「アグロフォレストリー」とは?農業と林業を両立させる新しい生産方法

サステナブル

農業と林業を両立させる生産方法として注目を集めている「アグロフォレストリー」。

持続可能な生産方法ともいわれており、今後ますます広まっていくとも考えられています。今回は、アグロフォレストリーという生産方法の具体例やメリット、デメリットなどをご紹介して参ります。

実際にアグロフォレストリーに関わる日本企業の事例や、アグロフォレストリーで育てているものの事例などもお届けします。また、後半では関連するキーワード「パーマカルチャー」についても解説します。

 

アグロフォレストリーとは?

アグロフォレストリーとは、「農業(英語:Agriculture)」と「林業(英語:Forestry)」という言葉を組み合わせた造語。1970年ごろから使われている言葉で、さまざまな樹木を育てる傍らで農作物や家畜を育てるものをいいます。

森林や大地を傷つけることなく生産活動も行える農法として、世界的にも注目されています。

日本で注目されるようになった「森を作るカカオ」とは

日本でアグロフォレストリーという言葉を有名にしたもののひとつは、株式会社明治の「アグロフォレストリーチョコレート」という商品ではないでしょうか。

2011年ごろから発売されている「アグロフォレストリーチョコレート」は、ブラジルにてアグロフォレストリー農法で作られたカカオを使った商品です。

2020年にはそんなカカオを使った新商品も販売開始し「森をつくるカカオ」というキャッチフレーズで注目を集めています。

メリットとデメリット


自然を壊すことなく生産活動が行えるとあって注目を集めるアグロフォレストリーのしくみですが、そこにはどんなメリット、そしてデメリットがあるのでしょうか。続いては、気になるメリット・デメリットについて解説して参ります。

メリット

アグロフォレストリーのメリットは、主に4つ。森林破壊を防ぐこと、植物の成長を助ける可能性があること、地域の雇用を増やせること、そして経済的なリスクを弱めることです。

メリット①森林破壊を防ぐこと

まず第一のメリットはなんといっても森林破壊をしないで済むことでしょう。

地球環境をよりよくできる可能性を秘めているアグロフォレストリーは、持続可能な生産活動を求める今の時代にもぴったりでしょう。

メリット②植物の成長を助ける可能性があること

また、第二のメリットとして共生作物を同時に植えることで、お互いの成長具合を高めてくれるという期待もあります。

具体的には、太陽の光に弱い植物の近くに背の高い木を植えるシェードツリーなどがこれに当たります。

メリット③地域の雇用を増やせること

さらに、第三のメリットとして地域の雇用や所得が増える効果も期待されています。

さまざまな作物や生物を育てるためには、多くの人手が必要になります。そのため、雇用が増え地域の活性化や所得の増加につながる可能性があります。

メリット④経済的なリスクを弱めること

最後のメリットは、経済的なリスクを弱められることです。天候不良や病気などで作物が上手く収穫できないということは、農家にとって頭の痛い問題。

複数の植物を一緒に育てるアグロフォレストリーという農法なら、カカオなどの作物が収穫できない場合でも、果物などの他の作物で利益を補える可能性があります。

デメリット

アグロフォレストリーの一番の問題点は、軌道に乗るまでにやや時間がかかるということです。

特に植樹をした場合は、その木が生産物として商品になるまでには短くても数年、長ければ数十年という時間が必要です。そのため、ある程度その間の支援がないと持続することは難しいでしょう。

また、複数の植物や家畜を同時に生産するには、確かな知識と管理技術が必要になります。専門家のアドバイスや研究が重要になるため、誰もが簡単にできるわけではないということもデメリットとして挙げられるでしょう。

アグロフォレストリーの実例とは


さまざまなメリットが期待できるアグロフォレストリーは、東南アジア、中南米、アフリカ、インドネシアなどさまざまな地域で取り入れられている方法。育てているものもカカオや果物など多岐にわたります。

ここでは、ブラジルとインド、そしてメキシコの3国の実例をご紹介します。

ブラジルにおけるアグロフォレストリー

1950年頃のブラジルトメアス市では、「黒いダイヤ」ともいわれる黒こしょうの栽培が盛んでした。ですが、あるときにこしょうが病害により全く採れなくなってしまいます。

単一栽培をしていたため、経済的にも大ダメージを受け、多くの農家が被害を受けました。そこで、収穫期が異なるカカオをはじめさまざまな植物を一緒に植えるアグロフォレストリーを提案。

