デジタルで織る地域の絆 - 情報科学の地域貢献
2024.02.06

デジタルで織る地域の絆 – 情報科学の地域貢献


私たちが日々の生活の中で目にする、情報技術の進展は止まることを知らない。VRやドローンといった最先端技術が、いかに日常生活に深く根付いているかは、その利用範囲の広がりから明らかである。しかし、この技術革新の波が、いかにして地域社会の具体的な課題解決に貢献しているのかは、まだ十分に理解されていない。

日本における情報技術の遅れが指摘される中、地域未来のデザインに焦点を当てた革新的な動きが見られる。デジタルトランスフォーメーション(DX)は、単なる技術の進歩ではなく、地域社会の活性化に不可欠な要素として位置づけられている。

今回は北見工業大学工学部・地域未来デザイン工学科の桝井文人教授に話を聞くことで、データ活用がもたらす社会へのインパクト、技術革新が地域社会にどのように貢献しているのかを探求する。情報科学が進化するスピードにどう対応し、地域社会の未来をどう形作っていくのか。桝井教授の洞察に耳を傾けたいと思う。

桝井 文人
インタビュイー
桝井 文人氏
北見工業大学 工学部 地域未来デザイン工学科 教授

桝井文人教授の情報知識工学への深い洞察


観光に関する国際会議にて ▲観光に関する国際会議にて

―――教授、現在の研究領域や概要について教えていただけますか?

はい、もちろんです。情報科学と一口に言っても、その範囲は広いですが、私の専門は知識工学にあります。この分野は、世界に存在する様々な物や事象についての情報から、規則性を見出し、それを知識として抽出することに注力しています。

物や事象を測定、観測、記録することで、規則性を持つデータが残ります。これらのデータに様々な分析や処理を施すことで、私たちはより客観的な理解を深めることができます。規則性のあるデータは普遍的で、誰が見ても同じ結果を得られるため、この分野は新たな発見を促し、得られた知識を保存して人間社会に貢献することを目指しています。

簡単に言うと、以前は直観的、抽象的、経験的に捉えられていたものが、今や客観的に統一的な視点で見ることができるようになりました。私にとって、この研究は非常に魅力的です。複雑に見えるものでも、実は明確な構造を持っていることが分かる瞬間は、とても興味深いですね。

―――データの発見によって特に興味深かったことや、新しい気付きはありましたか?

はい、実は多くの発見がありました。私の元々の専門は自然言語処理で、これは人間の言語を客観的なデータに変換し、解析する手法です。目的は、人間のコミュニケーションを効率良く支援する仕組みを構築することでした。

この研究を進める中で、自然言語処理で培った知識や考え方が、実は自然言語以外の分野でも応用できることが明らかになりました。例えば、観光やスポーツ分野での活用が可能だということです。

―――なるほど、それは面白いですね。観光やスポーツにおける具体的なアプローチ方法について、もう少し詳しく教えていただけますか?

もちろんです。まず観光については、多くの観光地が経験に基づいて運営されています。観光産業は、小さな産業が集まって大きな形を成しています。観光客がどのルートを通り、何時間を使い、どのような商品を購入しているかなどのデータを収集し、分析することで、観光地の利用パターンを明らかにしています。

こうしたデータに基づき、モデルを作成することで、次回の観光施策に活かすことが可能です。広い視野での予測が可能になり、地域の観光政策や施策に対して有効なフィードバックを提供できるようになります。これは、グッズの販売やイベント実施など、具体的な施策に大きな影響を与えるものです。

情報科学の応用における課題と地域特性の新たな発見


地域観光に関する授業 ▲地域観光に関する授業

―――ありがとうございます。一方で、教授、データを有効に活用したいと考えている際、直面するような課題はありますか?

技術的な面では「これは無理だ」ということはほとんどありません。しかし、重要なのは地域社会の中でどのような組織やキープレーヤーと協力するかという点です。また、集めたデータの扱い方や利用者に関する明確な取り決めも必要ですね。

―――なるほど、それでは、情報科学を応用し地域の魅力を発信する上で、特に重要な点は何でしょうか?

