コロナ禍で加速するドーナツ化現象とは?デメリットと問題の解決策について
都市部の居住人口が減り、郊外の居住人口が逆に増加する「ドーナツ化現象」。
高度経済成長期あたりから日本でも社会問題として取り上げられていたこのドーナツ化現象ですが、バブルの崩壊や2020年の新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、現在は都心の価値がまた様変わりしつつあります。
今回はドーナツ化現象という言葉の語源や問題点、解決策についてご紹介してまいります。
ドーナツ化現象(英語:doughnut phenomenon)とは?
ドーナツ化現象とは、人口集中していた都市部のから郊外に人口が流れる社会現象です。中心部が空洞になり、周辺にボリュームが出る形のドーナツに似ていることから、ドーナツ化現象と呼ばれています。
日本では「郊外化」や「都心の荒廃」、「空洞化現象」ともいわれており、都心ではオフィス化の進行、郊外は住宅化が進行することが特徴です。
こういった現象は日本の都市部のほか、ロンドンやニューヨークなど世界の大都市でも見られます。
ドーナツ化現象の語源は、揚げ菓子であるリングドーナツ。中央部がぽっかりと開いたリングドーナツと居住者の分布の形状図が似ていることからドーナツ化現象と呼ばれています。
ドーナツ化現象が進行する背景
都心の人口減少と郊外の人口増大を意味するドーナツ化現象の主な原因は3つ。都心における土地価格の上昇と、居住地としての都心の価値下落、そして郊外における住みやすさです。
土地価格の上昇
交通網も発達しており、施設も充実している都心は人気が高いため、土地価格も上昇していく傾向にあります。こうなると、高所得者以外は都心の住宅を購入したり、借りたりすることはできません。
築年数や設備等によっても異なりますが、一般的に都心ほど家賃や土地価格が上昇するため、低所得者やあまり住居にお金を掛けたくないという人は郊外へ出ざるを得ないでしょう。
実際に、東京23区のワンルームの家賃相場は10万円以上のところが多いですが、東京市部では、同じぐらいの広さのワンルーム家賃相場が3万円台のところもあります。
居住地としての都心の価値下落
デパートや飲食店、オフィスビルが立ち並ぶ都心には、多くの人が集まります。そうなると、街全体がいつも忙しく動いており、自然も感じられないので、住むには適さないと思う人も多いでしょう。
また、子育て家庭は交通量も少なく、自然豊かな郊外を魅力に思う傾向にあります。そのため、あえて郊外に家を建てる人が増え、ドーナツ化現象が進みます。
郊外での設備の充実
ドーナツ化現象により人口増加となった郊外には、大型のショッピングセンターやファミリー層向きの施設などが充実する傾向にあります。それにより、今までは都心志向だった高所得者が利便性を重視して郊外へ出るケースも増えています。
また、都心に比べ、郊外では大きな家に住むことも可能です。家を建てるなら庭付きの一戸建てが欲しい、と多少通勤にデメリットがあっても郊外を望む人も多いでしょう。
そのため、ますます都心には人が住みつかなくなりドーナツ化現象がより進行します。
ドーナツ化現象は何が問題か
郊外に住む人が増え、都心の居住者が減るドーナツ化現象ですが、何が問題なのでしょうか。続いては、ドーナツ化現象の問題点をご紹介します。
都心における夜間の治安悪化
ドーナツ化現象により起こる問題の一つが、都心における夜間のゴーストタウン化です。
例えば東京の中心では、昼間と夜の人口差にかなりの開きがあるともいわれており、夜間の治安悪化が懸念されています。
特に店舗の閉店時刻・電車の終電時刻を過ぎた都心の夜は、人通りも少なく犯罪率も高くなるのが、ドーナツ化現象の問題点だと言えるでしょう。
通勤電車・道路の混雑
多くの人が郊外に住み、都心に通勤・通学をするというスタイルは通勤電車や道路の混雑を招きます。
特に、東京における通勤電車の乗車率は180~200%と高い数値が出ることもあり、ドーナツ化現象による問題点であると指摘する声もあります。
満員電車や道路の渋滞はストレスを増やすほか、事故の原因となることもあり、ドーナツ化現象がもたらす問題だと認識されています。
スプロール現象が起こる
スプロール現象とは、郊外の市街地が無秩序に拡大してしまうこと。ドーナツ化現象が急速に進むと、都市計画がうまく立てられないまま郊外は発展を遂げていきます。
その結果、本来保全すべき自然が壊されるほか、早急すぎるインフラ整備による住民の不満などが高まっていくこともあります。
このようなスプロール現象が起こるのもドーナツ化現象の問題だと考えられます。
郊外住人の生活環境が変化すること
郊外の居住者が増えるに従い、その郊外には便利な商業施設や大型スーパーなどが建てられます。便利に発展したとも考えられますが、そうした発展には、もともと郊外にいた人々の暮らしを脅かしてしまう懸念もあります。
実際にもともとあった商店街が寂れて「シャッター商店街」となってしまったり、既存のコミュニティが壊されたりといったことも。
また、多くの人が急激に流入することにより保育園の数が足りなくなり、待機児童の増加などの問題が起こることもあります。
都市部の老年人口比率増加
居住地を都心から郊外へと移転させるのは、まだあまり年収の高くない若い世帯や小さな子供がいる世帯が多いといわれています。そのため、都市部には年配の方ばかりが住む結果となることも。
日本の内閣府による「高齢社会白書」によると、2045年には大都市ほど65歳以上の人口比率が増えるという試算もあり、都市部の高齢化がより進むと予測されています。
都市部に若者が少なくなると、税収が少なくなる他、災害時の対応が難しくなるなどの問題が生まれます。
逆ドーナツ化現象とは?
