2024.06.26

漢方薬の9割が国外産!? 薬用作物、国内産地化への挑戦


薬の原料を国外に頼らざるを得ない日本。

漢方薬の9割を輸入に依存している現状は、レアアースに続く「第二の危機」とまで囁かれている。

しかし、九州の中山間地では新たな希望の芽が育っている。

薬用作物の国内産地化に取り組む九州医療科学大学の渥美聡孝准教授は、「ヤマトトウキ」の実証栽培に尽力しているのだ。

取材を通して見えてきたのは、産地の再生だけでなく、雇用創出や地域コミュニティの活性化、そして高齢化社会や後継者問題といった、日本が抱える課題への糸口だった。

危機の中に潜む大きな可能性とは?東九州から広がる、緑の「薬庫」の新たな胎動をお伝えする。

渥美 聡孝
インタビュイー
渥美 聡孝氏
九州医療科学大学 薬学部 薬学科
准教授


薬剤師の使命としての薬用植物の栽培研究


九州医療科学大学 取材用写真 ▲由布市での栽培指導中の写真

―――まずは、研究領域と研究テーマについて教えてください。

私の研究は、薬学部における薬用植物学や生薬学という分野に属します。
薬用植物の薬用部位のみを乾燥させたものを「生薬」と呼びます。

良質な生薬を作ることが目標ですが、その定義がはっきりしていないのが現状です。効能については、まだ不明な点が多くあります。

例えば、高麗人参は元気が出るとされていますが、その理由は分かっていません。
そのため、昔の文献に載っているキーワードなどから、こういう生薬が良いと推測して研究を進めているのが現状です。

生薬という言葉は、主に漢方薬の原料となるものを示していることが多いです。私の研究テーマの一つは、国内で安定的に生薬を生産できるようにすることです。
その中では、薬用植物の栽培研究も行っているので、学生から「薬学部に来たのに、研究が農学部のようだ」と言われることもあります。

薬剤師法には「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする」と明記されています。
ですから、この薬剤師法に則って、医薬品である生薬を安定的に生産・供給するための研究も、薬剤師としての任務の一つなんだと解釈しています。

―――薬用作物の産地化を進めることによって、どのような経済的・社会的影響が期待できますか?

九州医療科学大学 取材内容解説スライド 引用:農林水産省「薬用作物(生薬)をめぐる事情

図を見ると、現在、漢方薬などに使われる生薬の調達先として、日本は約10%、海外が約90%となっています。

これは、2010年頃に起きたレアアース問題と同様の状況であり、同分野の研究者の中には「生薬は第二のレアアース」と表現する先生もいます。

一方で、漢方製剤などの需要は医療現場で高まっており、その生産金額は直近5年間で約28%増加し、2000億円を超えるなど、今後も漢方薬の原料である生薬の需要増加が見込まれているんです。

以上のことから、生薬の国産化が重要ですが、日本で使用される生薬の品目数は250以上ありますので、国産化をすすめる生薬も優先順位をつけて研究・栽培を行う必要があります。
今後10年、20年先の疾患動向や必要とされる医薬品を予測しながら、需要の高い生薬を国内外に安定供給できるよう、適切な薬用作物を生産していく必要があります。

実は、かつて360円対1ドルの固定相場制時代には、日本は生薬を輸出していました。しかし、変動相場制が1973年に導入され、円安になると採算が合わなくなり、農家が撤退した結果、2000年代には生薬の国内生産比率が10%程度にまで低下しました。

為替による収益低下に加え、現在でも薬用作物栽培を続ける農家は高齢者が多く、薬用作物においても他の農業と同様に、高齢化が深刻な課題となっています。

薬用作物の育成は、一般の作物と比べて生産が難しいわけではありません。
しかし、米などのように徹底的に研究が行われてこなかったため、誰がどこで育てても同様の収穫が得られるほど栽培技術が確立されてきませんでした。

米作りは長年の研究の積み重ねにより、ほぼ工業製品並みに安定生産が可能となりました。
一方、薬用作物は過去の国策上の重要度が低かったため、一部の篤農家と呼ばれる人がこつこつと栽培してきた程度で、そもそもの栽培方法のことや地域による栽培適性の違いなど、未解明の部分が多く残されています。

