2024.11.29

「福岡のスタートアップエコシステムを知る:都市の魅力とグローバル展開支援の向こう」


世界中でスタートアップが活発化する中、日本も少しずつその動きが加速。特に福岡市は、2012年の「スタートアップ都市・ふくおか」宣言を皮切りに、2020年には政府からグローバル拠点都市に認定されるなど、急成長を遂げている。

その中心となって活動を行っているのが「Fukuoka Growth Next(以下:FGN)」。FGNは、起業のための伴走支援や起業家研修、交流イベント、ワークスペースの提供など、スタートアップに必要なさまざまなサポートを行っている施設だ。

そこで今回は、「福岡市・経済観光文化局 創業推進部 グローバルスタートアップ推進担当」の澤田氏、石長氏、そして「FGNグローバルビジネスサポート(以下:GBS)」の小野氏にインタビューを実施。具体的な支援内容や福岡市がスタートアップにとって魅力的な街である理由、さらに10月に開催されるスタートアップイベント「FUKUOKA STARTUP WEEK」や「RAMEN TECH」の見どころを伺った。

インタビューイー
澤田 鉄郎氏
福岡市・経済観光文化局
創業推進部 グローバルスタートアップ推進担当

インタビューイー
石長 史康氏
福岡市・経済観光文化局
創業推進部 グローバルスタートアップ推進担当

インタビューイー
小野 旬氏
Fukuoka Growth Next グローバルビジネスサポート(GBS)
相談員


世界で活躍する起業家を輩出するためのスタートアップ支援施設


福岡市役所 取材イメージ画像
―――澤田さん、石長さんは普段どのような業務を行っているのですか。

澤田氏: 私たちは、福岡市のスタートアップ企業の海外進出支援や、外国人創業者等の福岡市への進出支援を行っています。

具体的には、専門的な知識を持ったコンシェルジュがワンストップで支援を行うGBSが中心となり、外国人のスタートアップビザの取得や銀行口座の開設、事務所の確保などの支援を行っています。

このほか、私は主に情報発信や補助金に関する業務を担当しており、FacebookやLinkedInを活用して国内外に向けた情報の発信等をしています。

福岡市役所 取材イメージ画像
石長氏: この課にはアジア担当、欧米担当、澤田が担当している情報発信・補助金の3ラインがあり、私は欧米エリアを担当しています。GBSと連携して、日本で起業したいと思っている外国の方々を福岡に誘致するためのインバウンド支援を行っています。たとえば、春先にはエストニアやフランスを訪問し、スタートアップイベントやテックイベントに参加。福岡市のエコシステムやスタートアップ支援についてPRしてきました。

また、アウトバウンド支援も行っており、福岡市内のスタートアップ企業が海外進出を目指す際に、一緒にイベントでブースを出展したりしています。欧米エリアはもちろん、特にアジアエリアは福岡という地理的要因から非常に需要が高く、今年はタイに2回訪問し、スタートアップイベントに参加しました。10月にはシンガポールのイベントにも参加する予定でして、福岡でもグローバルイベントを開催する予定です。

また、海外研修も担当しています。海外に興味をお持ちの方からすでに起業して本格的に進出を考えている方まで、幅広い層を対象に研修を提供しており、もう8年以上になります。研修の内容を簡単に説明すると、まずは国内で5回、アクセラレーターの方々からビジネスプランの作り方や海外進出のためのマインドセット、起業家精神などを学びます。国内は100名程度、海外は10名程度まで絞り、実際にサンフランシスコまで行って現地の人から学ぶ、というプログラムを実施しています。

―――大規模再開発プロジェクト「天神ビッグバン」の影響もあり、海外からの参入企業の増加が予想されますが、ここ数年で海外からの問い合わせは増えていますか?

石長氏: GBSには、月に100件以上の問い合わせがきています。私たちがKPIとして設定しているのがスタートアップビザの申請件数でして、昨年度は18件の申請があり、今年の目標は20件。現時点で見込みも含めてすでに11件の申請が予定されているため、20件は達成できると思います。

―――福岡市に進出する企業はどのような業種が多いですか?

石長氏: やはり、IT系の企業が多いですね。ゲームやAI関連、ブロックチェーン開発、ゲーミフィケーションを活用した事業など、革新的なスタートアップが増えています。

福岡市がスタートアップに選ばれる理由とは?


