取手市,マッチ取手
2022.02.16

「起業支援」を推進する茨城県取手市|“地方創生”の取り組みとは?


日本では2008年より人口減少が進み、少子高齢化が深刻な課題だ。東京圏への人口集中をさけ、それぞれの地域活性化・住みやすい環境づくりなどが求められている。2014年には、官民一丸となり“自律的で持続可能な社会をつくること”を目的とした「地方創生」が政策として打ち出された。

しかし、実際に「地方創生」の事例や、具体的な取り組みはあまり知られていないのではないだろうか?各地方自治体では、さまざまなアイディアの「地方創生」に対する取り組みがある。一風変わった取り組みを行っているのが「茨城県取手市」だ。

取手市は、「一般社団法人とりで起業家支援ネットワーク」と連携し、“起業家タウン構想”に取り組んでいる。“起業家タウン構想”は2015年のスタート当初、全国各地の地方自治体から多くの視察がくるほど注目を集めた取り組みだ。

今回は、“起業家タウン構想”の発案者である「一般社団法人とりで起業家支援ネットワーク」代表の吉田 雅紀氏、そして取手市役所 産業振興課の協力のもと、起業支援をはじめるきっかけから“起業家タウン構想”の取り組みについてお話を伺った。


吉田雅紀
インタビューイー
吉田 雅紀
Masaki Yoshida
一般社団法人とりで起業家支援ネットワーク 代表理事

株式会社あきない総合研究所 取締役会長
1997年より、中小企業診断士として起業支援コンサルタントとしてスタート。
1999年 有限会社ベンチャー・サポート・ネットワークを設立。
2003年 株式会社へ組織変更ののち、2006年より現在の株式会社あきない総合研究所へ社名変更。
2007年よりインキュベーションオフィス運営開始。

大阪産業創造館「あきない・えーど」所長を経て、「起ちあがれニッポンDREAM GATE」の総合プロデューサーを歴任。その後も政府の起業支援プロジェクトに関わる。自らもインキュベーション、ベンチャーファンドを運営。現在は取手市の「ワタシの街の起業支援 Match」プロジェクトや松戸市の松戸スタートアップオフィスの運営を担っている。著書多数、2003年起業支援家部門経済産業大臣賞受賞。

「起業も過疎化する」1つの気づきから、地方の“起業支援”をスタート


あきない総合研究所

────でははじめに、吉田代表ご自身についてお伺いします。「一般社団法人とりで起業家支援ネットワーク」の他に、ご自身でも事業をされていますが、どのようなことをされているのでしょうか?

「株式会社あきない総合研究所」では、主に起業・スタートアップ支援、コンサルティングからプロデュースまで行っています。2007年からは、インキュベーション(レンタル)オフィスの運営も始めました。現在インキュベーションオフィスは関東・関西を中心に9拠点あり、利用数は2,000社ほどです。

他にも、インキュベーションオフィスの入退室管理システムの開発から販売、非接触リーダーのカードキー開発など、幅広く事業展開しています。



────ソフトウェアからハードウェアまで独自開発されているんですね!“起業支援”の面では、これまでも地方自治体との取り組みはされていたのでしょうか?

取手市との取り組み以前にも、経済産業省・地方自治体と一緒に“起業支援プロジェクト”を多数手がけてきました。大阪市との共同事業として発足した大阪産業創造館「あきない・えーど」が、はじめて手掛けたプロジェクトです。「あきない・えーど」の所長として、起業や経営相談のサポートを4年ほど推進してきました。

経済産業省とは、日本最大級の起業支援プラットフォーム “起ちあがれニッポン「DREAM GATE(ドリームゲート)」” の総合プロデューサーをやりましたね。あとは、官民一体の起業モデルとして「横浜ベンチャーポート」の立ち上げなども行ってきました。

他にも石川県や宮城県、福岡市など複数の地方自治体とも連携して起業支援をしてきたんですよ。起業支援の他、さまざまな大学で“ビジネスプランコンテスト”も開催しました。



────地方自治体との取り組みには、すでに豊富な知見と実績をお持ちだったのですね。では、次に “起業家タウン構想” のお話を伺っていきます。まずは、プロジェクトの構想はどのように始まったのでしょうか?

