2024.03.07

地域リハビリテーションで描く、自立した生活の実現


地域リハビリテーションには「住み慣れたところで、そこに住む人々とともに、一生安全に、いきいきとした生活が送れるように」(*一部抜粋)という定義がある。 定義の通り、認知度は低いものの各地域では障がいのある人々、高齢者等が今出来る限りの力で社会復帰し生活に馴染むためのサポートを行う地域住民がいる。その中には定年を迎え第二の人生を歩む高齢者も含まれているという。

担い手不足の背景の中で、自らの「介護予防」にも繋がりつつ定年後の高齢者が高齢者をサポートする環境は、少子高齢化社会において非常に価値のある活動なのだ。 そこで、今回の取材では、愛知医療学院短期大学・リハビリテーション学科・理学療法学専攻の加藤教授にお話を伺いました。加藤教授は、「介護予防」の活動を中心に高齢者に向けて実践的な活動を行いながら担い手育成の研究をされています。

障がいのある人々や高齢者が人生に生きがいや楽しみを持って生活できるようにそのサポートに励まれています。今回は、現在の地域リハビリテーションの状況や活動、また未来の考察について取材を行いました。

出典:厚生労働省「地域リハビリテーション活動支援事業 令和4年度 地域づくり加速化事業(全国研修)

加藤 真弓
インタビュイー
加藤 真弓氏
愛知医療学院短期大学 リハビリテーション学科 理学療法学専攻
教授


加藤真弓教授が考える地域リハビリテーションの在り方


取材画像
―――現在の研究領域や概要、取り組まれていることを教えていただけますか?

清須市の官学連携の事業の中で、清須市民げんき大学というものが行われています。げんき大学を通して地域の活動にも参加していただき、主体的に地域作りの支え手になっていけるかという点を実践的な活動を行いながら研究をしています。

―――地域リハビリテーション活動を始めたきっかけはなんですか?

20年くらい前に制度として高齢者向けの介護予防を重点的に行っていこうという取り組みの中で、縁あって地域の高齢者向けの健康増進の教室運営に関わったことがきっかけです。

障がいを持ってから、あるいは体の機能が低下していきやすい高齢者は、生活を再建、再構築していくことは、その人を支える家族を含めて苦労されている姿をみていましたので、予防的な関わりを始めていきたいと感じました。

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―――ありがとうございます。障がい者や高齢者が生活を再構築していく上で重要な要素はどんなことでしょうか?

一度低下した体の機能は時間をかけて回復するものもあれば回復が難しいものもあります。すると、今までと異なる体の状態であるため元通りの生活に戻りにくいこともあります。ただ、残された機能や能力があるからこそ、再び生活し社会に溶け込むことができるという再構築への考え方が重要だと考えています。

リハビリテーションの側面にはいくつか(医学的、社会的、職業的、教育的)ありますが、医学的な側面としてのリハビリテーションでは、以前までは障がいの医学と言われていましたが、現在は活動を育む医学と言われるようになりました。障がいは一次的なものもあれば永続的なものもありますので、今までの自分しか認められない状態ではなく、今の自分を受け止めること、り、価値観の転換が生活を再構築する重要な要素と思います。

やはり障がいや体の機能が低下した自分自身を受け入れると言いますか認めるには時間が掛かりますし、障がいやできなくなったことに目が向きやすいです。それは当然のことと思います。そう思う理由の一つには、ふつうと比べるから、そして、いわゆるふつうとは少し異なる人が生活するには環境面や周囲の理解が追いついていないことからくる課題、障壁があるかと思います。。

そうすると、生活の場である地域に住む人々が健常な人も障がいのある人も高齢者も世代も超えて支えあうこと、環境を作り上げていくことが重要な要素になります。

―――なるほど…事故や病気などで障害が残ってしまうリスクは誰にでも発生する可能性がありますよね…。その上で、改めて地域リハビリテーションとはどのような意味を持つと考えていますか?

いわゆるリハビリテーション専門職といいますと理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が思い浮かぶと思います。しかし、リハビリテーション専門職だけではなく、地域住民を含むあらゆる人々がリハビリテーションの考えのもと地域全体で協力して取り組む活動が地域リハビリテーションです。

病気や怪我をしたとなればまず医療機関に掛かりますが、医療機関で働く方々も病気や怪我を治す視点のみならず、その先の生活を見据えた上で対象者と向き合う必要があります。

病院は地域とは別の様に思われてしまいがちですが、そうではなく、病院も地域に存在する重要な資源ですので全ての人達が地域を理解し地域作りに取り組むことが地域リハビリテーションであると考えています。

「介護予防」への取り組みとサポート側からの向き合い方


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―――今ご研究で携わられている清須市民げんき大学について教えていただけますか?

