(2015年6月13日執筆、2023年2月2日最終更新)
WEBマーケティングの職種の中でも、特に大きな注目を集めているグロースハッカー。
Facebookや、Uber、Airbnbなど多くの世界的WEBサービスの成長を支えたのがグロースハッカーであるということもあり、アメリカではWEBマーケティングの花形職種です。
日本でもグロースハッカーになりたい人は日々増えています。ではグロースハッカーとは一体、何者なのか?
その意味や仕事内容、事例を含め詳しく解説していきます。
目次
2010年に初めて使われた言葉
グロースハッカーとは何者か?
「グロースハッカー」という言葉が初めて使われたのは2010年7月。
ショーン・エリス(Sean Ellis)氏が、自身のブログ「STARTUP MARKETING」で述べたのが始まりです。
ショーン・エリス氏は伝説的なグロースハック事例を多数持つオンラインストレージサービスのDropboxでもマーケッターをしており、現在WEBサイトの改善サービスを提供するQualaroo社のCEOです。
そこで語られた人間像がグロースハッカーとして認知され、彼らが行う仕事がグロースハッキング(日本ではグロースハック)と言われるようになりました。
以下にその英文の引用と、日本語でポイントをまとめます。
What is a Growth Hacker?
A growth hacker is a person whose true north is growth. Everything they do is scrutinized by its potential impact on scalable growth. Is positioning important? Only if a case can be made that it is important for driving sustainable growth (FWIW, a case can generally be made).
The good news is that when you strip away everything that doesn’t have a direct impact on growth, a growth hacker should be easier to hire than a VP Marketing (or maybe an insider already has the needed skills). I’ve met great growth hackers with engineering backgrounds and others with sales backgrounds.
The common characteristic seems to be an ability to take responsibility for growth and an entrepreneurial drive (it’s risky taking that responsibility). The right growth hacker will have a burning desire to connect your target market with your must have solution. They must have the creativity to figure out unique ways of driving growth in addition to testing/evolving the techniques proven by other companies.
An effective growth hacker also needs to be disciplined to follow a process of prioritizing ideas (their own and others in the company), testing the ideas, and being analytical enough to know which tested growth drivers to keep and which ones to cut. The faster this process can be repeated, the more likely they’ll find scalable, repeatable ways to grow the business.
さて、上記英文を分かりやすいように以下に箇条書きでまとめたいと思います。
グロースハッカーとは何か、簡単にまとめると…
こちらが2010年に初めてグロースハッカーという言葉が使われた時の定義となります。
【グロースハッカーとは、】
- 自身の活動の目標を「成長」に置き、そのことに責任を持てる人間。
