仕掛け人に聞く! 日本発のサメ映画『温泉シャーク』が バズった本当の理由
2024.08.02

仕掛け人に聞く! 日本発のサメ映画『温泉シャーク』が バズった本当の理由


2024年7月5日より、全国の劇場で公開中の日本発サメ映画『温泉シャーク』が異例の快進撃を続けている。

インディペンデント系映画というと、ミニシアターなど小規模な劇場での単館上映が一般的だが、『温泉シャーク』は109シネマズやイオンシネマなど、30館以上におよぶ映画館での全国公開を実現し、その後もさらに上映館を増やしている。

この快進撃の背景に目を向けてみると、SNSを駆使した情報発信、クラウドファンディングでの資金調達などなど、ユニークな宣伝・マーケティング活動が功を奏した様子がうかがわれる。

そこで、仕掛け人である映画プロデューサーで株式会社PLAN A代表の永田雅之氏と、本作において映画宣伝AI世界初(※アバンド調べ)の試みとなるプロモーション用AIシステムを開発した株式会社アバンド代表の青木達夫氏のふたりに登場していただき、企画から公開までのいきさつや、未来の映画プロモーション手法の新たな可能性などについて話を聞いてみた。

永田 雅之
インタビュイー
永田 雅之氏
映画プロデューサー
株式会社PLAN A代表

青木 達夫
インタビュイー
青木 達夫氏
株式会社アバンド代表


「熱海を怪獣の聖地」にするという野望が生んだ奇跡のアイデア、それが温泉シャーク


温泉シャーク取材用画像
―――まずは、映画『温泉シャーク』の「特撮×温泉×サメの大群」という奇想天外なコンセプトが、どんな発想から生まれたのかをお教えいただけますか?

永田:私は東京のテレビ番組の制作会社の映像ディレクターとしてキャリアをスタートさせ、その後、バラエティ番組やCM制作の仕事をしてきた者なんですが、今から7年前の2017年に熱海に移住したことをきっかけに、この町のまちおこし活動に参加するようになったんです。

例えば、熱海を舞台とした映画をプロデュースしたり、熱海怪獣映画祭の運営にたずさわったりする活動ですね。

熱海は映画館のない町なんですが、熱海怪獣映画祭はそんな町を「怪獣の聖地」にすることをスローガンに設立された映画祭です。2018年からスタートして、現在も続いています。自分は、途中3年ほど運営のお手伝いをさせていただきました。

『温泉シャーク』の企画は、そんな活動を背景に生まれたアイデアです。
温泉とサメ、どちらが先だったかはよく覚えていませんが、サメ映画の元祖である『ジョーズ』の舞台となったアミティ島(マサチューセッツ州のマーサズ・ ビニヤード島)がサメ映画ファンの聖地として多くの観光客を呼んでいることが頭の片隅にあって、これを熱海観光の特徴のひとつである温泉と組み合わせて一本の映画にできないだろうか……そんなふうに考えていったように思います。

このアイデアを熱海怪獣映画祭に参加していた井上森人さんに話したところ、「おもしろい」と言ってくださったのです。井上監督は、全国自主怪獣映画選手権で2連覇優勝を成し遂げた才人で、熱海市(劇中ではS県暑海市)を舞台にした特撮アクション・サメ映画の脚本・監督を引き受けてくれたんです。
それが、2022年のことでした。

―――ただ、この企画はコロナ禍と熱海市伊豆山土石流災害が起こったことによって、いったん頓挫してしまったそううですね?

永田:ええ、そうなんです。再始動の動きがようやく始まったのは、企画発案から3〜4年後の2023年のことでした。

まず、クラウドファンディングで支援を呼びかけることから手をつけたんですが、実は当初は乗り気ではなかったんです。
ネットを通じて不特定多数の人たちから出資してもらうといっても、過去の経験から、そう簡単に資金が集まるものではないと思っていました。資金調達をするなら、もっと効率のいい方法があるのではないかと。

ただ、『温泉シャーク』の場合は、資金調達だけでなく、別の意義があるのではないと考えて、やってみることにしました。

サメ映画というと、『ジョーズ』のような名作だけでなくて、低予算で作られたB級映画を思い浮かべる人が多いかもしれません。でもその一方で、そのような低予算ながらも知恵と工夫をこらして作りあげた作品に強烈な愛着を抱いているコアなファンがいるのもこのジャンル独特の特徴です。

もし、そうしたコアなサメ映画ファンが注目してくれれば、効果的な宣伝になるんじゃないかと考えたんですね。映画に出資することで、映画作りに参加する楽しみを提供できるわけですから。

図に当たった観客クラファン巻き込み作戦(つまりこれもサメの罠!?)


