次世代通信の夜明け: 6Gが紡ぐ新たな社会像
次世代通信技術の進化が、社会に大きな変革をもたらそうとしている。
6Gの時代が到来すれば、内閣が掲げるSociety 5.0の実現に大きく貢献することが期待されている。モノやスペースがネットワークに参加し、人間だけでなく、あらゆるものがデータのやりとりを行う新しい社会が実現する。
本企画では、5Gの次の大きなステップである6G通信技術と、それがもたらす社会的変化に焦点を当て、IoT(モノのインターネット)の進化とSociety 5.0の概念を踏まえ、どのような未来が待ち受けているのかを探る。
千葉大学情報戦略機構の小室信喜准教授の専門知識を活かし、技術的な側面だけでなく、新しいテクノロジーが私たちの日常生活や社会構造にどのような影響を与えるかを紐解くインタビュー。
6Gに秘められた可能性と広がる未来
―――まずは、研究領域について教えてください。
私の個人的な意見ですが、理系の研究は、法則を解明したり発見したりすることを定量的に証明したり、それを利用して何か新しいものを作ったりするものだと思っています。
例えば、電流が流れると起電力が発生するという原理を使って、モーターから家電、乗り物など、さまざまなものを生み出す研究があります。
私の場合は、主にその性能の向上に関する研究、つまりスライド中の③や④の領域を研究対象にしています。
具体的には通信の研究で、特に無線センサーネットワークと呼ばれる分野に携わっています。センサーに無線機能を付加し、自動的にデータを収集するネットワークが無線センサーネットワークです。
性能向上という点では、このセンサーネットワークをいかに効率よく運用できるかを研究しています。一方で、センサーネットワークをどう活用するかという観点からは、PM2.5やCO2、エアロゾルなどの室内外の環境を計測するネットワークや、人間のストレスや覚醒度、眠気、集中力などの状態を環境データから推定したり、人の動きを推定したりする研究を行っています。
また、6Gに期待される大容量・高速・広域なデータ利用や、低消費電力・低コスト・低遅延、多数端末接続、センシングなどの要求に関連する研究にも取り組んでいます。特に、低遅延と多数端末接続、センシングの部分が私の研究分野に関わる領域です。
―――5Gと比較して、6Gにはどのような新たな可能性が秘められているでしょうか?
5Gと6Gの違いについて考えてみると、6Gは内閣が提唱するSociety5.0の理念により特化していく動きをしていくのではないかと推測します。
5Gでは主に人がスマートフォンを操作して利用するのが中心でしたが、6Gではさまざまなものや空間もネットワークに参加して通信するようになると思います。つまり、人だけでなく物もネットワークに組み込まれるということです。
これが5Gと6Gの大きな違いの一つだと考えられます。
その結果、サイバー空間とフィジカル空間の連携がさらに発展し、さまざまなデータが集積されるようになります。このデータを活用して、人々の生活がより快適になる社会を実現するための基盤となるのが、6Gの役割です。
従来の5Gでは、人が能動的にデータをクラウドにアップロードするというような使い方が一般的でしたが、6Gではデータ収集がAIを活用して自動化され、人間の手を介さずに進むことが期待されています。
―――ご自身の研究において、6Gが解決し得る主な課題は何ですか?
6Gが解決できる社会課題は多岐にわたると考えられます。内閣府でも高齢化社会、エネルギー問題、少子高齢化、農業や食料問題などが挙げられています。
これらの課題に関しては、さまざまなデータが集積され、将来予測や解決策の提示が可能になれば、着実に展望が開けてくるはずです。より多くのデータが集まれば集まるほど、こうした社会問題に対する解決の糸口が見えてくると思います。
5Gそのものが、人々のウェルビーイング、つまり心身ともに健康で幸せな暮らしを実現することを目指しています。Society 5.0が目指す社会像と、5Gが志向する方向性は非常に親和性が高いと言えます。
6Gは、そうしたSociety 5.0の実現に向けたインフラ側の技術基盤となり、さまざまな社会課題の解決に貢献していくものと期待されています。
遠隔操作などは、確かに5Gの技術でも可能なところがありますが、これから超低遅延や超高精度などが求められる場面が増えていくと思います。
特に、遠隔手術や精密機器の操作などでは、5Gだけではまだ限界があると考えられます。このような分野においても、6Gによって、将来的にはさらなる技術の進化が期待できると思います。
6G通信の課題と期待 – 技術と社会の壁を乗り越える
―――現在の通信技術の限界点と、それを6Gがどう克服するかについて、お聞かせください。
5Gの技術目標は、超高速性と大容量に焦点を当てており、これらの要素が5Gの基礎を築いています。一方、以下の青で書かれた部分は、6Gに特化している部分だと思っています。
通信的には、5Gと6Gの両方がどんな状況でもデータを集められる環境を実現し、これからはどこでも通信が当たり前のように利用できるような環境が必要になっていくと思います。
5Gは都市部や人が密集している地域をカバーすれば良しとしていましたが、6Gでは地球全体や月、宇宙など、より広範な領域での通信ニーズをカバーする必要性が考慮されなければいけないというのが課題の一つです。
超カバレッジ拡張は、離島や海中での通信を含むあらゆる場所での通信を可能にすることを意味します。
また、人がアクティブである場合だけでなく、自動的に通信を行うデバイスも考慮する必要があります。 それに加え、通信だけでなく、その付加価値を高めることや、多機能化も重要です。例えば、物が自動的に動く場合、充電が必要な場合には、無線給電技術が必要になります。
広域通信を実現するためには、適切なインフラ整備が不可欠であり、これが大きな課題となります。
通常、人が存在すれば通信が行われることが想定され、そのコストは補填されると考えられます。
しかし、人の存在が不確かな場所や、物だけが配置されている場合など、通信の必要性が明確でない状況で、高額な費用をかけて、設備投資に踏み切れるかは不明です。そのため、インフラ整備とそのコストに関する課題が、実際に取り組む際の障壁となる可能性があります。
最近では、通信に使用されるミリ波帯が注目されています。これは心拍データなどを取得するためにも活用される可能性があり、通信技術だけでなく、その付加価値の向上にも取り組まれています。
また、技術的な課題に加えて、社会的な問題も壁として現れると思います。
インフラの整備に加え、生体データなどの利用には、個人情報が不可避に含まれるため、セキュリティ面や個人情報の保護が重要な問題となります。これらの社会的な課題をどのように超えるかが重要です。
6Gは画期的な通信システムであり、これからのニューノーマルを作り出すと考えられます。
Society 5について、政府が最も期待する部分は、ウェルビーイングだと思います。社会における人々のウェルビーイングのためにAI技術を活用し、インフラを整備することが6Gに期待されている部分だと認識しています。
感覚共有やVRから紡がれるウェルビーイング
―――商業的な部分や国家が携わる部分も含め、6Gが社会にもたらす具体的な変化について、どのように予測していますか?
