「地方創生はDXデザインで実現可能なのか!? DXのに求められる本質。
2024.06.20

「地方創生はDXデザインで実現可能なのか!?」DXのに求められる本質。


「デジタルトランスフォーメーション(以下:DX)」は地方創生にこそ有効である。

今、自治体に求められる課題はDX。デジタルを住民の利便性向上にどう活かしていくかが問われている。効率よくかつ親しみやすいDXデザインのありようを追求することは、DXの概念自体を深堀りすることにつながる。

地方の自治体では現在、人口減少やそれに伴う経済衰退が起きる一方、SDGsの遂行も必須とされ、DXで地域力をいかに保つか、また強化するかも命題となっている。

山口県の周南公立大学情報科学部の野村典文教授は、メーカーでの技術者を経て、商社系IT企業での20年以上に及ぶシステムコンサルティング経験を持ち、以降も大学教員で教鞭を執るかたわら、産学連携による教育プログラム開発及びAI推進に携わり、企業又は自治体等のDX化に貢献してきた。

斯界のエキスパートがDXデザインで地域社会にもたらす変革、その挑戦、および将来像について詳しく解説する。

野村 典文
インタビュイー
野村 典文氏
周南公立大学 情報科学部 情報科学科
教授
専門はソフトウエア工学、要求工学、デザイン思考を活用したサービスデザイン、データサイエンス分野(AI/機械学習)の戦略立案。博士号(数理情報学)の他、技術士(情報工学)や高度情報処理技術者(プロジェクトマネージャ)の資格を持つ。


民間企業での実践を通じ、顧客の要求を抽出する〈要求工学〉を究めた野村教授


周南公立大学 取材イメージ画像
―――まず先生の研究テーマ、概要について教えてください

私が専門にしている領域はコンピュータサイエンスです。その中でも私の専門は、ソフトウェア工学と呼ばれている部分になります。コンピュータサイエンス自体は、計算機ハードウエア、ネットワーク、企業情報システム、ソフトウェアアルゴリズムなど幅広いですが、そういうものではなく、まさにソフトウェアを開発していくプロセスや設計手法を研究しています。

―――DX化の推奨は、数年前から言及されていますが、企業のDXとはどのような施策なのでしょうか?

経済産業省が説くDXは、デジタル化することが目的ではなくて、企業の経営や事業自体の変革を重要視してきました。つまり企業経営において、「トランスフォーメーション(日本語で変化・変形・変容の意)」が生まれれば、デジタルかアナログかはどちらでも良いということになります。

ですが私はDXというものは、“デジタル技術を使うことで、今まで解決できなかった課題が解決できるようになる”ことだと考えています。

例えば、今までの技術や運用方法では、見える化できなかった事象を数値化して見える化できるようになったり、予測できなかったことが予測できるようになったりするのもDXだと思うんです。

またリモートワークが良い例かもしれませんが、時間や空間的な制約からも開放される可能性も秘めています。

このようにDXを推進することで、仕事の課題を取り除き、人間の仕事の可能性を広げることができると考えています。

DXデザインを地方創生に応用する際に用いる地方DXマップとは?


周南公立大学 取材イメージ画像
―――現在DXデザインによる地方創生のご研究をされていると思うのですが、DXデザインを地方創生に応用する際の基本原則とは何でしょう?

地方におけるDXデザインは、地域の高齢化や過疎化、インフラの整備が追いついていない地域における人々の生活支援や課題解決が出発点となります。

実際に地方都市や郊外エリアでは、地域の高齢化や過疎化が進行しているのが現状です。またこのような地域では、インフラも老朽化しています。その結果、防災のためのインフラメンテナンスも疎かになり、災害も発生しやすい環境となっているんです。

その中でも深刻なのが、公共交通機関です。過疎地域の運営会社は、常に赤字経営の状態です。

乗客も少ないので、バスや電車の本数なんて1時間に1本しかありません。ですが学生は朝と夕方は通学に使いたいので、バスの運行がなくなると困りますよね。しかし、働いている人はバス移動の不便さが増すため、自家用車を使います。

また自家用車がないとお年寄りは、生活に大きな支障をきたすため、免許返納できません。
このように選択肢が狭められてしまい、住民の生活に負担が生じたりや住みにくさに繋がっていくわけです…。

