アクアソムリエと考える世界の水問題
世界全体で考えるべき課題である水問題。この記事では、世界の水問題の全体像とその原因について探り、それに対する解決策は何か、深堀りします。
また、今回は世界の水問題について、水の専門家であるアクアソムリエと共に議論します。
さらに、環境省が取り組む「ウォータープロジェクト」についての説明や、プロジェクトに参画する企業、取り組み内容も紹介。
世界が抱える水問題について、今の自分にできることを考えるきっかけが欲しい方は是非参考にしてください。
世界が直面する水問題~全体像と原因
水は生命の源であり、持続可能な社会を築く上で不可欠な資源です。しかし、現在、世界中で水に関する深刻な問題が生じています。これらの問題は単なる地域的なものにとどまらず、地球規模の課題となっており、その解決には国際的な協力と包括的なアプローチが求められています。
水の危機:世界が直面する深刻な水問題の現状とは?
水不足
世界の人口増加と経済成長により、水需要が急速に増加しています。その結果、多くの地域で水不足が発生しており、特に乾燥地域や水資源が限られている地域では深刻な問題となっています。水不足は農業、産業、そして日常生活に影響を及ぼし、社会経済的な安定性を脅かしています。
水質汚染
工業化と都市化の進展により、水質汚染がますます深刻化しています。排水、工場排出物、農薬などの汚染源が水域に放出され、水中生物や人間の健康に悪影響を与えています。水質汚染は地域の生態系にも大きな影響を及ぼし、生物多様性の減少や水生生物の絶滅につながる可能性があります。
気候変動
気候変動は水循環にも大きな影響を与えています。極端な気象現象の増加や降水パターンの変化により、洪水や干ばつなどの水災害が頻繁に発生しています。また、氷河や氷床の融解により海面が上昇し、塩水の浸入による地下水の塩分濃度上昇など、水資源への影響が顕著になっています。
水の不均衡な配分
水資源の配分が不均衡であることも、水問題の一因です。一部の地域では水の過剰利用が行われている一方で、他の地域では水不足に苦しんでいます。特に、政治的な要因や経済的な格差が水の配分に影響を与えており、公正な水資源の管理が求められています。
水の価値を見直す:持続可能な水管理の重要性とは?
人口増加
世界人口の急増は水需要の増加につながります。特に都市部では人口集中が進み、水需要が急速に増えています。人口増加に伴う水需要の増大は、水不足や水質汚染の問題をさらに深刻化させています。
産業化と都市化
産業化と都市化の進展は、水資源の大量消費や水質汚染の主要な要因となっています。工場や都市部の排水は水域を汚染し、地下水の枯渇や地表水の減少を引き起こしています。
農業の水利用
農業は世界の水使用量の大部分を占めており、特に灌漑農業では大量の水が必要です。しかし、効率的な水利用が行われていない場合、農業による水資源の過剰利用や地下水の過剰抽出が起こります。
環境破壊
森林伐採や湿地の開発などの環境破壊は、水循環に深刻な影響を与えています。森林や湿地は地表水の供給源であり、これらの環境の破壊により水源が減少し、水問題がさらに悪化します。
政治的な要因
水資源の配分や管理には政治的な要素が絡んでおり、特に国境を越える河川や湖沼の水利用に関しては国際的な対立が生じることもあります。また、政府の水政策や規制の不備も水問題の一因となっています。
アクアソムリエと世界の水問題について考える~専門家インタビュー
水問題について、アクアソムリエの資格を持つ福原氏とともに考えていきます。
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アクアソムリエとは、ミネラルウォーターに関する基礎知識や専門知識を持つだけでなく、水を通じて積極的に社会と関わりあっていくための実践力を身につけ、自然環境保全や保護に貢献する活動なども行うことができる資格です。
世界の水問題の現状について
―――世界のさまざまな地域で水不足が深刻化していますが、その主な原因は何だと考えますか?
原因は4つあると考えています。水と人口の偏在化、水の需要の増大、地球温暖化、水の汚染です。
―――それぞれについて詳しくお伺いします。まず、水と人口の偏在化についてです。偏在化とは、どのような点が問題なのでしょうか?
