「ただの二拠点生活ではなく、大切なのは土地に根付くということ」 馬場未織氏が語る、二拠点生活のリアルとは?


「ワーケーション」「週末移住」というワードを見聞きする機会も増えた昨今ーーーー 平日は都心で働き、週末は田舎で過ごすという新しいワークスタイルが巷で浸透しつつある。

リモートワークが当たり前になったこの時代。東京をはじめとする、都会という空間で日々を過ごす価値や本質が問われるタイミングなのかもしれない。とはいえ都心部に仕事のある人たちが、生活のすべてを田舎へ移すのは簡単ではなさそうだ……

そんな中「週末を田舎で過ごす」というライフスタイルを実践する一人の女性がいる。平日は東京で仕事、週末は千葉県・南房総市で過ごす二拠点生活実践者の馬場未織さんだ。

「今この東急東横線の渋谷行きの車内で、イノシシの対策について考えてるのはたぶん私だけ? ということもありました」と笑顔でインタビューに答える彼女。今回はそんな馬場さんに二拠点生活のリアルについて聞いてきた。


インタビューイー
馬場未織
1973年東京都生まれ。日本女子大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2007年より平日は東京、週末は南房総という二拠点生活を家族で実践。2012年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市職員らとNPO法人南房総リパブリックを設立。里山学校、空き家・空き公共施設活用事業、食の二地域交流事業、農業ボランティア事業などを手がける。著書に『週末は田舎暮らし」、『建築女子が聞く住まいの金融と税制』など。



息子に生き物図鑑に出ているような“本物の動物”を見せてあげたかったーーーー



────まずは馬場さんが、二拠点生活をはじめたきっかけについて教えてください。

馬場さん:
二拠点生活をスタートしたきっかけは、息子への親心でした。私たち家族は、2007年から二拠点生活をはじめたんです。この生活をスタートして約15年が経過したんですよねーーーー当時私の二人の子どもは、長男が5歳で長女が2歳だったんです。特に長男は、子どもの頃から生き物が大好きで昆虫や魚の図鑑やDVDを好んで見ていました。

特に長男は、興味がある分野に“狭く深く”没頭するタイプだったんです。私と息子は、昆虫を都内の公園で観察したり、採集したりしていたんですけど、自然が少ない東京では限られた生き物しかいなかったんですよね。

私の視点から見る東京は、生活するうえで便利だったり、様々な建築物があって“多様な町”という印象でした。でも当時の息子から見た東京は、図鑑で見ているような生き物がいない“貧しい街”だったんでしょうね…… その証拠に『もっと本物の虫とか魚が見たい!』と息子にせがまれていました(汗)。

私も息子が、学びになる素材を自分で自然環境から発見して、色々な経験をする方が最適な気がしたんです。そんな背景があり、東京以外に自然がいっぱいあって、彼が自然の中で自由に学べる環境を探す旅に出ました。



────なるほど。息子さんへの親心がきっかけだったんですね。もともと南房総というエリアは決めていたんですか?

馬場さん:
実は南房総に住むのは、当初の視野の中にはありませんでした。はじめは、長野県・上田市だったり、神奈川県の郊外だったりを探していました。東京からのアクセスを考えて東京インターと中央インターから探していたんですよね。

そんな時にたまたまアクアラインを使って、千葉県の袖ヶ浦市や木更津市の方面へ行く機会があったんです。当時はアクアラインを使うのに、3,000円もかかった時代だったので、もう来ることもないだろうと思っていました。

でも自動車をちょっと走らせたら、突然風景がガラッと変わって『日本昔ばなし』で一度は見たような、里山風景が私の目に飛び込んできたんですよーーーー タイムスリップしたんじゃないかと思うほどの風景でしたね。

その後何度か訪れるごとに、どんどん南に向かって行ったら、海がみるみる透明になって、気がついたら南房総エリアまで来ていました。海も山もあって自分と息子にとってベストなエリアだと思ったんですよね。



────お話を聞いていると、こっちもワクワクします!場所が決まって、いざ住む家を探すことになったと思うのですが、その際のエピソードなどありますか?

