未来の保育者たちへ:保育のプロが教えるいい園の選び方(後編)
前編に引き続き、和洋女子大学こども発達学科の矢藤誠慈郎教授にお話を伺っていく。
前編では保育の現場の現状についてお話いただいたが、後編ではこれからの保育についてお話を伺った。
インタビュー後半では子育て中の方必見の「いい園の選び方」も教えていただいたので、ぜひ参考にしていただきたい。
文化的な環境と自発的な遊びが未来の保育のキーワード
―――これからの保育の現場において5年後、10年後など将来的に期待することや変わっていくと思う世界観を教えてください。
就学前の子どもたちというのは、ただ遊んでいるのではなく、自発的な活動としての遊びが生涯にわたって学び続けていく力の基礎になります。今後は、子どもが興味や関心を持ったことが存分に取り組めるような保育が広がっていくと考えています。実際、OECD(経済協力開発機構)など国際的にも幼児期の教育にとても関心が高まっていて様々な報告書が出されています。
幼児期の教育には、社会情緒的スキルとも言われますが、社会的な人と関わるとかあるいは気持ちの力(最後まで頑張ろう、努力しよう、辛抱強くやろう、友だちと何とか折り合って協同的にやろうなど)、主体的、対話的な深い学びが大切だといわれています。
そういう学びを幼児期に豊かに提供するために、単に遊ぶのではなく、子どもが集中、没頭して、いろんな工夫をしてお友だちと協力しながら遊ぶことができる、本当の意味での学びが充実した、保育所、幼稚園、認定こども園が増えていくでしょう。
このような幼児教育が本来のカタチだというのは、ずいぶん昔から言われていましたが、現実には保育所や幼稚園は小学校の下請けのように「文字を覚えさせましょう」「お行儀よく座っていましょう」みたいなことをやっていたわけです。
かつてはそれでも地域社会のなかで子どもたちが遊んで、いろんなことを学んでいたので、幼稚園や保育所は「お行儀よくする場」「先生に言われたことをする場」でも良かったのですが、今や地域社会と子どもたちが異年齢の集団の中で様々な社会や自然に触れて遊ぶみたいなことはかなり貧しくなってきてしまいました。
子どもたちが力や可能性を発揮して、色々と葛藤もしながら多くのことを学んでいく……それが幼児期の教育であるという考え方が、就学前の子どもを預かる幼稚園、保育所、認定こども園により広まっていくと思います。そして、保護者はお客様ではなく子どもを一緒に育てるパートナー、地域の人は園のサポーターであるという意識も徐々に広まりつつあると思います。
また、私たちのような保育者養成校の教員もそういう観点で学生を育てていかなければいけませんので、養成校の教育の質も大きく関わってくるでしょう。やはり今からの時代を作る人たちを育てなければいけないので、私たちが古い教育を行っていたらいけません。
これからの時代の保育に前向きに取り組んでいる園もたくさんあります。このような意識が保育者全体にだんだん広がっていくことを私は期待しています。私自身も与えられた仕事のなかで、質の高い幼児期の教育を全国に広めていきたいと思っています。
―――現代の保護者の多くが「こうするとIQが伸びる」「こうすると頭がよくなる」など勉強にフォーカスした幼児教育になってしまっているように感じます。そうではなく、子どもの好奇心や関心がどこに向いているか、子どもの特性に目を向けて、そこをしっかり応援してあげることが大切ということでしょうか。
昔は社会の変化が緩やかだったので、勉強していい成績を取り、企業に就職すれば年功序列の中で何とか逃げ切れる時代でしたが、そういう時代はすでに終わっています。
これからの時代は、人類が経験したことのないような課題が次々と、しかも短期間の中で続々と出てくる時代になるでしょう。その時に「正しい知識を覚えてます」というだけではとても太刀打ちできません。
今の子どもたちは何十年後もずっと生きていく人たちなので、本当に色々な事に興味を持ち、興味を持った事を調べ、わからない事を友だちと考えたり、何か試してみたり……そういった力を身につけておかなければいけないと思います。
これからの時代は、かなり多くの人たちが「クリエイティブさ」や「何か興味を持って探究する」こと求められる時代になるでしょう。
ここで大切になるのが、幼児期の文化的な環境です。家庭であれば自然がある場所に出かけたり、美術館に行ったり、絵本を一緒に読んだり……となりますがこれは家庭や地域によってとても差が出やすいものです。
だからやはり保育所、幼稚園、認定こども園に子どもたちがいろんなことに触れられる文化的な環境を用意していくことが大切になってきます。
ありきたりなものを用意して、ありきたりなことを日々やってるだけではなく、子どもたちが興味をもったり興味を持ちそうなことを先生たちもいろいろ楽しみながら、提供していくと保育の世界も変わっていくと思います。
また専門家も「子どもたちにどんな環境を提供したらいいか」という部分は、もっと考えていく余地があると思います。そういう研究も幼児教育の世界ではどんどん進んでいくでしょう。
―――保育園の役割とは?
