2024.04.08

未来のテクノロジーが紡ぐ新世界:XR技術の可能性


近年、急速に発展しているXR技術は、私たちの生活や仕事、さらには娯楽のあり方を根本から変える可能性を秘めているのだ。VR・ARそして動的プロジェクションマッピングが融合し、新たな仮想体験を創出するこの技術は、エンターテインメントだけでなく、医療や教育など多岐にわたる分野での革新をもたらそうとしている。今回は、久留米工業大学・工藤達郎氏による深い洞察を通じて、XR技術の現状、その課題、そして未来について探求していく。

工藤 達郎,ソウグウ
インタビュイー
工藤 達郎氏
久留米工業大学 情報ネットワーク工学科 工学部
電子情報システム工学専攻 大学院
准教授
取得学位:博士(芸術工学)
専門分野:メディアアート、ヴァーチャルリアリティ、ビジュアルプログラミング


VRとプロジェクションマッピングの融合


イメージ画像,ソウグウ
―――工藤教授、本日はお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、VR技術と動的プロジェクションマッピング技術の基本概念について教えてください。

もちろんです。VR(仮想現実)は、完全にデジタルで作られた環境にユーザーを没入させる技術です。一方、動的プロジェクションマッピングは、物理的なオブジェクトにリアルタイムで画像を投影し、その表面の見え方を変える技術です。これらは、現実感のある仮想環境の提示法として、さまざまな応用表現に利用されています。 また、XRは先ほどのVRだけではなくAR(拡張現実)やMR(複合現実)などの技術の総称です。近年、技術的な境界があいまいなデバイスやコンテンツが多く生まれたことにより、総称が必要となった背景があります。しかしXR技術(VR/AR/MRなど)はすべて、“本当はそこにないものを、人にあるかのように感じさせる”という共通の目的を持つ技術の総称だといえます。

―――ありがとうございます。研究の動機は何でしたか?

私が興味を持った原体験は、オンラインゲームが普及し始めたころです。特に、「ファンタシースターオンライン」や「ファイナルファンタジーXI」のようなオンラインゲームが、私の原体験でした。ゲームや映画で体験した世界への没入感が、いずれ自分の主観で、リアルな体験として実現できるかもしれないと考え、大学で3DCGについて学び始めました。


▲ゲームの没入感を実体化したIN-NO-CENCE PV(JP)

―――ありがとうございます。研究における現状とトレンドはどうですか?

現在、私たちは工業製品のVR展示会システムやエンターテイメント領域での応用事例など、XR技術を使用してリアルタイムに反応する環境を作り出すことに取り組んでいます。特に、エンターテイメントでは、ユーザーが映画のような体験を自らの手で実現できる可能性に焦点を当てています。

以前作った、自分の身体でガラスを破る作品は、トム・クルーズから着想を得ています。トム・クルーズは、映画『ミッション・インポッシブル』シリーズなどで、敵地に乗り込む時はガラスを破って建物の中に入るんです。その感覚をXRで表現したかったんですよね。


▲The Simple Formula

また現在は、口腔外科の専門医や言語聴覚士の先生方と協力し、特定の音声言語障害を持つ子供たちの支援に取り組んでいます。言語訓練は非常に重要ですが、口の中の動きを正確に指導するのは容易ではありません。
そこで「メタヒューマン」というリアルなCGキャラクターを利用することで、口の中の動きを視覚的に示すことが可能になります。

このビジュアルシステムは、発音の際に必要な口腔内の形状や動きを正確に表現し、裸眼で見ることができるディスプレイを使用して指導を行うことを目指しています。この技術を用いることで、言語聴覚士が患者に対してより効果的なフィードバックを提供できるようになり、治療の質を大幅に向上させることが期待できます。


▲Oral Cavity Visualizer Using MetaHuman -prototype ver.2-

現実とのシームレスな融合における課題


イメージ画像,ソウグウ
―――XRにおける、技術の現在の課題や限界点についてはどう感じていますか?

最大の課題は、現実の生活とシームレスに統合できていないことです。VRは没入型の体験を提供しますが、ゴーグルを装着することで現実空間が完全に隠れてしまうため、日常生活との融合には程遠いです。この点を克服するためには、デバイスレスでリアルタイムに反応し、日常生活に溶け込むXR技術の開発が必要です。

VR体験中の写真
昨年10月に発売されたMRデバイスである「メタクエスト3」には、大きな可能性を感じています。ある動画で、ユーザーがメタクエスト3を装着しながら野菜を切っている様子が紹介されていました。これを見て、今後XRの領域が現実世界の繊細な活動をサポートできる可能性に気づきました。過去のVR技術では、現実を高解像度で表示することには限界がありました。エンターテインメント用途では低解像度でも、例えば初期のマリオのようなゲームでも人は十分楽しめますが、日常生活をサポートするための解像度はより高いレベルが求められます。


▲メタクエストで料理を作る動画

―――なるほど!技術の進化が日常生活に直接役立つようになるんですね。

その通りです。メタクエスト3やApple Vision Proの登場により、XR技術が日常生活で実用的なツールとしての地位を確立する可能性が見えてきました。2016年にVR元年と言われて以来、私たちは「ゴーグルをつけたまま生活できるか?」という問題に直面してきました。重要なのは、デバイスを装着したときにスマホをそのまま触れるレベルなのかどうか、つまり解像度が日常生活での使用に耐えうるかどうかです。

メタクエスト3が示したのは、安価で高解像度のデバイスが普及する可能性があるということです。

―――ユーザーとのインタラクションにおいてはどのような課題がありますか?

