金沢大学・菅沼直樹教授が作る自動運転技術の進化と未来の道
2023.12.25

金沢大学・菅沼直樹教授が作る自動運転技術の進化と未来の道


2004年に公開された映画『アイロボット』という映画をご存しだろうか? 主人公のウィル・スミスが、ロボットの反乱に抵抗するというSF映画だ。劇中でのウィル・スミスが運転するアウディの自動運転コンセプトカー「RSQ」に乗るのだが、この世界では人が自動車を運転することが危険行為とされている。

SF映画に登場するような、自動運転技術は2023年現在、実現可能なものとなった。また2019年の「東京モーターショー2019」では、「*CASE」に対応するコンセプトタイヤや自動車メーカー展示が目立ち、モビリティに対する新しい概念が提唱され、100年に1度の変革期とも言われていた。

このようにモビリティを取り囲む技術進化や概念は、日々進化しており、AI技術の発達により、自動運転技術の進化は留まるところを知らない―― そこで 今回は、金沢大学・高度モビリティ研究所の菅沼直樹教授に自動運転技術の可能性、そして自動運転自動車によって社会はどう変わっていくのかという展望についてお話をお伺いした。

菅沼 直樹
インタビュイー
菅沼 直樹氏
金沢大学 高度モビリティ研究所
副所長・教授


◆CASEとは

CASEとは「Connected」(コネクテッド)、「Autonomous」(自動運転)、「Shared & Services」(カーシェアリングとサービス/シェアリングのみを指す場合もある)、「Electric」(電気自動車)の頭文字をとった造語。2016年のパリモーターショーにおいて、ダイムラーAG・CEOでメルセデス・ベンツの会長を務めるディエター・チェッチェ氏が発表した中長期戦略の中で用いたのが始まり


金沢大学・菅沼直樹教授が取り組む自動運転技術とは?


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―――研究概要について教えてください。

私が所属している金沢大学の研究グループでは、自動運転技術の研究・開発をおこなっています。この研究は約25年前からスタートした研究で、自動車を改造しながら、車両制御技術の開発を担当している状況です。

研究室の特徴としては、8年前から実際に金沢県の公道で自動運転自動車の公道実験をおこなっています。また「*戦略的イノベーション創造プラグラム(以下:SIP)」と呼ばれる内閣府の取り組もあり、2019年からはインフラとも協調して自動運転自動車を導入するという研究もタートしました。

実際にお台場のような市街地に自動運転自動車を走行させ、信号機の色、白線の色などを情報などのデータを取得し、自動運転自動車を一般的な交通利用として実現するための研究をおこなっているんです。

――かなり前から自動運転自動車や自動運転技術の研究をされていたんですね!昨今の自動運転技術において最も進んでいる分野や研究成果は何かありますか?

市街地での自動運転技術の研究は、5年・10年前に比べて進んだと思います。実際に金沢以外でも関東圏、北海道などの実験も行いました。この研究の進歩の背景では、ディープラーニング(深層学習)、つまりAI技術が進化したことが要因です。

これまでの研究は、我々のような専門家がソフトウェアやアルゴリズムを生成して自動運転システムを構築するという流れでした。ですが最近では、研究者や技術者がデータを取得して、AIを学習させると、自動運転の自動車が賢くなるという技術の進歩があったんです。

*出典:内閣府『SIPとは

自動運転技術によって、インフラや物流業界の課題を解決できる


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―――自動運転の実現に向けて最大の技術的課題は何だと思いますか?

現代では、自動運技術に関する課題点はたくさんあります。

例えば、悪天候の時に車からの視界が悪く、自動車のセンサーが、信号の色を適切に認知できず、車両を適切に操作できない可能性もありますよね。

またインフラ面での課題は、白線がハッキリと書かれている道路は問題ないのですが、消えかかっていたり、白線がなかったりする道路で車両をどのように制御するのかという問題があります。

またインフラと絡んだ話しでは、見通しの悪い交差点における判断があります。

人が運転している場合、見通しが悪い交差点に差し掛かったら、見通しが悪いものの状況判断をし、安全に配慮した上で自動車を走らせると思います。ただしあくまで見通しの悪い交差点を走行しているため、ある意味リスクを負いながら走行させている状態となっているとも考えられます。

一方、自動運転システムがそのようなリスクと伴う環境下において、自律的に判断させること自体がそもそも問題になるのではないか―――という技術的・倫理的な課題が存在しているといった問題もあります。

―――なるほど一方で、自動運転技術の発展における、インフラ面での課題は何かありますか?