大きく二つの点が挙げられます。まず、市町村の合併により複数の地域が一つになると、どの地域の特徴をどうクローズアップするかが問題になります。三つの地域が一つになった場合、それぞれの特徴を個別に強調すべきか、あるいは新たな一つの特徴として再構築するか、政策的な判断が必要です。

二つ目は、複数の特徴が存在する場合、それらをどのように客観的に表現するかです。これには、私が研究している技術を使い、定量化することが可能です。地域の人々や企画側が重要だと考えていた特徴が、実際にはそうでないことが客観的なデータ分析で明らかになることもあります。隠れた特徴や、地元の人たちが意識していなかった観光客の注目点を見つけ出し、それらをクローズアップすることも効果的ですね。

―――それは非常に重要なポイントですね。地域の魅力を最大限に発信するための効果的な方法や、成功事例があれば教えていただけますか?

確かに、地元だからこそ見落としがちな魅力は存在します。情報の発信方法については、ターゲティングの重要性が特に強調されるべきです。情報を誰に届けたいのかという明確な目的が必要です。多くの場合、発信したい対象と実際に届いている対象との間にミスマッチが発生しています。

例えば、若い世代をターゲットにしているのに新聞で情報を発信してしまうと、そのメッセージは届かない可能性が高いです。同様に、10代や20代を対象とした場合、Facebookを使うのは必ずしも効果的ではありません。また、40代以上の家族連れをターゲットにする際にTikTokを使うと、想定した層にリーチすることは困難です。

これらの課題を解決するためには、客観的なデータを収集し、それを正確に分析することが不可欠です。それにより、どのメディアがどのターゲットに最適かを把握し、情報発信の効率を大幅に向上させることが可能になります。このようなデータ駆動型のアプローチは、地域の魅力を効果的に伝えるために非常に有効です。

データ分析と地域関係者との効果的な連携


観光に関する学会での学生発表 ▲観光に関する学会での学生発表

―――データ分析に対する抵抗を持つ人々との上手な連携方法について、何かお考えはありますか?

実際に、データ分析に対して抵抗を感じる方々との連携は、時に挑戦的な側面があります。これは、経験や直感に基づく感覚と客観的データの間に不一致が生じることが原因です。この不一致は、信用の問題にも繋がりやすいですが、どちらのアプローチも間違っているわけではありません。

こうした状況では、さらなる分析を進め、解釈を深めることで、共通の理解に至ることが多いです。そのためには、「一緒に考えてみましょう」という協力的な姿勢が重要です。実際、違うように見えても、根本的な部分で共通点があることがよくあります。こうした共同作業を通じて、否定的なスタンスを持つ人々とも理解を深め合うことが可能です。

賛同者と協力し、理解を少しずつ広めることが、特に観光などの分野において効果的なアプローチです。

スポーツの分野においても、選手と研究者の間には時にギャップが生じます。この場合、数字そのものよりも、それを直観的で視覚的な形で可視化して提示することが有効です。グラフや図を用いて結果を分かりやすく説明することで、選手が直感に合った結果を得やすくなります。

このプロセスでは、コーチや監督が重要な役割を果たすことが多いです。彼らが、選手とデータの間のクッションとして機能し、理解と受け入れを促進することができます。

―――確かに、感覚に頼るプロ選手にとっては、データの取り扱いが挑戦的かもしれませんね。選手がデータに対してどのような反応を示す傾向があるのでしょうか?

