2024.02.14

インフラ×都市開発:持続可能な都市開発の可能性とDXによる革新


日本の総人口は年々減少し、若年層の人口低下、高齢者比率上昇と人口構造にも変化が起きている。公共・公益サービスの維持は困難を迎え、利便性も失われていくかもしれない―――

特に、地方では人口構造に伴う社会課題が顕著になっている。そこで、社会課題に対し解決する方法として注目されているのが、スマートシティ化である。スマートシティ化が進めば、「まち」は先進的なテクノロジーにより実装され、利便性があがるだろう。

しかし、何が一番まちの魅力に繋がるのか、”便利”であることだけが”魅力あるまち”ではないはずだー

こういった観点をもとに、今回は大同大学建築学科・都市空間インフラ専攻の樋口准教授を取材。樋口准教授は、生活に欠かせない施設の設計、それに関わる学問を教え、都市交通計画に対し、どのような維持や発展が可能かを考えられるエンジニアを輩出している。

インフラ整備での効率化と人と人との繋がりを大切にしたまちづくりを念頭に、多くの課題解決に努める。

日本の良さ、また海外の良い事例も含めて、多くの魅力を作り上げるための日本に必要な変化について取材を実施した。

樋口 恵一
インタビュイー
樋口 恵一氏
大同大学 建築学科 都市空間インフラ専攻 准教授

街づくりのトレンドは“人中心”


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―――まずは、研究領域について教えてください。

私は主に誰もが安心・安全に移動できる都市づくりのための交通計画を研究しています。例えば、増加する高齢者の交通事故については高齢ドライバーの運転時の視点移動をVRで評価したり、交差点に潜む空間の問題を洗い出したりする研究です。

具体的には、住民の合意形成のために、移動しやすくするにはどうしたら良いか、福祉的な対策としてどのような設備が必要か、また、どのような都市環境があるべきかを計画していくための研究をしています。

交通工学を専門としつつ、街のインフラを整備していく上での計画プロセスの分析やシミュレーションを行っています。

―――ありがとうございます。まちづくりや都市開発は、様々な議論がされてきたと思いますが、持続可能な都市・まち作りに必要なことは何なのでしょうか?

まちづくりは、インフラを創造することがゴールではありません。インフラは、生活している環境を支えている施設・設備に該当します。そのため持続可能なまちづくりには、維持管理も、重要なポイントの一つになります。さらに細分化すると、お金・費用面も重要です。お金を適切に使用し、維持管理やメンテナンスをすることは、持続可能なまちづくり、都市づくりには欠かせない要素になります。

―――なるほど、一方で注目を集めている都市開発のトレンドは何かありますか?

現在の渋谷などの都市開発のトレンドであるディベロッパー型の都市開発は、高密度でかつ利便性を重視している傾向があります。一方で道路整備の面では、「ウォーカブル(歩行者中心の街作りをコンセプトに設計された街)」という都市開発が注目を集めています。単純な道路やテナント整備がゴールではなくて、道路空間が憩いの場所になる形で、イメージとしては歩行者天国のように、車中心ではなくて、人が中心となる空間づくりです。その中でもウォーカブルシティの成功例は、アメリカ・ニューヨークですね。

都市開発はDX化が鍵となる


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―――ありがとうございます。昨今都市開発やまちづくりにもDX化の波が来ていると思います。DX化により都市開発やインフラ設計は、どのように進化しましたか?

大学の設計科目の製図は手で書くことを技量として重んじてきました。今も手書きの技術も教育していますが、最近は、DX化が進み3Dのデジタル設計や、点群データの取得・処理も必要になっています。。

平面のX軸Y軸のみならず、立体を表すZ軸まで空間調査して設計できるようになったことは、目まぐるしい技術進化を感じます。

また、鹿島建設さんでは、秋田県のダムの建設を東京から遠隔で行うという自動施工の取組みニュースになっています。業界の人手不足は、DX化により業務効率化へと変化し改善されようとしています。点群データを収集して3D化することで自動施工などの進化に結びつき、徐々にDX化の恩恵が広がりつつあると思います。

また、私の授業では、2024年度から名鉄ドローンアカデミーと協力してドローンの免許取得をカリキュラムのなかに組み込む予定です。ドローンにより測量や空撮、また災害時に被災状況を確認することなどが可能なため、従来の設計技術にプラスαの技術を学べます。現場でのドローンでの測量は、3Dデータの取得も行えるため、DX化による3Dのデジタル設計は、将来的により発展し、日本では当たり前になるのでは感じていますね。

―――なるほどありがとうございます。日本はアメリカやヨーロッパに比べて土地が狭いと思いますが、日本ならではのインフラと都市開発の特徴はありますか?