実は0~1歳児で保育所に子どもを預けている親は、虐待や不適切な養育の傾向が抑制されるという調査結果もあります。
家庭だけで子どもと関わっているだけでなく、園の先生たちの子どもへの接し方を見て学ぶことができることが大きな理由だと思います。
保育所や幼稚園は、保護者にとっての育児の学びがある場でもあると思うんですよね。子どもとの関わり方をしっかりと保護者に見せたり、伝えたりすることで保護者の意識も変わっていくと思います。
こういった子育ての支援とかをできるのも保育所、幼稚園の大事な力のひとつです。だからこそ保育所や幼稚園、認定こども園も子どもとの関わりを洗練していくことが必要ですね。
保育園、幼稚園選びのポイントを伝授!いい園を見分けるコツ
―――働きながら子育てをしている方や保育に関わる関係者の方に向けて、メッセージをお願いします。
保護者の方でどんな保育所、幼稚園、認定こども園を選べばいいかわからないという人も多いと思います。そんな方にひとつこんなところを見るといいよという私なりのポイントをお伝えします。
ひとつは「みんなの機嫌がいいか」です。
保育者、園長先生、保護者、子どもたちがみんな心から笑っている園はいい園だと思います。なぜなら、不機嫌というのは支配の方法のひとつで、先生や保護者が不機嫌だと、子どもは気を遣うようになります。しかし、不機嫌という支配の仕方は、専門家が力を出し合う組織には不向きです。
もうひとつは没頭して何かを作っていたり、友達と相談しながらルールを決めていたり、先生と絵本を読んでいたり、ゆっくり休んでいたり、…と、子ども一人一人がそれを自分の意思で過ごしているように見えるかどうかを見ていただきたいと思います。
子どもがやりたくもないことをやらせている園は、怪我をしやすかったり、事故が起こりやすかったりするように思います。子どもは、本当に作りたいものややりたいことを一生懸命やっている時は、五感を存分に働かせて、没頭するので怪我が意外と少ないのです。
逆に言えば、園の人たちは機嫌よく楽しく仕事をすることが大切で、子どもたちは自分たちの意思を発揮してそこに存在することを許されるような状況をしっかり作ってあげることが大切だと言えます。
また保育者の方には「変えることができない」「変えることが難しい」と思わず、ささやかな変化を辛抱強く続けていくことで、大きな変化が起こることがあります。保育の質が変わり、子どもの姿が変わっていけば、先生たちも働く事が楽しくなるはずです。ぜひ信じて小さなことからチャレンジしてみてください。
そして子どもに関わる全ての人に子どもが「いま」ハッピーかどうかに注目して欲しいと思います。
乳幼児期の子どもは、世界は自分にとってどのようなものかを感覚的に身に付けていきます。赤ちゃんが泣いたから怒鳴ったり、やりたい事を将来のためと我慢させたりすれば世界は子どもにとってネガティブなものになってしまいます。
しかし、自分が笑ってみんなも笑ったり、自分がやったことをみんなが受け入れてくれたりすれば世界はとても肯定的なものになります。これを感覚的に乳幼児期に感じ取っていくことがその人の生きていく力の源になります。
乳幼児期の「今この瞬間がハッピーかどうか」はその子の人生に重要なのです。
「我慢も必要」と思う方も多いと思います。しかし我慢が必要だということを子どもたちが自分で「友だちをハッピーに遊ぶためには我慢が必要だ」と気づくか、大人に「我慢しろ」と言われるかで大きな違いがあります。
私たちは、子どもたちが自分で「我慢する方がハッピーである」ことに気づいていくようなアプローチをもっともっと考えていいと思います。自由にやるからこそ、その楽しさを維持するために子どもたちはいろんなことを考えたり工夫したりする、そして我慢も身についていくのです。
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