水不足が深刻化している?水資源危機の現状と対策について解説します

気候変動

「水の惑星」と表されることもあり、水資源であふれていそうなイメージがある地球。しかし、そんな地球が深刻な水不足に向かっていることをご存知でしょうか?
 
実は、現在においても、約22億もの人々が安全に管理された飲み水へのアクセスがありません。さらに、このうち1億4,400万人は未処理の汚染水を使っています。
 
安全な水にアクセスできないことは、健康被害だけでなく、子どもの教育問題や、女性の社会進出をさまたげる原因でもあるんです。
 
今回は、水不足の現状と背景、水不足が影響を与える事象、水不足問題への国際機関による取り組み、そして水不足を解決すると期待されるテクノロジーまで、幅広くご紹介します。
 

水不足とは?

 
水不足と聞くと、安全な飲み水がないという状況をイメージする方が多いのではないでしょうか。
 
実は、水不足とは、単に安全に飲める水がないという状況だけではありません。体を清潔に保つための水、食器や衣服を洗うための水、排泄物を流すための水など、生活に必要な水が十分にないという状況全てを含みます。
 
世界のあちこちに、水資源となりそうな河川や海洋はたくさんありますが、このうち水資源として利用できるのはたった0.01%の水なんです。そして、水不足の影響を受けているのはサハラ以南のアフリカ、アジア地域の発展途上国という現状。
 
それでは、世界にはどのような水不足の現状があるのかを、解説していきます。
 

世界における水不足の現状

 
ユニセフ(国際連合児童基金)とWHO(世界保健機関)が行った2017年の調査によると、以下のことがわかっています。
 

  • 世界の約22億人が、安全に管理された飲み水を使用できない
  • 1億4,400万人は、湖や河川、用水路などの未処理の水を使用
  • 42億人が、安全に管理された衛生施設(トイレ)を使用できない
  • 6億7,300万人以上は、家や近所に利用できるトイレがなく、道ばたや草むらなど、屋外で用を足す、屋外排泄を行う
  • 30億人が、石けんや水が備わった基本的な手洗い設備が自宅にない環境で暮らす

 
WHOは、安全に管理された水を、「自宅にあり、必要な時に入手でき、排泄物や化学物質によって汚染されていない、改善された水源から得られる飲み水。」と定義しています。
 
安全な水へのアクセスがなく、安全な水を汲むために往復30分以上を要する人や、汚染された水にしかアクセスがない人は、全世界に多く存在しているんです。
 

水アクセス問題

 
現在全世界で水アクセスがない人は7億5000万人。その人口の、10人に9人は、サハラ以南アフリカ、東アジア・東南アジア、または、中央アジア・南アジアで暮らしています
 
WHOによると、水アクセスがあるということは、1キロメートル以内に、1人当たり1日20リットルの水を確保できる場所があるという状態。
 
日本人の1日の水使用量平均が、200リットル~300リットルであるため、この20リットルがわずかであることがお分かりいただけると思います。
 
そして、水アクセスがなく不便な生活である状態は、水ストレスという状態に発展します。
 

水不足から引き起こされる水ストレスとは?

 
豊かな水の写真
水不足によって、日常生活で不便さを感じるほどの状況を、水ストレスと定義します。
 
具体的には、1人当たり年間使用可能水量が1700トンを下回っている状態です。そして、1700トンの内訳には、日常生活で使う水のみを含むのではありません。
 
例えば、野菜1つを消費した際には、その野菜を栽培するために水の消費が発生します。そのように発生した水も、1700トンの中に含むのです。
 
この水ストレスが高いと判断された国は、世界中に存在します。
 

世界の水ストレスレベル

 
世界資源研究所(WRI)は、世界の37カ国が「極めて高い水ストレス」に直面していると発表。
 
水ストレスが極度に高いと判断される国では、1年間を通して、農業、家庭、工業のために十分な水を利用できない人が国民の8割を上回ります。
 
世界の中で水ストレスが高い地域は、乾燥し砂漠が多いアフリカ・中東アジアから、人口密度が高い東アジアや南アジアに広がります。発展途上国であるアフリカ諸国や、東南アジアの諸国も水ストレスの数値が高いです。
 
