高速通信技術(MIMO)の未来: ドローンが紡ぐ、未来の可能性とは?
2024.04.01

高速通信技術(MIMO)の未来: ドローンが紡ぐ、未来の可能性とは?


10年後に向けて6Gを視野に入れた戦略が始動している。今まで以上に高速通信技術の技術が進化する昨今 ――― 超高速通信とドローン技術を結びつけ、農業のスマート化やネットワーク中継技術の研究を進める平栗教授の取り組みを深堀りします。

また、スマート農業、超高速通信、ドローン技術の三つを組み合わせた現状、課題、そして未来像について質問。平栗教授の専門知識と実績に基づき、理論と実践のクロスオーバーを探求し、近未来の無線通信技術がどのように進化するのか、ドローンが私たちの世界をどう変えるのか、また未来の農業にどのような可能性が開かれ、どんな課題と解決策が存在するのかを紹介していく。

平栗 健史
インタビュイー
平栗 健史氏
日本工業大学
教授[無線伝送メディア]
平成11年3月 筑波大学 大学院理工学研究科理工学専攻 修士課程修了
平成20年3月 博士(情報学) 筑波大学
平成22年3月までNTT研究所 勤務


高速通信技術の進化と研究の道


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―――まずは研究概要について教えてください。

私は以前、NTTの研究所で世界初の無線LAN(Wi-Fi)研究に携わっており、その経験を基に、現在も同じテーマの研究を続けています。特にここ5~6年は、スマート農業への関心を深め、その分野でも研究を進めています。また、最新のWi-Fi技術に関連する教科書の共同執筆も行いました。

5G技術は既に確立されていますが、我々はその先、Beyond 5Gや6Gに目を向けています。私が特に興味を持っているのは、これらの技術の「拡張性」です。地上だけでなく、海や空、宇宙への通信技術の展開を探っています。この観点で総務省も同様の方向性を持っており、非常に注目しています。

ドローンを活用した通信ネットワークの開発にも取り組んでおり、総務省の「SCOPE」プロジェクトに参画しています。この共同研究は、複数の大学とともに進行しており、私が代表を務めています。

宇宙関連の研究にも興味があり、JAXAの月面農業研究にも注目しています。宇宙通信と月面での農業は深い関連があり、これらが連動する形での研究を進めています。 また、電波で端末などの充電を行うワイヤレス電力伝送技術にも取り組んでおり、特に配分アルゴリズムの開発を手掛けています。これらの研究が、現在の私の主要な取り組みです。

スマート農業の革新

―――先生の研究が実現すると、具体的にどのようなことが可能になるのでしょうか?

トマトの水耕栽培 ▲デルモンテ社とのトマトの水耕栽培の画像

最近、スマート農業と5G技術の連携に強い関心が寄せられています。特に農林水産省では、ローカル5Gを活用したスマート農業の実証に関する情報が令和4年度の公募ページに詳しく記載されています。ローカル5Gは、従来の通信キャリアに依存せず、個人や企業でも容易に設置できる利点があります。これにより、農業分野においても、通信技術の応用が一層進むことが予想されます。

我々は、デルモンテ社と協力して、トマトの水耕栽培に関する実験を進めています。この研究では、LEDを利用した栽培方法を確立しようとしており、光の量が多量に必要なトマトの栽培において、コストを抑えながら効果的な光を提供する方法を模索しています。

ドローンを使用した梨の花の受粉 ▲ドローンを使用した梨の花の受粉に関するプロジェクト

また、ドローンを使用した梨の花の受粉に関するプロジェクトも進行中です。このプロジェクトでは、AIを活用して花を検出し、受粉を助ける特定の物質を散布する仕組みを開発しています。これにより、農業分野における人手不足の解消や効率化が期待されます。

さらに、植物の受粉に関する深い知見を得ることができました。トマトや梨の受粉方法の違いを理解し、それぞれに適した技術の開発を進めています。例えば、トマトでは自家受粉を促進するために振動子を使用した方法や、蜜蜂を用いる伝統的な方法があります。しかし、蜜蜂の活動が減少する夏場や、受粉に適した花の形を見極める必要がある場合には、新たな技術が求められます。

私たちは、AI技術を用いて受粉に最適な花を識別し、ドローンで受粉を助けるシステムを開発しました。このシステムは、実験室での初テストに成功し、現在は実際の農場での試験を行っています。この取り組みは、農業分野におけるイノベーションを加速させる可能性を秘めています。

―――先生の研究は、農業技術の未来に大きな影響を与えそうですね。

そうですね。通信技術と農業技術の融合により、農業の現場が大きく変わることを目指しています。これからも、私たちの研究が農業の効率化、生産性向上、そして環境への負荷軽減に貢献できるよう、研究を進めていきたいと思います。

農業にも革命をおこす通信技術の進化


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―――サツマイモに関する研究にも取り組んでいると伺いました。具体的な研究内容について教えてください。

実際、我々の研究チームでは、サツマイモの収穫プロセスを自動化するための複数の技術を開発しています。最適な位置でツルを刈り取る装置の開発から始まり、掘り起こしたサツマイモをカメラでサイズや数を測定し、データベースに記録しています。これらの情報は、サツマイモの品質管理と流通を効率化するために役立っています。また、温度センサーを備えた保管コンテナを通じて、収穫物の状態をリアルタイムでモニタリングし、早期に腐敗を発見することができるようになりました。この研究は、農林水産省の支援を受けて進められています。

さらに、キノコに関する興味深い研究も行っています。特に、雷の影響を模倣した実験を通じて、雷がキノコの生育速度に大きな影響を与えることが判明しました。面白いことに、この効果は雷の電気的な側面ではなく、音によるものであることがわかりました。この発見により、キノコの栽培方法に革命をもたらす可能性があります。

また、シイタケの栽培における「恒温槽室」の導入や、廃菌床の問題に対する新たな解決策を模索しています。紙をセルロース源として使用することで、環境に優しく、経済的なキノコ栽培法を開発しており、この技術のさらなる応用が期待されています。

―――それでは、これらの研究が将来的に農業にどのような影響を与えると思われますか?