このように、薬用植物の重要性が十分に認識されておらず、産業として成熟する機会を逸した結果、栽培技術や生産体制の確立が遅れている状況です。

日本人の文化と薬機法の狭間で、研究者として出来ること


九州医療科学大学 取材用写真 ▲由布市でのトウキ生産時の写真

―――現在、産地化に力を入れている薬用作物はなんですか?また、その特徴と活用方法について教えて下さい。

ヤマトトウキとサフラン、その他、今回は詳細を省略しますがムラサキ、ミシマサイコ、シソ、シャクヤクなども産地指導をしています。

九州医療科学大学 取材用写真 ▲伝統的栽培地でトウキの湯もみ指導を受けている様子

トウキは婦人科系疾患に用いられる生薬で、当帰芍薬散などの漢方薬に配合されています。月経不順などの婦人病や月経時に起こる腹痛などの痛みなどに応用される漢方薬の中で、主薬として活躍する生薬です。

奈良県と和歌山県の県境地域でもともと生産されていましたが、現在は高齢化に伴い生産量が減少しています。トウキの生産には「湯もみ」など、日本固有の伝統技術が多く用いられていますが、技術の継承が昨今の課題です。

他の薬用作物の栽培にはない技術を継承し、次の世代につなげていくためにも、私が産地化に関わっている福井県高浜町や大分県由布市で生産指導をしています。

高浜町では、中学生と1年間にわたり栽培から収穫までの工程を一緒に行ったり、未利用部位を活用するために薬用部位ではない葉を使った新商品の七味唐辛子を共同開発したりと、若年層へのトウキの啓発活動を行いました。
由布市では2022年から栽培がスタートし、パワフルな若い生産者が大型のトラクターなどを駆使した大規模生産に取り組んでいます。
2023年度は2年目なのに一気に30aも生産面積を広げたので驚きましたが、栽培先行地に負けない素晴らしいトウキを作りました。

九州医療科学大学 取材用写真 ▲由布市でのトラクターを使ったトウキの収穫

一方のサフランは、宮崎県延岡市との連携により産地化を目指しています。
サフランは大分県竹田市で120年以上にわたり生産されてきた月経不順や生理痛、PMSを改善する薬用作物ですが、他の作物と同様、高齢化の影響で生産量が落ち込んでいます。

2012年に、私が当時のサフラン生産部会の部会長と出会った時に、100年以上続いてきた竹田市オリジナルのサフラン生産法を、「どこの自治体でも良いから引き継いで欲しい」と言われ、延岡での生産がスタートしました。

現在は、サフランの球根を育てる農業生産者、サフランの雌しべを摘む福祉作業所、栽培指導・品質評価を行う本学薬学科の「農・福・薬連携体」で生産しています。

生産過程で、食用サフランには産地やメーカーによる品質のばらつきがあることが分かりました。
つまりスペイン産、イラン産、有名メーカーが販売しているものなど、色々種類がありますが、どれが良いサフランなのか分からないのです。

そこで、私は薬学的な品質評価を行い、延岡産サフランの品質を数値化して販売することを考えました。
その結果、現在は品質の保証がされたサフランとして、大都市の有名シェフから高い評価を受けるようになりました。

以上のように大学が関与することで、教育活動や新商品開発、品質保証による高付加価値化など、多様な取り組みが可能となるのが特徴です。

また主要作物のトウキやサフランに加え、高浜町や由布市では、ミシマサイコ、シソ、シャクヤクなど他のニーズの高い薬用作物の生産にも携わっています。

―――産地化プロジェクトを始めたきっかけは何ですか?薬用植物の生産でのボトルネックとなっていることは、何でしょうか?