- 爆発的な成長の可能性を考え、全ての施策を実施する。
- ターゲットマーケットへのリーチ(マーケティング)に燃えるような情熱を持っている。
- 他社で行われた効果が証明されている手法をテストし、発展させ、新しい方法を生み出せる。
- エンジニアだろうが、営業だろうがバックグラウンドは問わない。
【そして、優秀なグロースハッカーは、】
- 実施するマーケティングに優先順位を付けることができる。
- 自らテストを行うことができる。
- 施策の効果を見て、続けるもの、続けないものを取捨選択ができる。
- 改善スピードが速い。
- ビジネスを成長させる大規模かつ反復性のある方法を見つけることができる。
意外に思われるかもしれませんが、ショーン・エリス氏の言うグロースハッカーは必ずしもエンジニアの出身である必要はないということです。
グロースハックの「ハック(ハッキング)」という言葉がどうしても、ハッカソンやハッキングをはじめ、テクノロジー分野で使われることが多いため、システム開発の力を持っている人間がグロースハッカーと思われる傾向があります。
しかし、上記のような特徴と思考、ビジネス感覚を持った人間がグロースハッカーとされ、Webマーケター出身の方もいれば、システムに強い人間もいますし、WEBデザインやコンテンツマーケティングに強いグロースハッカーもいるというわけです。
Hacking Growth グロースハック完全読本によると
2010年からグロースハッカーという言葉は様々なシーンで使われてきましたが、2017年4月25日にショーン・エリス氏がモーガン・ブラウン氏と共著にて「Hacking Growth: How Today’s Fastest-Growing Companies Drive Breakout Success」という書籍をリリースし、2018年9月28日に「Hacking Growth グロースハック完全読本」として日本語に翻訳されて発売されました。
「Hacking Growth グロースハック完全読本」では、グロースハッカーが行うグロースハックのコア要素を次の3つにまとめています。
- マーケティングと製品開発の分業体制を打ち破り、組織横断型チームを結成する。
- 定性調査と定量のデータ解析を併用し、ユーザーの行動と嗜好に関する深い洞察を得る。
- アイデアを迅速に生成・検証し、その結果を厳しい基準で評価して対応する。
業種、業態によって違いはあるものの、上記の3つの要素を行うことがグロースハックのコア要素であると改めて定義がされました。こちらを行うのがグロースハッカーということになるのですが、この3つについては少々解説を加えたいと思います。
まず、1つ目の話です。
組織横断型チームの結成をする
「マーケティングと製品開発の分業体制を打ち破り、組織横断型チームを結成する。」
ご存知の通り、ほぼすべての事業ではプロダクトを作り、それを世の中に広めていくマーケティングを行うことで成長していきます。
そして、プロダクトとマーケティングは両方とも絶え間ない改善が求められ、互いに関連し合っているため、製品開発部門とマーケティング部門が連携し合うことは事業の改善速度を速めます。
グロースハッカーは、事業を急速に成長させるために、製品開発部門とマーケティング部門の壁を取り払い、組織横断型チームを結成します。
なお、本場のアメリカでこれがどのように行われているかと言うと、急成長IT企業ではグロースチームという部署を社内に持っていることが多く、このグロースチームが成長にフォーカスを置いて組織横断的にチームを動かします。
そして、このチームを動かすトップがグロースリードというポジションであり、グロースハッカーと同じ思考法で仕事を進めます。グロースハッカーと異なる点は、グロースハッカーは自ら手を動かして改善をするのに対して、グロースリードはマーケティングのアクションやコーディングはグロースチーム内のスペシャリストに任せます。
これらを全て自分で行うのがグロースハッカーですが、マーケティングの幅も年々広くなり、各分野の専門性や必要なスキルセットが高まっている現在においては複数の人数で分業してグロースハックを行う会社も多いということです。
さて、それでは2つ目の話です。
定性・定量の分析からインサイトを得る
「定性調査と定量のデータ解析を併用し、ユーザーの行動と嗜好に関する深い洞察を得る。」
ここで話されている「定性調査」では、主に実際にユーザーや顧客の声を聴いたり、ソーシャルメディアの調査をするソーシャルリスニングなどによって数値にできないデータを集めます。「定量のデータ解析」はGoogleアナリティクスなどのアクセス解析や自社の顧客データベースなどを用いた定量的な分析です。
この両方を調べ、ユーザーニーズやインサイトを掴むことは、グロースハッカーにとって必須の仕事です。ユーザーの隠れたニーズや行動、インサイトを掴むからこそ、ビジネスをスケールさせるためのプロダクト改善とマーケティング改善のアイディアが生まれます。