起業家推移グラフ

“起業家タウン構想”を考えるきっかけとなったのは、60歳のときです。「あきない総合研究所」の事業承継をスタートして、次期社長に会社の経営を任し始めた頃、考える時間ができました。

「今まで数十年と起業支援をして、起業家を増やすための取り組みもたくさんやってきた。それでもバブル崩壊後、日本で起業が増えていない」という点に課題を感じたんです。その時、“起業も過疎化する”ということに気づきました。

これは、起業数も人口と同じ現象が起きるということです。先ほどお伝えした大阪市との“起業支援センター”が成功したことにも表れています。
例えば、大阪の近隣地方にいる起業希望者は「起業支援センターもあるし、経済も活発だし、やはり起業するなら大阪にいこう!」となりませんか?

そうなると、結果的に大阪での起業数は増えても、他の地方での起業数は減ってしまう__。
石川県で数十年起業支援をやっていた時も同じような事が起きました。石川県の産業振興を担う財団が県庁所在地の金沢にあったことで、やはり起業支援プロジェクトの中心も金沢になります。その結果、金沢での起業は増えても他の地域の起業は減るんですよ。

問題は、東京や大阪などの大きな都市、または県庁所在地での起業が増えても、その他の地方で減ってしまえば起業の総数は減っていくということです。この地方課題を解決できれば、日本全体として起業数を増やすことができるのではないかと考えました。

そこで、考えたのが“起業家タウン構想”です。



────だから今まで取り組みをしてきたような大きな市や県庁所在地ではない場所で、起業支援プロジェクトを立ち上げたんですね。では、「取手市」を選んだ理由は何だったのでしょうか?

“地方での起業創業のあり方”を検証するための場所として、人口20万人ほどの規模でプロジェクトに協力してもらえる市を探していました。いろいろな市へプレゼンテーションをしているときに、ちょうど知り合いの取手市職員にプロジェクトについて聞かれたんです。

その時期は、経済産業省が国の政策として“創業支援計画”を推進しており、取手市としてもどのような施策をするか悩んでいることを知りました。そこで、小さな地域を探していた私と、創業支援の取り組みを模索していた取手市で意気投合し、“起業家タウン構想”をスタートさせることになったんです。



地方創生の取り組みとしてはじまった “起業家タウン構想” とは?


マッチ取手

────“起業家タウン構想” の推進にあたって、まずはどのようなことから動きはじめたのですか?

やりたい事や事業計画はすでに準備できていたので、まずは資金調達に動きはじめました。2015年当時は、内閣府にはじめて「地方創生本部」ができた頃です。石破氏が初代大臣になったことは、ご存知の方も多いでしょう。

この発足したばかりの「地方創生本部」に出向している知人がいたので、相談してみたんですよ。その時、“起業家タウン構想” 「地方創生」の文脈にぴったり当てはまることを確信しました。

そこで、「地方創生」を目的とした交付金の応募をして、資金調達することができたんです。結果として、2015年度から5年間交付金をいただきながら活動を推進することができました。

しかし、交付金事業は交付金がなくなると終わってしまいます。なので、3年後には交付金がなくても、自立できるプロジェクト。つまり、利用者負担で成り立つプロジェクトを最初から計画していました。そして、2018年度からは私たちのメイン事業である「Matchーhako(インキュベーション)」、「MATCH MARKET(チャレンジショップ)」は計画通りに自主運営しています。



────では資金ができた後は、具体的に “起業家タウン構想” としてどのような取り組みを行ってきたのでしょうか?