昨今、農家の減少が深刻な課題となっています。
私が生薬を専門に研究する中で、漢方薬を支えているのは生薬の生産者であり、その生産者数がどんどん減っているという現状にかねてより危機感を感じていました。

生薬栽培戸数の推移を見ると、確かに年々減少しており、後継者不足が大きな問題となっています。
栽培面積自体は横ばいなので、直近の生産量への影響は少ないと考えられますが、生産者数の減少はリスクが高く、看過できない深刻な事態です。

伝統的な生産方法が失われれば、将来的に再び生産を復活させようとしても、方法がわからず困難になります。
大学の教員・研究者として、私自身がこうした生産方法を学び、新しい生産者に確実に引き継いでいく流れを作らなければならないと強く感じ、産地化プロジェクトを始めました。

薬用植物の生産における大きなボトルネックは、製薬会社との契約栽培の壁です。
薬用植物の生産者は、取引市場がないという点を一番の問題として挙げる方が少なくありません。

九州医療科学大学 取材内容解説スライド 引用:農林水産省「薬用作物(生薬)をめぐる事情

一般の農産物であれば農協(JA)を通じて出荷できますが、薬用植物は生産者と製薬会社の直接契約が基本となります。
しかし、製薬会社側は100キロ単位や1トン単位での契約を求めるため、小規模生産者にとってはハードルが非常に高くなっています。

そこで大学が仲介役となり、小規模生産者と生薬問屋をマッチングさせる取り組みを行っています。
生薬問屋は1キロ単位で購入してくれて、集めた生薬を再選別して等級ごとにロット化できます。少量でも購入してくれる問屋と、生産者とつなげることで、小規模からでも薬用植物栽培に着手できる環境を整備しようとしています。

このような草の根的な支援活動によって生産の足がかりとなり生産者の数が増え、やがては本格的な生産へと発展していってくれたら、というのが私たちの目標です。

―――薬用植物の取引市場を広げていく上で、どのようなことが課題となっていますか?

まず、第一の問題として、日本には薬用作物を一般家庭で食材として使う文化がありません。
中国や韓国には、一般市民が市場で薬用作物を購入し、家庭料理に使うような習慣があります。
例えば韓国ではソウルの市場で高麗人参を買い、サムゲタンを自家製する例があります。しかし日本では、一般家庭でサムゲタンを作るようなことはほとんどありません。

このように、薬用作物が日常的な食文化に根付いていないことが、一般市民との距離感を生んでいる一因だと考えられます。

さらに、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)により、医薬品や医薬部外品以外での効能効果を宣伝することが制限されています。
こうした法的規制の解釈が難しいことも、一般市民と薬用作物の間に距離を生んでいると言えるでしょう。

結果として、食文化の違いと法規制が複合的に影響し、残念ながら日本国内では薬用作物が一般市民に浸透しづらい環境にあると考えられます。

薬用植物の可能性を最大限に引き出すため、生産者一人一人にやりがいを


九州医療科学大学 取材用写真 ▲由布市のトウキ講評中

―――実証栽培を通して実感した課題や、それを克服するために行った活動は何かありましたか?

私たちが研究で行う試験栽培は小規模であるため、本格的な大規模栽培時には予期せぬ問題が生じることがあります。
最も大きな課題は発芽の難しさです。

一般的な作物なら発芽までの日数は短いですが、トウキなどの薬用植物は2~3週間も発芽しない場合があります。

その間に大雨が降ると種が流されてしまい、雑草が生えると苦労することになります。
こうした発芽の問題を解決するため、私たちは研究を重ねてきました。普通の野菜とは全く異なる特性があり、品種改良を経た作物とは大きく異なるんです。

薬用植物はいわば原種に近い性質を持ち、発芽の悪さを含めた多くの問題点を抱えています。そのため、発芽に関する問題を解決するため、研究を重ねてシードコンディショニングという方法を開発しました。この方法によって、最短で1週間以内に発芽を揃えることに成功しています。

―――薬用作物の産地化を成功させるために必要な要素は何だと思いますか?