実際、プロ選手の場合、彼らの感覚は非常に研ぎ澄まされています。レベルが高い選手ほど、問題意識やモチベーションが非常に明確で、知りたい情報も具体的です。また、これらのトップクラスの選手は感覚が非常に鋭く、時には我々が使用する測定機器の誤差よりも繊細なことに気付くことがあります。

このような状況では、技術を理解してもらうというよりも、我々が選手の感覚に追いつくような技術を開発する必要があります。我々が彼らから学ぶ立場になることが多いです。

選手にとって目的に合致したデータが提供されると、モチベーションが向上し、コミュニケーションもスムーズになります。彼らは、データが自分のパフォーマンス向上に直結していると感じると、より積極的にデータ分析に関わってくれる傾向があります。そのため、データの提示方法やコミュニケーションのアプローチを適切に行うことが、選手との良好な関係構築に不可欠です。

コンテンツツーリズムの進化と情報科学の役割


地域観光に関する授業 ▲地域観光に関する授業

―――コンテンツツーリズムにおける情報科学の立ち位置や役割、また最近のトレンドについて教えていただけますか?

まずトレンドについてですが、コンテンツツーリズムは歴史的に見ても古い概念で、平安時代から存在しているんです。歌読みや「東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)」のような作品を通じて、訪れた場所を絵にして楽しむ行動は、コンテンツツーリズムの初期形態と言えます。この形態は古くから観光の構造に組み込まれていたんですね。

最近では、アニメ、映画、ゲームといったさまざまなメディアを通じて、いわゆる聖地巡礼などが広く行われています。交通の利便性の向上や、インターネットを介した情報の拡散により、コンテンツツーリズムはより身近で手軽に楽しめるものになりました。

かつては限られたコンテンツに対する反応だけでしたが、現在は個々人の嗜好に合わせて多様なコンテンツが生み出され、聖地巡礼のような体験がより幅広く提供されています。この傾向は、コンテンツツーリズムの拡大に大きく貢献していると言えるでしょう。

情報科学の役割に関して言えば、ネットやデジタルメディアを活用した情報発信が重要です。これにより、コンテンツツーリズムはさらに多様化し、個々のコンテンツに合わせた独自の魅力を発信できるようになっています。情報科学は、こうしたコンテンツの普及と体験の深化に不可欠な役割を果たしているのです。

情報科学の進化とコンテンツツーリズムの未来像


カーリング日本選手権の試合分析 ▲カーリング日本選手権の試合分析

―――未来における情報処理技術の進化と発展について、教授の考える世界観をお聞かせいただけますか?

日本のデジタルトランスフォーメーションは過去20年間でかなり遅れを取ってしまいましたが、これからも進化を続けるべきだと考えています。コンテンツツーリズムの観点から見ると、例えば『ゴジラ-1.0』や『葬送のフリーレン』のような作品が世界で人気を博していることから、日本の文化コンテンツが世界的な影響力を持つことは明らかです。情報発信の技術が発展していることも大きなアドバンテージですね。

私が使っている研究モデルでは、コンテンツツーリズムはまずコアなファンから始まり、徐々に拡散していきます。マナーが良く情報発信能力に優れたファンが最初に関わり、次にややコアなファン、さらには一般の興味を持つ人々へと広がります。この拡散モデルに基づいて、どの段階にツーリズムがあるかをデータ化し、拡散を進めることが重要です。

例えば、『君の名は。』のような映画が一気に有名になった場合、地元が対応しきれない状況に陥ることがあります。このような状況を予測し、ロケ地がクローズアップされることが分かっていれば、地域が対応する準備をすることができたでしょう。

また、北見のカーリングチームがメダルを獲得した際のパレードも同様ですね。事前に予測して準備を行うことで、訪れる客層に応じた対応を考えることができるはずです。将来的には、こうした予測可能な要素に対して適切なアプローチを取り入れることで、コンテンツツーリズムの発展に貢献できると考えています。

―――事前のデータ活用が、地域観光において重要な役割を果たすということですね。映画公開などの大きなイベントに対する事前の準備や予測について、もう少し詳しく教えていただけますか?