1990年代に問題となっていたドーナツ化現象ですが、2010年代からは「逆ドーナツ化現象」といわれる都心回帰現象も起こるようになっています。その理由としてまず考えられるのは、都心の地価減少でしょう。
かつてバブルなどで高騰していた都心の地価は、人口減などにより少しずつ下落。そのため、高所得者でなくても都心の住宅を購入できるようになったのです。
また、若い世代の価値観が変わってきたというのも1つの理由です。
広くて大きな家にたくさんのものを所有する暮らしよりも、必要最低限のものでコンパクトに暮らしたい、というミニマル志向の方も増えてきていますし、通勤時間の無駄をなくして、余暇時間を楽しみたい。という若い世代も多くいます。
そういった若者にとって、多少住居費が高いとはいえ都心の家は理想的。中古住宅を購入してリノベーションをする人や、ルームシェアをする人など、さまざまなライフスタイルの人が増えてきたというのも理由として考えられます。
逆ドーナツ化現象による問題点とは
一見良いことにも思える逆ドーナツ化現象ですが、この現象にも問題点は含まれています。
例えば、都心に居住地が一極集中をすることにより、大地震が発生した際に大きな被害がでるのはもちろん、再び土地の価格が高騰することも考えられます。
また、今度は郊外に空き家が増えてしまうという懸念もあるでしょう。
解決策はあるのか
ドーナツ化現象の対策
日本にてドーナツ化現象の問題を解消するためにたてられた対策の一つが「都市のコンパクト化」です。居住地としては人気のない都心を住みやすい街にすることにより、いったんは郊外に離れた人々を呼び戻そうというのがこの対策になります。
具体的には、富山県富山市で行われた電車網の強化による中心市街地の活性化や、青森県青森市による都市部の再開発などがこれに当たります。
2020年6月には都市再生特別措置法が改正され立地適正化計画制度が創設されました。また、アメリカやヨーロッパでもコンパクト化の対応がされている都市もあります。
逆ドーナツ化現象の対策
都心回帰とも言われる逆ドーナツ化現象にも、対策が必要です。
日本では、2014年に「地方創生」として、地方の活性化のために交付金を出すことを決定。また、一部の省庁や研究機関などの地方移転を検討しています。
コロナ禍で変わる住まいの価値観
逆ドーナツ化現象も起こり、ドーナツ化現象が解消するのではといわれてきた昨今でしたが、2020年の新型コロナウィルスの流行を機にまた流れが変わりつつあります。
その大きな理由の一つが、リモートワーク。
会社に出社することなく業務を遂行できるリモートワークは、通勤時間がネックで郊外に住むことを諦めていた人や、家時間を楽しみたいと自然豊かな家や広い家を求める人々にとっては画期的な働き方となったのです。
リモートワークが可能な人の中には、会社への通勤が可能な郊外だけではなく、より遠い土地で働くことを決めた人もいます。
例えば東京の会社で働く人が、北海道や沖縄、もしくはニューヨークやロンドンといった海外など出勤に飛行機が必要になるような場所を選ぶパターンも多く、このウィズコロナの時代にはドーナツ化現象・逆ドーナツ化現象とはまた違った現象が起こることも予想されています。
さいごに。居心地の良い暮らしのために
都市部の人口減がドーナツのような図であることから名付けられた、ドーナツ化現象。
コロナ禍のなか、今後ますます変化していく社会にどう対応していくべきか。特にアフターコロナの動きには、注目していきたいところです。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
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