また、水資源が豊かにあるように見える日本も水ストレスが高い国のひとつ。日本は、食料の大半を輸入に頼っているため、海外で食料を栽培する際に「バーチャルウォーター(仮想水)」という水を輸入しているという発想になります。
 
日本の生活では、極度の水不足を感じる場面は少ないかもしれませんが、日本は世界の水のうち、かなりの量を消費しているのです。
 
では、水ストレスを深刻化させる水不足は、どのような原因で起こっているのでしょうか?
 

原因は地球温暖化と大量生産・大量消費

 
主に、水不足は地球温暖化と大量生産・大量消費が原因です。
 
このままの消費行動や、ライフスタイルを継続していくと、2050年には、世界人口の半数が水不足に陥ると予想されています。
 
こちらでは、地球温暖化とモノの生産・消費がどのように水不足へ影響するのか、ご説明します。
 

地球温暖化による気候変動で深刻化

 
気候変動が、地球温暖化によって進行し、各地で異常気象が頻発することが水の供給に支障をきたしています。
 
例えば、温暖化が進み、降水・降雪の時期や量、パターンが変化してしまうことは、水資源の貯蓄量にばらつきがでる原因です。
 
水資源の供給を安定させるためには、地球温暖化へ対策をとり、気候変動を抑えることが必要とされています。すでに、気候変動による水不足から影響を受けているのがインドです。
 

インドでは深刻な水不足が懸念されている

 
地球温暖化により気温が上昇し、降雪量が減少したことにより、インドは深刻な水不足に直面しています。また、気候変動によってモンスーンの時期が変化していることも一因。
 
インド行政委員会による調査は、インドの深刻な水不足を5年以内に解決できない場合には、数億人が生命の危機に面すると発表しています。これは、水不足によって水分補給がままならない状態で、猛暑時に熱中症になってしまうからです。
 
このように、すでに地球温暖化による水不足リスクが世界では目立ち始めています。
 
加えて、地球温暖化に加え、多くを生産し、多くを消費してしまう現代社会も原因の1つです。
 

食料供給のための水消費

 
豊かな暮らしの背景には、大量の水資源消費があります。満足な食料供給を実現するためにも、消費される水。畜産や農業には大量の水が使われています。
 
例えば、牛肉1kgを生産するために、15,500リットルもの水が消費。1㎏のトウモロコシ生産使われる水は、1,800リットル。これらに加え、食料の輸入にも水資源が必要です。
 
このように、畜産物や食料を輸入する国が、もし自国でそれらを栽培すると仮定したときに必要となる水を計算したものをバーチャルウォーター(仮想水)と呼びます。
 
目に見える水消費だけではなく、豊かな食生活の背景には、このバーチャルウォーターという水が大量に消費されているのが現状です。
 

ファッション業界の影響と水質汚染

 
食料だけではなく、衣類を生産するためにも大量に使用されている水。
 
例を挙げると、デニム1本を生産するために4000リットルの水を消費。4000リットルの水は、日本人が20日間で使用する水の量に匹敵。また、Tシャツ1着には、2700リットルが消費されています。
 
また、衣類の原料となる綿花を栽培するためにも大量の水が消費されています。
 
さらに、近年、繊維工場から流れ出す化学物質によって水源となる河川が汚染され、安全な水不足へ影響を与えているんです。インドネシアのチタルム川は、繊維工場から垂れ流される産業廃棄物によって、世界で最も汚い河川になってしまったと世界銀行が宣言。
 
チタルム川は、現地住民3000万人が日々の生活を頼る重要な水源でした。汚染された河川のほかに水源がないため、汚染水を使用した住民の500万人へ深刻な健康リスクをもたらしていると言います。
 