マッチ創業スクール
「一般社団法人とりで起業家支援ネットワーク」では、 “起業家タウン構想”のメインプロジェクト「Match TORIDE(マッチ トリデ)」を立ち上げました。「Match」は、“誰もが起業家を応援する社会「起業家タウン」”の構築を目的に立ち上げたプロジェクトです。

「Match」では、“起業スクール・起業相談・インキュベーションオフィスの運営・チャレンジショップ・ビジネスプランコンテスト・フリーペーパーの発行”といった大きく分けて6つの事業を行ってきました。

この6つの中で、現在行っていないのが「フリーペーパーの発行」です。これは、地域で起業創業している方のインタビュー記事や、起業ノウハウなどを掲載したもので、“ローカル広告モデル”として考案しました。

フリーペーパー1回の発行でおよそ3万8千部です。ポスティングや制作費を考慮すると、ページの1/3をローカル広告枠にしました。しかし、残念ながら交付金をいただいている期間中は予算があったのですが、現在は広告が集まらず休刊しています。

その他5つの事業は、取手市の支援もあり継続した起業支援を推進しているんです。「Match創業スクール」では、これから起業創業をしたい人を対象に、経営に関する基礎知識をつける講座を行っています。



<Match創業スクール>*令和3年度の場合

■受講料
一般5,500円(税込)・学生3,300円(税込)
※1回のみ受講 一般1,500円(税込)・学生1,000円(税込)

■受講時間
1講座 3.5時間・全5回 合計17.5時間

■特典
1. 特定創業支援等事業による支援を受けたことの証明書交付を受けることができる
*要件あり
会社設立時の登録免許税の減免、創業関連保証の特例等

2.「Match-hako」インキュベーションオフィスの利用及び住所利用無料
*修了月に申請⇨翌月から3ヶ月間無料
3.「MATCH MARKET」チャレンジショップ初期費用無料
*修了月の6ヶ月後までに申請⇨3ヶ月間無料



“事業計画書”の作成をしながら、「どれくらいのコストやリソースが必要なのか、どこまで自分で調達できるのか、広告宣伝はどうするか」などを把握することからスタートします。“事業計画書”の添削もしているので、起業する前にリスクが軽減できます。

「Match創業スクール」では、起業前のサポートをしますが、起業後にもさまざまな問題が起きますよね。ある程度、事業を進めてみてからの起業・経営相談ができる窓口も別に設けていますので、万全のサポート体制が整っていると思います。

────起業前だけでなく、アフターフォロー体制も整っているのは、心強いですね!

マッチバコ
あとは、「Match-hako(マッチバコ)」というインキュベーションオフィスの運営を行っています。起業家特化型の支援レンタルオフィスです。場所は、利便性も高く都内からJR常磐線で最短40分ほどのJR取手駅西口「リボンとりで」5Fにあります。



<Match-hakoインキュベーションオフィス>

■クラウドオフィスなら月会費 0円、1時間330円で利用できる。追加オプションで住所利用、電話番号取得等も可能

■必要なプランやオプションを選択してコストを最小化し、無駄な固定費をカットできる
*充実のプラン・オプションの詳細はこちら>

■Match-hako会員様は、提携先のレンタルオフィス全国7カ所(東京・千葉・大阪)も利用できる



マッチマーケット

次が、「MATCH MARKET(マッチ マーケット)」です。これは起業家と地域の方を繋ぎ、たくさんの出会いを提供するチャレンジショップです。最短1週間から最長1年(延長可)の間、自分だけの期間限定ショップを出店できる取り組みです。

100%売上歩合で最低保証もありません。敷金・共益費・固定家賃などは一切不要なので、はじめの1歩を踏み出しやすく、誰でも挑戦しやすい金額設定になっています。かかる費用は、「売上歩合=売上額×15%」・「経費(電気ガス水道等)」・「初回のみ出店登録料5,500円」・「*保証金20,000円」です。
*保証金は契約終了後、控除するものがない場合返還

経費は、“飲食ブース”“物販・サービスブース”で料金が異なります。料金は、以下の通りです。


利用料金表

“物販・サービスブース”は、最大5店舗、“飲食ブース”は3店舗が利用可能です。JR取手駅駅ビルのアトレ取手1階に位置するため、集客も見込めテストマーケティングにも最適だと思いますね。

────はじめから自分のお店を出すより、初期費用も少なく実際にお客様の反応を見れるのは成功角度が高くなりそうですね!「ビジネスプランコンテスト」は、毎年行っているんですか?