水と人口の偏在化は、地理的に水が豊富な地域と水が不足している地域が存在し、同時に人口密度が高い地域と低い地域があることを指します。この問題にはいくつかの点があります。
1つ目は水資源の不均衡という点です。世界の水資源は不均衡に分布しています。一部の地域では豊富に水がありますが、他の地域では水不足が深刻な問題となっています。この不均衡な分布は、地域間の水の取引や流通を困難にし、地域の経済や生活に影響を与えます。
2つ目は人口集中地域での水需要の増加という点です。人口密度の高い地域では、水需要が急速に増加しています。都市化の進展や産業の成長により、水需要が増加する一方で、水資源が限られているため、水不足が深刻化しています。
―――ありがとうございます。では水の需要の増大についてお伺いします。
今ある水に対して、人の数が多くなっているのが現状です。1990年代は水不足ではありませんでした。しかし、現在では水不足による「水ストレス」を感じる人が多くなっており、2050年には水ストレスを感じる人はさらに増える見込みです。水不足には地球温暖化も深く関わっています。
―――地球温暖化が進むとなぜ水不足が加速するのですか?
地球温暖化により、気候パターンが変化します。一部の地域では降水量が増加し、他の地域では減少する傾向があります。これにより、水不足が深刻化する地域が増える可能性があります。また、降水パターンの変化によって、大雨や干ばつといった極端な気象現象が頻繁に発生し、水資源の供給に影響を与えます。
また、地球温暖化の影響で氷河や氷床が融解しています。これにより、氷河や氷床からの水の供給が減少し、氷河に依存する地域では水不足が深刻化します。特に、アジアの一部地域やアンデス山脈などの氷河地域では、氷河からの水の供給が重要であり、減少すると地域の水不足が深刻化します。
世界中の水資源の割合は、塩水が97.5%でそのうち淡水の量は2.5%です。さらにその2.5%のうち7割は氷河で、3割が利用可能な地下水です。そのため飲水は水資源全体の0.01%のみとなります。今後利用可能な飲水の割合が減る可能性も大いにあるのです。
―――ありがとうございます。水の問題は地球環境と深く関わり合っていることが改めてわかりました。最後に水の汚染についてもお伺いしたいです。水の汚染の要因にはどのようなことが挙げられますか?
生活排水、工業排水、大気汚染、都市化や海洋汚染などが挙げられます。海洋汚染はプラスチックごみの排出量とも関係しています。
―――海洋汚染とプラスチックごみの関係性とはどのようなものですか?
水質というよりも生態系への影響が大きいです。海洋ごみのほとんどがプラスチックごみと言われています。小さいプラスチックは魚が誤って食べてしまったり、海岸や海底に広がるプラスチックごみは、海洋生物の生息地や餌場を破壊し、海洋生物の減少や絶滅につながる可能性があります。
―――ありがとうございます。では次の質問です。水不足が続く地域では、人々の生活にどのような影響がありますか?
水は非常に貴重です。そのため水不足が続くと、水を入手するために争いが起こると考えられます。
アフリカの事例では、約2️億人が水不足に悩んでおり、農業に水を使用できず、作物が不作となり、人々の栄養失調につながったということもあります。単に水を巡った争いだけでなく、食料を巡った争いにもつながる可能性があります。
また、きれいな水が利用できないと、感染症が流行する可能性もあり、水不足は人々の健康や治安にも影響を与える可能性が大いにあるのです。
水問題が抱える課題と解決策について
―――ありがとうございます。では、続いての質問です。人々がきれいな水を平等に使用できないことで、どんな問題に直面していると考えられますか?
日常生活の面で言うと、食料不足、感染症の流行、紛争の勃発などが考えられます。
―――では、なぜきれいな水を平等に使用できないのでしょうか。
大きく2つの理由があると考えます。1つは、地域によっては浄水処理場がないということ、2つ目は、地域ごとに気候に特徴があるということです。
―――各国の経済状況は飲水へのアクセスに比例すると思いますか?