これらの技術が広く導入されれば、農業の自動化と効率化が大きく進むでしょう。特に、ロボット技術やAIの応用により、人の手をほとんど介さずに作物の栽培や収穫が可能になることを目指しています。例えば、Amazonの倉庫に見られるようなロボット技術を農業に応用することで、作業の効率化を図ることができます。

さらに、水耕栽培や宇宙での栽培を含む、新たな栽培技術の開発により、農業の可能性は無限に広がります。このような先進的な研究は、食料生産の持続可能性を高めるだけでなく、宇宙での生活を支える技術開発にも寄与するでしょう。

災害時通信の新たな可能性


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―――今後、この技術が災害対策にどのように役立てられると考えていますか?

今後、MIMOをはじめとする通信技術の進化は、災害時のコミュニケーション基盤の強化に寄与するでしょう。災害時には迅速な情報伝達が求められますから、高速かつ信頼性の高い通信手段の確立が非常に重要です。ドローンを活用した中継基地設置技術は、被災地での通信網の復旧や、救助隊との連携をよりスムーズに行うための鍵となるでしょう。この分野の研究が進むことで、災害対策の一層の強化が期待されます。

このような技術は確かに存在し、私も以前はその分野の研究に携わっていました。実際に災害が発生する機会は限られているため、この技術が広く知られているわけではありませんが、技術的には中継基地の設置は十分に可能です。現在、この技術は直接的な災害対策よりも他の用途での活用を目指しており、通信技術の一環として発展を遂げています。

特に重要なのが「MIMO」通信技術です。これは複数のアンテナを使用して同時に異なる信号を発信・受信し、通信速度を大幅に向上させる技術です。例えば、従来の1対1のアンテナ方式から4対4のMIMOを採用することで、理論上情報伝達速度が4倍になります。現場での具体的な適用はさまざまな課題を伴いますが、通信の効率化には非常に有効な技術です。

―――今後、この技術が災害対策にどのように役立てられると考えていますか?

今後、MIMOをはじめとする通信技術の進化は、災害時のコミュニケーション基盤の強化に寄与するでしょう。災害時には迅速な情報伝達が求められますから、高速かつ信頼性の高い通信手段の確立が非常に重要です。ドローンを活用した中継基地設置技術は、被災地での通信網の復旧や、救助隊との連携をよりスムーズに行うための鍵となるでしょう。この分野の研究が進むことで、災害対策の一層の強化が期待されます。

ドローンと6Gの融合が拓く未来


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―――未来の考察について、MIMOを用いたドローン技術やその他の技術はどのように進化し、我々の生活にどのような影響を与えると考えますか?

10年後の未来を想像すると、ドローン技術は確実に我々の日常生活に不可欠なものになっていると考えられます。特に、中国のような国々がこの分野で先進的な動きを見せていることは注目に値します。軍事用途だけでなく、民間領域においても、既に荷物配送などのサービスが開始されている状況から、ドローンの利用範囲は急速に広がっています。これはロボット技術と並行し、飛ぶか飛ばないかという違いを除けば、その進化の速度は想像以上に速いかもしれません。

6Gの普及に関しては、その技術だけではなく、AIやロボット技術との組み合わせによって、さらなる進化が期待されます。5Gの時代に既に見られた通信と他技術の連携は、6Gにおいても更に発展し、私たちの生活や産業における通信のあり方を根本から変える可能性を秘めています。

5年後にはスマート農業の設備や技術がより普及し、10年後には農業の自動化やロボット化が一般的になると予想されます。この進化は、食料生産の効率化や安定供給に大きく貢献するでしょう。しかし、伝統的な農業技術や匠の技も引き続き重要な役割を果たします。この二つのアプローチの共存が、農業の多様性や魅力を保つ鍵となるはずです。

最終的に、農業を含む多くの分野において、大規模な生産と特定のニッチな市場が共存する形が、持続可能で安定した未来への道となるでしょう。このバランスの取れた進化は、食料供給の安定化に寄与し、新たな価値や体験を提供する可能性を秘めています。

研究と社会の架け橋として


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―――最後に読者の方へメッセージをお願いします。

学会での活発な議論や研究の発展には常に注目していますが、私が特に重視しているのは、大学での研究成果を企業で活用することの可能性です。私たち研究者は、日々の研究に没頭していますが、その成果を学生に直接教えることは、しばしば難しいものです。そのため、企業との連携を通じて、研究と実社会との橋渡しを行うことが重要だと感じています。

企業が大学に研究室を設けることで、大学の一部としてではなく、より専門的な研究に注力できる点に大きな魅力を感じています。また、学生が企業の実際のプロジェクトに参加することで、彼らに実践的な経験を提供し、同時に企業にとっても新しい視点やアイデアを得る機会となります。

これからの時代、学問と実務の間にあるギャップを埋めるためには、企業と大学との更なる連携が必要です。実践的な教育を通じて、学生たちにより多くのチャンスを提供し、同時に社会に貢献する研究を推進していきたいと考えています。

私たちの取り組みが、より多くの企業との協力を促し、共に成長し続けるための基盤を築くことができればと思います。読者の皆様には、このような研究と社会との連携の重要性を理解し、支持していただければ幸いです。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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