馬場さん:
よくある方法ですが、まずはネットで物件を探していきました。実際に内見でボロボロの家を目の前にするわけなんですけど、頭に浮かんだのが『ここに住む自分がイメージできる』『これならいける!』って思ったでんすよ(笑)



────ボロボロの家を見た時の一般的な反応と違う気がしますね(笑)

馬場さん:
もともと私の父の友人で、二拠点生活をしていた方がいらっしゃったんですよね。私は子どもの頃、父に連れられてその方の住まいへ遊びに行ったんです。

父の友人が山や畑で収穫した野菜を料理して出してくれたり、夕飯後に東京では見たこともない大きな庭で遊んだりーーーー二拠点生活の実践者と小さい頃に出会っていたから、自然とその時の経験が記憶に残っていたんだと思います。だからこそ、ボロ屋を見ても動じなかったのかもしれませんね。



人間ではなく、自然都合で生きること



────実際に二拠点生活をはじめてからの苦労は、どのようなことがありましたか?

馬場さん:
私のなかで大変だと感じたことは、 “自然都合で生きる”ということでした。人間の力ではどうすることもできない、大雨や洪水、嵐、干ばつ、害獣などの影響をダイレクトに受けるわけですよね。東京のように自然の影響が少ない環境では、自然状況に左右される局面は少ないですが、自分の都合や力では何もできない自然の力に心が折れそうな時もありました。

例えばイノシシが、せっかく作った畑の野菜を全部ダメにしてしまうんですよね(汗)。私たちは、週末だけしか南房総の家にはこないので、その間は畑の管理ができないんです…… 実際に車で千葉の家に戻ると、イノシシの親子が家の敷地から出ていくのを見たこともありましたね。東京での仕事の移動中に、電車内でイノシシの対策や駆除について真剣に考えていました。



────自然が近い環境ならではの苦労が多いんですね…… 南房総の生活で、地域の方との関わりに関して取り組まれたことなどはありますか?

馬場さん:
自分から自発的に動いたり、色々な物事に触れたりして相手の価値観を知るということを大切にしていました。私たちは人間なので、どうしても愛着のない場所や興味がない人とは、距離を置いたり自分から関わろうとしなかったりすることもあると思います。

でも心に余裕や余力があったら、地域の人の仕事を手伝ってみたり、近所のおじいさんと話してみたり、ささいなことでも自発的に動いて経験することが大切な気がしています。

地域に住んでいる方は、自分たちの生活や地元が良くなるためにやるべきことをやっているんです。でもせっかくなら、地域の人が草刈りをしているなら、その仕事を手伝って、一緒に仕事をしてみるーーーー 一緒に草刈りをして綺麗になった道や土地を見ると、相手の事情は知らなくても自然と信頼できるんですよね。

そうすると、心が繋がる感覚や土地に愛着が湧いてき、地域を大切にしようという想いが強くなっていく気がします。周囲から命令されて動くのではなくて、自分から文化や風土を知って、相手に歩み寄れば必ず相手と心で繋がれると思っています。



────素晴らしいですね…一時的なバケーションでは感じることができない感覚だと思います。一方でワーケーションや一時的な田舎生活なども流行っていますが、その点に関しての考えや思うところはありますでしょうか?

馬場さん:
私はワーケーションや一時的な田舎生活を経験することで、自分も地域の方も新しい価値観に触れることができるのでプラスの効果があると考えています。とはいえワーケーションは、仕事に必要な設備が一部の場所に存在して、そこに滞在する形だと思います。

あくまでも旅行やバケーションの側面があるので、その地域に住んでいる方と比べて、利用者は地域に愛着が湧くかといわれると難しい部分もあると思います。「旅の恥はかき捨て」という言葉があるように田舎が消費されてしまい、地域を傷つけてしまうリスクも存在していますね。

一方、二拠点目の土地に「暮らす」ということは、生活を土地に根付かせることでもあります。生活を送るなかで、土地や人への信頼や愛着が湧き、他人が自分を受け入れてくれたり、東京では感じられない自然に生かされている感覚に気がついたりーーーー心に余裕がなくなっても、南房総の家に帰れば、自分の気持ちが立て直せるというのが、土地に根付く一番の魅力だと思います。



二拠点生活は、多様性を知ることーーーー



────なるほど…都会と田舎のどちらにも帰る場所があり、どちらも変わらず大切な人たちがいる感覚でしょうか?