福岡市役所 取材イメージ画像
―――福岡市がグローバルスタートアップの拠点として注目されるようになった背景を教えてください。

澤田氏: 私たちがスタートアップの支援事業を始めて10年以上経ちますが、まず2012年の「スタートアップ都市宣言」により、スタートアップにフレンドリーなまちづくりが始まりました。

その後、2014年に国家戦略特区を獲得し、ビジネスの障害となる規制を緩和しようという取り組みが始まり、2017年には官民協働型のスタートアップ支援拠点「FGN」を設置。

こうした取り組みが評価され、2020年に日本政府からグローバル拠点都市に選定されたことで、多くの方々から注目していただけるようになりました。

その背景として、福岡市の生活の質(QOL)の高さが挙げられます。人口増加率が高く若者が多いことに加え、空港から中心部までが非常に近い。

さらに、「天神ビッグバン」によって多くのオフィスやホテルが建設されていることも、注目を集める要因になっているかと思います。

―――実際にどれくらいの企業が福岡市で拠点設立したり移転してきているのでしょうか?

石長氏: 企業誘致課という課があり、ここではスタートアップに限らず国内外から企業を誘致しているのですが、誘致件数は11年連続で50社を突破しており、11年間で630社以上誘致しています。

GBSによるきめ細やかなスタートアップ支援


福岡市役所 取材イメージ画像
―――GBSに所属する小野さんは普段どのような取り組みをされているのでしょうか?

小野氏: 海外の起業家の支援をメインに、0から10まで伴走支援を行っています。スタートアップビザの取得から始まり、ビジネスプランの作成支援、日本に来た際の住居探し、銀行口座開設、携帯電話の契約、法人設立、そして日本特有のハンコの作成といった細かい部分までサポートしています。

言語の壁もありますので、FGNや市役所と連携し二人三脚で、行政・民間・大学の橋渡しをするコーディネーターとして支援をしています。

GBSの支援には3つの軸があると思っており、一つは外国人の起業家を対象とした経営管理ビザの取得支援です。

各都市によって手続きは異なりますが、私たちの場合は、英語で作成された事業計画を中小企業診断士がチェックする前に、しっかりと確認するようにしています。中小企業診断士のチェックが通らないとビザは取得できませんから。

そういったビジネス的な面と、もう一つは口座開設や住居などライフスタイル面のサポートです。海外から福岡に来て起業するというのは大変なことですから、生活基盤を築くための支援を行っています。

最後に、英語による高いレベルのコミュニケーションです。日本に来たばかりの外国人の方もこの土地になじめるようなサポート体制を整えています。

―――海外から福岡に来て起業した方の反響や印象に残っているエピソードについて教えてください。

小野氏: 最近、ビザのサポートで少し手間取った外国人創業者がいました。事前にしっかり相談を重ねても、必要書類を紛失してしまったとか、申請時に書類を忘れてしまったというケースが時々あります。

その創業者も申請直前に必要な書類が見当たらず、ビザが更新できずに国外退去の危機に陥っていました。

そこで、出入国在留管理局や市役所に相談し、タイトな時間の中でできる限りの対応を行った結果、無事にビザを更新することができ、その創業者は日本に残ることができました。

無事に更新ができ、その方には大変感謝されました。こうした問題を解決できるところにやりがいを感じています。

―――行政と企業との距離が近いことが、福岡市のスタートアップ分野の成長に大きく貢献しているように感じましたが、スタートアップ企業同士のネットワーキングや行政との関係構築において注力していることはありますか?

澤田氏: 年に数回、FGNのイベントスペースで交流会などのインターナショナルミートアップイベントを開催しており、私たち行政職員も参加しています。7月の開催時には80名ほどの参加があり、日本語や英語をはじめ、さまざまな言語が飛び交っていました。

石長氏: 立地的な利点も大きいと思います。東京はさまざまな場所でイベントが開催されますが、福岡市では基本的にこの一カ所で行われ、市役所から近いこともあり、行政職員がすぐに立ち寄ることができます。同じ施設内でスタートアップの個別支援からイベント企画まで一貫して行っているので、相談に来た人がそのままイベントに参加することもできます。拠点が一つに集約されているこの空間が大事なのだと思います。

福岡市が目指すスタートアップの未来像とは


福岡市役所 取材イメージ画像
―――これからスタートアップのエコシステムを強化するにあたり、取り組んでいきたいことや挑戦したいことはありますか?

