所得格差を測る「ジニ係数」とは?計算方法と見方をわかりやすく解説
私たちが暮らす現代では、貧富の差が広がるばかり。世界各地で所得格差が問題になっているのはご存知の方も多いでしょう。
所得格差は、「ジニ係数」によって数値化されています。
国際的に使われているジニ係数のデータは、市民の暮らしやすさや本来の豊かさを計る基準となり、平等な社会の実現には欠かせません。その一方で、ジニ係数も完璧な指標ではありません。
今回はジニ係数の基本や世界ランキングをご紹介。様々な格差の原因や対策について、わかりやすく解説します。ジニ係数の限界にも言及しますので、最後までご覧いただければと思います。
格差がわかる「ジニ係数」とは?
所得格差を数値化したジニ係数は、イタリアの統計学者コンラッド・ジニによって1936年に考案されました。
国民の所得などの均等度合いを計り、消費調査や生活調査のデータに使われています。
2021年(令和3年)日本のジニ係数は0.381
ジニ係数は、0から1までの数字で表される係数です。
所得が完全に平等な状態の時は0、所得格差が大きいと限りなく1に近い数値になります。 一般的にジニ係数の値が0.4を超えると危険信号に。社会不安や騒乱が起こる警戒値とされています。
厚生労働省が2023年(令和5年)に発表したデータ(1)によると日本のジニ係数は0.381であると発表されました。
またOECD主要国のデータ(2)によると、ジニ係数が優良な国は0.2台で推移しているので、0.3を切ると世界でもジニ係数が低い国だといえそうです。
では、具体的にジニ係数の求め方はどのようになるでしょうか。
(1) 「令和3年所得再分配調査」の結果 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/96-1/R03press.pdf
(2) OECD主要国のジニ係数の推移 https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/backdata/01-01-03-01.html
ジニ係数とローレンツ曲線
ジニ係数を求めるためには、「ローレンツ曲線」が用いられます。
まず横軸に所得の低い順に世帯の累積比を、縦軸に所得の累積比を記しグラフ化。所得格差がなく皆が平等な時、原点0を通る45度の直線になります。仮に全員の年収が同じ300万円だとすると、人数と金額が同じ割合で増えるためグラフの傾きに変化は生まれません。
ところが、全体の所得に対して限られた少数の世帯が富を得ている場合、グラフの曲線が下方にカーブしてきます。
ジニ係数の計算方法
このとき、平等な状態を表す直線と格差を表す曲線で囲われた半月形の面積を「X」、グラフの横軸に接した残りの面積を「Y」として、X÷(X+Y)でジニ係数の値を求めることができます。
例えば、完全に社会が平等の場合Xを0と定義すると、0÷(0+Y)でジニ係数は0。反対に極端に不平等の場合はXが1となるので、1÷(1+0)でジニ係数は1となるわけです。
計算方法から見るジニ係数の限界
世帯所得のデータがあれば簡単に計算できるジニ係数ですが、実は、実情をどれだけ反映できるかという観点では難点があります。
ローレンツ曲線がどんな傾きをしていても、Xの面積が同じであればジニ係数も同じ値が出てくるため、同じジニ係数の値でも実際の格差の感じ方は違うということです。
つまり、国際比較で0.3というジニ係数が並んでいても、それぞれの国の実情は数字に反映されていないので、単純なイコールではないことには留意する必要があるでしょう。
「当初所得」と「再分配所得」
さて、ジニ係数は主に「当初所得」と「再分配所得」の2つの方法で示されます。
所得や給付など、入ってくるお金だけを計算したものが「当初所得」。それに対して、当初所得から社会保険料や税金を控除し、社会保障給付を加えたものが「再分配所得」となります。
この時、税金が高く社会保障が充実している国などは、当初所得と再分配所得のジニ係数の値に大きな差が出る場合があります。
OECDの公式データには、当初所得から社会保険料や税金を控除し、社会保障給付(現金のみ)を加えたものを世帯人数の平方根で割り、一人当たりの値に調整した「等可処分所得」が使われています。
日本では1980年代以降、当初所得のジニ係数は概ね上昇し少しずつ格差広がってきていますが、再分配所得のジニ係数は2000年代以降横ばいで推移しています。
厚生労働省でも、「国民生活基礎調査」などでデータが公式に公開されているので参考にしてください。
世界の所得格差ランキング
0.381という日本のジニ係数を世界各国と比べてみましょう。
独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表した『不平等への懸念と人々の認識の差異―OECD「不平等報告2021」』によると、平均的なOECD諸国よりも所得の不平等が大きいことが明らかにされています。