直接的に関係があるわけではありませんが、経済状況が飲水へのアクセスに影響を与える可能性は高いと考えています。
経済の発展度合いが高い国では、上下水道の整備が進んでいるため、水の供給が安定し水へのアクセスも安定します。また、経済的に豊かな国では、水資源の管理能力が高く、持続可能な水の利用や供給を実現するための施策をより効果的に実施できます。
しかし、経済的に豊かな国であっても、地理的な制約や政治的な要因によって飲水へのアクセスが制限される場合もあります。逆に、経済的に貧しい国でも、政府や国際援助機関の支援によって水資源管理や飲料水へのアクセスが改善されることがあります。そのため、経済状況だけでなく、政治的な取り組みや地域的な要因も飲水へのアクセスに影響を与える重要な要素です。
水の未来を変えるための行動の重要性
―――ありがとうございます。水資源の持続可能に向けて、政府・民間企業・市民社会の連携が必要になってくると思うのですが、福原さんが理想とする連携状態とはどういった状態でしょうか?
連携も大事ですが、まずは、SDGsのゴールがもっと世間に浸透している状態が理想的だと考えます。企業と民間の間にSDGsのゴールが落とし込まれた上で、3者が連携する仕組みづくりをすることが大事になってきます。
政府が関係者と協力して政策を策定し、企業が技術や資金を提供し、市民社会が意識を高めて参加することで、より効果的な水資源管理が実現されるため、そのような仕組みが作られることが理想なのではないでしょうか。
―――最後に、水資源の持続可能について、普段の生活の中で私たちが取るべき行動や意識すべきことについて、何かアドバイスはありますか?
自分たちが住む地球なので、資源を大切にすることは重要なことです。よく言われている3Rの実施、ごみのポイ捨てをしない、水の出しっぱなしをしない等、普段の生活で私達にできることはたくさんあります。加えて、SDGsのゴールを一人ひとりがもっと気にすることも重要です。気にして見てみるだけで意識が変わり、行動の変化につながると私は考えています。
今できること~環境を守るための企業の取り組み
環境省が行う「ウォータープロジェクト」について
環境省が取り組む「ウォータープロジェクト」をご存知でしょうか。ウォータープロジェクトとは、平成26年4月に「水循環基本法」が公布されたことを受け、環境省が発足したプロジェクトです。
人と水との関わり方を考え、産官学民等の多様な主体の連携による良好な水環境の活用・保全を通じて、持続可能な地域社会の実現を目指す取り組みとして発足しました。
現在ウォータープロジェクトには、445の企業・団体が参加しています。(2024年3月8日現在)今回は、その中から6社をピックアップして、企業の紹介をします。
サントリーホールディングス
サントリーでは「水」は貴重な共有資源でありサントリーグループにとって最も重要な原料であるとし、4つの「水理念」を掲げています。
- 水循環を知る
- 大切に使う
- 水源を守る
- 地域社会と共に取り組む
水理念のもと、様々な取り組みを行っています。様々な取り組みを行っています。まず、限りある水資源を大切にするために、「水の3R」を徹底して実践しています。これは、使う水を少なくする(Reduce)、繰り返し使う(Reuse)、処理をして再生利用する(Recycle)というアプローチを取り入れ、効率的な水の利用を促進しています。
また、排水管理においても厳格な基準を設け、排水を自然に近い状態で浄化しています。工場からの排水は嫌気性排水処理設備などで処理を行い、下水道や河川への放流前に常時監視と検査を行っています。
さらに、水源涵養活動では、「天然水の森」プロジェクトを立ち上げ、水源涵養機能の向上と生物多様性の再生に取り組んでいます。これにより、地域の水源を保護し、水資源の持続可能な利用を支援しています。
そして、次世代環境教育「水育」では、日本国内外で子どもたちに水資源の重要性を啓発しています。「森と水の学校」や「出張授業」を通じて、自然体験を通した学習を提供し、持続可能な水利用に関する意識を高めています。
キリンホールディングス
キリンホールディングスは、環境への負荷を最小限に抑えるための取り組みを積極的に展開しています。その一環として、水資源の持続可能な利用に注力しています。具体的には、水資源の有効活用と水の循環利用に取り組んでいます。
同社は、水の循環利用により、水の効率的な利用を実現しています。工場や施設で使用された水を、再処理や浄化技術を用いて清浄な水へと再生し、再利用しています。これにより、地域の水資源の枯渇や水質汚染の問題に対処し、持続可能な社会の実現に貢献しています。