澤田氏: 福岡市が力を入れていることの一つが、海外連携です。現在、12カ国・地域、16のスタートアップ拠点と連携し、それぞれの地域のエコシステムパートナーとも密に連絡を取り合い、スタートアップを多面的にサポートしています。これらの取り組みを活かして成功への道筋を作り、成功事例を増やしていくことを目指しています。

福岡市役所 取材画像
石長氏: これからアウトバウンドにさらに注力していきたいというのを、内部でよく話しています。海外からの投資は、福岡市内でスタートアップするうえでの一つのオプションになると思うんですね。もちろん、福岡市内で起業したすべての企業が海外進出を目指すわけではありませんが、希望する企業がその道を着実に進めるよう伴走して支援していくこと、そのために何ができるのか考えていくことが今後の課題です。

また、事業会社やベンチャーキャピタル、ビジネスパートナーとなるような方々を発掘していくことも重要だと思っています。それを海外の連携拠点はもちろん、それ以外の地域でも積極的に進めていくつもりです。

あとは、今年度から海外展開支援補助金を開始しました。高度人材雇用、海外拠点設立、イベント出展の3つの支援メニューを用意しているのですが、海外展開にはやはり資金が不可欠ですので、資金やネットワーク面のサポートを行っていきたいと思っています。

―――今後、福岡市がどんな街になってほしいですか?

澤田氏: 私たちの目標は創業しやすい環境作りだと思っていますので、国内外問わずチャレンジしやすい街として選んでいただけるにようになってほしいですね。

―――海外の方に福岡市の取り組みをお話しした際、どんな反応が返ってくることが多いですか?

石長氏: 「すごいね」と言っていただくことが多いです。国レベルではなく自治体レベルでここまで取り組んでいること、それを無料で提供していることに驚かれます。

日本は手続きが大変だというイメージが広がっていますが、福岡市はそこにしっかりと焦点を当てた取り組みを行っていることをアピールし、国内外における福岡市のプレゼンスを高めていくことが大事だと思っています。

スタートアップ支援がすべてではなく、福岡市は子育て政策や福祉政策など多様な取り組みを行っています。多様な分野での取り組みが相乗効果を生み出し、口コミなどを通じて広がっていくことで、結果としてスタートアップに関しても「福岡市が一番だ」と言ってもらえるような街になることを目指しています。

―――起業を検討している人、FGNに興味を持っている人に向けてメッセージをお願いします。

澤田氏: 私たちは手厚い支援を伴走型で、二人三脚のように行っています。フレンドリーなコンシェルジュもおりますので、ぜひ気軽にご相談いただければと思います。

石長氏: 起業することや働くことは、住むことと深く関わっています。その中で福岡は、住みやすく働きやすい、そして起業もしやすいQOLが高い街だと思っています。そんな住みやすいコンパクトシティを求めている方、おいしいご飯や海・山でのアクティビティを楽しみながら生活したいという方に、福岡はぴったりの場所です。

小野氏: 福岡は、インバウンドの面では日本への架け橋であり、アウトバウンドの面では世界への架け橋として、トレーディングポスト的な役割を果たしていると思っています。多くの方に来ていただければ、きっと福岡の魅力に気がついていただけるはずです。

<編集後記>



国内外の投資家が集結!スタートアップイベント「FUKUOKA STARTUP WEEK」が開催


福岡市役所 引用画像 引用:FUKUOKA STARTUP WEEK特設サイト

私も「RAMEN TECH 」に2日間参加しました。編集後記では、そんな「RAMEN TECH」に参加した様子をお伝えしたいと思います!

今回の取材では澤田さん、石長さんが「RAMEN TECH」にかける想いについても共有していただきました。

澤田さんは、海外から20人以上の投資家やベンチャーキャピタルが参加するイベントに対して、「福岡に来た海外の方々が帰国したあとに、どれだけ福岡の魅力を伝えてくれるかが非常に大事だと思うんです。」

「『日本で起業したい』と考えてみたところ、ベンチャーキャピタルなどから福岡を推薦してもらえるような仕組みを、このRAMEN TECHを通して構築していきたいです。」と福岡が海外のスタートアップから注目される存在になることへの期待を示しました。

また石長さんは、「RAMEN TECHという名前を今年新たに採用しました。日本全体がスタートアップを盛り上げている象徴として、東のSusHi Tech、西のRAMEN TECHという位置づけにしたいと考えています。」とその名前に込めた意図を語り、福岡のみならず日本全体でスタートアップ支援の一助になる熱意を語ってくれました。