インフラ面でいうと、自動運転の技術をサポートする技術や整備が発展途上というのが課題ですね。ですが、技術的な課題をカバーするための取り組みがあります。

実際に新東名高速道路では、政府の後ろ盾の元で、自動運転の専用レーン(優先で自動運転自動車が走れるレーン)を整備する取り組みをしているんです。

また自動運転技術をサポートするための、カメラやセンサーなどの技術的なボトムアップを図る取り組みもしていますね。技術のボトムアップと政府が環境を整えていくことで、日本全体の社会課題の解決にアプローチしようとする流れが来ていると思います。

実際に物量業界の人手不足が問題視されている日本において、大型トラックによる幹線輸送だけでも自動運転技術により、省力化できれば、インフラや物流業界の課題解決ができると言われています。

自動運転技術の発展が、都市構造(街づくり)も変化する。


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―――自動運転技術の発展が社会に与える影響についてどのように考えますか?

わかりやすい部分では、自動運転技術が世の中に広がっていくことで、人手不足を解消していきます。人手不足は、日本だけではなくて、世界でも問題視されており、物流業界・公共交通の人手不足を解消することに繋がります。

都心部はタクシーなどの交通手段がありますが、地方都市や過疎地域では、バスが廃線になっているため都市部と地方では移動による格差が生じているんです。自動運転が、実用化されることで、人手不足が解消され人の移動に関する様々な社会課題にアプローチできます。

一方で、少し先の未来を考えた時には、自動運転技術に伴い、都市構造(街づくり)も変化する可能性があります。例えば都心部ではあまりありませんが、地方都市の駅では駅近辺に大規模な専用駐車場が整備されていますよね。

人が駅まで車で移動して、現地で下車したら、車は別の場所に移れば良いだけなのに、大型の駐車場によって土地の利用方法が最適化されていないという課題も存在しています。また街の中での交通のあり方も変わると思います。街の中心部では、ヒューマンエラーで事故を起こす可能性がある自動車が、人の近くをそもそも走るべきなのか―――という議論もされているのが現状です。

例えば50年前くらいには路面電車が、東京の都心部を走っていましたよね。ですがクルマというモータリゼーションが普及したことで、路面電車がなくなり、クルマが街中を移動する前提で都市構造が変化していきました。このような現象と同じように、自動運転技術の普及によって、都市や街のあり方が変わってくることが予想されます。

自動運転自動車の移動に伴って道の幅が変わったり、駐車場の数が制限されて別の活用方法が実現できたりするような都市構造に変わる可能性は十分考えられます。実際にヨーロッパ圏の都市では、このような検討が行われている事例もありますね。

自動運転技術により、人が起こす事故よりもリスクを軽減。より安全な社会に近づける。


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―――一方で、自動運転技術によるリスクも内在している気がします。自動運転技術における倫理的な判断基準などあるのでしょうか?

難しい問題なのですが、基本的な考えは国連で定義されており、「自動車基準調和世界フォーラム(以下:WP29)」というセクションが、考えを定義しています。その定義は、『合理的に予見可能であり、かつ防止可能な傷害または死亡をもたらす交通事故を起こさないこと』『ドライバーや他の道路利用者に対して不合理な安全上のリスクがなく、道路交通規制を確実に遵守する』という考え方があります。

ですが、頻度・程度は明確に表されていなく、国や地域によって判断が委ねられる状況です。

では何が最適かを考えたときに、前提として自動運転の自動車が事故を起こしてもいいとは思っていません。ですが、人間が運転した自動車よりも、自動運転技術の自動車の方が事故のリスクを減らすことができたり、事故の程度を軽減したりすることで、より安全な社会に近づいているということは、サービス提供者も研究機関側も伝えていくべきだと考えていますし、将来的には実現できると思っています。

―――なるほど!個人的には、はやく自動運転技術が早く世の中に導入する世界があれば良いと思っているんです…時速何十キロで走る鉄の塊を運転するのってそもそもリスクですよね…

確かにそうですね。安全面だけではなくて、移動に関してのハードルが、人の生活の質を落とすことにも繋がりますよね。地方に行くと自動車ないと生活できない地域が多いので、モビリティツールによって移動格差が減ることで、生活の質は上がると思います。

自動運転技術が、私生活の中心になる世界が来る


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―――自動運転技術は、5年後、10年後モビリティ自体の概念を変えると思いますが、どのように進化・発展しますか?