さらに、キリンホールディングスは、水の循環利用に関する技術開発や研究にも積極的に取り組んでいます。持続可能な水資源管理の実現に向けて、継続的な取り組みを行っています。
キリンホールディングスの取り組みは、環境保全と事業活動の調和を図る上で重要な役割を果たしています。今後も同社の持続可能な水利用に対する取り組みに注目が集まります。
サッポロホールディングス
同社は、水資源の持続可能な利用に焦点を当て、水の再利用と循環利用に取り組んでいます。具体的には、工場や施設で使用される水を再生処理し、清浄な水へと再生することで、水の有効活用を図っています。
また、サッポロホールディングスは水資源の節約にも積極的に取り組んでいます。工場や施設での生産プロセスにおいて、水の使用量を最小限に抑える工夫を行い、水の無駄を減らすことで、持続可能な水利用を推進しています。
さらに、水資源の循環利用に関する技術開発や研究にも力を入れています。持続可能な水利用の実現に向けて、新たな技術や取り組みを積極的に導入し、環境への負荷を最小限に抑える取り組みを行っています。
サッポロホールディングスの取り組みは、環境保護と事業活動の調和を図る上で重要な役割を果たしています。今後も同社の持続可能な水利用に対する取り組みに期待が高まります。
株式会社アペックス
アペックスは2013年から、自動販売機オペレーター業界で初めて、「間伐材を含む国産材100%」の取り組みを開始しました。
この取り組みにより、森林の手入れが進み、日本の健全な森林育成と林業の成長産業化に貢献しています。健康な森林は水源涵養機能を高め、おいしい水の供給源となります。また、紙カップに国産材、特に間伐材を利用することで、森林の健全な育成と温室効果ガス削減目標の達成に貢献しています。
2021年10月に改訂された地球温暖化対策計画では、健全な森林の整備により約3,800万tのCO₂を森林吸収量として確保する目標が掲げられています。
株式会社トーケミ
株式会社トーケミは、持続可能な水利用に向けた取り組みを積極的に展開しています。
同社は、水の効率的な利用を促進するために、工場や施設での生産プロセスにおいて水の使用量を最小限に抑える取り組みを行っています。また、水の再利用や循環利用を通じて、水の有効活用を図っています。これにより、地域の水資源の枯渇や水質汚染の問題に対処し、持続可能な社会の実現に貢献しています。
さらに、株式会社トーケミは、水資源の節約と環境への負荷の最小化に向けて、技術開発や研究にも積極的に取り組んでいます。排水や廃水の浄化処理技術の向上を図り、環境に与える影響を最小限に抑えることを目指しています。
同社の取り組みは、環境保護と事業活動の調和を図る上で重要な役割を果たしています。今後も株式会社トーケミの持続可能な水利用に対する取り組みに期待が高まります。
日本原料株式会社
日本原料株式会社は、社会貢献活動の一環として、持続可能な水利用に注力しています。
同社は、水の大切さを理解し、その有効な利用を促進するために、様々な取り組みを行っています。まず、工場や施設での水の使用量を最小限に抑えるための取り組みを進めています。節水装置の導入や生産プロセスの見直しを通じて、水の無駄を減らし、効率的な水の利用を実現しています。
また、日本原料株式会社は水資源の保護と再生にも注力しています。地域の水源地の清掃活動や植林活動を通じて、水資源の持続可能な利用を支援しています。さらに、水の浄化技術の開発や研究にも取り組み、水の品質を向上させる取り組みを行っています。
これらの取り組みにより、日本原料株式会社は地域社会や環境に貢献し、持続可能な水利用を推進しています。今後も同社の取り組みがさらに広がり、社会全体に良い影響をもたらすことが期待されます。
まとめ~未来の水を守るためにできることを
未来の水を守るために、私達にできることはたくさんあります。
企業が行うような大きなプロジェクトはできないかもしれませんが、日々の小さな積み重ねが未来を守ることに繋がります。
水の節約を心がけ、環境に配慮した製品を選ぶ他、地域コミュニティや地元の水資源を保護する活動に参加し、教育と意識啓発も大切です。私たちの行動が、未来の水の豊かさを守るカギとなります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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