地域社会の再生へ:権田恭子准教授が提言するまちづくり戦略
2024.09.17

地域社会の再生へ:権田恭子准教授が提言するまちづくり戦略


少子高齢化が進行し、日本の人口減少は深刻さを増しています。さらに東京への一極集中という問題が追い打ちをかけ、自治体によっては消滅の可能性まで示唆されるなど、日本国民にとって無視できない大きな課題となっているのが現状です。

そこで注目されているのが、地域の未来を考えた「まちづくり」や「地方創生」です。今回は、新潟産業大学経済学部の権田恭子准教授から、まちづくりに関する研究や具体的な取り組み、そして地域の未来についての考えを詳しく伺いました。

若者と地域社会はどのように関わっていくべきなのか、地域と若者がともに成長するためにはどうすればいいのか。日本の未来に希望をつなぐためのヒントがここにあります。

権田 恭子
インタビュイー
権田 恭子氏
新潟産業大学 経済学部
准教授
専門は若者の力と地域資源を活かしたまちづくり


地方創生に挑む教育学者の新たな試み


新潟産業大学 取材用写真 ▲権田ゼミの学生が立ち上げたイベント「柏崎冬のフェスティバル」の様子。地域連携活動の中で出会った柏崎市内の企業、団体の方々や、新潟大学など他大学の学生らがワークショップ、ステージ発表等で一堂に会した。

―――まずは先生の研究概要や専門領域について教えてください。

私は筑波大学で教育学を専攻し、教育経営や教育行政を専門として研究を進めてきました。私の研究の焦点となっていたのは、教室内における生徒と先生との関係というより、教育環境全体の整備ですね。具体的には、教育機関がどのように地域と連携し、地域社会に貢献できるかを探求していたんです。

そんなときに新潟産業大学から声をかけていただいて、地元である新潟県柏崎市に戻ることを決意しました。新潟産業大学に赴任した当初は教職課程の担当を務めましたが、大学自体も地域貢献に力を入れたいという方針に転換していたんです。そこで、私の研究関心と大学の方針が一致して、地域連携を主軸とした教育活動にシフトしていきました。

―――地域連携の取り組みとして、ゼミではどのようなことをされているのでしょうか。

新潟産業大学 取材用写真 ▲柏崎の一大イベント「えんま市」に出店。地元金融機関のコーディネートで地元企業とコラボした商品などを販売。学生手づくりの「糸引きくじ」は子どもたちにも大好評。

私が担当するゼミでは、学生が地域の課題解決に取り組む「実践的な学び」に注力しています。こちらから発信するというより、「大学生の力を借りたい」という地域からの相談を受けて活動が始まる形ですね。日々、さまざまなご相談をいただきますが、基本的には断らず何でも引き受けてトライしています。

初期の頃は単純に労働力を提供するだけのボランティア活動というイメージでしたが、現在では地域活性化に係る様々な事業の企画運営にまで発展しています。

例えば、中心市街地の商店街の空き店舗活用や地元企業とのコラボ商品の開発、コミュニティセンターと連携したイベント開催などですね。こうした活動を通じて、学生たちは地域の人々と協力しながら実践的な経験を積んでいます。

プロジェクトを進める中で、地域の方と意見のすりあわせが必要なこともありますが、それを乗り越えて最終的に成功へと導くような体験を積み重ねています。

新潟産業大学 取材用写真 ▲「えんま市」での接客の様子。実践を通じて幅広い世代の方とのコミュニケーション力が次第に身に付きます。

地方都市が抱える課題-若者流出と地域アイデンティティ喪失-


新潟産業大学 取材用写真 ▲竹あかりイベントに運営スタッフとして参加。地域の荒れた竹林を整備した竹から灯籠を作成。準備段階から作業に携わっている。

―――地域の活性化にあたって地方都市が抱える課題とはどんなものなのでしょうか?

地方都市にとっての大きな課題と言えるのは、やはり若者の流出ですね。私が特に心配しているのは、地元で学び育った若者が、高校を卒業すると都会に移り住んでしまうことです。若者が流出してしまうと、地方の活力がなくなって地域社会の高齢化も加速してしまいます。柏崎市も例外ではなく、地域で生まれ育った多くの若者が「柏崎には未来がない」と感じて都会に出ていきます。

もちろん、都会で成功するのも喜ばしいことですが、地元に戻って地域の発展に寄与してくれると嬉しいですね。ただ、現実として就職先の少なさなどが、若者を都会へ駆り立てる原因になってしまっているのが現状です。

一方で、都会から地方へ移住してきて、新しい事業を始める方が注目されることも増えましたよね。こういう方に対しては、地域でも多くの方が応援してくれています。しかし、現状では相当な覚悟がなければそういう選択をするのは困難です。注目はされるものの、まだ自分で起業するより大企業に入ってサラリーをもらうほうが重要視されているのは確かだと思います。

自分で行動を起こした人が特別視されたり、変わり者として見られたりしてしまううちは、まだ企業中心の資本主義社会になっているんですよね。そうなると、結局は大きい都市に行って長いものに巻かれたほうが合理的だという話になってしまうんです。


新潟産業大学 取材用写真 ▲竹あかりイベントの当日の様子。日本庭園を約2000本の竹灯籠の明かりでライトアップした。

―――地域が抱える課題の根本にあるのはどういった問題なのでしょうか?