現在は、カカオだけではなくさまざまな植物を育て、成功例として日本でもよく取り上げられるほどになっています。

インドにおけるアグロフォレストリー

インドのモディ首相は2050年までにアグロフォレストリーの実施面積を増やすと発表。雇用創出や農民の困窮解消などが課題といわれているインドにおいて、さまざまな問題を解決できるとしています。

アグロフォレストリー政策を採用した世界で最初の国ともいわれるインド。今後の活動にも注目されています。

メキシコにおけるアグロフォレストリー

メキシコでは、ロペスオブラドール大統領が「森林農法プロジェクト」を推進。

元々メキシコではコーヒーの生産などにアグロフォレストリーの手法を用いられており、今回の森林農法プロジェクトによって今後もますます拡大するのではないかと期待されています。

日本企業の関わりは

前述の株式会社明治のように、アグロフォレストリーに関わる日本企業も増えてきています。ここではその一例としていくつかの事例をご紹介します。

Co・En Corporation


アグロフォレストリーの手法で作られたバニラ生産や販売を行う「Co・En Corporation」。

マダガスカルのバニラ農園と協同組合の情報についても発信するほか、クラウドファンディングによる応援プロジェクトを行ったこともあります。(※2021年現在クラウドファンディングはすでに終了)

アグロフォレストリーによって作られたスパイス等も取り扱っており、多くのレストランやパティスリーに提供しています。

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株式会社フルッタフルッタ


出典:https://www.frutafruta.com/business/

アマゾンフルーツをふんだんに使ったアサイードリンクなどを販売する「株式会社フルッタフルッタ」。アグロフォレストリーの拡大に貢献する目的で作られた企業で、環境に配慮した取り組みも積極的に行っています。

アマゾンフルーツや香辛料、樹脂、木材などを栽培する「CAMTA(トメアス総合農業協同組合)」とパートナーとして歩む、注目の企業です。

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株式会社Dari K


出典:https://www.dari-k.com/item/

チョコレートメーカー「株式会社Dari K」は、チョコレート用のカカオだけではなくフルーツやナッツの混植を行うアグロフォレストリーを推進。育てているものでもあるカカオはもちろん、フルーツやナッツ類の販売も行っています。

高品質なカカオの時には、きちんと対価を支払うといった「生産者が勝ち取るフェアトレード」をポリシーとしている企業でもあり、消費者にとっても生産者にとっても魅力的な商品を作り続けています。

高品質なカカオを使ったチョコレートは、一度食べてみる価値のある逸品でしょう。

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宮出珈琲園


出典:https://coffee-tree.stores.jp/items/5afce0805f7866120d00156a

コーヒーの栽培を行う「宮出珈琲園」では、コーヒー以外にもグァバやモリンガといった木を植樹。将来的には本格的なアグロフォレストリーを目指しているとのことで、その動向にも注目したい農園になっています。

オフィシャルショップでは、「サブスクリプション型オーナー制度」も募集しています。

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より豊かな生産活動を行うために。

農業と林業の共存を意味する農法・アグロフォレストリー。

サスティナブルであることがより重要になる時代により注目される農法となるでしょう。

地球を大切にしながら、その恵みで生産を行っていく手法で持続可能な社会にまた一歩、近づくことができるかも知れません。

続いて「パーマカルチャー」について解説します。

 

パーマカルチャー|共生する持続可能な農的暮らしのデザインとは?

昨今、サスティナビリティーや環境保全などの重要性が叫ばれている中で、パーマカルチャーの考え方が注目を集めています。

パーマカルチャーとは、パーマネント(永久な)とアグリカルチャ-(農業)もしくはカルチャー(文化)を掛け合わせた造語で、持続可能な環境デザインを指す言葉です。

環境問題などが深刻化している今、パーマカルチャーから現代人の私たちは学べる考え方が多くあるので、当記事でパーマカルチャーとは何で、私たちにできることは何かを解説できればと思います。

また、多くの方は自給自足ができる環境には住んでいないかと思いますので、都会にいてもできるパーマカルチャーの実践方法を紹介いたします。

 

パーマカルチャーとは?