グロースハックというと定量のデータ分析が重要なイメージを持つ方も多いと思いますが、それと同じくらい定性調査は重要になります。定量データの分析だけを正とせずに、顧客やユーザーの声などの定性調査も併せて行う文系の脳も大事にする必要があります。
ショーン・エリス氏もビジネス専門誌の広告営業からキャリアをスタートしている文系の方であり、ユーザーの真の声を掴める感性を持っていたからこそ、ドロップボックスを急成長させることができたという側面があったと思われます。
昨今、注目を集めたデザイン思考という考え方がありますが、グロースハックにおける定性のデータ分析からプロダクトの開発を行うプロセスやマーケティングコミュニケーションを設計するプロセスはデザイン思考です。
なお、定量のデータ分析を行うためにはデータサイエンティストのスキルセットを持っていれば有利です。
最後に3つ目の話です。
迅速に施策を打ち立て、検証し、評価する
「アイデアを迅速に生成・検証し、その結果を厳しい基準で評価して対応する。」
プロダクトもしくはマーケティングの改善点が見えてきたら、グロースハッカーはアイディアを施策に落とし、優先順位を付けて改善に取り組んでいきます。
同書の中では、その最重要改善指標がノーススター(北極星)と呼ばれます。それはプロダクトの特定箇所の改善になることもあれば、SEO対策やコンバージョンマーケティングといった特定のマーケティングになることもあります。またはカスタマーサポートの領域になることまであります。
施策を実行したら、結果を厳しく評価し、スピードを持って次の手を考えて改善を重ねていきます。それだけのスピード感を持って改善を重ねるので、グロースハッカーが行う施策の多くは、結果のレスポンスが早いデジタルマーケティングであることが多いのも一つの特徴です。
故にグロースハッカーの仕事は、デジタルマーケティングやWebマーケティングの職種の色が強くなるというわけですね。
グロースハッカーとは?2023年版
「グロースハッカーとは、ユーザーの真のニーズを定性的かつ定量的に分析し、マーケティングとプロダクトの両面において横断的に改善すべき全ての課題を突き止め、最も重要なものからスケーラブルな施策アイディアを打ち立てて高速に改善を行うことで、事業を急成長させるスペシャリスト。」
上記のように言えます。それを表した図が以下のようになりまして、これは当社のグロースハックの構造図になります。
グロースハックは分かりやすい収益化部分に目が行きがちになってしまうので、グロースハックの一部であるマーケティングコミュニケーションの中の更に一部分であるAARRRというフレームワークがグロースハックのことだと勘違いされてしまうことが多いです。
まだ成長のためのハックなので、ABテストや高速な改善がグロースハックと思われることが多いです。
ですが、それらだと既存のデジタルマーケティングと何も変わらず、それらはグロースハックではなく、グロースハックの一部です。前述したグロースハック完全読本の中でも語られているグロースハックの3要素を以下です。
- マーケティングと製品開発の分業体制を打ち破り、組織横断型チームを結成する。
- 定性調査と定量のデータ解析を併用し、ユーザーの行動と嗜好に関する深い洞察を得る。
- アイデアを迅速に生成・検証し、その結果を厳しい基準で評価して対応する。
グロースハックというのは極めて本質的であり、事業創造を意味する広義の意味でのマーケティングを、デジタル時代かつ顧客中心時代である現在にアジャストさせたフレームワークです。
グロースハックは元々、トヨタ社のリーン生産方式や主査制度がアメリカに持ち込まれ研究され、シリコンバレーにてリーン・スタートアップというフレームへと転換され、Facebookをはじめ多くのユニコーンが生まれたという流れが来ています。
そのようなユニコーンたちをリーン・スタートアップのフレームによって生み出したマーケターたちをグロースハッカーと再定義したのであり、内容だけを見ると実は日本の世界的な製造業企業が行っていることと近いとても本質なマーケティング理論です。
ここからは、よりグロースハッカーへの理解が深めていくために、グロースハッカーの仕事内容をお話していきます。
では、グロースハッカーが行う仕事(グロースハック)はどのような内容なのか?
グロースハッカーの基本的な仕事の型は上記なのですが、やみくもにこの型の通り進めれば成功するものではありません。
グロースハックは急成長にフォーカスを当てたものであるため、成長の急所(ノーススター)を見極めて、重点的に手を打つ必要があります。
それは、プロダクトを改善することなのか?それとも、特定のセグメントを重点的に攻めることなのか?特定のマーケティングに集中することなのか?