このように、モノを大量に生産することは、安全な水不足に大きな影響を与える要因です。
 
水不足がもたらす影響は、単に使用できる水が少ないということだけではありません。
 

水不足はさまざまな影響もたらす

 
水汲みをする少女
実は、水不足問題には、水が手にはいらないという問題だけではなく、教育機会や女性の社会進出機会の損失、紛争の要因、感染症拡大など、さまざまな影響をもたらすリスクがあるんです。
 

子どもへの教育と女性の社会進出機会の損失

 
安全な水のために、水汲みの必要がある環境では、子どもへの教育機会が欠如していたり、女性の社会進出機会が低かったりする場合が多く見られます。
 
水アクセスがない人口の割合が高い地域では、水汲みの仕事は子どもや女性が担うことがほとんど。1日の何時間をも水汲みの時間に費やす必要がある場合もあり、子どもや女性には他の活動へ割く時間が残されていません。
 
東京大学の沖教授によると、水の安定供給率高いと、就業率や女性の就職率が上がることがわかっています。このように、水不足の問題を解決することは、その周辺にある社会問題まで解決することになるのです。
 

水不足は対立や紛争、国際関係悪化の引き金

 
井戸の使用を巡った家庭間の対立から、ダムの権利をかけた国家間の紛争まで、水不足問題は関係悪化の一因です。
 
人口増加により水の需要が上がり、地球温暖化や生産活動の活発化で水の供給は下がっている現代。特に、水ストレスが高い中東やアフリカ地域で紛争の要因となっているケースが多いです。
 
例えば、アフリカ最大の国際河川であるナイル川へのダム建設を巡った論争が、エチオピアとスーダン、エジプトの3カ国間で起こりました。
 
直接的な戦争には繋がりませんでしたが、今後水不足の深刻化が懸念される中で、水不足が紛争の引き金になってしまうリスクは残ったままです。
 

汚染された水で感染症拡大

 
汚染された水を飲まざるを得ない環境にいる子どものうち、毎年30万人、毎日800人以上もの子どもが感染症で命を落としています。
 
冒頭でもご説明した通り、世界中に安全な水を手に入れられない人は6億6,300万人います。牛や犬など、動物と共有されているため池から飲み水を汲んだり、排泄物が流れている河川から得た水を、生活用水として使うしかない人々が世界にはたくさんいるのです。
 
安全に飲める水が不足することは、感染症の流行につながり、新型コロナ大流行の現在では、深刻な事態となっています。
 

水不足と新型コロナ流行

 
現在、清潔な水にアクセスできない地域に住む人々は、世界的に流行する新型コロナへの対策ができない状況にあります。
 
日本ウォーターフォーラムによると、世界にある学校のうち47%が、世界の人々のうち40%が、水と石けんを使って手を洗うことができません。また、世界の55%もの人々が、安全に管理された衛生施設(トイレ)を使うことができないのです。
 
清潔な環境や手洗いをする水など、感染を防ぐために必要とされるすべがない人々にとって、コロナ感染のリスクは高くなっています。
 
ここまでご説明した影響を抑えるべく、さまざまな国際機関が水不足問題を解決するために活動を始めています。
 

水不足問題への国際的取り組み

 
SDGs(持続可能な開発目標)として、国連でも安全な水を供給することの重要性が協調されたことで、国際的に改善へ向けた動きが進んでいる水不足問題。
 
こちらでは、国連とJICAによる取り組みをご紹介します。
 

SDGsのゴール6で安全な水とトイレの供給を目指す

 
国連は、SDGsにおいて、2030年までに、全ての人が安全な水と衛生施設(トイレ)へアクセスできるよう、活動を進めています。下記が、SDGsのゴール6全文です。
 

2030年までに、すべての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。女性及び女児、ならびに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を払う。

 

