avatarin株式会社のnewme(ニューミー)が実現する新しい、人の移動、出会い。近未来の移動の新常識を実現するアバターロボット可能性とは?
あなたにとって〝移動″とはどんなものでしょうか? 誰もが一度は「どこでもドアがあったらいいのに」と願ったことがあるでしょう。それほど人類にとって〝移動″は負荷のかかる行為のひとつです。
そんな人類共通の課題を解決してくれる技術として注目されているのが遠隔存在伝送技術を使ったアバターロボット「newme(ニューミー)」です。
今回は「newme」などのアバターロボットを開発・提供するavatarin株式会社の代表取締役CEO深堀昂氏にお話を伺いました。お話を伺う中で見えてきたのは〝あの映画″の世界が実現した少し先の未来でした。
代表取締役CEO
2014年より、マーケティング部門に異動し、ウェアラブルカメラを用いた新規プロモーション「YOUR ANA」などを企画。2016年には、XPRIZE財団主催の次期国際賞金レース設計コンテストに梶谷ケビンと共に参加し、アバターロボットを活用して社会課題解決を図る「ANA AVATAR XPRIZE」のコンセプトをデザインしグランプリ受賞、2018年3月に開始し、グローバルなアバタームーブメントを牽引中。
2018年9月、JAXAと共にアバターを活用した宇宙開発推進プログラム「AVATAR X」をリリース、2019年4月、アバター事業化を推進する組織「アバター準備室」を立ち上げ、2020年4月にANA発スタートアップ 「avatarin株式会社」を梶谷ケビンと共に創業。2021年6月、avatarin社の事業モデルがハーバード・ビジネス・スクールの教材に選出。
avatarin株式会社が実現する次世代モビリティ「newme(ニューミー)」とは?実現したのは、ジェームズ・キャメロン監督の“あの映画の世界観”
―――本日はavatarin(アバターイン)株式会社のCEO深堀さんにお話を伺っていきます。まずはavatarin株式会社がどのような会社なのか教えてください。
当社は、「アバターを、すべての人の、新しい能力にすることで、人類のあらゆる可能性を広げていく」というミッションを掲げて、2020年4月1日にANAホールディングス発の初めてのスタートアップとして設立しました。
リアルな空間で人々が自然に繋がりコミュニケーションや作業を行え、汎用的で誰もが気軽に使うことができる遠隔操作ロボット「アバター」の開発や人々が繋がり、互いに支え合うことができるアバター社会インフラの構築、社会実装をメイン事業としています。
―――遠隔操作ロボット「アバター」とはどんなものですか?
ジェームズ・キャメロン監督の映画『アバター』(2009年)の世界をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。映画の世界のように人造生命体へ意識を憑依させることはまだ難しいのが現実です。そこで当社では、社会課題解決のために考えた遠隔操作ロボットを「アバター」としています。
ロボティクス、AI、VR、通信、触覚技術などさまざまな先端技術が集結し完成したのがアバターです。遠隔地に置かれたロボットをインターネット経由で操作し、意識・技能・存在感を伝送させ、人々が繋がりコミュニケーションや作業を行うことを可能にしました。まさに、次世代モビリティおよび人間拡張テクノロジーといえるでしょう。 また、アバターには当社が開発した世界初のアバタープラットホーム「avatarin」にアクセスすることで、社会に実装されたアバターを誰でも自由に使うことができるのもひとつの特長です。
―――アバターのなかでもさまざまなメディアで取り上げられ話題となっている「newme(ニューミー)」とはどんなものでしょうか?
「newme」とは、当社がこれまで行った実証実験の結果をもとに、社会への普及に必要な機能を備えた普及型コミュニケーションアバターです。その名の通り〝新しい自分″つまり分身に存在や意識を伝送して、物理的な距離を超えたコミュニケーションなどを可能にしてくれます。すでに水族館やイベント会場、百貨店などさまざまな場所で活躍してくれていますね。
疑問と気づきがavatarin株式会社を起業したきっかけーーーそして「newme(ニューミー)」の誕生。
avatarin株式会社を立ち上げるきっかけを教えてください。
私は2008年にANAホールディングス株式会社に入社し、パイロットの緊急時の操作手順などを設計する運航技術業務を担当していました。パイロットライセンスも取得するほどの飛行機好きなんですよね(笑)。
入社当時は当時の企業理念にも共感していましたし、「移動で世の中を変えていける」ことにとてもやりがいと魅力を感じていました。
しかし、実際に働き始めて〝飛行機″という移動手段があまり使われていない事実に衝撃を受けました。私の周りには飛行機好きが多かったこともあり、圧倒的に普及している移動手段だと思っていた飛行機は、全人口の約6%の人にしか普及していないものだったのです。その時「なぜ飛行機は移動手段として普及していなのか」という疑問を抱くようになりました。これが起業に至る最初のきっかけですね。
―――エアラインのユーザー数が世界人口の約6%という数字には確かに驚かされますね。他にも起業に至るきっかけはありましたか?