パーマカルチャーとは、パーマネント(永久な)とアグリカルチャ-(農業)もしくはカルチャー(文化)を掛け合わせた造語で、人と自然が共生して持続可能かつ豊かになる関係を築くための環境デザインのことです。

1970年代にオーストラリア南部のタスマニア島で暮らしていたビル・モリソンとデイヴィッド・ホルムグレンによってパーマカルチャーは構築されました。

 

パーマカルチャーを構成する原理原則

パーマカルチャーの3つの倫理と12の原則、5つの態度
パーマカルチャーの3つの倫理と12の原則、5つの態度

「持続可能かつ豊かになる関係を築くための環境デザイン」はどこか難しそうに聞こえるかも知れませんが、パーマカルチャーを構成するのは、シンプルな3つの倫理と、12の原則からなる原理原則、そして5つの態度です。

それさえ理解できれば、基本は理解できたも同然。ここでは、3つの倫理と、12の原則を詳しく紹介します。

 

パーマカルチャー3つの倫理

パーマカルチャーは非常にシンプルな3つの倫理からなります。

    • 地球に配慮する(Earth Care)

地球の存在なしに人類も存在できないため、地球には最大限に配慮する

    • 人びとに配慮する(People Care)

自分や近くの人々、そして子孫に配慮する

    • 公平な分かち合い(Fair Share)

自然がもたらす恵みを、みんなで公平に分け合う

母なる地球に配慮した上で、自分の近くにいる人たち、加えて後の世代にも配慮する。

そして、地球の自然がもたらした恵みを、周りの人々と公平に分け合う。そんなシンプルな原則がパーマカルチャーの3つの倫理に込められています。

 

12の原則

次に12の原則に関して見ていきますが、これは3つの倫理を具体的なアクションに落としたものだと理解するとわかりやすいでしょう。

  1. 観察と相互作用
  2. エネルギーの獲得と貯蔵
  3. 収穫せよ
  4. 自律とフィードバックの活用
  5. 再生可能な資源やサービスの利用と評価
  6. ゴミを生み出さない
  7. パターンから詳細までのデザイン
  8. 分離よりも統合
  9. ゆっくり、小さな解決を
  10. 多様性の活用と尊重
  11. 接点の活用と辺境の評価
  12. 変化に対しての創造的な利用と対応

1つ1つの原則を見ていくと、自然の営みの中で、多様性を重視しながら、共生するデザインを構成していることがよく分かるのではないでしょうか。

 

5つの態度

上記の3つの倫理と12の原則以外に、パーマカルチャーでは、心の持ち用として次の5つの態度を重要にしています。

    • problem is the solution

問題は解決でもある。捉え方次第だ。

    • the yield is theoretically unlimited

資源の可能性は情報と想像力があれば無限大

    • work with nature, not against

自然と共生しよう、対するのではなく

    • everything gardens

全ての生き物には適した生き方がある

    • least change for the greater effect

最小の変化で最大の効果を

倫理や原則も大事ですが、物事をどのように捉えるのかも、パーマカルチャーを支える重要な要素です。

パーマカルチャーの5つの態度には、自然と共生するための態度だけではなく、人生においても重要なレッスンが詰まっていることが伺えます。

都会でもできるパーマカルチャーの暮らしのアイディア

ここまでパーマカルチャーとは何か、そしてパーマカルチャーの原理原則を紹介してきましたが、多くの方にとってその全てを実践に移すには少しハードルが高すぎるでしょう。

一方で、持続可能性に対して興味がある方にとっては、パーマカルチャーを日常に取り入れたいものかと思います。

そこで、次に都会にいてもできる、パーマカルチャーの実践方法(アーバンパーマカルチャー)を7つお伝えいたしますので、ぜひ興味を持ったアクションから試してみてください。

Edible Garden(エディブルガーデン)

コンパニオンプランツのエディブルガーデン
エディブルガーデンとは、食べられる植物を育てている庭のこと。

パーマカルチャーにおけるエディブルガーデンは、様々な植物が共生し植物同士の関係性を育んでいきます。

一見めんどくさそうに聞こえますが、家庭のゴミをミミズに与えて土を作るミミズコンポストや、1つのプランターに複数の植物を育てて共生を促すコンパニオンプランツのように、それぞれの植物の特性を知って、デザインしてあげれば、手入れは少なくて済むものです。

特にトマトとバジル、パセリとチャイブは相性の良いコンパニオンとして知られています。

自分で手入れした植物は愛情も込もっているので、より美味しく感じますよ。

 

Compost(コンポスト)

コンポストは、生ゴミを堆肥に変える処理方法のことを言います。

家で出る生ゴミはそのまま捨てればゴミですが、コンポストすれば栄養となります。12の原則にあるゴミを出さないにも当てはまりますし、自然の中で落ち葉や動物の死骸が土になっていく過程を考えれば地球と共生していると言えます。

またコンポストをすれば、「生ゴミが栄養となり、次の植物を育て、そしてその植物からでた生ゴミをまたコンポストする」といった具合に全てが循環して、自然の一部であることが実感できるはずです。

 