―――なるほど…地方都市や郊外ならではの問題ですね。人の生活と人口問題、インフラの問題が複雑に絡みあっていると言うか…

おっしゃる通りです。そこで私は、「地方DXマップ」というものを考えました。地方DXマップは、地方課題と住民のライフタイムアクティビティがクロスしたところにデジタルでの解決手段を表現したマップです。

また、本マップは、地方課題をDXによって解決するための優先順位を決める材料として使うこともできます。

このマップは、自治体担当者の方と課題の優先順位や課題間の関連性などを話し合いながら精度を上げていきます。

周南公立大学 取材解説スライド
この図を見ていただきたんですが、横方向は地域住民のライフタイムアクティビティです。一方で図の縦側が地方課題を表しています。

横軸のライフアクティビティは、健康、食事、住む、移動、働く、学ぶなど住民の普段の生活を指しています。実際にこのようなライフアクティビティは、住民にとって生活をする上で必要な要素として捉えられているんです。

また、縦軸の地方課題は、 少子高齢化による労働人口の減少、インフラの老朽化による維持コスト増、先ほども説明しました公共交通減少による交通難民など、人口減少や高齢化が進む地域での共通課題です。

ここで縦軸の公共交通減少による交通難民の例を見てみましょう。そうすると、横軸のライフタイムアクティビティでは、最初に住む、移動の問題が見えてきます。その解決策としてオンデマンド交通(希望した時間に希望した場所に行ける交通)という解決案が抽出できます。いわゆる「MaaS(マース/Mobility as a Service)」と呼ばれる仕組みで、乗り合いタクシーであったり、オンデマンドバスなどが該当します。
さらに、交通機関がない地域では移動の負担が多いので、多少の体調不良では病院にいかないケースがあります。関連対策として遠隔医療や訪問介護という手段にもつながってきます。また、個人バイタル管理などは、高齢者の健康を維持するための予防医療の推進などにつながります。

周南公立大学 取材解説スライド
このMaaS領域に関連するDX化の推奨が、図の赤い矢印です。オンデマンドの公共交通やタクシーを使用する際には、小銭より電子決済のほうがスムーズに自動車へ乗り降りできます。またこのMaaSによるオンデマンド交通は、訪問医療や訪問介護などに応用できる可能性も秘めているわけです。

周南公立大学 取材解説スライド

DXデザインのために必要な考え方として、欠かせない3つのポイント


周南公立大学 取材イメージ画像
―――DXが地域社会で広く受け入れられるためには、どのような対処すべきでしょうか?

DXデザインのために必要な考え方として、3つのポイントがあります。

周南公立大学 取材解説スライド
1つは、「DXによる最大の価値と共感」2つ目は「エコシステム」、そして3つ目は「ステークホルダー」です。

まず、1つめの「DXによる最大の価値と共感」は、DXによって生み出される最大の価値に利用者が共感してくれることを指します。利用者からの共感を得られないサービスは、DXの取り組みに注力しても必ず頓挫します。DXを継続・維持していくためには、利用者の共感はもちろん、共同運営している事業者や関係する人からの共感を得ることが重要です。そのため、DXによる共感をどのように生み出すのかという戦略や仕組みづくりが、プロジェクト成功の鍵を握っています。

もう2つ目は、エコシステムです。例えば、自社だけで何かのITサービスを生み出すのは、非常に難しいのが現状です。様々なスキルを持った人が協力して初めて、デジタル技術の本領が発揮されるわけですよね。

先ほどのMaaSの特徴として、まずドライバーと利用者をマッチングするサービスを運営する企業が必要です。

そして交通会社と利用者は、そのサービスを利用する必要があります。そして必要に応じて、病院や商業施設と企業が提携してサービスを利用できる環境を整える必要もあります。このように運営会社、利用者、事業提携先が円滑に機能することで、はじめてサービスの価値が産まれるわけです。つまり、これら3つが絶え間なく循環し、機能するための仕組みづくりが重要になります。

そして3つ目ですが、「ステークホルダー」が重要となります。ステークホルダーは、利害関係者を表現する言葉です。

MaaSの例で言えば、自治体、利用者サービスの運営会社も商業施設や医療機関もステークホルダーとなります。特にMaaSの公共事業というのは、ステークホルダー全員がWin-Winな状態を実現する必要があります。

どれか1つだけが、儲かる仕組みはうまくいきません。参加者がすべてWin-Winで利益が出て、何らかの価値も出るような仕組みを設計する必要があります。

―――ありがとうございます。DXが地域社会に受け入れられていく上で、最も重要になってくる課題はなんでしょうか?