たしかに、日本はアメリカやヨーロッパに比べて平地が狭く、高密度な都市空間が形成されています。日本ならではのインフラの特徴は、貯水施設が防災機能を果たしていることや、新幹線をはじめとした高速交通は、世界に誇れる部分だと思います。

車移動に縛られない都市づくりが課題


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―――日本や世界でインフラ開発×都市開発の成功事例はありますか?

先進技術という観点ですと情報と都市を掛け合わせた領域のスマートシティがあります。例えば、スマートシティで先進的な都市は、バルセロナ、ニューヨーク、シンガポールですね。これらの都市は、街中にセンサーが設置されています。センサーで防音対策や交通管理、Wi-Fiスポットの整備により人の流れのモニタリングするなどの政策を行っているため、街全体を*センシングする技術が進んでいるんです。日本にはあまりないとても新しい良い事例だと感じますね。

―――なるほど!私はニューヨークに住んでいる時期があったのですが、スマートシティとして先進的な都市ということは知りませんでした。

そうですね、また私は福祉のまちづくりの研究もしています。福祉のまちづくりの観点では、パリの都市開発は非常に興味深いものがあります。

東京は都市のインフラも整っているので、移動は簡単ですよね。また車を所有していれば、よほどの過疎地でもない限り病院、福祉施設、学校をはじめとした施設に行くことができると思います。 ですが新型コロナウィルスの流行もあり、パリでは感染予防の一貫として介護施設、病院、医療、買い物などの施設を車で15分以内にある街を目指すための、都市整備が掲げられました。

日本でも、「集約型都市構造」という歩いて暮らせる街を目指してはいますが、パリやメルボルンなどの事例を参考にすることも大切で、それによる面白い生産性向上に繋がるのではと考えます。

現在の日本で、歩いて暮らしやすい街を先駆けて造っている場所をあげるとしたら富山ですね。コンパクトシティーという政策にあたりますが、LRTという路面電車を軸として、都市機能や生活の機能をできるだけ路面電車に集約しています。もしくは、路面電車の沿線までバスを繋げて街をコンパクトにしていく動きがあります。

以前から、熊本や長崎にも路面電車はありますが、富山は新たに都市政策として*LRT車両の導入を行い沿線への集約を目指しています。沿線を中心に街が賑わうことで、車を過度に頼らない生活ができる環境ができてきました。

またシェアできる電動キックボードも、新しい日本の動きですよね。

センシング技術とは

センシング技術は、センサーを用いて画像や温度、振動、音などの情報を計測し定量化する技術を指します。



LRTとは(英:Light Rail Transit)

LRTとは、Light Rail Transitの略で、低床式車両(LRV)の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する軌道系交通システムのことです。



―――たしかに、そうですね。では、交通の切り口から日本の都市開発の課題は何かありますか?

地域によっては、車がないと生活が不便になります。

車は移動を便利にするツールですが、車があることで中心市街地にあった施設(病院、市役所など)が広く土地のある郊外へ分散されました。一昔前は日本も人口が増加していて、土地が拡散している状態なんですよね。

車が使えれば良いのですが、車を使えない世代に対しては生活をしやすい街とは言い切れません。車に頼らず生活のできる移動システムを展開するにあたり、どのように公共交通ネットワークを繋げていくのが、日本の課題であり、重要なテーマですね。

―――課題は伸びしろとは捉えることができますが、昨今の課題に対するアプローチは行われているのでしょうか?

移動手段が必要な人への交通サービスの提供方法に対しては、各地域で議題に挙がっています。また、一般的な公共交通機関ではなく、住民同士の助け合いで送迎サービスが展開されている地域もあるんです。

課題解決の方法は、全国津々浦々で地域の特徴や課題に応じて、施策が実施されているような状況となります。

―――ありがとうございます。海外では地域の特色に応じて課題解決が施されていると思いますが、海外ならではの課題は何かありますか?