それを見極めるために一番最初にやっておきたいことが「課題の明確化」です。これはあらゆるビジネスの改善では必ず最初に行われることですが、グロースハックでもこちらは例外ではありません。
課題の明確化
グロースハックと言っても魔法ではありませんので、通常のビジネスやマーケティングと同様に、目標としている成長と現状にどの程度のギャップがあるのかを確認し、そのギャップを生んでいることは何なのかを特定しなければいけません。
顧客数が足りないのか、解約率が高いのか、単価が低いのか、まずは目標やKPIと照らし合わせて数値上のギャップを見ていきます。その上でギャップを引き起こしている課題を特定します。
顧客数が足りないのは、リード数が足りないからなのか、リード数が足りないのはサイトへのアクセス数が足りないからか。解約率が高いのは商品プロダクトに問題があるのか、使っていただいているユーザー・顧客がターゲットとずれているのか。単価が低すぎる可能性はないのか、など課題を特定するために分解を徹底的に行います。
その上で、次のステップは、「定性と定量の両側面からユーザー・顧客の真のニーズやインサイトを掴む」ということです。このプロセスはグロースハックの特徴的な側面です。
ユーザー・顧客の真のニーズやインサイトを掴む
課題が見えてきた時に、本当の課題は何なのか。それを掴むために、定性調査と定量的なデータ分析の両側面から分析を行います。実は課題だと思っていたことが課題ではなく、課題だと思っていなかったことが課題だったということが良くあります。
この本質を抑えないままアクションを起こしても急成長は見込めないので、まずはユーザー・顧客が真に望むことを本気で突き止めます。
定性調査では、実際に生身のユーザーや顧客の声を聞くのがベストです。紙やフォームのアンケートやサーベイでは見えてこないことが表情や声色などから見えてきます。もちろん、アンケートやサーベイは取ってみることは有効ではありますが。
定量分析は、対象とするビジネスモデルによって行うことは異なりますが、サービスの利用率や、ヒートマップを用いたサービス使用の動向、よく使われている機能やページの分析など、「真にユーザーや顧客が求めていることを何なのか?」これを掴むためのデータ分析は全て行います。
分析と評価
定性分析、定量分析から、当初立てた課題が正しかったかどうかを見極めます。ユーザー・顧客の真のニーズやインサイトを見極めることで、力を入れるべきことの優先順位が見えてきます。
プロダクトの改善を先に行うこともあれば、カスタマーサクセスを厚くすることもあります。特定のチャネルのマーケティングを強化することもあります。
プロダクトやサポートに力を入れるのが先決であれば、そちらから手を付けます。マーケティング側に課題があるのであれば、ここで初めてパイレーツメトリクス(AARRRもしくはAAARRR)に取り組んでいきます。
プロダクトの改善
プロダクトサイドでは、以下の5つの要素が揃った商品サービスを作り上げることにフォーカスすることが重要です。
- Must-have(必需性):人々や企業にとって必需品となる商品サービスである。
- Aha moment(感動と驚き):ユーザーが「wow!」と唸る驚きと感動の体験がある。
- Virality(拡散性):商品サービス自体に自動的に紹介が広がる拡散性がある。
- Easy UI(簡便なUI):簡便で心地良いUIである。
- Narativity(物語性):人々が商品サービスを体験した自身のストーリーを語りたくなる。
上記は当社が独自に定めたグロースハックによってスケールしたプロダクトの特徴を体系化した「MAVEN」という型ですが、そういったプロダクトは、上記の要素の4つか5つを持っているものがほとんどです。
上記にこだわることなく、ニーズやインサイトを見つめることが何よりも大切ですが、一つの参考にしていただければと思います。
さて、次はマーケティングの改善になっていきます。
一般的にグロースハックと呼ばれているのはこの部分ですが、ここまで見てきたパートも含めて行わなければ、本当はグロースハックにはなりません。
マーケティングコミュニケーションの改善
グロースハックにおけるマーケティングコミュニケーションでは前述したAARRRという型を使います。「アー」と呼びます。海賊があげる声に似ているのでパイレーツメトリクスと言われます。