結論からお伝えすると、新しい変化・改革が起こりにくい環境が課題だと感じています。

年齢が若い働く世代やZ世代などは、変化に柔軟に対応することが可能ですが、年配の方たちにとって変化を受け入れることは負担がかかります。

体力的な問題もありますし、スマートフォンなどの複雑な機能を覚えるまでには時間もかかってしまいますよね ―― 今まで体験・経験がないものに対する、疑念を抱いてしまうのは無理もないことだと思います。

またタクシーの相乗りサービスを導入した事例では、東京と過疎地域で導入後の利用者の反応も変わってくるケースがあります。

東京をはじめとした都心部は、同じ目的地に向かうという明確な目的があるので、相乗りに抵抗は感じないそうです。

しかし地方の高齢者は、ライドシェアのサービスに対して知らない人と一緒にタクシーに乗ることに抵抗意識があるようです。

しかし、はじめは抵抗があったサービスも時間が経過するに連れて『タクシーの相乗りで新しいお友達が増えて楽しい』という反響が増えたそうです。この事例から実際にDXによるサービスを体感し、それに利用者が共感することの重要性がわかると思います。

テレワークの普及とDXの推進で地方回帰の可能性も拡がる


周南公立大学 取材イメージ
―――地方創生のDXは、どのように変化していくのか ―― そしてDXを推進するために必要な施策は何なのか教えてください。

まず地方の過疎化が進行していては、DXに注力しても地域は活性化しません。地方大学は全国から学生が入学しますが、就職時には都心部に就職する傾向が高いです。しかし、地域の要望としては、学生が定着してくれるのが一番の希望となります。

30代後半~40代の方は、Uターンとして地域に戻ってくるケースも増加しています。この背景には、テレワークが可能になってきたことが考察されます。東京の仕事を場所に囚われず行えるのであれば、地元に戻って仕事をしたいという働く世代の方も増えてきています。地方に人を呼び戻すには、デジタルの基盤が必要となってきます。

テレワークで働く場合では、通信環境が安定している必要がありますし、生活の利便性も重要です。都心部から地方に移住しても、病院、子どもを通わせる学校までも距離が遠いのであれば、生活の負担が増し地域に定着できないリスクも考えられます。だからこそ、DXによる施策が住民にとって重要となるわけです。

地方にこそデジタルの力が必要。地方だからこそDXで変われる


周南公立大学 取材イメージ画像
―――ここまで色々とお話をお伺いしましたが、重要なことはDXを介して、世代の壁を除外し支え合うことが重要な気がしました。

そうですね。地方は住民同士の繋がりが地域の魅力だと思います。 地方(地域)の魅力が、デジタルの強みを利用することで、より強化されると考えています。

実際に地方のとある大学では、学生が高齢者を見守り、学生が不自由な高齢者の元に買い物の注文を聞きに行き、買い物代行をする施策をしています。学生はスマホでAmazonから買うこともできるし、直接スーパーに行くこともできる―― つまりITを活用して人と人との繋がりを深めていくことが可能になりました。

―――ありがとうございます。地方の地域だからこそ、ITの導入やデジタル化が重要ということですね。

そうですね。その上でお伝えしたいことは、DX化する際の考え方です。

それは、「機能面」「感情面」「社会面」の三つの領域を意識するのがDXデザインの基本です。自分たちが、機能面を利用し課題解決をおこない、社会面に良い影響があると考え、誰もが安心して利用できる感情面を考慮する必要があります。

人は現在おかれている状態に対して、本来あるべき姿をイメージすることが可能です。しかし現状から理想のイメージの間には、実現を邪魔する問題や理由が存在します。そのため、現状と理想のギャップを埋めることが課題になるわけです。

この課題は、先程もお伝えした公共交通の本数が少ない話とリンクしてきます。公共交通機関の運行本数が少ないので、しかたなく自家用車を使用している―― “この利用したくても利用できず、しかたなく別の方法で代用している”ということが理想と現実の間にある障壁です。

この障壁をどのような機能を用いて解決するのかが(これが課題)、DXにおいて重要な考えになります。以前は手段を考えても、技術が追いついてこないケースもありましたが、今はIT技術(デジタル技術)を用いれば解決できるようになってきました。社会面にも良い影響があり、感情面もカバーできる―― それが地方のDXにおける重要な要素だと思うんです。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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