具体的な例を挙げると、平成の大合併が地域社会に大きな影響を及ぼしています。例えば今はまとめて「柏崎市」と呼んでいても、旧市街地の中心地出身の方もいれば、西山町の方や高柳町出身の方もいるわけです。合併によって一つの自治体になった地域の問題と言えるのが、旧郡部のアイデンティティを失って行政の中心から遠ざかってしまったということですね。

私の地元である西山町も、柏崎市に吸収された結果、旧郡部の文化や歴史、ローカルルールなどは次第に忘れられ、地域住民のアイデンティティは希薄化しています。上越市に至っては旧上越市と周辺の13もの自治体が合併したので、もともとあった文化やアイデンティティは吸収されてしまっているんです。「地域」と言いながらも、その「地域」とはどこを指すのかという単位が曖昧になってしまっている状況ですので、若者から地域独自のアイデンティティを学ぶ機会を奪っているとも言えますね。

あとは、合併された旧郡部の町村を何とかしたいと考えたときに、実はそうした地域を指す言葉は存在しないんです。「小規模自治体」のように、合併された旧郡部を定義する言葉を自分たちで作っていかないと、それ以上語ることができない。それ自体が課題になっていますね。

―――コンパクトシティの弊害ということでしょうか?

現在は国がコンパクトシティを推奨していますし、各自治体もコンパクトシティ構想を掲げて立地適正化計画を策定しています。電気や水道といったインフラをはじめ、雪国であれば除雪作業ひとつをとっても、中心市街地にさまざまな設備を集中させたほうが便利になるというのは確かです。

ただ、それによって地域のアイデンティティが希薄になって結束力が弱まるほか、合併によって自治体内の行政サービスの優先順位もつけていかなくてはならないので、周縁部の不便さが増してしまうという問題も忘れてはいけないと思っています。

持続可能な地域づくりのためのビジョンと戦略


新潟産業大学 取材用イメージ画像
―――課題に対するアプローチとしては、どんなことが考えられるのでしょうか?

現在本学の先生方とともに取り組んでいるテーマのひとつとして、道の駅の研究をしています。従来、道の駅は観光客のための施設というイメージが強いですよね。ですが、すでにかなりの数が作られていて、箱モノとしては過剰なくらいなんです。それなのに観光型にばかり特化して同じことをしていても差異化はできませんし、観光客の取り合いになってしまいます。

そこで、地元の人々にとっても有益な施設にできないかと考えているんです。具体的には、道の駅を地域の医療サービスや役所の出張所、デイサービスなど、多機能な施設として再構築することを提案しています。観光客が通りすがりに利用するだけだった道の駅を、地域住民が日常的に利用できる場として機能させ、地域の交流やサービス提供の拠点となることを目指しています。

道の駅って、基本的に中心市街地にはありませんよね。まさに先ほどお伝えした周縁部にこそ多く位置しているものです。それはおそらく全国的に同様の傾向があると思いますので、すでに箱モノとして存在している道の駅を、合併された旧郡部の町村の人々にとってのアイデンティティにしていけないかと考えています。

―――若者の流出に対してはどんな対策が必要だとお考えですか?

若者が地域から流出する理由を突き詰めると、「就きたい仕事がないから」「就職したいところがないから」という本音が必ず出てきます。特に私が悲しいと感じるのは、頑張って勉学に励んできた偏差値の高い子や、リーダーシップを発揮していた子ほど「このまちに残るべきではない」という意見を持つことです。

本当は、そういう子たちこそが「就きたい仕事がない」と悩んでいる子に対してリーダーシップを発揮して「自分が起業するから一緒にやろう」と言えるのが理想的ですよね。でも現実は、優秀な子ほど都会の大きな会社に入って「大勢のうちの1人」になってしまいます。世間一般にある「優秀な子は田舎を出て大きな会社で働くべき」という先入観って恐ろしいですよね。リーダーシップを発揮して地域で活躍できる若い世代を、自ら外へ出してしまうような状況を生み出してしまっているんですから。