パイレーツメトリクス(AARRR)とは、以下の5つのプロセスでハックを進める型です。
- Acquisition(ユーザー登録)
- Activation(利用開始)
- Retention(継続利用)
- Referral(他者への紹介)
- Revenue(収益の発生)
これに主にWEBサービスの収益発生までの流れを示したフレームワークです。なお、頭にもう一つAwearness(認知、アクセス獲得)のAを付けて、AAARRRと言われることもあります。
パイレーツメトリクスは主にBtoCのWebサービスで使用される型ですが、BtoBでも以下のように使用することができます。
- Awearness(認知、アクセス獲得)
- Acquisition(リード獲得、営業成約)
- Activation(利用開始、カスタマーサクセス)
- Retention(継続利用)
- Referral(他社企業の紹介をもらう)
- Revenue(アップセル、クロスセル)
グロースハッカーはこのプロセスに基づいて、仕事を進めることが多いです。
マーケティングサイドでは、まずはグロースチャネル(商品サービスをスケールしてくれる特定のチャネル)を発見して集中することが重要です。
パイレーツメトリクス(AAARRR)で言うと、最初の2つのAである、Attention(認知、アクセス獲得)とAquisition(コンバージョン)のパートになります。
そのためには、ユーザーサーベイからペルソナを特定し、カスタマージャーニーを作成することが必要になります。
インターネット上のチャネルでは主に以下の9つのチャネルが有効であり、カスタマージャーニーに合わせて、グロースチャネルを特定していきます。
・SEO
・SNS
・Email
・動画
・検索広告
・ディスプレイ広告
・アフィリエイト広告
・同一業界の特化メディア
・PRサイト
事前に洗い出している課題をベースにして、優先順位の高い打ち手を次々に打っては再評価を繰り返します。グロースチャネルが特定できればまずはそこに集中します。
一つのチャネルだと、いずれは頭打ちが来るので、次のグロースチャネルを特定して、アクセス数とコンバージョンレートを高め、各チャネル同士の相乗効果が生まれるようにしていくことがマーケティングサイドのグロースハックの中心です。
パイレーツメトリクスの残りのパートを実施
残るパートは、Activation、Retention、Referral、Revenueになります。
Activation:ユーザーや顧客のオンボーディングを実施
Retention:継続率を最大化するための施策の実施
Referral:見込みユーザーや見込み顧客を紹介をしてもらえる仕組みを整える
Revenue:有料会員への転換や、アップセル、クロスセルなどの収益を最大化する施策を実施
これらも一つ一つ丁寧に仕組み作りをすることで、グロースハックは最大のパフォーマンスを生みます。
こういったビジネスの継続的な成長に直結するパートをITやWEBにおける高い技術力による仕組化をしていくことで、事業を急成長させる方法論であることがグロースハックと言われる所以でもありますね。以下のようなイメージです。
「ビジネスの継続的な成長(グロース)×ITとWEBにおける高い技術力による仕組化(ハック)」
さて、ここまでグロースハッカーの仕事を見てきましたが、ここで特に重要な鍵となる視点を2つ挙げたいと思います。
鍵となるアクション1:高速な改善
グロースハッカーは、ビジネスが大規模に、かつ半永久的に売上が上がる仕組みを作り出さなければいけないので、そのための手数がとにかく必要です。そして、継続する施策、継続しない施策を選択していくので高速に改善していく力が求められます。
では、何を改善していくのか?ということですが、通常は以下の式のいずれかの要素です。
売上=顧客数(アクセス数×コンバージョン率)×販売単価×反復購入回数
上記を更に分解すると、アクセスでしたら検索エンジン経由、ソーシャル経由、メールマガジン経由など様々なありますし、コンバージョン率でしたら、キャッチコピー、ライティング、購入ボタンの色など様々あります。
急激な成長のためには大量の要素を改善しなければいけないので高速な改善が求められますが、しかし、高速な改善というのは中々簡単なことではありません。