薬用作物の商品化に向けた計画や市場導入をしようとしても薬機法の規制により、困難な部分が少なくありません。薬機法をきちんと解釈し、制度内で取り組んでいく必要があります。

一つの取り組みとして、宮崎県延岡市のハラダ調剤グループと共同で、薬用植物「ムラサキ(生薬名:シコン)」を使ったハンドクリームを開発しました。
シコンには肌荒れ防止や傷の修復促進効果があり、シコンを使った漢方薬の軟膏「紫雲膏」という医薬品を個々の薬局が独自で製造して販売することも可能です。しかし、通信販売などの販売はできません。

九州医療科学大学 取材内容解説スライド ※パンフレット内の九州保健福祉大学は、九州医療科学大学の旧名です。
引用:ハラダ調剤薬局グループ公式ホームページ


そこで、シコンの効能を活用する方法として化粧品としてハンドクリームを製品化することにしました。化粧品であれば通信販売も可能となるためです。このアイデアを地元の薬局グループに提案し、共同で商品化を行いました。現在では、延岡市のECサイトで通信販売ができていますし、我々が予期しなかった嬉しい波及効果として、ふるさと納税の返礼品になったこともありました。

私たちの大学では、このように薬用植物の研究と栽培を担い、最終的な商品化に貢献しています。
薬用植物の研究開発から、製品化まで一貫して関与することで、新たな価値創出を目指しているのです。

薬用作物をとりまく薬機法などの法規は、一般の人には馴染みが薄い領域ですので、生産者は薬用作物の生産に集中する、大学と企業が法規の解釈を行って薬用作物の可能性を最大限に活かす方法を模索する、といった形で、お互いの強みを生かしながら新たな展開を模索していく良い事例となったと思います。

また、薬用植物の生産では収益性を高めるのが困難なことが最大の課題です。

医療用医薬品としての漢方薬は、薬価という価格の縛りの中で販売されます。薬価は医薬品が薬価基準に収載されてから、年数が経つと下がる傾向があるため、1980年代に薬価収載された漢方薬は当時よりも低く設定されています。そのため、生産者への十分な還元が難しい状況です。そこで私は、商品化を通じて生産者への恩恵を可視化したいと考えています。

一般的な農作物であれば、近隣に作物を配り「美味しかった」と喜びの声が返ってくることがあります。
しかし薬用植物の場合、企業を経由して多くの原料のうちの一部に加工されてしまうため、生産者への直接的な評価は届きません。
作り手の誇りを実感できる機会がないのが現状です。

そこで、地元の生産者と協力して商品化に取り組み、彼らが育てた薬用植物がどのように活用されているかを「見える化」することが重要だと考えています。
例えば先ほどのハンドクリームの例であれば、「あなたが育てた薬用植物が入っている」と伝えることで、自身の育てた作物が社会に役立っていることを実感してもらえます。
「うまくいった」「また作ろう」と生産意欲につながり、産地の活性化が期待できるのです。

単に収益を上げるだけでなく、生産者に誇りと働きがいを示し、産地全体を活気づけること、そうした好循環を生み出すことが、私たちの使命だと捉えています。
薬用植物の可能性を最大限に引き出すには、生産者一人一人のモチベーションを高める工夫が欠かせません。

九州医療科学大学 取材用写真 引用:九州医療科学大学 公式Facebook

商品化の一例としては他にも、トウキの薬用部位ではない、未利用部位である葉を使った七味唐辛子を福井県高浜町の中学生が主体となって開発しました。
例えばトウキの根は薬膳料理の素材として使いたいところですが、根は薬用なので日本では食用などでの販売は認められていません。
台湾などでは根を使った薬膳料理が販売されていますが、日本での薬用部位の一般使用は制限されています。
そのため、未利用部位の葉や花を活用するなど、規制の範囲内で工夫しながら商品化を進める必要があります。
他にもトウキの葉は、薬用部位であるトウキの根と同じ匂いがします。
葉をお風呂に入れても身体が温まるので、薬湯の素として商品化するアドバイスをし、現在試作品を作っている最中です。

以上のようにトウキの薬用部位は製薬会社向けですが、未利用部位である葉は地元で食用や雑品として活用できることが示されました。

このように、薬用植物の可能性を最大限に活かすには、薬機法などの規制を十分理解した上で、商品化の道を探ることが不可欠です。
専門家として適切にアドバイスし、生産者の方々とともに新たな価値創出につなげていくことが私たちの役割だと思っています。

「ちょっと作ってみよう」から、草の根的に広がってほしい


九州医療科学大学 取材イメージ画像
―――現状のままでは、生産農家も減り、漢方のほとんどが国外産になってしまうのではないかと危惧されているとお話を伺いました。この現状に歯止めをかけるため、5年後や10年後の未来に期待していることは何でしょうか?漢方の領域において、どのように変化していくのか、先生の考察を教えてください。

