Black Lives Matter(BLM運動)とは?反黒人差別の歴史と社会への影響

サステナブル

by Chris Henry

Black Lives Matterとは、アフリカ系アメリカ人のジョージフロイドさんが2020年5月、白人警官によって8分46秒首を圧迫されて死亡した事件から、全米を超え世界に瞬く間に広がったソーシャルムーブメント。

昨年テレビやSNSを通してよく聞いたと思われるBlack Lives Matterという言葉ですが、世にでたのは2013年のこと。

当記事では、Black Lives Matterの意味と日本語での訳し方、そしてBlack Lives Matter運動が起こる背景にある構造的人種差別についてご説明します。

記事の後半では、日本に存在する人種差別や、Black Lives Matterを学べるコンテンツ紹介、さらに私たちができることまでご紹介しているので、最後まで読んでいただけると幸いです。

ブラック・ライヴズ・マター(英語:Black Lives Matter)とは?

Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター、「BLM運動」)とは、2013年にアメリカのアフリカ系アメリカ人コミュニティから始まった国際的な社会運動です。

構造的な人種差別や黒人への暴力、そして特に警察による黒人への暴力と戦うことを目的としています。

Black Lives Matterという名称は、人種差別のなかでも警察によるアフリカ系アメリカジンへの不当な殺害を批判し、白人の命と同様に、黒人の命も重要であることを社会に知らしめる意味を持つもの。

この背景には、アメリカにおいて黒人が警察に殺される割合が白人と比べて高いことがあります。事実、警察によって命を落とした人種は白人、ヒスパニック、黒人の順で増えていき、殺害された黒人の数は白人の数のおよそ2倍にも。※アジア系はそもそも人口に占める割合が低いのと、被害数も極めて低く、白人よりも被害者が少ないために含んでいません。(1)

このような状況を解決するべく、日常的に発生する人種差別ではなく、社会や組織、文化、そして歴史によって構築される『構造的な人種差別』を撤廃することをBlack Lives Matter運動は求めています。

Black Lives Matterは2013年に始動したものですが、2020年のジョージフロイド事件で瞬く間に大規模なデモや、世界からの関心を集めるものとなりました。

(1)出典:Mapping Police Violence

Black Lives Matterの訳し方にはいくつもの背景が

「Black Lives Matter」は直訳すると「黒人の命は大切」となりますが、日本語での訳し方は定まっていません。実際に、出版社や新聞社、メディアによって訳し方はまばらです。

「黒人の命<は>大切」という訳だと、黒人の命だけが大切というニュアンスが含まれてしまいがち。そのため、Black Lives Matterには「黒人の命<も>大切」や「黒人の命<こそ>大切」という訳も使われています。

しかし、大切なのは訳し方ひとつだけでなく、その訳に至るプロセスなのではないでしょうか。黒人がアメリカで経験した歴史や差別などを踏まえ、慎重に翻訳すべきだと考えます。

All Lives Matterはまた違った問題である

Black Lives Matterが世界に広がりを見せるにつれ、同時に叫ばれたのが『All lives matter(すべての命が大事だ)』という考え方。結論、All lives matterを現時点で議論することは、的外れであるという声が多く聞こえています。

なぜなら、黒人の命が他の人種よりも危険な立ち場にさらされている状況で、全員の命が大切だと主張することは、病気の子どもを前に、クラス全員を心配するような不可解な状況だという意見があるから。

今、傷ついているのは黒人なのだから、黒人の命や人権を主張するために、Black Lives Matterが重要なのです。

Black Lives Matter運動を時系列で振り返る

ブラックライブズマター

by Corleone Brown

冒頭で、Black Lives Matterが2020年のジョージフロイドさんの事件より前の、2013年からBlack Lives Matter運動は始まっていたとお伝えしました。

次に、Black Lives Matterがこれほどにまで、世界に広がった経緯を確認しましょう。

Black Lives Matter運動の始まりは2013年

2013年、SNSにて#BlackLivesMatterというハッシュタグが拡散されたのはこの年です。発端は、2012年に起きた事件への判決が下されたことでした。