というのは、WEBの改善のセオリーで「一度に2か所以上の改善はしてはいけない」ということがあるからです。
例えば、キャッチコピーと購入ボタンの2カ所を改善したとします。キャッチコピーの変更で0.2%コンバージョンが上がっていて、購入ボタンで0.2%コンバージョンが下がっていたとします。
そうすると、どの改善が効果的だったのか分からなくなってしまいます。
そのため1つ1つ改善を行います。ではどうやって高速にそれを行うのかと言うと…
- まずはデータ分析からサイト上で改善できるポイントを全て洗い出します。
- お互いに干渉し合わない改善ポイントをグルーピングします。
- 干渉し合わない改善ポイントの中で最も売上や顧客獲得へのインパクトが大きいと判断される順に並べます。
- 干渉し合わない範囲で全ての改善を施します。
- 改善後、300アクセスのデータが溜まったら次の改善を行います。
※データの母数は統計学的では300以上あることが望ましいですが、元々3%あったコンバージョンが0.2%になってしまったなど、100程度のアクセスの母数でも十分に判断できるケースもあります。
上記を繰り返すことで、複数の改善を同時進行で動かすことができます。上記がグロースハックの1つ目のポイント、「高速な改善」です。
鍵となるアクション2:イノベーション
高速な改善と、もう1つ重要な鍵がイノベーション(これまでにない新しいWEBマーケティング施策)です。
これは後ほど見ていく、Dropbox、Airbnb、アーロン・ジン氏の有名なグロースハックの事例の中で説明しますが、これがグロースハックの醍醐味であり、グロースハッカーの力が求められるポイントです。
ショーン・エリス氏はこれを、「既存のマーケティング手法を発展させる、新しい方法を生み出せる。」と言っており、アーロン・ジン氏は「創造性、好奇心」と言っています。
例えば、Dropboxが行ったグロースハックの例はバイラルマーケティングやリファラルマーケティングの進化形ですし、Airbnbがcraigslistを利用した例はアーンドメディアマーケティングの進化形です。
そういった手法が生まれては、それは一般的なマーケティング手法となっていき、グロースハッカーはまた新たにWEBマーケティングの教科書には載っていない創造的で新しい施策で、かつ、永続的な顧客獲得を生む仕組み化をする手法を生み出していきます。
更にイメージが沸くように、ここから世界的に有名なグロースハック事例を通して説明をしていきたいと思います。
世界的に有名なグロースハック事例
1.Dropboxの紹介インセンティブによるグロースハック
2.AirbnbのCraigslistを使ったグロースハック
3.アーロン・ジン氏による選挙献金のグロースハック
Dropboxの紹介インセンティブによるグロースハック
オンラインストレージサービスのDropboxが会員数を1億アカウント以上に引き上げたグロースハックはとても有名です。
この成長をもたらしたのは主に、以下の(1)と(2)の施策によってです。
(1)インセンティブ付与によるプロモーション。これは、友達を紹介してくれたら500MBの容量を紹介者にプレゼント。MAX16GBまでプレゼントするという施策を打った他、SNSと連携をすることで100MB程度のプレゼントを行った。
(2)トップページのイメージ変更、登録フォームの最適化、使用開始に至るまでの遷移の最適化など、ABテストを重ねてコンバージョンを最適化。
グロースハッカーは基本的には上記(2)のように、0.01%のコンバージョン率上昇にこだわり、情熱的に細かい改善を重ね続ける存在です。時にそれはアクセスアップの施策でしたり、顧客増加のための施策でしたり、反復購入回数アップの施策だったりします。
「売上=顧客数×販売単価×反復購入回数」
上記は、マーケティング界の巨匠ジェイ・エイブラハムが提唱した「売上」を分解した方程式です。WEBの世界ですと、「顧客数」を更に分解して、以下のように言われることもあります。
「売上=顧客数(アクセス数×コンバージョン率)×販売単価×反復購入回数」
グロースハッカーは、上記の要素のどこを伸ばせば売上が伸びるのか(ビジネスを成長させられるのか)を徹底的に考え、改善(ハック)を重ねていきます。これを繰り返すことでとてつもない売上を生み出すWEBサイトや、仕組みが完成していきます。