現在、自動運転技術は、さまざまな研究や実証実験が進んでいます。その先にまずは、自動運転のクルマやモビリティツールを公共交通機関に取り入れることが重要です。

また技術進化でいえば、AIを導入することで実現できる自動運転技術が進化してきました。例えば、今までは、自動運転自動車にたくさんのセンサーを設置する必要があったんです。ですが今は、AIの進化により安価なセンサーでも、より鮮明且つ正確に見えるようになってきました。

また昔は高精度の地図をAIに学ばせないとダメでしたが、カーナビ程度の地図データを学習させれば、目的地まで到着するということも技術的には可能になってきたんです。

このような背景を踏まえると、公共交通の枠を超えて、個人でも自動運転技術の自動車を所有することが可能な世界が実現できると思います。そして一部の人ではなくて、多くの人が活用する未来に10年先にシフトしていく可能性があります。

そして、移動という手段でもなくて、移動中に仕事がでたり、カラオケなどのエンタメとして活用できたり、自動運転技術が、自分の生活の中心として利用する世界が来るとはずです。そして、街づくり自体が大きく変わる世界がやってくるのですが、その分岐点には、自動運転の自動車がオーナーカーとして一般消費者に普及してからだと考えていますね。

安全性のエビデンスを伝え、国家全体で未来を創造していくことが重要。


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―――ありがとうございます。このような技術進化と私たちはどのように向き合い、付き合えばいいのでしょうか?

難しい側面ですよね。年代にもよりますが、スマホに抵抗がある人も数年前にはいたと思います。ですが、現在は今老若男女を問わずスマホを利用していますよね。このような技術導入は徐々に解決しますが、スピード感が一つ重要です。

クルマでいうと「移動する」という行為は、人間の根本的な欲求があり、その根本的な欲求を満たすために、クルマや電車という移動手段が存在しています。

移動手段の必要性という観点では、クルマの重要度を理解している方がほとんどだと思います。その上で新しい乗り物であり移動手段をどれだけ早く、一人ひとりが、受け入れていくかは、重要な課題です。

この課題を解消するためには、自動運転自動車を生活に取り入れることで、どのように生活の質が上がるのか、便利な毎日になるのかを、サービス提供者側や研究者たちが伝えていくことも重用になっていきます。

一方で、利便性だけではなく、安全性を伝えるということも必要不可欠です。安全性を伝えるためには、証拠(エビデンス)を明確に伝える必要があり、このエビデンスをどのように伝えるのかは、事業者・研究者だけではなくて、メディアやPR機構などと連携していくことが重用になっていきます。

―――なるほど… ここまでのお話を聞いていると、自動運転技術や自動運転自動車は、モビリティ業界はもちろん、都市構造まで変える、革新的な技術ということがわかりました!最後の質問ですが、読者の方にメッセージは何かありますか?

クルマ自体は便利な乗り物であるというのは、一般的な共通理解かもしれません。その上でクルマという便利な乗り物をどのように活用していくのかという手法を考えることが、将来にとっても大切になってくると思います。

今は人がクルマを運転していますが、将来的にはAI技術の進化と共に、人の目に変わる技術や脳に変わるようなシステムが導入されるはずです。

今でも自動車には、緊急ブレーキシステムなども含めて、運転をサポートする技術はすでに販売されています。このように、便利な技術を自分が体験し、自分にとって価値のある技術であるということをまずは知ってほしいですね。

そして、安心・安全な移動手段ということだけではなくて、自分の生活の一部になり、世の中が便利になる―― そして、移動に対する障壁をなくす次、世代のツールになるということを理解していただきたいですね。

そして、世の中がより便利になり、人がより安全で生活がしやすい世界になってほしいですね。ですが、私たち技術者だけでは、この世界は実現できません。一人ひとりの意識が変わり、国家全体で意識や考え方を変えていく必要があります――

そのため、研究者やサービス提供者側だけではなくて、一般の人にも参加してもらい、未来を一緒に創造していけたら嬉しいですね。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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