DIY

DIYはご存知の通り、Do It Yourselfの略で、自分で作ることを意味します。

ただ、パーマカルチャーにおいては、DIYは単なる日曜大工ではなく、資源を最大限有効に活用することをその過程で学ぶ方法です。

DIYをすることで単なる消費者から創造者になることができ、作られた選択肢を消費する者ではなく、自立するものとして、様々な生活の知恵を得ることができます。

 

ポットラック

ポットラックパーティ
ポットラックは、みんなが持ち寄ったご飯を食べる与え合いの場です。

3つの倫理のFair Shareにもありますが、ご飯という自然の恵をみんなで分け合って食べるという行為は、ものすごく自然の摂理に近いもの。

どこで取れた野菜で、どんな調理方法でみたいなコミュニケーションも自然と生まれるので、寂しさを感じやすい都会だからこそ、ポットラックはもってこいではないでしょうか。

 

寄付

グローバリズムに変わる新たなムーブメントとして注目を集めているのが与え合いで成り立つ経済ギフトエコノミー。

与えれば与えるほど、減るように感じるかも知れませんが、自然の摂理で考えると、与えたものは循環してあなたの手元に最終的には増えるようになります。

寄付をするのも立派なギフトエコノミーの1つ。

クラウドファンディングをはじめ、様々な寄付先があると思いますので、ぜひ寄付を実践してみてください。

 

マインドフルネス

瞑想を取り入れるアーバンパーマカルチャー

マインドフルネスはアメリカIT企業でも取り入れられており、注目度が上がっています。

瞑想をすることで、『今、この瞬間』を大切にする生き方だとも言えるでしょう。

瞑想では、呼吸に意識を向け、1つのことに集中します。そうすると、より深いレベルで今吸っている空気、それを作り出している木々などの自然を感じ取ることができます。

自然と共生していくことがテーマのパーマカルチャーにおいて、重要なことが詰まっているのではないでしょうか。

 

デジタルデトックス

デジタルデトックスとは、デジタルデバイスに触らないことで、心身ともにリラックスする時間を作る取り組みです。

デジタルデバイスから離れることで、現代の情報やSNSによる強制的な繋がりから脱出し、自分を見つめ直したり、自然との繋がりを再び取り戻すことができます。

都会に生きる忙しい現代人は特に、瞑想とセットで取り組んでみてもいいのではないでしょうか。

 

日本でパーマカルチャーを体験できる場所

このように自然と共生するには理想的な考え方のパーマカルチャーですが、気になる方は実際に体験することが可能です。

ここでは、日本でパーマカルチャーが体験できる有名なスポットを3つ紹介いたします。

パーマカルチャー安房

パーマカルチャー安房は千葉にあるパーマカルチャーコミュニティー。

パーマカルチャーの父、ビルモリソンから学んだ本間フィル・キャッシュマンが設立し、パーマカルチャーの研究と実践に励んでいます。

ワークショップも行っているので、興味がある方は足を運んでみてはいかがでしょうか。

三角エコビレッジサイハテ

三角エコビレッジサイハテは熊本県宇城市にある、敷地面積1万坪を誇るエコヴィレッジ。

東日本大震災があった2011年に開村しました。

住むだけではなく、気軽な宿泊プランや体験プランなども用意されているので、パーマカルチャーを気軽に楽しみたい方はぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

パーマカルチャーセンタージャパン

パーマカルチャーセンタージャパン(PCCJ)は1996年06月に神奈川県藤野町(現相模原市緑区)に設立された施設です。

日本で唯一、パーマカルチャーデザイナーの資格を取得することの出来る施設として知られています。

パーマカルチャーを本気で学んでみたい方にぴったりの施設だと言えるでしょう。

おわりに

後半ではパーマカルチャーの概要や原理原則を紹介し、都会でも実践できるパーマカルチャーと、日本でパーマカルチャーを体験できる場所を紹介しました。

忙しい現代に生きる私たちだからこそ、自然と共生し、持続可能な生き方を目指すパーマカルチャーからは学ぶことが多いのではないでしょうか。

気になる項目や、取り入れたいパーマカルチャーの考え方はありましたでしょうか?

それでは、最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

               
ライター:Ethical Choice編集部
Ethical Choice編集部です。エシカルな生活を送る知恵、サスティナビリティに関する取り組み、環境問題に対するソリューションを発信いたします。

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※本記事はエシカルな情報提供を目的としており、本記事内で紹介されている商品・サービス等の契約締結における代理や媒介、斡旋をするものではありません。また、商品・サービス等の成果を保証するものでもございません
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