馬場さん:
そうですね!そもそも「都心の人」「地域の人」「拠点」ーーーーこのような分け方や言葉に違和感があるんですよね。別け隔てなく、私にとっては大切な人なんですよね。『ただいま!』って帰る場所が違うだけなんです。



────場所は関係ないということですね。将来的には二拠点生活の実践者は、増えるような気がしています。二拠点生活をするうえで、大切にするべき考え方や必要なことはありますか?

馬場さん:
二拠点生活を推奨しているのは、多様性を許容して体験することで社会が良くなると考えるからです。二拠点生活は、自分と相手が本質的に違いがあることを認めて、積極的に相手と関わることが大切です。視野を広く持って、2次元的な視点ではなくて、立体的な視点を持つことが重要な気がしていますね。

このような視点があると、社会課題が見えてきますし、政策に対する想いも変わってくると思っています。立体的な視点があれば、生活のリテラシーも自然と上がるはずです。

二拠点生活のビフォー・アフターを見ると実際行動が変わっています。新しい経験が増えて自分が無意識に、何かの色眼鏡をかけながら物事を見ていたという状態に気がついてくるんですよね。海外留学が良い例かもしれませんが、場所=(イコール)生活を移すっていうのは、色眼鏡を外すための最適な方法だと思います。



────確かに海外の経験は、いろいろな色眼鏡を外してくれると思います。俯瞰して地球の外から自分や物事を見る感覚ですかね?

馬場さん:
まさしく未来には、その感覚や視点が大切だと思います。こういった俯瞰して見る目線がないと、人は人をスペックで評価することになってしまいます。会社名、年収、住んでいる場所、洋服のブランド、いいね数などですね…… このような数値化できることに価値を置くと、弱い人が切られる社会になったり、エゴが出たり、相手から搾取するようになったり……幸せになりたいと思って追いかけてきたことが、刃になって自分に向かってくるんですよね。



────なるほど。馬場さんが色々なことを経験されてきたからこそ、言葉に説得力がありますね。そのうえで色々な体験をした馬場様だからこそ思う、これだけは大人が学んでおいた方が良いということなどありますか?

馬場さん:
大人だからこそ、自分の命がなくなる日まで自分をアップデートした方が良いと思います。以前の社会は、「子どもは遊んで学び、大人は仕事で稼ぐ」みたいなイメージがある気がしています。でも大人の成長が止まった時点で学びがなくなり、正しい判断ができなくなりますよね…… 子どもが間近でお手本として見ている大人の成長が止まったら、子どもへの教育にも影響が出ると思います。

歳を重ねることへの抵抗やネガティブな側面だけを見るのではなくて、人生に厚みを持たせてアップデートすれば、人生を噛みしめながら生きられる気がしています。そのために私にとっての南房総の家があるように、自分の心が少し楽になる場所を見つけておくことも大切だと思います。



<編集後記>

今回の取材を通して感じたことは、馬場さんが語る言葉の強さや暖かさだ。

これまでの自分は、「田舎での生活」「週末は地方で過ごす」と言う言葉を聞くと、都会での仕事の疲れを一時的に忘れる“延命治療”に過ぎない感覚があった。

しかし取材を終えて「二拠点を持つことは、自分の生きるをしなやかに継続させることなのかもしれない」という新しい感覚に気がついた自分がいたーーーー 祖母の田舎の家や古びた実家は、東京に比べて便利な場所ではないが、心が落ち着くのは、心のどこかで「帰れる場所」があることを既に知っていたからかもしれない。

馬場さんの言葉から伝わってくる、優しさや、強さ、しなやかさは、二拠点生活をするなかで経験したさまざまな経験から生まれたものなのだろう。「楽をする」のではなく「楽しむ」という言葉の本質に触れられた時間でもあった。



 
新井那智
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに。帰国後は、ライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬が好き。
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