ゴール6を元に、国連機関であるユニセフなどが筆頭し、井戸建設や衛生施設設置、手洗い指導など、さまざまな活動が行われています。
 

JICAによってカンボジアの水問題が改善された

 
日本の機関であるJICA(国際協力機構)は、日本の水道技術をカンボジアの首都、プノンペンに導入することで、現地の水道水を飲料水とすることに成功しました。
 
実は、全世界でも水道水が飲める国はわずか15カ国。アジアでは、日本とアラブ首長国連邦のみでした。
 
カンボジアの水環境が改善したことにより、現地の盗水率は70%から8%まで減少。水道水が飲めるようになったことで、水道水を導入する家庭が増え、プノンペンの水質まで向上させた、水道整備の成功事例です。
 

水不足を技術で解決

 
水不足による干ばつ
2050年に迫る、深刻な水不足を解決しようと、最新のテクノロジーを駆使した画期的なサービスが発明されています。
 
今回は、水不足問題の解決に向けて期待される技術を2つほど、ご紹介します。
 

水資源管理にIoTテクノロジー導入

 
たびたび干ばつの被害に苦しむケニアにおいて、水資源管理を実現させるテクノロジーが導入されました。
 
IBM社による「Kenya rapid」 プログラムは、モノのインターネットであるIoTソリューションを駆使し、ケニア北部の水資源管理を開始。
 
水資源の監視と未来への洞察を生みだすためのスマートテクノロジーを適用することで、乾燥地域に住む人びとに安全で清潔な水を供給することが可能になりました。
 

LESSコーティングでトイレ使用時の水使用量を削減

 
コーティングスプレーである、「LESS コーティング」をトイレに塗布するだけで、トイレ使用時の水の消費量が半分になる技術が登場。
 
LESSコーティングによって、先進国では水の過剰消費を抑え、途上国では少しの水で衛生的な水回りを実現することができます。
 
このように、日々の生活から水消費量を減らすことも私たちができることです。その他にも、水不足問題への対策として、できるアクションをご紹介します。
 

水資源を守るために、ひとりひとりができること

 
水不足問題への取り組みとして、私たちができることは、知る、減らす、流さないの3つです。具体的にはどのようなことができるのか、見ていきましょう。
 

水不足の問題について知る

 
蛇口を開ければ、清潔な飲料水が手に入る日本で暮らしているとなかなか意識しづらいですが、水不足の問題について知るということが、私たちにできることの1つです。
 
水不足の問題を知ることで、日々の水消費を振り返る機会になるでしょう。皆さんにとって、当記事が水不足について知ることができるきっかけになれば幸いです。
 

日々の水使用を減らしてみる

 
シャワーや水道を流しっぱなしにしない、水洗トイレでは小ボタンを押してみる、シャワーの時間を減らしてみる。
 
何気ない節水を積み重ねることが、実は大きな貢献につながっています。また、肉や野菜、衣類などのモノを生産するためにも水は消費されているので、不要なモノは消費しないことも水不足を防ぐ1つの方法です。
 

汚染してしまうモノは流さない

 
安心して使える水資源を守るために、河川を汚染してしまう可能性がある物質は流さないようにしましょう。油を排水溝に流さないことや、洗剤の使用を減らしてみること。少しずつの注意が、水質保護になります。
 

さいごに。全員が水を当たり前に使えるように

 
水不足に関する現状は、安全な水が確保されている地域と、汚染された水によるリスクに悩む地域の格差が大きいということ。
 
蛇口をひねると清潔な水が出てくる地域もあれば、何時間もかけて汚染された水を汲みにいかなければならない地域もあります。そうではなく、全員が安全な水にアクセスできるように、日々の水消費について振り返ることが、私たちにできること。
 
少しずつアクションを起こすことが、水不足の現状や、水不足による影響を抑えることにつながります。水資源を守り、水を当たり前に使える人々を増やせるように、ちょっとしたアクションを行ってみてはいかがでしょうか?
 
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。

               
ライター:Ethical Choice編集部
Ethical Choice編集部です。エシカルな生活を送る知恵、サスティナビリティに関する取り組み、環境問題に対するソリューションを発信いたします。

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