衣料廃棄問題に加え、アパレル業界のサプライチェーンをSaaSで最適化 ~グッドバイブスオンリー野田貴司氏インタビュー
環境省によると日本の衣類廃棄物は年間50万トンを超えると推計され、その量は毎日トラック130台分にのぼるという。(※1)
そのような現実を前に株式会社グッドバイブスオンリー(GOOD VIBES ONLY inc.以下GVO)が挑むのは、衣類廃棄に加え、アパレル業界全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)による最適化、そして、その先にはコンピュータ・グラフィックス(CG)や人口知能(AI)を活用したサステナブルな業界の売上増加である。
GVO創業の経緯、今、そして未来について、代表取締役社長の野田貴司氏に聞いた。
※1 環境省_サステナブルファッション
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
ニューヨークのタイムズ・スクエアで見た光景
ーーー野田社長は元々アパレル業界出身ではなかったそうですが、アパレル業界に入ったきっかけについて、教えてください。
前職でアパレルD2C(Direct to Customer:直販モデル)を立ち上げたのが2015年なのですが、その直前にニューヨークのど真ん中、タイムズ・スクエアに行く機会がありました。
周囲を見渡すと「スナップチャット」と「インスタグラム」の大きな看板がありました。最初は具体的に何を提供するサービスなのか、詳しくは分かりませんでしたが、SNSであることは認識しました。当時の日本のインターネットメディアは、まだまだブロガー文化中心だったと思いますが、その看板を見て、今でいうところの「インフルエンサー」の時代が来ると直感して、日本でも展開したいと思ったんです。
そうした中、日本に戻ってファッションが好きな人をスカウトして事業展開をしていったのですが、「自分でブランドを持ちたい」を思う仲間2名と出会い、自社ブランドでアパレル事業を展開していくことになりました。それがアパレル業界と私の出会いです。
「普通」が「疑問」になった瞬間
ーーーアパレル業界のDXにチャレンジしようと思った瞬間はいつですか?
いざアパレル業界に入ってみると、業界未経験の私にはショックというか、衝撃がありました。まずは「サンプルと発注文化」です。
デザインを依頼すると2〜3週間で洋服のサンプルが出来上がるのですが、使い終わったサンプルはそのまま倉庫に行きます。そして、MD職(マーチャンダイザー)の方が発注をかけるわけですが、女性服を男性の方が発注したりと、在庫が適正にならない仕組みが存在していました。さらにMD職の方も定期的に交代しますから、感覚の継承はされずに時が過ぎ、流行が変わっていくわけです。
そして、最もアタマにガツンと疑問がわいたのは、成長したアパレル事業を売却するときでした。アパレル事業は2年半で25億円ぐらいに成長し、営業利益も15%ぐらい確保していたのですが、事業としては他に売却することになりました。
そんな中、事業売却の際に行われるデューデリジェンス(Due Diligence:価値算定)のときに在庫の適正さについて聞かれたんです。確か4億円程度の在庫だったと思いますが、そもそも4億円という数字が適正水準なのか、在庫中身はどう評価するのか、保管する倉庫の費用はどう見るのか、など、よく考えると何が当たり前(適正)なのか分からなかったんです。
アパレル業界で「当たり前」だと思われていたサプライチェーンが「疑問」に変わったのです。
PDCAサイクルで業界のハードルをクリア
ーーーアパレル業界のDXにチャレンジする中で「Prock 」というサービスを立ち上げていますが、目指すところはどこでしょうか?