温泉シャーク取材用画像
―――その結果、募集開始から5時間で目標額の100万円を達成し、最終的には1278人の支援者から1140万6,100円もの支援金が寄せられたといいます。まさに、狙いが図に当たったわけですね?

永田:そうですね。予想していた以上の反響でした。

支援してくださった方々へのリターンとして、初号試写や初号DVDを視聴できるプランや、撮影で使用したサメの尾びれと背びれのレプリカをプレゼントするプランなど、さまざまな企画を用意していたんですが、なかでも1口1000円で申し込める「サメマシマシプラン」には人気が殺到しました。

これは、1支援ごとに映画本編にサメ1匹が登場するというもので、「サメ映画といってもB級サメ映画にはサメはなかなか登場しない」というサメ映画ファンの間では「あるある話」になっている常識を逆手にとった企画で、全部で432口の申し込みがありました。

温泉シャーク取材用画像
―――そのような仕掛けで、サメ映画ファンを映画作りに巻き込んでいったわけですね?

永田:思えば『温泉シャーク』は、さまざまな人を映画作りに巻き込んでいくパワーを持った作品だったように思います。

例えば、お笑い芸人のサンシャイン池崎さんは大のサメ映画ファンで、かなり早い時期から支援を申し出てくれました。「出演させてほしい」という話もあったんですが、残念ながらスケジュールが合わず、ならば他の形で支援をしたいと言っていただいて、予告編の絶叫ナレーションを担当してもらいました。

こうした流れについて、監督の井上森人はこんなことを言っていました。

「映画というもの、特に自主映画は、最初にあんなことをやってみたい、こんなことをやってみたいという理想を持ってスタートするが、そのすべてを実現できるわけではない。最終的にできあがった映画は、予算やスケジュールなどのさまざまな制約のなかで引き算されて生まれたもの。

だが、『温泉シャーク』はさまざまな人の想いが結集して、奇跡的な足し算で生まれた稀有な作品だと思う」と。

■温泉シャーク予告編
▲クラファンで参加したサンシャイン池崎さんの「おいおいおい!!どんだけサメ出てくるんだよぉーっ!!!!!」にサメへの愛を感じる予告編。

大資本のメジャー映画でないからこそやりたいことを自由にできた温泉シャーク


温泉シャーク取材用画像
―――本作においてプロモーション用AIシステムを開発した株式会社アバンド代表の青木さんも、映画作りのうねりに巻き込まれたうちのひとりだったわけですね?

青木:はい、その通りです(笑)。

最初に声をかけていただいたのは、まだ脚本しかない段階だったころで、熱海駅前のマクドナルドで永田さんとお会いしたのは、「劇場用パンフレットに御社の宣伝広告を出稿しませんか?」とのお誘いについて、説明を聞くためでした。

ウチはIoTモジュールやデスクトップAIといった技術を提供して、さまざまな製品・サービスを開発している会社ですが、自社開発のオリジナル商品を多く持っているわけではないので宣伝広告を出すことについては、あまり前向きに考えていませんでした。

ただ、説明を聞けば聞くほど、『温泉シャーク』という企画のおもしろさに興味を惹かれて、気がついたら「プロモーション用のAIシステムを開発させてもらえませんか?」と、こちらから提案していました。

―――プロモーション用AIシステムには、どんな特徴があるのですか?

青木:映画宣伝担当AIの鮫三郎に話しかけていただければ、映画の情報や見どころなどを自動的に生成してくれるという仕組みです。

鮫三郎が語尾に「しゃー!」をつける、クセのあるしゃべり方をしているのは、永田さんの指示を受けてのことでなく、勝手にノリで決めました(笑)。

―――映画宣伝AI世界初(※アバンド調べ)の試みということで、ご苦労もあったのでは?