2012年の2月、アメリカフロリダ州で黒人少年のトレイボン・マーティンが白人警官に射殺される事件が発生。しかし、翌年に白人警察は無罪判決を受け、釈放されています。

黒人男性が殺害されているのにも関わらず、加害者側の罪が問われなかったことに対し、アリシア・ガーザさん、パトリッセ・カラーズさん、オーパル・トメティさんの黒人女性たちが立ち上がりました。これが、Black Lives Matterの始まりです。

2014年以降、黒人の命が奪われ続ける

2014年以降、白人警察により相次いで黒人が殺害される事件が続きました。

実際に、2014年7月にはエリック・ガーナーさん、8月にはマイケル・ブラウンさん、そして11月にはタミル・ライスさんが白人警官によって殺害されています。

このような状況を受け、Black Lives Matterムーブメントへの関心や、その勢いが拡大していきました。

2020年、ジョージ・フロイド氏の動画がきっかけに規模が拡大

そして2020年。ジョージ・フロイドさんが白人警官デレク・ショーヴィンによって8分46秒間もの間、首を膝で締め付けられ、殺害される動画が世界中に広がりました。

ジョージ・フロイドさんは、手首に手錠がかけられていたにも関わらず、警官は首を抑え続けたのです。

この動画を受け、コロナ禍で外出自粛が呼びかけられるなか、多く人がデモ活動に参加。普段はデモに参加しないミレニアム・Z世代の参加者が多かったことが注目されている点です。

また、アフリカ系アメリカ人だけでなく、白人やその他の人種の参加者も見られ、大規模なBlack Lives Matter ムーブメントとなりました。

アメリカの構造的人種差別の撤廃を求める抗議活動

ぶらっくらいぶすまたー

By Clay Banks

2013年に始まり、2020年に拡大を見せたBlack Lives Matter運動は、アメリカに残る構造的な人種差別を撤廃することを求めるものです。

アフリカ系アメリカ人は、奴隷や人種隔離政策の歴史を持つ人々。そのため、アメリカでは出生時から黒人は白人より圧倒的に不利だと言われています。

教育機会、職業雇用機会、育つ環境などの格差に彼らは直面します。

  • 白人の子どもは、4分の3が両親によって育てられるが、黒人の子どもは約58%が片親に育てられる(2)
  • 白人と黒人の学生の共通テストの成績の差は、約2年分の教育に相当(3)

上記のような格差の事実に加え、警察によって黒人は白人の2倍の数が殺害されているなど、人種の間に不平等が見られます。(1)

これらのように、暴言をはかれるなどの日常的な人種差別だけでなく、社会の構造的に不平等にさらされることが『構造的人種差別』です。

アメリカにおいて、黒人が脆弱な立ち場に置かれる社会的構造を変革しようという主張が、Black Lives Matter運動では強調されています。

(2)出典:Historical Living Arrangements of Children

(3)出典:米国における人種間の教育格差の実態 | 世界経済フォーラム

2021年、白人警察に有罪判決が渡される

社会的な構造から見直し、黒人の命や生活が、他の命や生活と同等に大切にされる社会を目指すBlack Lives Matter運動。

2021年、Black Lives Matter運動はようやくひとつの実を実らせました。

今年4月、ジョージ・フロイドさんを殺害した罪に問われていた白人警察官デレク・ショーヴィンは、有罪判決が下され、3年の禁錮刑となりました。

殺人として有罪となったのは05年から全米でわずか7件で、警官が市民を殺害した事件では2000分の1の有罪判決だと言われています(4)

また、ミネアポリス・スター・トリビューン紙によると、黒人の市民を殺害した罪で、勤務中の白人警官が有罪判決となるのは、ミネソタ州で初めてのことだと報道(4)