アパレル産業は一般的に7割を売って、3割を捨てる世界と言われています。そのサイクルを変えたいと思って、GVOを創業し、サービスとして「Prock」をリリースしました。
「Prock」はどこかを「目指す」というよりは、「より理想に近づくため」にPDCA(Plan:計画, Do:実行, Check:確認, Action:改善)のサイクルを回し続けているサービスとイメージしたほうがいいかも知れません。
自社ブランドを立ち上げ、サンプルをCGで作り、発注のロジックも自分たちで検証するというPDCAサイクルを回しながら、効率化のテストを行っていきました。
ECで洋服を買うシーンを想像するとユーザーはSNSで画像を見たりして気になったものをECサイトで買うと思います。一方で、作り手側はそうでしょうか。本物のサンプルを見ないとダメという意見が多数だと思います。
そこで、シンプルにサンプルをCGで作って見て、売れるかどうか試していったのです。
質感・落ち感の表現と需要予測
ーーーデータが蓄積されてきたことで、可能になったことはありますか?
現在、CGを生成する上での重要データとしてデジタル・ファブリックデータ(デジタル化された生地のデータ)を5,000種持っています。これによって、質感や落ち感(テロンとした感覚)を表現できるようになりました。
GVOの顧客(アパレル産業の企業のお客様)には、服を着るモデルは本物だけど、服はCGというところも既に存在しています。元々、服の販売計画は半年単位で急には商品の入れ替えができなかったわけですが、「Prock」をソリューションとして導入することによって、数日から数か月単位という時間軸に短縮できるようになりました。
さらに「Prock」にはSNSなどの反響をAIで解析して、需要予測もできるようになっています。在庫を増やす、抑制するのをコントロールもできるわけです。
これは試算になりますが、GVOが最適化に寄与できるのは、日本における洋服のサンプルで1600万着の無駄を削減し、製品の在庫破棄を2億着のインパクトがあると見立てています。
一方、アパレルの事業やサプライチェーンを最適化していく中で、既存のやり方をいきなり変えるようなアプローチは、アレルギー反応を生み上手くいかない可能性があると考えていました。そこで私たちは一気にデジタル化を進めるのではなく、現場と並走して浸透させていくプロセスを取っています。
NFTやIPによる新市場の創出
ーーーGVOの提供するソリューションはSDGsの流れにも沿って、いいところだらけのように見えますが、今後の展開について教えてください。
まず、日本では、デジタルファッションをどうやって展開し、育てていくかを考えています。
DXや課題解決、最適化というと効率化はイメージできても、売上の伸長には結びつかないんです。事業者の方は、やはり売上の伸長という命題を抱えています。
そこで考えているのが、メタバースやNFTと、それに関わるIP(Intellectual Property:知的所有権)の組み合わせです。
例えば、仮想空間で自分のアバターに服を買い、その服がゲーム上でも使える。さきほどのデジタル・ファブリックデータ(デジタル化された生地のデータ)の話につながってきますが、実際の洋服に近いCGが画面上に再現されるわけです。
対戦型ゲームであれば、服をもらったりできます。ファッションがどんどんエンタメ化していくわけです。そして、これは今までにはなかった「新しい市場」ができるということです。自社でNFTを発行するサイト(ミンティング・サイト)を持っています。
欧米のアパレル企業が続々とNFTに進出してきているのは、「新しい市場」に魅力を感じているからだと思います。
溜めたナレッジは惜しげもなくアジアにも展開
ーーー海外の展開はいかがでしょうか?
海外はバングラデシュなどの繊維製品を多く作る国に注目しています。「Prock」は、言ってみれば、繊維・アパレル業界向けのSaaSサービスでもあります。繊維製品を作っている国は、人口も伸びて、アパレル産業も成長しています。一方で、日本と同じように衣類破棄の問題を抱えています。
それらの国に既に日本で培った知見が溜まった「Prock」を展開したいと思っています。
リープフロッグ現象(後発国が最先端技術を取り入れて途中の成長段階を飛び越えて、大きく飛躍すること)のように、衣類破棄の問題に対して、これから発展する国は問題解決への道筋が付いた状態でアパレル産業を展開できるわけです。
GVOは「Prock」インフラツールと捉え、繊維商社の方も交え、一緒にアジアのアパレル産業に寄与していきたいと思っています。
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