個人的には、就きたい仕事がないなら自分でつくるべきだと思っています。私のゼミでは、学生たちも自分で考えながら地域の方々とつながって、イベントなどを自分たちでイチから企画運営させたりもしています。そうすると、大きな達成感や自己肯定感が得られて、大学3,4年生の2年間で大きな自信がつくんです。そんな経験を通して、「自分たちでもやれるんだ」「地域に出ると楽しいんだ」ということを学べる場をつくるのが私の役割だと思っています。

ただ、そうして彼らの中に芽生えた主体性を受け入れてくれる素地は地方にはまだあまりないのが現状です。でも、インターネットなどの力を借りることで行動に移しやすくなってくると、今後は面白くなるのではないかと考えています。

地方で若者が輝く未来を目指して


新潟産業大学 取材用写真 ▲「あんこジャム」のPR動画の撮影風景。老舗製餡所の新商品を若者目線でのユニークな動画を通じてPR。動画や広報誌の制作で情報発信力も向上します。

―――若者が活躍できるようなまちづくりには、どんな要素が必要だとお考えですか?

自分自身の手で地域を変える喜びを実感することではないでしょうか。例えば、1年生に「柏崎をもっと良くするためには何が必要か」と聞くと、「スターバックスやコストコが欲しい」といったように、都市にある憧れのチェーン店が来ることで解決すると考える学生が多いんです。しかし、ゼミの活動に取り組むようになると、自分が直接関わることで地域を変えていけることを理解するようになります。

上級生になると、大都会で「大勢の中の1人」として埋もれるのではなく、地域で必要とされる存在になることに価値を見出すようになります。実際に、ゼミでの活動を経た学生が卒業後も柏崎に残ったり、新潟県内で就職したりするケースが増えてきました。彼らは、自分たちの手が届く範囲での活動を通じて、地域に対する愛着を深め、地域で触れ合った人たちとともに生きることを選択しています。

―――理想的な地方創生としては、どんな方法が挙げられるでしょうか?

先ほど平成の大合併についてお話ししましたが、あえて合併しないことを選んだ地域もあります。富山県の舟橋村が日本一小さな「奇跡の村」として一番有名ですね。実は富山県は、合併によって大部分が富山市になっています。そんな中で、舟橋村は合併しないことを選びました。合併して便利になるよりも、地域の文化やアイデンティティを守ることを優先したわけです。

そうなると、職場やインフラなどは舟橋村を取り囲んでいる富山市にお世話にならなければなりません。その代わり、舟橋村としては「自分たちらしさ」を保つために必要な部分にサービスや税金を投入できるわけです。その結果、現在では人口流入が大幅に増えているんですよね。働きに行くのは富山市だけど、住むのは舟橋村がいい、といった感じです。

個人的には、「平成の大合併」の反対で「令和の大離脱」のようなムーブが起これば、その地域に住む方たちや新しいアイデアを持っている若者が自己実現しやすくなると考えています。さすがにそれを実現するのは難しいと思いますが、ITの活用によってそれに近いことができるようになるといいですね。

―――最後に読者の方へメッセージをお願いします。

地方都市や地方大学は、若い力を必要としています。東京をはじめとした大都市や大規模なビジネスに憧れるのは当然のことだと思いますが、ぜひ地方にも目を向けてみてください。地方都市や地方の小さな大学では、今まさにあなたを必要としています。若さと情熱さえあれば、地方で大きな変革を起こすことができるんです。

せっかく憧れを持って大都市の大きな大学に入っても、アルバイトばかりで授業に出られていなかったり、数百人が学べる教室の片隅で寝てしまったりしている学生は多いですよね。それと比べると、たとえ小さな大学の小さなゼミであっても、そこで1年間地域のことを考えて悩んだり、憂いたり、いろんな人と関わったりすることで、自己成長と地域貢献の両方を実現できます。

うまくいかないこともあるかもしれません。それでも、確かに自分がやったんだという手応えを感じて喜ぶような経験を積むことが、最終的には自分自身の人生や、住んでいる地域を豊かにしていくのではないかと考えています。そうして地域に残って頑張ろうとする人を、地域も大事にしてくれるはずです。

ですので、ただ単に日々を消費していく側ではなく自分自身が「まちづくり」をする側になり、後世の人たちや周りの環境に対して与えていく立場に興味を持てる人が増えていって欲しいと思っています。そんな人が増えることで、地方も必ず面白くなってきます。

新井那知
ライター
So-gúd編集部
新井 那知
埼玉県・熊谷市出身。渋谷の某ITベンチャーに就職後、2016年にフリーランスライターとして独立。独立後は、アパレル、音楽媒体、求人媒体、専門誌での取材やコラム作成を担当する。海外で実績を積むために訪れたニューヨークで、なぜかカレー屋を開店することに—-帰国後は、クライアントワークを通してライターとして日々取材や編集、執筆を担当する。料理と犬、最近目覚めたカポエイラが好き(足技の特訓中)。
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