このように、前例が少ない有罪判決を勝ち取ったBlack Lives Matter運動は、今後とも構造的な人種差別に立ち向かっていくでしょう。

(4)出典:BLMがもたらした“ビッグなチェンジ”  白人警官による黒人殺害に「2千分の1」の有罪判決〈AERA〉(AERA dot.) – Yahoo!ニュース

Black Lives Matterは世界にどのように広がったか

黒人の権利を主張

By Clay Banks

Black Lives Matterの運動を振り返る上で外せないものが、運動がアメリカを超え世界へと広がったということ。

Black Lives Matterはどのように注目を浴び、世界へ広がり、そして影響を与えるソーシャルムーブメントとなったかをご説明します。

著名人によるSNSへの投稿とデモ参加

世界的なセレブであるアリアナグランデは、実際にデモへ参加。また、レディーガガやテイラースウィフトは、SNSやスピーチを通してBlack Lives Matterへの支援を表明しています。

黒人の著名人ではなく、さまざまな人種のセレブがBlack Lives Matter運動に反応しています。日本の著名人では、大坂なおみ選手がその1人です。

このように、著名人によるSNS投稿やデモ参加が、世界的にBlack Lives Matter運動を拡大させる1つの要因となりました。

SNSを通じ、ミレニアム世代やZ世代へ広がる

また、SNSのプラットフォームを活用し、世界中のミレニアム世代やZ世代へとBlack Lives Matter運動は広がっていきます。

アメリカ本土では、普段デモに参加しない若い世代の参加が目立ったように、国を超え、日本でも海外問題に関心の高いZ世代を中心にBlack Lives Matter運動はホットなトピックとなりました。

SNSで世界が繋がっていたこと、それこそが今回のような大きな関心を集めることににつながった鍵でした。

多数の国へ抗議運動が広がる

関心だけでなく、デモ活動も世界各地へ飛び火。アメリカだけでなく、イギリスをはじめとするヨーロッパ諸国にも広がりました。

イギリスでは、奴隷制に関わりのある銅像が撤去され、アムステルダム、イタリア、アイルランドではデモ活動が開催。

アメリカだけでなく、構造的な人種差別が残る国や人種差別の歴史を持つ国へと広がっていきました。

日本に住む私たちにとっても他人事ではない

日本にもレーシズムはある

By Ryoji Iwata

Black Lives Matter運動によって、人種差別問題が浮き彫りとなったのは海外に限った話ではありません。

日本社会においても、小さな攻撃性とよばれる意図的ではない差別『マイクロアグレッション』や、人種差別的なメディア表現が存在。

国内で物議を醸しだした人種差別の例から、いくつかの事例をご紹介します。

NHKのBlack Lives Matter報道番組

NHKは若者向けにBlack Lives Matterを説明するアニメ番組を作成し、放送。そのなかで、黒人への偏見や固定観念を全面にだしたメディア表現がありました。

黒人と白人の貧富の差のみに焦点を当てたり、『怒れる黒人』などとステレオタイプに黒人を当てはめた表現をしたり、黒人への偏見を助長する表現が批判の対象に。

日本在住の黒人男性により、NHKの報道内容を批判する内容がツイッターに投稿され、議論を呼びました。

Black Lives Matter運動を、わかりやすく説明するために、偏見を助長するような描き方をしたことが問題となった一例です。

ミスジャパン『宮本アリアナ』への批判

2015年にミスジャパンに輝いた、アフリカ系アメリカ人と日本人のダブルである宮本アリアナさん。日本代表の称号を得た彼女に、批判が集まりました。

その理由は、彼女の見た目が『日本人らしくないから』。日本国籍を保有するアリアナさんに対し、『ミス日本は両親が日本人であるべき』など、日本代表になることへ批判が殺到しました。

彼女が日本人と法的に認められているにも関わらず、『日本人らしくない』と先入観を押し付け、日本人らしさを決めつける例です。

このように、人種差別など存在しないと考えられがちな日本ですが、人種差別に関する問題は存在します。そのため、人種差別の問題は私たちにとって関係のないのではなく、向き合うべき問題なのではないでしょうか。