その取り組みの中で、上記(1)のような伝説的なグロースハックが生まれることもあります。
(1)は顧客数を爆発的に増やしたハックであり、この施策の導入がユーザー獲得を永続的に60%増やすことに繋がったとDropboxのCEOが、とあるカンファレンスで語っています。どの期間でという言及はありませんでしたが恐らく毎月100,000ユーザーの登録が、毎月160,000ユーザーの登録になったという意味かと思います。
AirbnbのCraigslistを使ったグロースハック
こちらはAirbnbがCraigslistを使って、約1,000万人ものユーザーをお金を掛けることなく僅かな施策で獲得した事例です。
※Craigslist… CtoCをメインとした様々なカテゴリを持つアメリカの巨大な売買コミュニティサイト
Airbnbのグロースハッカーが行ったことは、CraigslistのバケーションレンタルのカテゴリがAirbnbのユーザーと被ることから、Airbnbへの投稿がCraigslistにも自動で投稿できるようにしたということです。
これにより膨大なユーザーを持つCraigslistから大量のユーザーがAirbnbに流れ込み、約1,000万のユーザー獲得に繋がったということです。仮に1ユーザー獲得の価値を3,000円とするのであれば、これは実に300億円もの価値ある施策だったと言えます。
こちらは、上記でお話しました売上の方程式で言いますと、
「売上=顧客数(アクセス数×コンバージョン率)×販売単価×反復購入回数」
この内のアクセス数を爆発的に向上させたグロースハックになります。
アーロン・ジン氏による選挙献金のグロースハック
グロースハック・グロースハッカーという言葉が最も注目を浴びたのが、前述したAaron Ginn(アーロン・ジン)氏が、アメリカの選挙でロムニー候補の下、1億8,000万ドルもの献金を集めた施策です。
有名なのは、献金画面にプログレスバー(今このくらい溜まっているということが視覚的に分かるゲージ)を設置したことですね。
これは施策の中の一部ですが、様々な改善をデータに基づき行うことで、支持者の数を3倍以上にしたようです。
行っていること自体はシンプルなので、「このくらいなら私にもできる」と思われるかもしれませんが、プログレスバーはファンドレイジングなどのサイトでは使われていたものの、選挙の献金サイトで用いるのは常識にはない概念でした。
アーロン・ジン氏は、グロースハックを以下のように定義した理由も氏の取り組みを見るとよく分かります。
“mindset of data, creativity, and curiosity.”
グロースハックとは、データと創造性と好奇心におけるマインドセット(思考法)だ。
上記のように、他業界で成功を収めている施策などを積極的に応用するという創造性も大事ですし、それを実行してみようとする好奇心も大事です。
ただ、ここで勘違いしてはいけないのは、クローズアップされない部分で膨大な改善は重ねたはずですし、泥臭いコンバージョンアップのためのABテストも大量に行ったはずです。
気になるグロースハッカーの年収の話
最後に、グロースハッカーの年収はいくらくらいかを見ていきましょう。
グロースハッカー今回の年収調査は、大手転職サイトの中でグロースハッカーのカテゴリーを持つdodaにて行いました。
※ グロースハッカーの転職・求人・中途採用情報【doda(デューダ)】. https://doda.jp/keyword/グロースハッカー/(参照 2023-02-02)
2023年2月2日時点、dodaに掲載されているグロースハッカーを募集している求人情報の中で予定年数が表記されていたものが以下の20件です。
A. 300万円〜840万円
B. 600万円〜1,000万円
C. 600万円〜1,000万円
D. 400万円〜1,000万円
E. 400万円〜650万円
F. 518万円〜812万円
G. 420万円〜840万円
H. 600万円〜850万円
I. 400万円〜700万円
J. 500万円〜700万円
K. 420万円〜550万円
L. 600万円〜1,000万円
M. 600万円〜800万円