現状のXR技術は基本的に視覚と聴覚を騙していますが、触覚や嗅覚など他の感覚を再現することはまだ難しいです。触覚については限定的な解決策しかありませんし、匂いや味覚はさらに難しい課題です。VRデバイスを装着すると、「その中」で何かをする以外に選択肢がないため、シームレスな体験を実現することが現在の大きな課題となっています。

XR技術が拓く新たな地平


イメージ画像,ソウグウ
―――技術の進化がもたらす未来についてはどのように考えていますか?また5年後には、性能が格段に向上したデバイスが登場すると思いますか?

技術が進化すれば、私たちの生活に更に深く組み込まれ、完全に新しい体験やビジネスモデルが生まれるでしょう。

そしてアップルビジョンのような製品が市場にさらに参入してくる可能性が高いと考えています。それは装着時と非装着時で見える現実の映像が一致し、非常にリアルな体験を提供するでしょう。

ただし、現状では価格が高い点がネックです。メタクエスト3は、新しい技術を導入するだけでなく、使いやすさと手頃な価格で市場に受け入れられることを目指しています。アップルビジョンが7万円程度で市場に出れば、広く普及すると思います。

―――XRはエンターテインメント分野と特に相性が良いのでしょうか?
対談風景,ソウグウ,新井那知,工藤 達郎
現段階では、ゲームとの相性が最も良いと言えます。デバイスメーカーが提供するビジネスツールはまだ発展途上ですが、ゲームでは多様なデバイスが利用されています。今後、技術がより普及すれば、その使用範囲も広がっていくでしょう。現時点での楽しみに求められるクオリティは、デバイスが十分に提供していますが、日常生活に溶け込ませるのはまだ課題があります。

―――5年後、10年後のXRやVR技術、そして動的プロジェクションマッピング技術の将来について、どのような展望を持っていますか?

アップルビジョンのような、現実世界と一致するクオリティのデバイスが手頃な価格で一般家庭に普及するのは、おそらく10年以上先になると考えています。技術が家庭で広く使われるようになると、XRは単なるソフトウェア技術を超え、重要なメディアとしての役割を果たすようになるでしょう。映画やアニメのXR版など、これまでにない新しいコンテンツが登場する可能性があります。

―――それは、生活の様々な面で革新をもたらすということですね。

そうですね。たとえば、写真や動画を3Dで撮影し、それを相手に送ることで、まるでその人が目の前にいるかのような体験を提供できるようになるかもしれません。これにより、遠隔医療や会議などの応用が可能になり、コミュニケーションの質が大きく向上します。

―――これらの技術が普及すると、プラットフォーム間の競争も激しくなるのでしょうか?

その可能性は非常に高いです。市場に一気に普及するキラーデバイスが登場すると、その後は価格を下げて広く普及させることが主な課題になるでしょう。スマートフォンレベルでの普及が実現すれば、技術の進化がもたらす新たな応用例やビジネスモデルが次々と生まれることになります。

―――技術の進化がもたらす新しい応用例やビジネスモデルについての予想はありますか?

写真や動画をはじめとしたコンテンツの3D化、そしてそれらを共有する新たなSNSの普及を予想しています。XRはVRやMRを含む総称であり、これらの技術の目的は、現実には存在しないものをあたかも存在するかのように感じさせることにあります。目の前に存在すると感じることで、モチベーションの向上やよりリアルな体験が可能になるでしょう。最終的には、SFの世界が現実のものとなり、私たちの生活を一層豊かにすると確信しています。

XR技術の普及がもたらす変革と挑戦



▲Rainy Talk Main Video

―――XR技術の普及がもたらす生活や社会への影響についてはどう思いますか?

XR技術は、人の生活をより便利にする可能性を秘めています。しかし、AIの進化と同様に、破壊的な変化を引き起こす可能性もあります。AIが人間の仕事を代替することに関する議論はありますが、私はそれ以上に、人間の評価や創造をAIが担うようになる危険性に注目しています。ただ、私たちが現実世界をどう価値づけるかによって、その影響は大きく変わると思います。

工藤 達郎,ソウグウ
―――技術の進化と人間の価値観のバランスについては、どのように考えていますか?

技術の進化は、便利さを追求することと、リアルな体験を大切にすることの間で二極化する傾向にあると思います。重要なのは、自分自身が本当に価値を感じるものに焦点を当てることです。自分の心や熱量に耳を傾け、オリジナルな創造活動に専念することが、真の満足につながります。

―――XR技術の進化がもたらす新たな依存症や、現代病についてはどう思いますか?

10年後には、VRチャットなどの一般への普及により、現実世界と仮想世界のギャップに悩む人が増えるかもしれません。技術が人々の生活に深く浸透するにつれ、その影響をどう受け止め、調和するかが大きな課題になります。特に、仮想世界での体験が人間関係や自己認識に与える影響には、慎重に向き合う必要があります。

現実で触れ、感じた感性を大切にし技術を享受する。


ソウグウ,新井那知,工藤 達郎,久留米工業大学
―――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

XR技術は、現実世界の延長線上にあるものとして捉え、それをどう生活に取り入れるかを考えることが大切です。技術の進化を享受しつつも、現実世界での体験を大切にし、人間らしさを忘れないようにしましょう。また、自分自身の内なる声に耳を傾け、心から価値を感じる活動に時間を費やすことが、最終的には最も充実した人生を送ることにつながると信じています。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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