BLMや黒人差別の歴史が学べる映画・ドラマ3選

BLM movement

By Charles Deluvio

ここまで、Black Lives Matter運動の意味や流れ、それにまつわる人種差別の問題などをご説明しました。黒人差別の歴史やその構造を知りたい方のために、それらを学べる映画やドラマをご紹介します。

Netflixでは、Black Lives Matter:黒人とアメリカという名前で特集ページが存在しますので、そちらから編集部が厳選した作品を3つほど集めました。

憲法修正第13条

憲法修正第13条は、アフリカ系アメリカ人が犯罪者として逮捕されやすく、大量に投獄されている事実を描いたドキュメンタリー映画。

なぜ、黒人は逮捕されやすいのか、その事実を学者、活動家、政治家が分析し、映画は進んでいきます。

奴隷制がなくなった今もなお、アフリカ系アメリカ人は奴隷制度の片鱗に苦しんでいることがわかる映画ですので、構造的な人種差別の問題を理解するのにうってつけの作品です。

ボクらを見る目

ボクらを見る目は、アフリカ系アメリカ人の少年5人が冤罪で逮捕されるノンフィクションの事実を伝える作品です。

1989年に発生した『セントラルパークジョガー事件』をベースに描かれたドラマで、人種や性別などで、犯罪を決めつけることの恐ろしさがわかる作品となっています。

『黒人だから』と、決めつけられ、苦しんだ人がいることを知れるドラマで、少年たちの無念に胸が打たれます。

親愛なる白人様

親愛なる白人様は、大学内で起こる黒人への差別に焦点を当て、彼らの葛藤を描いたドラマ。人種だけでなく、黒人女性だったら、など性別の面でも偏見による差別を垣間見ることができます。

構造による人種差別に派生し、日常で発生する差別について学ぶことができるおすすめの作品。スクール系のドラマが好みの方には、ぜひ観ていただきたいです。

Black Lives Matterを受け、私たちには何ができる?

#ブラックライブスマター

当記事では、黒人の命や生活を大切に扱うことを主張するBlack Lives Matter運動を解説いたしました。少しでも、皆さんの発見となる情報をお伝えできていれば幸いです。

それでは、Black Lives Matter運動について知った後、私たちには何ができるのでしょうか?

上記でご紹介した映画やドラマをみて現実を学ぶことも1つですが、他にもできることがあるので最後に紹介します。

    1. SNSで発信する
    2. 構造的人種差別を理解する
    3. Black Owned Businessを応援する
    4. 日本の人種差別について考えてみる

SNSでは、#Blacklivesmatterのハッシュタグを付けてポストをすることで、より広く知れ渡らせることができます。また、黒人の経営者が運営する会社のサービスや商品を積極的に利用することも1つの応援方法。

それでも、少し私たちとは遠い問題に感じる方は、日本の人種差別について考えてみると、自分ゴト化できるかもしれません。

さいごに。

2020年、ジョージ・フロイドさんが殺害された事件が日本でも連日報道されていたように、世界に瞬く間に広がったBlack Lives Matter運動。

昨年、新型コロナウイルスが猛威をふるっていたにも関わらず、アメリカを中心に人々は抗議を続けました。すべては、人種によって人生が決められてしまわないためです。

人には、人権があり、守られるべき命があります。

日本に住む私たちにとっても、アメリカに暮らす黒人が直面する問題を理解し、支援していると表明すること。少しの力に見えるようなアクションが、すべての人を守る世界を作るのではないでしょうか。

当記事を読んでいただけた方のなかで、少しでも多くの方へ知ってもらいたいと思われた方は、SNS上で記事をシェアし、この情報を伝えていただけると嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

               
ライター:Ethical Choice編集部
Ethical Choice編集部です。エシカルな生活を送る知恵、サスティナビリティに関する取り組み、環境問題に対するソリューションを発信いたします。

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