N. 500万円〜1,000万円
O. 700万円〜900万円
P. 450万円〜850万円
Q. 400万円〜1,000万円
R. 500万円〜700万円
S. 400万円〜800万円
T. 456万円〜840万円
下限と上限の平均値を出すと以下になります。
平均値:488万円〜840万円
※小数点四捨五入
なお、上記はあくまでグロースハッカーのカテゴリーに掲載されていた求人情報であり、それが本当にグロースハッカーの仕事がどうかは分かりません。
一言にグロースハッカーと言っても、このページでお話をしてきたようにグロースハックには様々な考え方があり、大きく分けると以下の3つのポジションが考えられます。
- 1. WebサイトやアプリのUI/UX改善、広告運用のABテストを行うことで売上やコンバージョンレートを改善するポジション
- 2. AARRR(もしくはAAARRR)に則った仕事をするポジション
- 3. マーケティング部門とプロダクト開発部門を横断して改善を行い、事業をグロースさせるポジション
1は本来の意味ではグロースハッカーではないのですが、日本では1がグロースハッカーとして扱われ、かつ最も多く求人が募集されています。
1であっても高いスキルは求められるので、SEOや広告運用、LP改善など、何らかのWebマーケティングの経験が1~3年はあることが望ましいでしょう。
1,000万円超の年収が狙えるのは、本来の意味のグロースハッカーである3です。
当社においても1、2、3のそれぞれのグロースハッカーが在籍していますが、やはり3が最も年収が高いです。
当社の場合は、年収1,000万円以上のレベルになってくると、事業部長を兼任することになりまして、3番のグロースハッカーになると、デジタルマーケティング全般の知識と、プロジェクトやプロダクトを熟知していること、それに加えて、開発部門を含めて部門横断的に影響力を発揮できる必要があります。
なお、グロースハック未経験者の年収は、上記dodaの例にある年収の下限となると考えておいた方が良いです。ただし、Webマーケティング実務の経験が必要になるケースがほとんどです。
当社の例で言いますと、Webマーケティングの経験が全くない社会人3年目(基礎的なビジネススキルあり)というケースで年収350万円程度。社会人の経験が3年程度であるこに加えて何らかのWebマーケティングの経験が1年以上あるケースでは400万円〜500万円程度。
学生時代から当社のインターンとして力を付けた新卒入社のケースも同じく400万円〜500万円となります。
グロースハックは実務経験が仕事の結果や待遇に強く反映される仕事なので、未経験者の場合、いきなり高い年収を狙っていくよりも、グロースハックの仕事の土台となるWebマーケティング力を身に付けることを先に行い、ステップアップを狙うことをおすすめします。
グロースハッカーについてのまとめ
さて、多方面からグロースハッカーについて見てきました。
グロースハッカーとWEBマーケティング担当者、デジタルマーケティング担当者は仕事が被るものの、グロースハッカーの方が担当領域が広く、かつ技術的にも深いということが見えてきたかと思います。
グロースハッカーはプロダクト改善にまで首を突っ込む他、幅広い技術を持ち、AAARRRをはじめ、自身で全ての施策を実行でき、売上の構成要素である顧客数、アクセス数、コンバージョン率、販売単価、反復購入回数などを、様々な施策のテストによって最大化させる解を導き出していくことでビジネスをスケールさせます。
グロースハッカーはマーケターとエンジニアのハイブリッドと言われますが、上記のようにプロダクト改善にまで入り込み、コードを書いたり、施策を自分の手で実施する故かと思います。
グロースハッカーは、新時代のデジタルマーケティング職であり、デジタルマーケティング業界に新しい方法論を生み出すイノベーターとも言えるかもしれません。
EXIDEAは創業当初から、シリコンバレー発祥のマーケティング手法「グロースハック」を日本でいち早く取り入れており、グロースハックを事業の柱としているIT企業グループです。未経験から一流のグロースハッカーになれる環境がEXIDEAにはあり、グロースハッカーに転職をしたい方も大歓迎です。
グロースハックにご興味をお持ちの方はぜひご応募いただければと思います。