今後、6Gの出現により、これまでは人間が言語化して通信を行っていたものに加え、非言語的な情報や無意識の感覚、表情なども共有できる世界が広がるのではないかと考えています。
例えば、ドキドキしているかリラックスしているかといった心理状態や、喜怒哀楽の表情、そして研究分野である環境データから推定される、その場の環境が人間に与える感覚的な影響までもが、直接共有されるようになるかもしれません。
これにより、喜びやウェルビーイングの向上だけでなく、娯楽的な側面でも感覚の共有が可能になると考えられます。言語では伝えきれない個人の感覚そのものを伝達できる可能性が生まれるということです。
また、通信が日常化すれば、今は人間だけでしたが、モノや場所などからもデータが集まり、AIで解析されることで、これまで考えもしなかった課題の解決策が見えてくる可能性もあります。
例えば、例えば、災害発生時には、自衛隊だけでなくロボットなどが活躍し、医療従事者が遠隔地から治療を行うことも可能になってくるはずです。
さらに、個々のデータが収集されるようになることで、個人ごとにイノベーティブなビジネスが生まれる可能性もあります。多様な人々が新しいアイデア を出し合い、データに基づいた新たなビジネスモデルが形成されることが予想されます。これまで考えられなかった製品やサービスが次々と生み出されていくと期待しています。
一方で、そうした技術の進化が進むからこそ、人間ならではの思考力や創造性が改めて重視されていく側面もあると思います。
生成AIなどの技術は私たちを助ける有用なツールですが、AIでは思いつかないようなアイデアや創造物を生み出せば、それはより個性の伝わる新たな創造となります。
―――最先端の研究をされている先生ならではの視点から、一般の私たちは、技術進化にどのように向き合っていけば良いとお考えですか?
技術の進化に追いつく必要性に関しては、特に心配する必要はないと思います。6Gの基本的な理念は、通信が空気のように普及し、当たり前になる世界を築くことですから、ユーザー側は技術について深く考える必要はありません。
私たちは、6Gの恩恵を受けて新たなものを創造したり、生活を便利に変えたりすることに焦点を当てるべきです。日常的にさまざまなデータが利用可能になる中で、その活用方法に注意を向けることに注力すればいいと思います。
―――具体的に、どのような方法で生体データを収集しているのですか?
生体データの収集方法としては、先ほど触れたミリ波帯の測位機能を用いて心臓の動きを検出する方法があります。また、サーモグラフィーやその他の手法も使用しています。
さらに、音や匂い、光、CO2などの環境要因を収集し、これらのデータを使用して、人々がストレスを感じているか、あるいは快適な状態にあるかを判断するシステムを構築する研究も行っています。将来的には、このような研究が感覚の共有にも役立つ可能性があると考えています。
―――研究を進められる中で、新しい発見や気づき、面白いデータなどがあれば教えてください。
研究を通じて感じた興味深い点は、同じ環境にいる人間によって、快適に感じるか不快に感じるかが大きく異なるという個人の個性がはっきりと存在することでした。
一方で、多くの人が一般的に快適だと感じる環境があることも分かりました。こうした個性の違いと一般的な傾向の違いを見出せたことは、非常に面白い発見でした。
また、高解像度の映像を通信し、AIやVRの技術と組み合わせることで、実際には行っていない場所を、まるで自分が現地にいるかのように体験できるのではないかと考えています。例えば、日本の大学にいながらエジプトや南アメリカの環境を体感できる社会が到来するかもしれないと思っています。
私の研究は、VRなどの分野との相性は良いと感じているので、そうした視覚体験を実現できるインフラ整備を目指して研究を進めています。
技術革新と個人の創造性から生まれる新たなビジネス
―――最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。
読者の皆さんには、新しい技術を活用して、革新的な知見を発見したり、斬新なビジネスを生み出したりしていただきたいと期待しています。様々なデータが集積される環境ですから、集められるデータをうまく活用し、様々な新しいアイデアを考えていただけることを願っています。
個々人がクリエイターになれる時代が訪れつつあると感じます。 最近では、YouTuberやVTuberなど、個性を活かしたビジネスを展開する人々が増えています。このように、様々な分野でのビジネス展開や発想が生まれることを期待しています。
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