ヨーロッパでは、移動が権利として保障され、公益なサービスであると考えられています。

一方で、日本の公共交通事業は採算性を軸にした事業体です。特にバスや鉄道は、利用者がいなくなり、お金が入らなくなると廃線・廃便になるケースが多いです。

ここが日本と海外の違いです。交通サービスの捉え方や前提だけが異なりますが、行っている一つ一つのモビリティーツールやサービス内容は日本と海外では、大きな違いはありません。

――― ありがとうございます。個人的には日本でもタクシーのライドシェアを導入してほしいと思っていますが、導入は難しそうですね…

日本では、タクシー事業は民間会社による事業となっています。しかし民間事業ではなく、地域住人同士が車で相乗りをするライドシェアの導入は安全性や事業的な観点で難しい可能性があります。

一方で、タクシーがいない地域もあるため、ライドシェアが必要な地域と必要のない地域にメリハリをつけて、導入を検討することも大切だと考えています。

ライドシェア(英:Ride Share)とは

ライドシェアとは、自動車を相乗りすることを指し、ライドシェアリングとも呼ばれます。



これからの街づくりは「楽しむ・憩い」がキーワード


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―――5年後、10年度交通・インフラの観点から、都市や市町村などのまちづくりは、どのように進化するべきだと思いますか?

技術的な観点で欠かせないのは「自動運転」です。高速道路のトラック縦列運転や公共交通(名古屋の基幹バスレーンなど)、自動運転技術を活かした無人化省力化はより多くの地域で進むと思います。

また別な観点では、都市開発のトレンドを考えると、ウォーカブルという考えが重要視されるはずです。多少の不便があっても協力し合い最低限生活ができることや、地域ごとの特色がでる楽しい街が、たくさん生まれてほしいと思っています。

私は、持続可能な街の評価として、住民からの評価、住みやすさの評価なども調査していますが、公園や公共のサービスなどの「楽しむ、憩う」事に対しては税金が使いにくいんですよね。日本は、生活に必要なものを優先し、「楽しむ、憩う」ことに対しては重要視してこなかったと感じます。

そのため、個人的には、「楽しむ」ことを念頭に置いたまちづくりも今後は研究していきたいですね。

―――素敵ですね。やはり住んでいて楽しい町、住みやすい町が良いですよね…。

実は、引っ越しをする際などに参考にする「住みやすいまちランキング」は、大規模小売店の数や都市公園数などの設備面の評価が基準となっています。そのため、ソーシャルキャピタル(人々の結びつき)のような地域同士の繋がりやコミュニティーが数字では評価されていないのが実情です。

私が今、愛知県長久手市に携わっているのですが、住みやすさランキングがとても良いんですよね。でも市役所では、「今はコンパクトで住みやすいという評価としていいかもしれないけれど、住民の繋がりが大切」だと考えています。その考えに賛同できるからこそ、市の施策に対して、住民と一緒にどの様なアプローチができるかを重視して活動をしています。

交通手段の助け合いのみならず、災害が起きたいざという時の助け合いも地域のコミュニティーですよね。施設も大事ですが、住民の活動や繋がりを含めて、両面の強みを持っているからこそ、街の魅力に繋がるのだと思います。

みんなが楽しい街になるために


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―――最近で都市と人との関わり方で変化や気づきなどはありましたか?

住みたい街や都市を選択しやすい時代になったと思いますね。この背景には、新型コロナウィルスの流行によりリモートワークが導入されたことが影響しています。またこれから特に注目を集めているのは、リニア中央新幹線が整うことで、東京と名古屋を約40分で移動することが可能です。これをスーパーメガリュージョンと呼びます。

リニア中央新幹線が導入されることでより、住む場所・働く場所を自由に選択できる時代がやつてくると思うんです。名古屋に住んでる人でも、東京が通勤・通学範囲になってきます。そのため、より自由度の高い都市圏域が構築される可能性がありますね。

このようなインフラ進化は、働く人の雇用条件にも影響を及ぼします。そのため企業側もインフラの進化に伴い人材採用などを考慮していく必要がありますね。

―――最後に伝えたい読者の方へメッセージはありますか?

最近は、あまり地域のコミュニティーに参加せず、周囲との関わりを持たずに自分の世界観の中の、情報技術を活用して楽しんでいる傾向も感じます。それ自体は悪いことではないと思います。でも重い腰を上げて、実際に街へ出たことで新しい発見や出会いがあったり、いつもと違う道を通ったら素敵なお店を見つけることができたりしますよね。もしインドアで街に出る楽しさがわからないというのであれば、まずは試しに外に出てみるだけでも、新しい価値観が生まれる気がするんです。

やはり次世代の若い人たちが町を支えていく主役であり、キーパーソンなので、街に愛着を持ち、住んでいて楽しい街を作っていってほしいですね。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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