 支えてくれる仕事の仲間たちと事業を創出していって、生涯、起業家でいたいなと思っているんです。
変にカッコつけたり、忖度したりするのではなくて、やりたいことをトライすることが一番だと思うんです。きっと仕事を進める中で、失敗するタイミングも発生します。
ですが、失敗から新しい事業機会を見出すという考え方も存在します。実際にYAMAHA(ヤマハ)は、失敗した事例をベースに新しい事業やサービスを創出し続けてきました。
失敗をただの失敗として終わらせず、失敗した経験を次の成功につなげることが大切ですね。
―――今回の取材を通して私自身も背中を押された気がします。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。
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