そして、「現在、教育委員会や創業推進部が連携し、若者のアントレプレナーシップ教育を進めていますが、このイベントもそのような取り組みにつながってほしいです」

「単なるビジネスマッチングにとどまらず、広く楽しんでもらえる場になってほしいと思っています。」とイベントを通して、福岡が次世代の起業家の育成の場となる可能性や、多くの方に「RAMEN TECH」自体を楽しんで欲しいという期待について述べてくれました。

イベントに係る様々な関係者の想い、そして福岡をあげて取り組んだ「RAMEN TECH」がどのようなイベントだったのか―― ここからはそんな「RAMEN TECH」のイベントの様子を紹介していきます。

世界中からスタートアップが集結、「RAMEN TECH」のイベントの様子をレポート!



イベント会場に到着すると、まず目に飛び込んでくるのは、「RAMEN TECH」 のイベント名にちなんで福岡を代表するラーメン店の屋台。

福岡市役所 取材画像 ▲RAMEN TECH の名に恥じぬ、福岡を代表する個性的なラーメン店が出店。取材前に私もラーメンを食べましたが、最高でした!

イベント会場は、「大名ガーデンシティ・パーク」「大名カンファレンス」「GROWTH I」「FUKUOKA GROWTH NEXT」の4つのエリアで構成されています。

福岡市役所 取材画像
「RAMEN TECH 」は、福岡がスタートアップ支援の集大成として、アジア諸国からスタートアップや投資家を招いたグローバルなネットワーキングイベントです。福岡から日本全体のスタートアップを盛り上げようとする熱量の高いイベントの印象を受けました。

また福岡市が目指す「スタートアップ・シティ」としてのビジョンが感じられる場面も多く垣間見れました。

福岡市役所 取材画像 ▲第94回「The Pitch」の様子。

台湾をはじめ、アジア圏から集まった海外のスタートアップが、事業のプレゼンの様子。

特に今回は「Asia Next Unicorn Award」「The Pitch」のコンテンツが注目を集めていました。

Asia Next Unicorn Awardでは、 次世代のユニコーン候補である8か国・地域16社のスタートアップが熱いピッチを披露。

優勝は台湾から参加した「CancerFree Biotech」でした。

同社は、パーソナライズされた腫瘍細胞分析により、効率的かつ適切ながん治療方法を提案するプラットフォームを開発しており、その革新性が評価につながったようです。

同社は、この優勝を機に、福岡への進出にも興味を寄せており、日本での展開が楽しみです。

福岡市役所 取材画像
一方シード・アーリ期のスタートアップがピッチを行う「The Pitch」では、 次世代のバイオ資材開発や都市の緑化に対して技術提供およびコンサルティングをおこなう筑波大学発のベンチャー企業「株式会社エンドファイト」や、「みとring」の運営をおこなう株式会社flagMe 代表取締役 ・古賀氏をはじめとした次世代の注目企業の面々がピッチを繰り広げていました。

福岡市役所 取材画像 ▲優勝を獲得した「株式会社HKSK」

そして今回の「The Pitch」で優勝した企業は、「株式会社HKSK」。

この勝利は、HKSKが次のステージへと飛躍するための一歩であり、今後の展開が期待される瞬間でもありました。

株式会社HKSK・代表取締役の赤木 謙太氏は、東京大学博士号過程にて「デジタルワールドにおける自己表現とコミュニケーションの関係」についての研究を行う傍ら株式会社HKSKを立ち上げた経緯があります。

リアルとデジタルのコミュニケーションをつなぐ「XRコミニケーション」をつじて、メディア分断を解決する新たなコミニケーションの可能性を追求するHKSKの今後の活動にも期待が集まります。

イベント終了後には、アフターパーティーも行われ、参加者同士の交流も頻繁に行われていました。

「RAMEN TECH」は、福岡の地元の魅力とグローバルな視点を合わせた新しい形のイベントとして、今後もスタートアップ都市・福岡を世界に発信する重要なプラットフォームとなっていく期待感を肌身を持って感じる ことができました。

福岡市役所 取材画像
今回「FUKUOKA STARTUP WEEK」、そして「RAMEN TECH」の取材を通して見えてきたことは、福岡という都市が持つスタートアップ支援の手厚さやポテンシャル、そして世界的なスタートアップが福岡から誕生する可能性でした。今後も福岡のスタートアップ支援に、注目していきたいと思います。



新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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