理想としては、5年、10年経った先には、生産者数や生産面積が増えていることを願っています。
しかし、薬用植物分野では国を挙げた事業が10年以上続けられているものの、国内生産比率10%、中国からの輸入比率80%という構図に大きな変化はありません。

過疎化が深刻な自治体も多く、「消滅は避けられない。延命することが大切」といった現実的な見方も広まっています。
薬用植物産業においても、同様の厳しい現実を直視せざるを得ない可能性もあります。
希望が持てないような話ですが、それが運命なのかもしれません。

しかし、私個人としては、薬用作物の栽培・生産にまつわる、過去の篤農家たちの知恵の集合体である伝統を何とか残したいという思いがあります。
大手製薬会社の製品では収まりきれないニーズがあり、文化的な豊かさとは選択肢の多様性にあると考えます。

「選択に幅があるというのは実に豊かだ」という言葉が、もやしもんという漫画の一節にあります。「出汁をかつおぶしを削って出すのもよいが、朝の忙しいときには化学調味料でも安くて早く食事がつくれる。」という実例で紹介されています。

西洋医学と並んで漢方医学が存在することも、漢方薬の中でも大量生産で湯もみをしていないトウキ(多くは医療用に使われる)や、湯もみ製法の伝統的トウキ(煎じ薬として使われる)が共存することも、多様性を生み出します。

私のようにトウキの伝統技術を学び継承する者がいる一方で、大規模生産もあって良い。それぞれの選択肢を残し、治療薬を選べる豊かさを次世代に伝えていくことに使命を感じています。

―――皆様が作られている生薬・漢方薬は海外での需要もたくさんあると思います。国内外への普及を目指す際に、最も有効なアプローチは何でしょうか?

海外市場への展開については、各国の薬事規制(米国ならFDA)への申請手続きが必要となり、大手企業などがその役割を担っています。しかし、「単一の成分が薬効を担う」という常識がある、特に西洋諸国に対して複数の成分を含有する漢方薬が進出するのはかなり難しいようです。

一方、国内においては、漢方薬の有用性や特長を発信していくことが重要です。
特に女性特有の疾患への効果など、漢方ならではの強みを啓蒙活動を通じて広めていくことが期待されます。

その中で、大手企業が製造している医療用・一般用漢方エキス顆粒もあり、漢方専門の病院や薬局が使う、伝統的製法の生薬を使った煎じ薬も治療薬の選択肢として存在します。
消費者が伝統的製法の生薬を使った製品を求めるようになれば、生産者への恩恵も期待できるでしょう。
規模は小さくとも、こうした多様性を維持継承していくことが豊かさにつながるはずです。

九州医療科学大学 取材用写真
―――最後に読者の皆様にメッセージをお願いします!

まず、薬用作物という分野があることを広く認知していただきたいと考えています。
そして、この分野が第二のレアアースと呼ばれるほどの深刻な問題を抱えていることを、多くの人に知っていただきたいです。

そうした中で、薬用作物の生産に関心を持つ人が増えてくれれば嬉しく思います。
確かに大手企業と契約栽培する生産者が増えれば、国内生産量を大幅に伸ばすことができるでしょう。しかし私は、より草の根的な小規模多品目生産者が土台を築いていけるのではないかと考えています。

現在でも一般農家の中には、普通作物に加えて薬用作物を少量生産している方々がいらっしゃいます。
こうした「ちょっと作ってみよう」という動きが広がれば、現在の国内生産割合10.3%をじわじわと高められるはずです。そうすれば薬用作物の産地が確実に形成され、さらなる発展も期待できます。

興味があれば、多くの方に是非チャレンジしていただきたいです。
分からないことがあれば大学や関係機関に相談していただければ、適切な指導を受けられると思います。

薬用植物の産業化には、継承と新規開拓、教育普及と商品開発、薬学的アプローチによる品質保証など、総合的な視点がより重要だと考えています。
そういった複雑なところは我々大学などが担い、生産者は安心して生産に集中できる環境をこれからも整えていきたいと思います。

薬用作物の生産に関心を持つ人が一人でも増えることを心から願っております。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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