世界には〝移動の制限″が多く存在します。例えば、生まれた国によって入国を制限されてしまったり、疫病を患い無菌室に入った方は家族と面会ができなかったり……。また、高齢になり移動が困難になるケースは誰にでも起こり得ることです。このように〝移動の制限″は全人類が抱える課題であるにも関わらず、ソリューションがないことに疑問を抱き始めました。
また当時、私は社会貢献活動をライフワークにしていて、さまざまなNPOやNGOを訪ねていた時期でもありました。そういった活動のなかで出会う人や情報、体験を通じて痛感したのは、私たちの当たり前は世界の当たり前とは限らないということでした。
これらの気づきと疑問がきっかけとなり、私の好きな移動というカテゴリーで100%の人が自由に、いつでもどんな身体的条件であっても移動はもちろん、繋がり、支えあえるようなモビリティを創りたいと思ったのです。
―――そこから起業へ向けて活動を進められると思いますが、具体的にはどんな活動をしていたのでしょうか?
私は2014年にマーケティング部門に異動していました。業務外の時間を使い、社外のビジネスコンペに参加したり、コンペでグランプリを獲得した事業を社内で始めたりとさまざまな事に挑戦していきました。
avatarin株式会社を立ち上げる大きなきっかけとなったのが2016年に次期国際賞金レース設計コンペ「XPRIZE VISIONEERS 2016」への参加でした。私たちがテーマとして選んだ〝意識だけの瞬間移動″「アバター」は、グランプリを受賞し、2018年には国際賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」が始動。2020年にはANAのアバター事業がスピンアウトしてavatarin株式会社が立ち上がりました。
―――〝意識だけの瞬間移動″「アバター」はとても画期的な技術だと思いますが、どのような発想・思考から生み出されたのでしょうか?
まず私が考えたのは「移動とは必ずしも生身の体を移動させなければならないものなのか?」という点です。
以前、脳科学者の方と「主の私とは体のどの部分か?」という話をさせていただく機会がありました。脳科学の世界では、主の私は「脳」だといわれています。AさんとBさんの外見はそのままで2人の脳だけを入れかえると2人は入れかわると考えられているのです。
そもそも脳の基本機能を考えてみると、脳の基本機能は電気信号をインプットしアウトプットするディバイスですよね。これはインターネットの世界に移行させることが可能なのです。このような考えを元に基本的に人=脳(意識)と捉え、存在感をさまざまな場所に拡張するのが独自開発した当社のコア技術でもある遠隔存在伝送技術です。
当社はロボティクスを新しい身体にしながら、ロボットを所有せずとも誰でも使える移動先として移動インフラを創りたいと考えています。つまり目指すのは「移動の民主化」ですね。
目指したのは移動の民主化への第一歩。「newme(ニューミー)」事態が、“人”になる。
―――なるほど〝移動の民主化″を目指す第一歩として誕生したのが、先ほど事業内容のご説明の中で登場した普及型コミュニケーションアバター「newme」なんですね! その特長をお教えてください。
最大の特長は、存在感と意識を移動させることで周りにいる人や動物にも影響を与えることができることです。
「newme」を操っていると、「newme」はその人本人になります。例えばマナティの飼育員の方が「newme」に入ると、マナティは「newme」について泳ぎますし、犬を飼っている方が「newme」に入れば、犬は飼い主と認識してくれます。
人の場合は、小さなお子さんの例がとてもわかりやすいと思います。お母さんとオンラインミーティングアプリで話した場合、お子さんはすぐにその画面への興味をなくしてしまいます。しかし「newme」にお母さんが入ると、「こっちにきて」や「かくれんぼをしよう」など動きを伴う会話ができるのでお子さんの興味は非常に長続きするんです。
―――「newme」の扱いもその人になるということですね。周りにも影響を与えるために「newme」に搭載した機能やこだわりについて聞かせて下さい。
「newme」のポイントはミニマムであることです。当社の研究者はヒューマノイド系のロボットを製作していた人が多いこともあり、開発当初の「newme」はヒューマノイド系でした。しかし、そこから残さなければいけない機能は何かを考え、最適化していったのが現在の「newme」になっています。
例えば、首振り機能。これは魚眼レンズを搭載してしまえば全方向を確認することができるので開発段階では不要な機能だと思っていました。
しかし、百貨店での実証実験の際に、お客様の目線が確認できないと商品提案がしにくいという問題点に気が付き、上下左右を見渡せる首振り機能を搭載することになりました。
他にも、移動できることはもちろん、100cm、130cm、150cmと3段階の高さ調整も可能であったり、モニターに操作者の顔を映し出せたり、その人の〝存在感″を移動させつつミニマムに仕上げたのが現在の「newme」になっています。
―――実際「newme」はどのような場所で活躍していますか?導入事例を聞かせて下さい。
やはり一番多く導入を検討いただいているのは、DX化を目指す企業の方々です。例えば、多店舗経営のスーパーのエリアマネージャーが、頻繁に店舗視察に訪れている企業があったとします。「newme」を各店舗に導入すれば、24時間いつでも店舗にアクセスできるようになります。他にも、「newme」は人材不足解消や人件費の削減、ニューノーマル時代の新しい働き方への対応などさまざまな社会課題の解決に役立っています。
2021年3月にはとても興味深い導入事例も生まれました。それが大分県にある「株式会社 大の葬祭」で行われた、アバターを使った葬儀のDX実証実験です。今、大切な方とのお別れの機会が物理的に制限されるようになってしまいました。少しでも、弔いに参加しているという意識が保てるようにするために選ばれたのが「newme」だったのです。これからも私たちの予想をいい意味で裏切る「newme」の利用方法が生まれていくでしょう。
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「newme(ニューミー)」が目指すのは「アバターネットの世界」の具現化
―――「newme」のような「移動」の新常識を作るという切り口において、将来どのような技術革新があるのでしょうか?