OECD加盟国ジニ係数ランキング(2020年のデータがある国のみ)
トップ5
- スロベニア SVN 0.238
- ベルギー BEL 0.248
- チェコ CZE 0.255
- ノルウェー NOR 0.263
- フィンランド FIN 0.265
ワースト5
- コスタリカ CRI 0.497
- メキシコ MEX 0.42
- ブルガリア BGR 0.396
- アメリカ USA 0.377
- リトアニア LTU 0.357
Source:OECD 所得不平等 (Income inequality)
https://www.oecd.org/tokyo/statistics/income-inequality-japanese-version.htm
所得格差が広がる2つの理由
みんなが平等で格差のない社会なら、きっと今より暮らしやすくなるでしょう。
これは誰もが理解できる共通認識ですが、ジニ係数が示すように実際に起きている貧富の差は、簡単に縮まるものではありません。
ひとつの国の中で所得格差が広がってしまう理由はなぜでしょうか。
一説には、高齢化によって単身高齢世帯の低所得者層が増えたことでジニ係数が上昇し、所得格差が広がっているとも言われています。
現役世代を含めて、格差が広がる原因として大きく取り上げられるのは2つ。 非正規雇用の増加と、地域間格差の拡大。日本の格差問題を考える上で避けて通れないのがこれらの問題です。
非正規雇用者の数
日本ではバブルがはじけた90年代以降、景気の悪化による就職難で非正規雇用者が増加。同世代でも給与所得差が生じてしまいました。
総務省統計局の「労働力調査」のデータでは、非正規雇用比率とジニ係数が似たような動きで推移していることから、非正規雇用者の数がジニ係数を高めてきたと考えられています。
地域間格差の拡大
全国都道府県の地域別平均所得では大都市圏と北陸圏の水準が高く、それ以外の地域では低い地域間格差が発生していることがわかっています。
特に金融・保険、情報通信など生産性の高いサービス産業が集まる東京圏では、給与所得が高く一人当たりの労働生産性も高水準。地方は比較的に労働生産性の低い産業で構成されているため、東京圏や大都市圏への人口集中が引き起こされているのです。
コロナ禍がもたらした地方への移住者増加が、今後どのように影響を与えるかが注目されています。
所得格差をなくす対策とは?
平等な社会を実現させるには、ジニ係数を下げる必要があります。所得格差の是正のために、日本政府が行なっている取り組みをいくつかご紹介しましょう。
同一賃金同一労働
以前から問題になっていたパートタイム労働者とフルタイム労働者の賃金格差を解消するため、安倍政権が行なった働き方改革。2020年から「同一賃金同一労働」が導入されました。
同一賃金同一労働とは、同一企業・団体内で正規雇用者と非正規雇用者の不合理な待遇の違いを無くそうという法案です。
最低賃金の引き上げ
日本政府は最低賃金は2023年9月現在1,004円になりました。
最低賃金を引き上げるメリットは、生産性の向上。最低賃金の割合とジニ係数も無関係ではありません。先進国では、1人1時間あたりのGDPに対する最低賃金の割合とジニ係数で84.4%の相関関係が認められています。
職業訓練の充実(雇用のセーフティネット)
職業訓練や研修によるスキルアップは、生産性と賃金の上昇に欠かせません。
日本でも人材育成や研修制度「OFF-JT」を行なっている企業が増え、失業者に対しては「雇用のセーフティネット」として職業訓練が実施されています。
ジニ係数の低い国が集中しているヨーロッパに目を向けてみると、特筆すべきは生涯学習の概念。 何歳になっても学べる環境が、労働者のキャリアアップを後押しする意味も備えているといえます。
とりわけ、スウェーデンに導入されている「教育訓練休暇法」では、全ての労働者に対して教育訓練を受けるために休暇を取得する権利が認められているのです。
ジニ係数は平等な社会を計る指標
このように、ジニ係数の結果をもとに各国で格差是正へのさまざまな取り組みが行われています。
それぞれ異なる背景を持つ国を真に比較することは容易ではありませんが、ジニ係数は世界の国々が持続可能な社会を目指すうえでの重要な目印といえるでしょう。
所得格差や地域格差を浮かび上がらせるジニ係数。目に見えない格差は日常生活では感じにくい反面、私たちの老後や将来の暮らしにも関わるものです。これからも注意深く情報をキャッチする必要がありそうです。
それでは、最後までご覧いただき誠にありがとうございました。他にも、社会の勉強になる記事を配信していますので、ぜひご覧いただけると幸いです。
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