ビジネスプランコンテスト
「Match みんなのビジネスプランコンテスト」は、立ち上げた2016年から毎年開催していて今年で6回目ですね。「起業からまちを元気に」をテーマにした、地域密着・市民参加型のコンテストです。

毎年50名前後の応募があり、「エントリー→事業計画書審査→セミファイナル審査→ファイナル審査」と進んでいきます。セミファイナル審査から、プレゼンテーションも入ってくるんですよ。

最後の表彰は、“市民部門”“学生部門”に分けており、それぞれ最優秀賞1名・優秀賞2名が選ばれます。



<Match みんなのビジネスプランコンテスト>

■応募資格
市民部門 ※下記要件のいずれかを満たしている方
・取手市内で1年以内に起業する予定の方
・主な事業所が取手市内にある起業3年未満の方
・取手市以外に事業所があり、1年以内に取手市内に事業所を設立予定の方
学生部門
・ファイナルイベント時点で大学、大学院に在籍の学生であること

■表彰
市民部門
・最優秀賞 1名 楯+賞金10万円
・優秀賞 2名 楯
学生部門
・最優秀賞 1名 楯+賞金5万円
・優秀賞 2名 楯

■副賞 ※市民・学生部門共通
・Match-hakoとりでのクラウドビジネス・フリースペース利用6ヶ月無料
・MATCHMARKET 出店費用(登録料、実費負担分)6ヶ月無料



これまでに入賞したプランは、「英語コーチング」や「カフェ」などサービス・物販・飲食がやはり多かったですね。中には、80歳近い方にご参加いただくこともあり、チャレンジ精神にこちらが驚くこともあります!

「このコンテストに参加して、起業への1歩が踏み出せました」とか「飛躍のきっかけになりました」などのお声をいただくこともあり、とても嬉しいですね。

────本当にさまざまな方がエントリーされているんですね。これまでに「Match」をきっかけに起業された方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?

「Match」を通して起業された方には、起業家登録カードの「Match-card(マチ・カド)」を配布しています。現在は、およそ200枚ほど。

なので、「Match」が起業させた方もいれば、起業を考えていた方がプロジェクトを活用して起業に踏み切った方なども含めて200名以上の起業創業家が誕生したことになりますね。



持続性と活性化がカギ


起業家タウン構想イメージ

────では、“起業家タウン構想” を推進している中で課題となっている点はありますか?

課題はいくつかありますが、1番は“事業承継”の問題ですね。私ももう68歳になるので、そろそろ誰かに引き継いで引退したい(笑)。

3年ほど前から承継者探しをしていますが、出来ていません。低空飛行でも、取手市の支援もあって今までほとんど赤字もせずに経営してきました。それに、「Matchがあって良かった」と言っていただけているので、このプロジェクトを継続して推進していきたいと思っています。

だからこそ、しっかりと “事業承継”することが重要で、この“起業家タウン構想”を面白いと思ってくれる人に承継したいですね。



────“事業承継” の問題は、多くの中小企業などでも起きていますね。では最後に、「地方創生」として持続的な取り組みをされていますが、今後挑戦していきたいことや目標はありますか?

全体として “起業支援”というのは、新しい発想が生まれにくいスキームです。ここでいかに新しい発想をもって、事業を活性化していけるかが重要だと思っています。そのために今後は、新しい事業の立ち上げもしていきたいですね。

取手市としても、新たに資金調達できる手段を探してくれています。市と協力しながら、持続するにも多角化するにも、経営の効率化を図りつつ“起業支援”を推進していきたいと思います。



取手市 産業振興課へのお問い合わせはこちら 「Match TORIDE」の詳細はこちら

ライター松中朱李
編集/ライター
So-gúd編集部
松中 朱李
神奈川県・横浜市出身。アパレル企業にて販売からバイイングを経験したのち、イタリア・フィレンツェへ留学。現地で2年間を過ごし、気づけば靴職人に。帰国後は、メンズシューズブランドにて広報PR、メディア運営、ECサイトディレクション等に従事し、現在に至る。うさぎの散歩とヨガが日課。
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