清須市民げんき大学は、市との連携事業でして、高齢者に向けの介護予防に特化した大学です。

元々、集会所や市民センターに出向いて3か月間の運動指導などを行なっていた中で、市から地域を支える高齢者を育成していきたいというお話がありスタートしました。。

「もう一度学生に戻りませんか?」というキャッチフレーズを掲げ、年を重ねても活動的に過ごすことができるよう介護予防や地域づくりについて約10ヵ月、合計16回大学に参加していただいてます。

定年退職や子どもさんの独立を契機として高齢期の方達が新たな人生のスタートとしてお越しいただけるよう、清須市民げんき大学の運営を行っています。

勿論大学なので、入学式や卒業式、課外活動も行っています。大学を通して知識を学び運動方法を知るというだけではなく、次の担い手になっていただきたいという想いから、ボランティア活動に関する講演開催や、グループ活動に参加していただくこともあります。

講師に関しては、医師・理学療法士・作業療法士の短大教員が主に担当していますが、、色々な職種が連携して取り組んでいくことが大事です。市職員さん(保健師)や社会福祉協議会職員さん、他大学の先生(管理栄養士)、その他歯科医師などにも講師として来ていただき学生さんに学んでいただいています。

昨年、120名程の卒業生会員に向けて「地域活動やボランティア活動は行っていますか?」というアンケートを実施しました。その内約70名から回答があり8割の方が地域活動やボランティア活動に携わっていることが分かりました。

元々活動的な方々もいらっしゃいますが、卒業生が少しずつでも地域活動に目を向けていただけるようになってきていると成果を実感できる点ではあります。

―――日常生活活動学や実習を教える上で、重要視されているポイントはありますか?

日常生活活動学、実習というものは、高齢者大学の授業ではなく理学療法士を目指す学生に対する授業になります。重要とするポイントは、生活という視点で活動を支援することですね。一般的なことが全ての患者さんに適応するわけではないため、模擬の患者さんを紙面上で示した上でどうしたら日常生活をより自立に向かってもらえるかを考えてもらうようにしています。

教科書の中で、例えば脳卒中で半身不随になった方に対してこんな方法が良いと一般的な方法が紹介されていますが、学生さんにはなぜその方法が良いのかを根拠を考えてもらうことも重要視してます。

それは、障がいの程度や障がいの組合せに加え、生活背景が一人一人異なりますし、根拠を理解していなければ臨床の現場に行っても対象者に合う対応は難しいですからね。

理学療法士のイメージは、筋力アップや関節の動きをよくするなどの機能面や歩く立つといった基本的な動作面をより良くするなど、治すというイメージを持たれやすいと思いますが、それだけではなく、例えば肘の角度が5度良くなったで終わらずその結果がどのような生活に活かせるのか生活とセットで考えます。
対象者は、どうしてもできないことに目が向きがちですが、できない部分もしっかりと高めつついいところにも目を向けることが大切です。生活の中で、何ができるようになったのかをしっかりと自身に落とし込んで対応していく必要がありますよね。

未来の「担い手不足」「リハビリテーションの認識」の関する2つの課題


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―――地域リハビリテーションの抱える課題やそれに対するアプローチなどはありますか?

地域リハビリテーションを行う上での課題となりますと、担い手不足が挙げられます。

リハビリテーションの専門職の多くは病院等の医療施設に勤務されています。 勿論、そういった場所で働く人も含めて地域リハビリテーションの重要な担い手なのですが、私が実際に関わっている範囲、障がいの発生予防や介護予防の予防的な範囲で考えた時にまだ担い手が足りないんですよね。

地域のニーズは様々ですが平日に対応を求められることが多いのが現状です。しかし、平日は職場から地域の現場に出にくいという点が一つ担い手不足の原因だろうと考えます。

そのため、改善に向けてまずは、地域リハビリテーションへの理解を深めていただくことが重要なポイントであると感じています。

また多くの人が、リハビリテーションに対して歩行訓練やマッサージなどをイメージされやすいのですが、

リハビリテーションというものは、機能の訓練やマッサージをするといったことのみではないんです。

おそらく私たち医療従事者にも責任があるのですが、リハビリテーションの認識はまだ十分ではないように感じていて、これも一つの課題ですね。

また、同様の障がい名、病名であれどその程度や家庭環境や価値観、住んでいる地域の資源等は様々です。対象となる方の背景が複雑になっている分、課題の焦点化が非常に難しいですし、アプローチも限定することが難しいと感じます。しかし、地域の課題を分析することで生活や社会への参加の糸口が見えてきます。

連携とネットワークが地域リハビリテーションの後押しとなる


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―――5年後や10年後の進化や発見など、理想の環境はありますか?

各自治体を中心に、医師、理学療法士作業療法士などの色々な団体が着手しているのですが、2025年問題として挙げられていた地域包括ケアシステムの構築があります。地域包括ケアシステムとは、その地域の実績に応じて医療介護福祉を包括的に展開していくことが目的です。

このシステムの構築は2025年までに各市町村で構築していることが目標です。その先に2040年問題というものもありますので、縦割りだったものは横の繋がり、連携を強化してネットワークの構築が進められてきています。

5年後10年後は、専門の機関・組織間の連携が進み、地域住民の方にも地域リハビリテーションの考え方が浸透し地域住民を巻き込んだネットワークが発展していることが理想です。

地域リハビリテーションの重要性に触れる未来ー読者へのメッセージ


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―――最後に読者へのメッセージや伝えたいことはありますか?

伝えたいことは二つあります。

まず一つは、リハビリテーションは機能訓練を意味するのではなく、人間らしくその人らしく生きるためにあらゆる手段を駆使して改善することとされています。その考えのもとで様々な立場の人が協力して支え手となり地域づくりをしていきます。地域リハビリテーションについて、ぜひ関心をもっていただきたいです。

そして二つ目が、ご自身が住んでいる、働いている地域で障がいを持つ人々や高齢者等を支える活動などについて、まずはのぞいてみようかなくらいの軽い気持ちでも構いませんので情報のキャッチをしてみてください。まずは知ることから初めていただきたいです。

限りある資源の中で、自身が障がいを持ったときや年を重ねたときにどのような地域であってほしいか思い描いて、小さなことでもできることからチャレンジしていただけると嬉しいです。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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