映画が公開され、そのロケ地が注目される場合、事前にどれだけの観光客が訪れるかを予測し、準備を行うことが可能です。物流のキャパシティや地域の準備状況を考慮して、適切な対応策を立てることが重要です。多くの場合、このプロセスはまだ経験に依存する部分が大きいと感じています。

ロボットを使ったカーリングの実験 ▲ロボットを使ったカーリングの実験

―――なるほど、ありがとうございます。一方でカーリングのような緻密なスポーツにおいて、効率的な練習方法や機会損失の削減にデータはどのように活用されていますか?

カーリングにおけるデータ活用は、大きく二つの側面から行われています。まず、カーリングというスポーツ自体をシステムの観点から捉えると、物理的な相互作用、選手のフィジカルやメンタル、そして戦術性という三つの要素が重要です。これらの要素を理解し、トレーニングや試合の戦術に反映させることが重要です。

次に、戦術のトレーニングにAIを活用し、戦術の推論やデータ分析を行っています。これは、ジュニア選手や若い選手が戦術を理解し、経験を積むために特に有効です。シミュレーションを通じて試合を行い、戦術を学んでいくプロセスです。

データの蓄積と分析はカーリングのトレーニングだけでなく、地域ツーリズムにおいても重要です。イベントの予測や準備において、データを活用することでより効率的かつ効果的な対応が可能になります。これは、観光地が対応しきれない状況を避けるためにも重要なアプローチです。

AI時代の波に乗るか、取り残されるか ― 情報科学が描く未来と人間の役割


イメージ画像

―――常に進化する技術に対し、一般の人々はどのように適応していけば良いのでしょうか?

技術の進歩は加速しており、特にChatGPTのような生成系AIは今後さらに進化するでしょう。これに伴い、技術に適応できる人々とそうでない人々の間に大きな差が生じる可能性があります。例えば、大学生の中にも、これらの技術を理解し活用できる学生とそうでない学生がいます。これは将来的に就職市場においても影響を及ぼすでしょう。

しかし、私はAIが人間を凌駕するようなシンギュラリティは起こらないと考えています。AIと人間は共存関係を築き、より住みやすい社会を作っていくことが可能だと思います。

技術進化がもたらす社会への影響としては、生産コストの劇的な減少が挙げられます。これは、資本主義の雇用者と被雇用者の関係にも影響を及ぼし、賃金の低下などを招く可能性がありますが、究極的には、人々が働かなくても生きていける社会が実現するかもしれません。

―――なるほど。とても興味深いお話ですね!一方で、技術進化が人間に悪影響を与える可能性はありますか?

AIが高度化することは間違いないですが、人間とAIのギャップはある程度は残ると思います。優れたAIに人間が依存してしまうという問題は、人間の選択によるもので、過度に依存することで人間らしさが失われる可能性があります。この依存体質をどう緩和し、フォローするかが、今後の大きな技術課題です。人間と機械の関係をどのようにコントロールするかは未知数ですが、この課題は今後も残っていくでしょう。

情報科学と共に歩む未来 ― 読者へのメッセージ


カナダのカーリングクラブとの連携 ▲カナダのカーリングクラブとの連携

―――ありがとうございます。本日は貴重なお話をありがとうございました。最後に、読者へ向けてメッセージや伝えたいことはありますか?

経営者の皆さんは、自然と慎重な姿勢を取らざるを得ないこともあるかと思いますが、情報科学やデータサイエンスに対する恐れを捨て、これらの分野について深く理解していただきたいです。データが示す事実をどのように解釈し、扱うかは最終的には人間の責任です。事実を受け入れ、その上で適切な判断を行うことが、技術進化における重要なステップです。

また、情報科学に関する研究者の存在も将来的には限られた時期のものとなり、一般の方々が容易に技術やアイディアを実現し扱う時代が来ると考えています。情報に基づく社会の変化や現象に興味を持ち、それを深く理解しようとする姿勢が、これからの世界をより良い方向へ導く鍵となります。

特に若い世代の方々には、このような意識を持ってもらえることを願っています。情報科学と共に成長し、進化する社会において、自らの役割を見出し、貢献していくことが、未来への大きな一歩となるでしょう。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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