今の移動テクノロジーの多くは、空飛ぶ車やロケットなど富裕層向けのものがほとんどです。しかし、私たちavatarin株式会社が取り組んでいるのは、通信が普及していない場所でもアバターを使えようにすることです。そのためにアルゴリズムや画像圧縮などさまざまなことを研究しています。限られた人だけが使える特別なものではなく、誰でも使える移動インフラを創ろうとしているのです。
現在もGoogle EarthやGoogle ストリートビューを利用すれば、さまざまな場所を見ることができます。またTVやインターネットで膨大な情報が得られます。しかし、実際に自分がその場所や情報に影響を与えることはできません。しかし、アバターであれば、その場所に影響を与えることが可能になります。
例えば、私がある街に設置されたアバターに入ったとしましょう。その街で具合の悪そうな人に出会ったとします。その時、私はアバターで声を掛けることもできますし、助けを呼ぶこともできるのです。そしてもっとアバター技術が発達すれば、高性能なアーム付きのアバターロボットに接続を代え、救命救急スキルをダウンロードし処置を行うということも可能になっていくでしょう。
―――アバターやロボットに自分の仕事を奪われるという危機感を抱いている方もいるかと思いますが、お話を聞いているとavatarin株式会社が手掛けるアバターはそういった危機感を与えないのが大きな特長であると感じました。
おっしゃる通りです。前述の通り当社の「アバター」は今後、人の能力を拡張するように進化していきます。アバターを利用すれば、確実に普段の自分よりも優秀な能力・技能が手に入る世界になっていくと思っています。まさに映画『マトリックス』(1999年)で描かれたすべてのスキルをダウンロードして学んでいく世界が実現していくのです。現在、当社では職人さんの技を高性能アバターで実演し、モデル化するという研究も行っています。職人さんが無意識で行っている些細な行動もアバターが学習し、誰でもその技術を使えるようになる日が近づいているのです。
―――avatarin株式会社として将来的に挑戦していきたいことはどんなことでしょうか?
私たちは、クラウド上でのアバターリアルタイムコミュニケーションを確立させるのが目標です。これは持続可能でフェアな社会を創るためには、とても重要な技術だと考えています。通信も5Gが普及し、GPUも進化し、そしてリアルの移動が制限されることがあるという世界中のマインドセットが変化したこと、この三拍子が揃ったまさに今が遠隔存在伝送技術を広める絶好のタイミングなのです。
そんな世の中で将来的に目指すのは、困っていたら誰かが駆けつけてくれる「アバターネットの世界」の具現化です。一時期、私たちはこれを「世界最大の人助けネットワーク」と呼んでいたのですが、病気の人がいれば誰かが駆けつけてくれたり、過疎化が進んだ地域に住む高齢者にアバターを介して話しかけたり…リアル世界を人と人との繋がり、出会いに溢れたものにしていきたいと考えています。
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今回のインタビューでとても印象的だったのは、深堀さんの表情でした。常に目をキラキラと輝かせ、弾むような声でお話してくださり、アバターに対する愛情と熱意、これから変化していく世の中への期待を感じることができました。
なにより私たちの心を躍らせたのは、次々と語られていくアバターの可能性、そしてアバターという素晴らしい技術が生まれたきっかけが小さな疑問と気づきからということでした。映画やアニメを観て「こんな世界になったらいいな」「こんなものがあったら便利だな」と思うこと、そしてそれを実現させてみようと行動を起こすこと。そんな小さな点と点が線となり、やがて新しい技術の種になる……次の世界を変える新技術を生み出すのはあなたやあなたのそばにいる誰かかもしれません。
avatarin株式会社のサービスは、そんな少し先の未来を私たちに教えてくれました。
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