青木:おっしゃる通りで、リリース当初はトラブル続きでした。

言葉を発するのはAIなので、公式ホームページのURLや上映館を聞かれたとき、ありもしない情報を勝手にでっち挙げてペラペラしゃべり出してしまったんです。これを修正するのに、かなりの手間がかかりました。

メジャー映画と呼ばれる多くの映画は「製作委員会方式」といって、複数の企業に出資を募って数1000万円~数億円単位の資金を調達していますが、そうした映画では許されないトラブルです。

そう考えてみると、プロモーション用AIは『温泉シャーク』がインディペンデント系映画だったからこそ、許されたシステムだったように思います。

―――大口のスポンサーの顔色をうかがう必要がないからこそ、やりたいことを自由にできたのですね?

青木:そうですね。SNSを通じた宣伝も、まさにやりたい放題でした。

例えば、予告編でサメが登場するシーンのすぐあとに、かわいいチワワ犬が出てきて「ワン」と吠える映像が一瞬、映ります。
これ、目ざといサメ映画ファンなら「死亡フラグ」と解釈して、この犬がサメにやられて死ぬんじゃないかと思うはずなんですが、その予想を先回りして「犬は死にません」というテロップがついているんです。
これがXで「♯犬は死にません」というハッシュタグつきで盛んに拡散されて、犬の缶バッジが公式グッズに加わるほどの人気を呼びました。

この反響を受けて、プロモーションAIのほうでも画像機能を加えて、犬の質問にも答えられるように調整しました。


―――聞けば聞くほど楽しいお話、ありがとうございます! 最後に映画を観た人、およびまだ観ていない人たちに向けて、おふたりからメッセージをいただけませんか?

温泉シャーク取材用画像
青木:私自身は、プロモーションAIを通じて、映画宣伝の新たな可能性を発見したような気がしています。

ユーザーとのインタラクティブな対話を通じて、映画のジャンルやターゲット層に合わせたプロモーション内容を柔軟にカスタマイズできるわけですから。

今後もさらなる技術革新を進め、映画業界全体の発展に寄与することを目指していきます。

永田:『温泉シャーク』は、たくさんの人たちの想いの熱量によって生まれた映画です。今後は英語字幕をつけて、海外の映画祭やイベントなどにも出品する予定ですので、その活躍をご期待ください。

「熱海をカンヌのような映画の町にする」などと、大それた理想を掲げてきましたが、それは決して絵に描いたモチではないことを日々実感しています。どうかご支援、よろしくお願いします。

温泉シャーク取材用画像 ▲安心してください、犬はサメに食べられません。

<編集後記>

私もこの映画を取材前に見てきたのですが、最高でしたっ!
めちゃくちゃおもしろかったです…テンポも良いし、温泉×サメ×バトル×筋肉…
ってどんだけ天丼してんだと思いましたが、伏線もきれいに回収されていて、何よりサメ愛と愛犬愛(チワワかわいい!)に満ちた作品でした!

何よりサメの量がえぐい!『セーヌ川の水面の下に』より、サメのボリュームえぐいし、『MEGザ・モンスター』を思わせるような、シーンがあり『マッチョはマッチョでも、ステイサムじゃないんかいっ!むしろステイサムより強いんかいっ!(ステイサムは、メガロドンを素手で、船の帆を使って串刺しにする強キャラ)』と思わせてくれるシーンも最高でした。

そして永田さんに、チワワのエピソードについても質問させていただきました。

永田さんは、『今思えば私が、熱海に移住したきっかけは、愛犬のチワワだったかもしれません。まだ熱海に住む前に、愛犬とよく熱海に来ていたんです。その時、いつも二人で海沿いを散歩していたんです。』『実はあの子は、撮影が終わった数日後に、天国に旅立ってしまったんです…今思えば、撮影が終わるまで老犬なりに頑張っていてくれたのかもしれません。撮影中にもしあの子が天国へ旅立っていたら、撮影もやりきれてなかったかもしれません…。そう考えると、温泉シャークが無事に公開されて、多くの人に観てもらえているのは、あの子のおかげですね。』と話してくれました。

(私も愛犬家なので、心にグッとくるものがありました…)

そんな愛犬との絆、そして熱海とサメへの愛が詰まった、温泉シャークをぜひこの夏、御覧ください!。



温泉シャークの公式ページを見る



新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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